「シータとテインツ②」
〝大っ嫌い。アンタみたいな奴ッ〟
〝リクツなんかどうでもいいわ。私は今を以てアンタが大嫌いになったっ。それだけで十分だわよっ〟
――あのとき、自分は確かにそう言った。
無意識に偏見で人を貶す――いつかの「平民」と変わらないその在り方。彼女はテインツという人間を大嫌いになった。
その気持ちは、今も変わらない。
(――でも)
〝僕の中の偏見を自覚させてくれてありがとう〟
――記憶の混濁が起きている、と彼女は自分に言い聞かせた。
いつか誰かに言われた言葉だと。
自分は、それを思い出すことは出来ないと。
だがその言葉故に、少女は思う。
嫌いな相手だからと、その全てをシャットアウトしていいものだろうか。
今目の前に居て、これからも間違いなく、それなりに近くにあり続ける人を。
何より、
「でもよかった。無事でいてくれて」
「!」
〝今気付けてよかった〟
恥を忍び、今目の前で変わろうと努力している人を。
〝……………………変わりたいな。私も〟
「……ケガ、しなかった」
「えっ?」
「っ、だから。あんたのおかげで、私はお腹をケガしなかったっ!」
ベッドから上半身を起こし、腹部に手を置きながらやけっぱちにテインツを見たシータが言う。
大きな声に面食らい、目をぱちくりとさせるテインツ。
その先を考えていなかったシータも数秒黙り、赤らむ顔を逸らしながらしかし迅速に言うべき言葉を脳内から検索し引っ張り出し、
「だから……ありがとう。ほんとに、助かった」
絞り出した。
「――――!」
顔を真っ赤にし、口を尖らせながら。それでも、真面目なトーンで伝えられる感謝の言葉。
どう反応していいか解らなかったテインツだったが――――いつもと違い、随分としおらしい目の前の少女に、ひどく意識を引かれたのだけは理解して。
必然、彼の顔はみるみる赤くなった。
「――――なっ――――?!」
釣られ、赤みを増すシータの顔。
「なっ……なにをあんたまで顔赤くしてるワケっ!? 気持ち悪い!!」
「お、同じく顔赤いくせに滅茶苦茶言うなよっ!? だ、大体こんなのはただの生理現象だっ、断じて深い意味は」
「じゃどういう意味があんのよさっ!?」
「いい、いや、だから、それはっ……僕にもハッキリとはしないが!!」
「ハッキリしなさいよハッキリしないわねっ?!」
「きっ、君の方こそハッキリしたらどうなんだ!? そんな可っ……顔赤くしてどういうつもりなんだっ!」
「せ――生理現象っ! 深く突っ込むなバカ!」
「理不尽だっ!」
「女性はデリケートなのだわよっ!」
「そ、それは尊重したいがっ……!!」
(引いた?!)
ぐぬぬ、とニラみあう茶髪の二人。
しかしそれなりに分別のある少年少女だ。やがて無意味にいがみ合う徒労を悟り何より疲れ、どちらともなくベッドに仰向けで倒れ込んだ。
「…………何を信じればいいのか、解らないのだわよ」




