「報道委員編集記、①」
ナタリーは非常に面倒くさそうに小さく空を仰ぎ、――言葉を整え、ため息を吐く。
「あなた方が啓蒙しているつもりでいるご大層な貴族至上主義は、そもそもティアルバー家が思想の大本です。虎の威を借りた弱小貴族共によって歪曲されている部分もあるようですが、その考えの根底にあるのはシンプルな弱肉強食。ナイセスト・ティアルバーは更に、『強者の責任』と『弱者生存、しかし従属の当然』を説いている。『強き者に従え、だが弱きは切り捨てず守れ』――それがナイセスト・ティアルバーの作り上げた世界であり、現在のプレジア、風紀委員会に通底する理念です」
「お、おぉ……?」
「??????」
「パフィラ、寝てなさい」
「……続けてくれ、コーミレ――」
「ですが、強権に過ぎるそんな空気を良しとしない者も、当然居た訳です」
(こいつ……)
一部理解の追い付かない者を置いて、先を促すロハザー――の言葉を食うようにして、ナタリーが続ける。
「彼らの多くは、貴族制度の無くなった現在でも『平民』という蔑称で呼ばれ、それも相俟って鬱憤を増大させていきました。でも彼らには金も権力も実力も血筋も、何もありませんでした。だから下克上など夢のまた夢。その結果、貴族は更にプレジアにて更に台頭し、不満は加速度的に増え続けていった。導火線は、火を点けてくれる事件を――――切っ掛けを欲していたんです。皆が皆、他人行儀に。動けない自分の情けなさを棚に上げて」
ナタリーの視線が、その場にいた幾人かに向けられる。彼らは一様に目を逸らし俯いたが、リアとエリダ、そしてシスティーナだけは真っ直ぐにナタリーを見返した。
リアが口を開く。
「……正解だと思う。私達は解っていて、何もしなかったから」
「とは言っても、あたしは気に病む必要はないと今でも思ってるわよ。貴族だ『平民』だに敏感になってる奴以外は、今まで通りの学生生活を送ってたんだから」
「別に言い訳をしているつもりはないけれど、エリダの言う通りね。貴族と『平民』、そして……そうね。私達『その他』がいた、って言い方が正しいのかしら、厳密には」
「待って、ナタリー。まさかそのキッカケっていうのが、」
マリスタが我に返ったように言う。
「分かり切ってるな」とロハザーが鼻で笑った。
ナタリーは吐きそうな顔で告げる。
「ええ。後に風紀委員会、つまりナイセスト・ティアルバーの作り上げた世界に宣戦布告などをかます『異端』の最弱者です」
 




