「化物――――尽きぬは執念」
◆ ◆
氷片。
鉄火。
幾重もの、剣光。
剣戟が乱れ飛ぶ。
激烈な漆黒の一閃を氷剣が受け流し、鉄火とは違う魔力の火花を散らす。
そう。
魔力を切らした筈の男から、尚も魔力の猛りが立ち上っているのだ。
「チッ……!!」
剣を合わせる。
一合、二合、三合。
ひと薙ぎ毎に地面を砕かんばかりの魔波が吹き荒れ、この手を巨岩の一撃の如き衝撃が襲う。
心底恐ろしい。
奴の動きは間違いなく俺より鈍い。
当然だ。魔力を切れさせ、体を魔力回路から散々に痛めつけ――――俺は、今度こそナイセスト・ティアルバーと対等な状況下にいるのだから。
だというのに、奴はまだああも動けている。
俺を押し返すほどの魔波を放っている。
考えられるのは――ナイセストに浮かぶあの紋様か。
あんな魔法を俺は知らない。
知らないが、あれが倒れたナイセストを再び立ち上がらせたギミックには違いない。
そしてそのギミックは――
「ッッ!!!」
ナイセストの頭部で黒い閃光が弾ける。
きつく両眼を閉じて苦悶の表情を浮かべる黒白の男。
俺は足の発条で弾けるように反転し、すかさず一撃を見舞う。
「ッ――――づァッ!!」
「!! くっ」
闇が収斂。
そして魔光。
顔に血管を浮き上がらせたナイセストが、驚くべき速度で体勢を立て直し、その一撃を弾き返す。
吹き飛んだ俺を追随するナイセストの斬撃。
空で鍔迫りあったそれは、いつか見たナイセストの双剣。
出たか。
空で押し負け吹き飛ぶ体。
瞬転空で更に追撃してくるナイセストと空で斬り合う。
二倍の剣光。
二倍の太刀筋。
二倍の――防御。
追いつく道理などある筈も無く。
氷の破砕音。
「ッ――ぁ、」
「ぐ……ァ――!!」
ナイセストの呻き。止まる連撃。
視界に飛ぶ氷の礫。振り抜いた先で俄かに軽くなる右手。
空で乱回転し大きく踏鞴を踏みながらも、なんとか無事着地、片膝を強く着いてナイセストに視線を戻す。
右手を見るまでも無い。
無理な姿勢で構えられた氷の剣が砕けたのだ。
「――折れたな。付け焼刃が」
「………………」
……それだけで済んだのは僥倖だ。
瞬間的とはいえあれだけの猛攻。この身に一太刀も浴びていないのは完全に運だ。
昨夜のテインツとの一戦――あれで身に着けたこの付け焼刃も、無駄ではなかった。
「――……」
奴の剣を見る。
 




