「諦念――――格の違いはあまりにも?」
英雄の鎧による能力の伸びしろは、術者の基礎身体能力に依存する。
魔力の出力を上げたところで能力は伸びないし、伸びたところでロハザー戦でのマリスタのように、無駄に魔力を持っていかれるだけだ。
攻撃が効かないほどの防御力。
英雄の鎧を貫く程の攻撃力。
英雄の鎧状態でも追いきれない速力。
知らない。
一体何が作用して、奴の力が急に伸びた?
「ぐッ――――ヅ、ぅぐァ……!!」
蹴りを防いだ腕の骨が軋む。
矢継ぎ早に叩き込まれる拳は、どれもヴィエルナの豪拳と変わりない衝撃を俺に与えてくる。
再び防御を突破されるのも時間の問題だ。
どうしてだ。
どうしてこんなにも、身体能力に差が――――
「――――……どうしてって、決まってるじゃないか」
追撃を避け瞬転で後退し、滑るようにして片膝を地に着く。
十数メートル遠くから迫るナイセストが、やけに近く見える。
英雄の鎧ではない。
無理な魔力ブーストでもない。
であれば、答えは単純明快――――ナイセスト・ティアルバーは、ケイ・アマセより強い。
膂力も体力も、速力も。
すべての仕様に於いて、俺は奴を下回っている――――
「兵装の盾を使わなくなったな。ケイ・アマセ」
「ッ!」
眼前に迫った拳に、止むを得ず――拳を合わせてしまう。
激突する拳。
果たせるかな、俺の拳に――――骨を砕かんばかりの激痛が走った。
「っづァ……ッ!!」
「まただ。お前は兵装の盾を張らなかった――いや。張れないんだな、今は。弾丸の撃ち過ぎか?」
「……!」
「貧相な魔術だ、ケイ・アマセ――――お前の盾の砲手とやらは、障壁魔法最大の欠点である『連続使用不可』を克服できてはいない。全方位展開される障壁を、ただ千切って小出しにしているだけだ」
「凍の舞踏ッ!!」
ナイセストが後退「つまり、攻め立ててその魔術を使わせ続ければ――――お前は物理攻撃に完全に無防備になる!」
後ろだ。
――――――――――――――腸が、殴り潰された音。
吹き飛ぶ。内臓を熱されたような痛みが腹部を襲う。
到底自分のものとは思われない有声の悲鳴が口を衝き、閉じた喉から捻り出された胃液が食道を焼く。
「ェ゛ッ!!!――ォ゛オッっ……!!!!!!」
叩き付けられ、横たわる。地に。
迫り上がってきた血を、堰き止めることも出来ずぶちまける。
悲鳴が聞こえた。耳が遠い。
追撃が来る。なんとか体勢を――――
「〝――闇黒の主よ。上天の光明を加護せし蒼然纏う神よ〟」




