「完全破壊」
闇が晴れる。
ヴィエルナを貫いていたそれが――否、それらが漆黒の帷を脱ぎ、その姿を露わにする。
ヴィエルナが、目を見開いた。
「…………鎌剣…………!」
ナイセストが両手に持っていたのは、刃が鎌とは真逆に湾曲した、二振りの片刃の剣だった。
そこに装飾は一切無い。ただ漆黒に彩られた魔力が、湾曲剣の形を成しているだけ。
術者の所有属性に応じた属性の武器を創り出す魔法、戦士の抜剣。
ナイセストの所有属性によって形作られた、彼の所有属性武器――鎌剣。
ヴィエルナの突進は、その独特な形の刃によって物理的に止められていたのである。
「惜しかったな。だが軽過ぎた」
「っ――」
「暗弾の砲手」
――数多の黒杭が、ヴィエルナの腹部を打ち据える。
同時にナイセストが鎌剣を――ヴィエルナの肩の内を引き裂くように抜き去る。
漆黒に紛れ、血が飛んだ。
両手をだらりと投げ出し、吹き飛んだヴィエルナが倒れていく。
その光景が、圭には随分遅く見えて。
その目が、合ったとき。
ヴィエルナの両腕から――赤が迸った。
シータが口に手を当てて目を剥く。
マリスタは、それが両腕を斬り飛ばされた故の出血であると気付くのに、数秒の時間を必要として。
その間に、
「ヴィ――――、」
太陽に近づきすぎた英雄は、
「エル――ナ――」
蝋で固めた翼をもがれ、
死んで、
――――――――赤いローブを着た赤毛の少女が、スペースの魔法障壁に飛びかかった。
『!!!!?』
「マ――マリスタッ!!!!!」
「なにやってンだおまえェ――――――ッッッ!!!!!!!!」
障壁に両手を、突き入れる。
「マリスタ……!?」
「ッ!? パーチェ先生どこにっ、」
「あああぁぁぁ――――――ッッ!!!!!!!!!!!!」
障壁の魔力とマリスタの滅茶苦茶な魔力がせめぎあい、極彩の火花と共に障壁が徐々にこじ開けられて――障壁全体がひび割れる。
紫電。
「雷霆の――」
それは、雷槍を構えたロハザー・ハイエイト。
「槍ァァァッッ――――!!!!!!!!!」
轟音。
空気をつんざく高い、音。
「きゃあああぁっ!!」
エリダの悲鳴。
障壁の破片が魔素と散り消え、荒れ狂う魔波と共に吹き飛んでいく。
濃密な魔波が無差別にブロックを、会場を襲い、備えの無かった者が次々倒れ込む。
「…………、…………、」
やがて、勢いが消える。
圭が顔を上げる。
黒と白の入り混じる煙の向こうに、彼は鮮血に沈む少女の塊と、
「――――――――――――」
鮮血を浴びた静かな狂喜の目を、見た。
煙幕の先に、二人の監督官を見る。
一方はナイセストの手を取り、一方は――空へと手を掲げた。
途端小さな光が手から飛び、上空で弾けると――それは色濃い幕となり、スペースの中を観覧者の目から包み隠した。
「な……何がどうなったってのよ、コレ……!」
「アマセ君。大丈夫?」
「あ、ああ……」
「マリスタっ!」
ナタリーの声に振り返る圭達。
そこには――シャノリアに組み伏せられてうつ伏せに倒れている、マリスタの姿。
「離してッ!! 離してください先生ッ!!」
「落ち着きなさいッ! スペースの障壁を破壊するなんて、あなたっ……何をしてるか分かってるの!?」
「ヴィエルナちゃんが!! ヴィエルナちゃんがあっっ!!!」
「気持ちは分かるけど黙りなさい!! あなたがここで騒いでも彼女は良くならない、周りの混乱を大きくするだけだというのが――――」
『ヴィエルナ・キース再起不能』
幕内から、トルトの声が無機質に響く。
マリスタが、言葉を失った。
『勝者、ナイセスト・ティアルバー』




