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「去来――――身覚えの悪寒、それは4人目の」

　眼前のテインツが叫ぶ。

　俺は我に返り、突きつけられた剣先を、そしてテインツを見た。

　奴は既に――――肩で息をするほど、感情を乱していた。

　こいつ、こんなに短気な奴だったか。

　違う。

　こいつのこの顔は、短気というより――

「お前さ、自分の状況が分かってんのか……？　お前は喉元《のどもと》に剣を向けられてるんだよ。お前をここで殺すと言った相手が、お前の喉元に切っ先を突き付けてるんだよ！」

「何をそんなに昂《たかぶ》ってるんだ、お前」

「……ッッッ僕の話を聞けよお前ッッ！！」

「！？」

　テインツが剣を振りかぶる(・・・・・)。

　咄嗟《とっさ》に手の氷を構え、側頭に振られた鉄剣の一撃を受ける。

　衝撃を受けた体のよろめきに合わせて瞬転(ラピド)、奴の攻撃《こうげき》範囲《はんい》から脱する。

　テインツはその場でぐるりと振り返った。

「ふざけるのも大概《たいがい》にしろお前ッ！！　僕なんかマトモに相手もしたくないってか！！」

「――……」

「何考え事してんだよ。なんで殺すと言ってる相手に馬鹿の一つ覚えみたいに剣だけで突っ込んでくるんだよッ！　魔法を使え、戦略を練れ、意表《いひょう》を突《つ》け不意《ふい》を打《う》てあのときみたいに(・・・・・・・・)！！　お前の力は僕に及ばないんだから！！」

「……その通りだ」

　踏み込む。

「ッッ！！……お前……ッ！！」

　テインツが言葉を切り、憤懣《ふんまん》遣《や》る方《かた》無《な》いといった表情で迎撃《げいげき》してくる。

　構わず、今度は左下から――教本《きょうほん》通り斬《き》り上げる。

　ガギン、と鉄の音。

　腕が痺《しび》れる程の、力任せの剣戟《けんげき》音《おん》。

　一撃毎(ごと)、空気の塊《かたまり》を吐き出すようにして唸《うな》りながら、大振りで動きの緩慢《かんまん》な重撃《じゅうげき》を繰《く》り出してくるテインツ。

　そんな隙《すき》だらけに見える攻撃にさえ対応出来ず、俺は体を右へ左へと翻弄《ほんろう》される。

　程無《ほどな》く、限界は訪れた。

　亀裂《きれつ》。

　何度目とも知れないテインツの剣を受けた俺の所有属性武器(エトス・ディミ)が罅《ひび》割《わ》れる。

　壊れた得物《えもの》に一瞬目を奪われ、戻した時には――――体を捻《ひね》ったテインツの回し蹴《げ》りが真っ直ぐ飛んでくる所だった。

　防御《ぼうぎょ》に使った氷の棍棒《こんぼう》が、腹部で砕《くだ》け散る。

　氷の破片と共に吹き飛び、床を転がる。

　試しに――――試しに(・・・)、即座《そくざ》には反応せず、ゆっくりと体を持ち上げてみる。

　視線の先。

　テインツは、既に剣を下ろして微動《びどう》だにしていなかった。

〝私、君が測れなくて、怖い〟

〝私は、あんたの友達になりたい〟

〝答えろよ。ケイ・アマセ。お前がこの闘いを勝ち続ける理由はなんだ？〟

「――……」

　ああ。

　また(・・)か。