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「鋼音――――そのひと振りに背負いしものは」

　互《たが》い、地を蹴《け》る。

　風切《かざき》り、火花、そして――鋼音《はがね》。

　剣戟《けんげき》の衝撃。

　剣《つるぎ》の造形《ぞうけい》。

　重量。

　間合い。

　想《おも》い。

　テインツの剣に宿る何もかもが、切っ先を通してこの腕に伝わってくる――――

「腕が遅いぞ！！」

「ぐッ――」

　激烈《げきれつ》な打ち込み。

　芯《しん》に当たり痺《しび》れる手。

　失われていく握力。

　剣に遊ばれる体。

　どれもこれも、なんて新しい。

　もっとだ。もっと。

「無造作《むぞうさ》に構えるなッ！」

「相手の剣筋《けんすじ》を予測して構えをとれッ！」

「そんな剣を上に上げただけの構えが通用するかッ！」

「打突《だとつ》も防御《ぼうぎょ》も体《たい》捌《さば》きも足運《あしはこ》びも、すべてに気を配れ！」

「剣を振るだけが剣術《けんじゅつ》じゃないんだよっ！　地形を、所有属性(エトス)を、体を活かして戦え！　意表《いひょう》突き、奇襲《きしゅう》――お前の十八番《おはこ》なんだろうッ！」

　パタリと汗。

　霞《かす》む視界。

　鈍《にぶ》る四肢《しし》。

　だが剣戟《けんげき》は尚《なお》。

　視界転倒(てんとう)、湿《しめ》った背が着き不快《ふかい》を伝える。

　立ち上がり剣戟《けんげき》。

　だがまた倒れ、だがまた立つ。

　テインツの手が、眼前にあった。

「――――」

「早く立て！　もう――止まっている暇《ひま》なんて無いだろうが！」

　――手を、握《にぎ》る。

　引き起こされた体で、歪《いびつ》な氷塊《ひょうかい》の――否《いな》、拙《つたな》い剣《つるぎ》の柄《つか》を強く握り、その感触を何度も、何度も確かめる。

　風切《かざき》り、火花、そして鋼音《はがね》。

　剣戟《けんげき》の衝撃。

　剣《つるぎ》の造形《ぞうけい》。

　重量。

　間合い。

　想《おも》い。

「っ！！！　づッ――――」

　――だけでは、届かない。

　同じものをぶつけては、俺に勝ち目はない。

　もっと強さが必要だ。

　何か。何か、とても強そうな――――

　――――あいつが、持っていたような。

「ッッ！！！？　お前っ、」

「――――――」

　高い高い、剣戟《けんげき》。

　その甲高《かんだか》い鋼《はがね》が、俺を戦いだけに埋没《まいぼつ》させていく――――

　倒れたテインツに背を向ける。

　誰かの泣き叫ぶ声を聞きながら、俺はスペースを出た。

　壁を支えに、廊下《ろうか》を進む。

　今、何時頃だろうか。

　試合までどのくらいあるだろうか。

　この疲労《ひろう》は朝までに癒《い》えるだろうか。

　この剣はナイセストに通じるだろうか。

　様々な思考が混濁《こんだく》し、俺の意識を霞《かす》ませる。

　誰かの荒い呼吸が聞こえ、意識が僅《わず》かに覚醒《かくせい》する。

　覚醒の衝撃で体が傾《かたむ》き、壁に体を打ち付ける。

　打ち付けた衝撃で足が崩《くず》れ、その場にへたり込んでしまう。

　力が指にしか入らない。指に壁の感触が伝う。

　その壁の冷たさに、最後の気力と体温を奪われ。

　とうとう意識に、暗幕が垂《た》れた。

◆　　　　◆

　体が揺れる。

　腕が何か細いものに回る。

　それはとても温《あたた》かく、心地良く。

　朧《おぼろ》な意識の中、もっと熱を得ようとしがみ付いた。

　翌朝《よくあさ》。

　俺が目覚めるのは、いつも通りのベッドの上となる。

「…………これきりです。これ一度だけ許します。だから……絶対勝つんですよ、ケイさん」