「逆転――――逆転の果て、戦況はようやく覆り」
血の霞を三度地に散らしながら、ナイセストがよろめく。
倒れそうになる体をその二本の足で必死に支え、寄辺を求めて手が空を切る。
そうだとも。
この魔法の発動者はナイセスト、お前なんだよ。
「知ってるか? この魔法に拘束された側には、動きを封じられる以外のリスクがないことを。そして――――術者が奪われる莫大な魔力量を!!」
「っ…………ァ、ァ゛あッ……!!」
ナイセストが、陣に向けて震える手を伸ばす。
指を広げ、痙攣し始めたのであろう目で必死に狙いを定めている。
しかし、出ない。
魔弾の砲手は、発動しない。
「………………!!!!!」
「……そうだよな。陣を破壊するしかないよな、解除方法が解らないんじゃ。お前はこの魔法を知っているだけだ。理解している訳じゃない。当然だ――――こんな魔法を、一人で完璧に使いこなそうなんて考える異端は魔術師には存在しないんだから」
〝……君がやったことはね、ケイ。無規則な数字の、羅列。それを百桁、戦いの途中で暗唱してみせたようなもの、なんだよ?〟
〝友達も、クラスメイトも、先生も遠ざけて、一週間。ずっと数字の暗記、していた――君、本当に、そういうつもりなの?〟
「だから想像もしなかった。自分が術者になるなんてことは――――そら、精々力の限り振り絞れ。最強のお前なら知っているだろう? この魔法を理解出来ていないとなると――――」
〝ちゃんと理解していない魔法を適当に使うと、魔力を必要量の倍以上、持っていかれるんだ〟
「――――ここでティアルバーが潰えることにもなりかねんぞ、ナイセスト!!」
ナイセストが叫ぶ。
乱れ騒めく白黒の髪。やがて奴の身体は淡い紫紺に発光し、――――血と雄叫びと共に射出された魔弾の砲手が陣を作る砂を吹き飛ばす。
ナイセストの鋭い呻き。そして静寂。
機神の縛光は効力を失った。
「ッ!!!!!!! フ――――」
機神の縛光は、効力を失った。
俺は、動けるようになった。
「フフ――――――フハハハハッ!!!ハハハハハハハハh」
ホワイトローブを掴んだ右手に力を込める。
俺の背後に、無限の光が装填される。
光の渦に飲まれて消えろ。ナイセスト・ティアルバー。
「光弾の砲手」
 




