「いつもと違うなにもかも」
面食らって声を上げたのはエリダ。
パールゥは振り向かず、ずんずんと一人階段を昇っていった。
「……エリダ、パールゥ何かあったの? なんか、いつもと違うわよ」
「あ、あたしにきかないでって……まあでも、気持ちはなんとなく分かるわよ。現に今、いつもと違うじゃない? いつも通りにいられる人の方が、少ないんじゃないのかなって……あたしは思うけど」
「……そうかもね」
シータが頭をかき、背後を見る。
そこには後ろを突いてくるパフィラ、リア、システィーナの姿。――マリスタの姿はどこにもなかった。
リアがシータと目を合わせた。
「マリスタ、部屋にも戻って来なかったって……ナタリーが」
「え。ま、まさか軟禁――」
「それはないでしょうね。風紀の人達にそこまでの権限は無いし、相手は大貴族のアルテアスよ? 大好きな大貴族サマをそんな風に扱うなんて、きっと畏れ多くて出来ないわ」
「――じゃ、じゃあマリスタは今……あ」
シータに答えたシスティーナが無言で階上を指差し、シータの声を皮切りに、一行は移動を再開する。
システィーナがあごに人差し指を当てた。
「学校じゃない、寮じゃないとしたら、きっと実家に返されてたんでしょうね。だから軟禁されているとしたら、寮じゃなくて実家だと思うわ」
「じゃあマリスタ、今日のしあいみれないの?? ひえーもったいな!」
「見なくて良かったんじゃないの逆に。もし万が一、アマセ君がキースさんみたく――」
「アマセ君は勝つから」
『!』
昇り切った一行に、パールゥが鋭く言い放つ。
目をまん丸にしたシータは、彼女に釘付けになって固まってしまった。
パールゥはそんなシータたちを見もせず、まだ誰もいない演習スペースをまるで祈るかのように見つめたまま。
システィーナが鼻から小さくため息を吐いた。
「……あまり力み過ぎると後半バテるよ。昨日だってあなた、へばってたでしょ」
「…………」
システィーナの声に、パールゥは応えない。エリダが顔を剥くようにして目を見開いた。
システィーナも同じくして目を瞬き、そして口から大きくため息を吐くと、パールゥの横に位置取った。
少女たちも倣い、空いている場所につく。
誰に言うでもなく、システィーナがポツリと言った。
「……マリスタ、この戦いを絶対見たいはずよね」
「え? ……あたしに言ってるの?」
「だからさ。案外、実家なんかとっくに抜け出して――――学校にいるんじゃないか、とも思うのよね」




