「難儀――――そして少女は少年を見つめる」
奴は力を求める。
それは誰の為でもなく、自分の為だと言う。
故に俺には他人に分け入ることはなく、他人が俺に分け入る余地はない、という。
そんな言葉を語った口で――成すべき大望は、復讐だという。
家族の仇を、討つことだという。
……解っているのだろうか。
自分の言葉が、根底から矛盾しているということに。
だってそうではないか。
何を差し置いても力を求める利己。
だが、その果てにお前が成そうとしているのは――――究極の、利他ではないか。
決定的な出来事が欲しかった。
奴がプレジアに居られなくなる出来事。
奴のような寄生虫を、今後一切再起不能にする出来事が。
そう思って、その後は尚一層、徹底的に奴の周囲を洗い、探った。
しかし――見えてくるのは、どれもあの夜の言葉を更に裏打ちする行動ばかり。
その上、しかも、更に悪いことに――
――閑話休題。
つまり嫌な話だが、私は奴に張り付いていた。
少しでも独善が過ぎれば、一息に吊し上げて殺してやるつもりで。
そうして私は――マリスタを、報道委員として目の前のスクープを追いかける体で、忌避していた貴族と「平民」の争いに、意図せず分け入っていた。
そして……気付いてしまった。
追っていたものよりよっぽど鼻につく悪臭。
ナイセスト・ティアルバーの「幼稚」に。
ヴィエルナ・キースの血溜まりの中で笑うティアルバー。
ケイ・アマセに見せた「ライバル心」。
これまで私達が踊らされていたプレジアという舞台は、ああも子供じみた男によって設えられていた、そう――まるで玩具箱のように。
こんな不快は、無い。
要するに。
「……難儀な話です。本当に」
私自身の中に、今のプレジアを壊したい理由が、出来てしまった。
大きく大きく、溜め息が出る。
「一つお尋ねしたいのですが。――皆さんの目は、節穴ですかっ?☆」
「な……ナタリー?」
普段目の奥に多少なりとも見える知性の光をすっかり曇らせて、エリダが私を見る。
そうまで真に迫っているだろうか、あの大根役者のヤラレタフリは。
「何が言いたいの? ナタリー」
「……見ていれば分かりますよ」
システィーナの言葉を無視する。
頭の中で嫌という程繰り返された言葉を、ここでまた吐き出す必要はない。
スペースのティアルバーは、ケイ・アマセにあと数歩というところまで迫っているのだから。
恐らく、あれも気付いているのだろう。
ケイ・アマセが、何かしら策を練っていることに。
そしてその上で、ティアルバーは……敢えて無策で、奴の懐に飛び込もうとしている。
せめて度肝を抜いてやれ、大根。
お前が既に陣を敷いていることは、解っているんだからな――
 




