「たった一人だけのライバル」
「さて。笑顔はない、ですか……ともあれそうした理由で、キースさんはティアルバーさんを止めようとした。ですがそれによって――――ティアルバーさんは何かの血を決定的に滾らせ、ついに動き出した。それがあの試合だったと、私は読んでいます」
「な、何かの血って……何だよ」
「さて。人をバラバラにしたくなる衝動など、理解したくもありませんがね。これはもう憶測の域ですが……」
ナタリーは一呼吸置き。
「………………ライバル心」
苦虫を噛み潰したような顔で、そう口にした。
「……ラ、」
「ライバル……って、誰と誰が……」
ビージとチェニクが呆然と言葉を繰り返す。
固まっていたロハザーがようやく言葉を発する。
「……ナイセストが、そう考えたって。あんたはそう思うワケか、コーミレイ」
「ティアルバーさんのあの顔をご覧にならなかったんですか? あれが貴族の使命に燃えている人間の見せる顔とは、到底思えませんね。もっと私的で野心的で……そういう類の愉悦ですよ、あれは。…………さて、それでなんでしたかね。確か、事ここに及んでもナイセスト・ティアルバーを止めるに足る人間が見当たらない、という話でしたっけ? ――――居るじゃありませんか。ナイセスト・ティアルバーの心をあんなにも揺さぶっている者。今のティアルバーさんと話が出来るかもしれない人物が、一人だけ」
救急治療室の扉が荒々しく開かれる。
現れたのは医療器具などを身に着けた壮年の男性――医療スタッフに連れられたその男性が、外部の医療術師であることは誰の目にも容易に知れた。
故に、彼らの目を引いたのは男性でなく。
開かれた扉の先で立ち尽くしていた、ケイ・アマセの姿。
「………………」
全員の視線が金髪の少年に注がれる。
少年はその目を戸惑いと共に受け止め、視線を巡らせる。
その顔はまるで――自分がここにいる理由が、自分にも解っていないかのようで。
「……でしょうね。予想通りの顔です……こんなにもムカつくとは予想外でしたが」
ナタリーが言い腐し。
もう一人の金髪が、圭の背後に現れた。
「ようやく見つけたわ。マリスタ、ハイエイト君」




