「いくつもの目」
「っ! ディ――」
「シャノリア先生!? 見つけたって――」
マリスタの言葉を遮るように、シャノリア・ディノバーツの背後に現れる風紀委員達。
シャノリアが目を閉じ、口を強く引き締めて――眉をつり上げ、ロハザーとマリスタを見た。
「――自分が何をしたか、分かってるわよね。あなた達」
『!』
「アルテアスさん、ハイエイト先輩……演習スペースの魔法障壁破壊に関与した疑いで、生徒会指導室に同行してもらいます」
「わ――分かってるけど、それよりもっ、ティアルバーくんを捕まえとく方が今よっぽど大切な――」
「マリスタ」
苦い顔で告げてくる風紀委員にマリスタが異を唱えようとして――ロハザーの声に、止まった。
飴と青の目が交わる。
ロハザーは静かな表情のまま視線を移し――圭を見る。
マリスタもその目を追いかけて、そして――ロハザーの言わんとしていることを、悟った。
二つの目が、圭を捉える。
「ッ――」
視線以上の何かを、確実にその目に宿して。
「――来なさい。二人とも」
「はい」
「はい!」
二人が、圭の横を通り過ぎる。
圭はとっさに振り向き、その金色の目が二人の背を――背を向けようとしていたシャノリアを、捉える。
――シャノリアが、瞳を揺らして目を細めた。
「ま――――」
圭の目がわずかに見開かれる。
何かを言いかけた彼を置き、三人は去っていった。
そしてまたも背後から突き刺さる、視線。
「…………ッ……!」
「えっ、ちょ――アマセ君っ……」
金髪の少年が、三人後を追うように走り去る。
追いかける理由が見当たらず、エリダが立ち止まり――システィーナらへ視線を投げる。
受けたシスティーナは、ただ去っていく圭の背を見遣るだけだった。
「……情けない男。背負うどころか、願い《気休め》をかけられることさえ出来ないとは。これは明日の決勝が見物ですね」
この世全ての侮蔑を込め、ナタリーが言う。
重苦しい空気が、場を満たし続けていた。
◆ ◆
「随分な血相で駆けていっちゃったね、彼……体に障らなきゃいいけど」
「………………」
「って、体に障ってるのは君の方か。気分はどう? フォンさん」
「え? あ、はい……大丈夫です」
救護スペースのパールゥ・フォンは、額ににじむ汗を感じながら空笑いした。
話しかけたホワイトローブの少年がため息を吐く。
「元気なフリするならもうちょっと頑張りなよ。それじゃ気分は最悪だって言った方が、まだ体調良さそうに見えるって。はい、ハンカチ。冷や汗拭いときなよ」
「い、いえ。結構です、大丈夫ですから」
「汚れたりはしてないよ? 一度も使ってないから」
「い、いえあのっ」
「そう言うことじゃないと思いますよ」
声の主に、白の少年はきょとんとした表情を向ける。
「君、だんだん僕への当たりキツくなってきてない?」
「気のせいですよ」




