「困惑――――闇のない男」
戦果は上々。
所詮、私達は基本的に私利私欲にしか興味のない人間という種族だ。
そしてその利と欲は、違法という後ろ暗い泥の掃き溜めの中に溜まりやすい。
強欲。嫉妬。色欲。傲慢。暴食。怠惰。憤怒。
それら利欲の闇を少し叩いてやれば、埃は喉を病んでも足りないほどに舞い上がる。舞い上がった煩わしい埃を、綺麗好きな人間達は放っておけないものだ。
そうやって私は、闇を日の光の下に曝け出してやることで、私の大切に危害を加えるクソを葬り去ってきた。
あの男――いけ好かない金髪黒目エセクールクソ野郎も、そうして埃を撒き散らしながら爆散し、消え失せる筈だった。
〝あんたは一体何者なの、ケイ・アマセッ!!!〟
あの夜に。
転校してきた当初から、アレがマリスタとシャノリア・ディノバーツと近しかったのは調べてすぐ解った。
その上、プレジアに来るまでの経歴は一切語れない。
自己紹介で「自己を紹介出来ない」と自己紹介。
何のギャグなのか、一体。
探ってくれと言っているようなものだ。
あの日あの夜、お膳立ては揃っていた。
奴をプレジアに招き入れたマリスタとディノバーツ。純粋に奴の目的が知りたいヴィエルナ・キース。私を含む、その四人しかいない状況。
まだ大して話題になっていなかった奴を社会的に葬り去るには、絶好の機会だった。
私はいつものように、叩いた。
埃はいつものように、舞い上がった。
〝俺は殺す為にここに来た。家族の敵を――俺からすべてを奪った魔術師をな〟
――――利欲が、見当たらなかった。
故に、私は奴を殺し損ねた。
死に至らしめる程の決定的なものが、見つからなかった。
作り話だと、疑った。
何もかも嘘で塗り固められた男に違いないと、そう思った。
でも、奴の口から漏れ出る言葉は、
〝努力が出来る。努力した分だけ、報われる可能性がある。こんなに……こんなに喜ばしいことが他にあるか?〟
〝二度と逃げない。二度と諦めない。家族の命を奪った者を影も残さず嬲り殺し潰し尽くすまで。例えこの身がどんなに惨たらしく醜悪に破滅しようとも〟
悉く、奴のそれまでの行動によって裏付けが取れるものばかりで。
その首尾一貫は、奴を動機を推し量るに十分で。
つまり、奴の言葉はマリスタ達を――――納得させるだけの、説得力を持っていた。
その場にいた誰一人、その言葉を疑うことはしなかった――――忌々しいことに、この私さえ。
屈辱だった。
この私が獲物を取り逃がし――負け犬のように、悪態を遠吠えることしか出来ないなんて。
 




