「その足を止めるのは」
「無理ってどういうことよ」
「僕――僕は。あの人と話したくなんてない。殺されたくない――テインツみたいになりたくないんだよ! みんなだってそうだろっ?」
チェニクが風紀委員達に投げかける。誰もが目を逸らした。
マリスタが顔を怒らせる。
「何言ってんの――ビビってんじゃないわよこんな時にっ! あなた達、みんなヴィエルナちゃんのやられ方を見たんでしょう!? それでそのザマなワケ!?」
「失うモンが何もねェ奴は気楽でいいよな」
即座に返したのはビージ。
マリスタが目を剥いた。
「そんな話今蒸し返してどういうつもりなのあんたッ! 関係ないでしょうが!!」
「関係あるだろうがッ!!」
「しずかにしてよっ。むこうにキースさんいるんだよlっ」
「う、ぬッ……」
パフィラの言葉に、ビージが語気を弱めてヴィエルナのいる治療房を見る。やがて彼は指先で眉間を押さえるようにして、顔を手で覆った。
「……怒鳴って悪りィ。でも……関係あんだよ。バカにしてるわけじゃねぇ。アンタをバカにしてるわけじゃねぇんだ、アルテアス。ティアルバーさんに物申す……そんなことをしたら、俺達は本当に、家を取り潰されちまうかもしれねぇんだ。家柄が対等なあんたは違うかもしれねぇが」
「家を……潰されるって」
「貴族ってのはさ、ただの仲良し集団とは違うんだよ。大貴族とつながりがあるからこそ成り立っている仕事がある。大貴族の後ろ盾があるから話せる人間がいる。得られる利益がある。成り立っている暮らしがある……守ることが出来ている人がいる。だったら、失うわけにいかないじゃないか」
「…………」
〝俺達だって貴族なんだ!! 俺達はその誇りだけを胸に、どんな逆境も偏見もはね除けてここまで積み上げてきた!〟
〝その積み上げを崩されてたまるか。挫折も壁も経験したことのないボンボンにあっさり負けて堪るかッ!!〟
脳裏に過るは、闘いの記憶。
マリスタが、ロハザーを見る。
ロハザーは何も言わず、その目を見返した。
「わ――わかったわ。それじゃ、私がこれから一人で――」
「ダメ。それは絶対許さないからね、アンタ」
「え、エリダ?」
金髪を揺らし、顔に焦燥をにじませたエリダが前に出る。
「アンタ、自分の今の状態をわかってないでしょう」
「じょ、状態って何さ。私は別に」
「バカね! さっき自分が何したか思い出せって言ってるの!」
「さ、さっき……?」
「元気過ぎて呆れるね、まったく……」
シータが呆れ顔で言う。
「マリスタ。あなたはついさっきね、そのデタラメな魔力量で――演習スペースの魔法障壁をブチ壊したのよ?」
「それは後でいくらでも怒られるよ! 今はそんなことより」
「察しなさい、バカボケマリスタっ」
「゜いぴっ」
エリダが、マリスタの両頬をぐにぃと引っ張る。
「魔力使い果たした状態でティアルバー君のとこ行って何が出来るんだって言ってんの私達は!」
「そ――それは、でも別に戦いに行くわけじゃないんだから」
「本当にそう思う?」
「し――システィーナ?」




