「配慮が足りぬと配慮する」
「うん。変声石っていうの。聞いたことない?」
「ぜ、全然」
「うふふ。ナイショだよ? これはね、こうやって」
リリスティアが石に魔力を込める。
途端、光った魔石が彼女の首元に朧な光の輪を作りだす。
と――
「――こう使うの」
『!』
魔石の光が消えた直後。
目の前の黒髪の少女から聞こえてくる小声は、すっかりリリスティア・キスキルから聞いたそれになっていた。
「す……すごい。そんな魔石もあるんだ」
「魔石というより、魔術石だね、これは。一度起動させると、術者の魔力を消費して特殊な魔波を出して、音波に働きかけてくれるの。それで声が変わって聞こえるってわけ。毎回適当に違う声にして使ってるんだ」
「へえ……アイドルって大変だね」
「夢を売るお仕事だからね。崩さないようにしなくっちゃ」
「……それ、俺達に教えていいのか?」
「うん、このくらいは。それに、姿隠すのに使ってる魔法はそれだけじゃないし。認識阻害の魔法とか、他にも色々ね。ああそう、それと――こないだは二人で来てくれてありがとうね」
「え、え、み。見てたのリリスティアさんっ!?」
「アハハ。そりゃあ、いきなり控室に押しかけられたら覚えちゃうし、見つけたら忘れられないよねぇ」
「そ――そだったね、そういえば。あ、あはは……」
じと、とパールゥが視線を送ってくる。
分かったよ。
「あの時は済まなかった、リリスティア。どうかしていた」
「いいんだってば、私は。謝るなら、あのときハッ倒しちゃったスタッフさん達にお願いね」
「あ、ありがとう」
「うん。で、いよいよ今日だよね。劇があるのって」
「ああ、その通りだが」
「あっ、もしかして――見に来てくれるの? リリスティアちゃんっ」
「もちろん! 学祭最終日、絶対観に行くよ。だから頑張ってね、練習っ」
にこり、と、俺の顔を覗き込むようにしてリリスティア。
「うん!」と応じたパールゥの声が、どこか遠く聞こえる。
「……なあ、リリスティア」
「ん?」
「お前、どうやってそんな魔術石を手に入れた?」
「え?」
瞬きをしたリリスティアが動きを止める。
「あー……、どうだろ。高価ではあるけど、色んなところで売ってるんだと思うから……」
「お前がそれを買った場所で構わないよ」
「それなら、私の場合は王都だね。ずっと前から予約してて、今回やっと買えたの」
「……そうか。王都か」
……出所は王都の可能性か。
しかし変声機のようなものまで存在するとは。
これは、別の意味でこの異世界の治安が心配になるところだな。
どこぞの本の話のように、髪の毛一本で姿形まで真似られるようなものがないといいが。
「ナニナニ、君もこれ欲しくなっちゃった?」
「ああ、そんなところだ。情報ありがとう、リリスティア。……それとその」
「ん?」
「余計なお世話かもしれんが。今後はやたらと人目を避ける方法を明かさない方がいい。夢を壊したくないんだろ」
「…………」
「あ、アマセ君?」
パールゥが小さく袖を引いてくる。
リリスティアは一瞬ポカンとしたが、やがて目を細めてにこやかに笑った。
「うんっ。心配してくれてありがとう、アマセ君。これから気を付けるかは分かんないけどね」
「気を付けてくれよ」
「ふふっ、冗談。ちゃんと気を付けるって――それじゃあね、二人とも」
変声石を発動させ、最初とも地声とも違う声を発し。
リリスティア・キスキルはくるりと向きを変えて去っていた。
「……優しいんだね。こないだ知り合ったばかりの女の子の心配までしてあげるなんて」
「手当たり次第に嫉妬するなよ。そら、急ぐぞ。本当に遅刻しちまう」
「あっ……ま、待ってよっ!」




