「逆転――――勝敗は決す」
(あと二歩……)
コストの上でも使い勝手の上でも、誰からも敬遠され遠ざけられる魔法。
いつしか誰にも知られることなく、書物の中にだけひっそりと存在し――――結果論ではあったが、だからこそ、機神の縛光は奇襲足り得たのである。
まさかそれを使うとは思わない。
故に、分かりやすく目立ちやすい魔法陣でも気付きようがない。
(あと一歩……!)
圭が体に力を込める。
マリスタ達が息を呑む。
ナイセストはそれまでと変わらぬ表情のまま、
圭の、眼前に立った。
(――――ここだ…………!!!!)
「不格好だな。あの氷の柱」
爆音。
爆風が圭の髪を乱れさせる。
圭は目を見開いて固まったまま――やがて落ち着いた前髪の先に現れた、小さく小さく、だが極上の恍惚を浮かべるナイセストの顔を見る。
……視線が移る。
ナイセストの背後、圭の視界の右奥に存在した氷柱。
それは今や地面ごと闇にかじり取られ、跡形もなく消え失せている。
「………………、」
跡形もなく、消え失せている。
「…………そん、な」
「どうした。随分動揺しているな……もしかして、ここが中心だったか?」
「!!!!」
「知っていたさ。いや、何故知らないと思った。俺は風紀委員長だぞ? ――――あの戦いのことも、ヴィエルナから報告を受けていた」
ナイセストが顔を歪める。
小さく小さく、顔を狂喜に染める。
そして、
まるで止めであるかのように、その名を呟いた。
「機神の縛光」
「――――――――」
顔面蒼白。
それは圭だけでなく、この魔法にすべてを託していた三人にしても同じこと。
機神の縛光は、ナイセスト・ティアルバーに知られてしまっていたのだ。
「惜しかったな、ケイ・アマセ。本当に…………この魔法を発動出来てさえいれば、俺は確実に動きを止められていただろう。本当に、惜しかった」
ナイセストが闇の鎌剣を振り上げる。
圭はゆっくりとそれを目で追い――――やがて、視線さえ逸らしてうなだれた。
パールゥの悲痛な叫びが、会場に響き渡った。
 




