「バベルの塔」
「――――ッ、!!!」
怯んだナイセストの顎をヴィエルナの追撃が打ち抜く。
反った首元に一撃。くの字に折れ曲がった首に付いてきたこめかみに一撃。
吹き飛ぶナイセストの鳩尾に、一撃――――
「う――うおおおぉぉぉおっっ、ヴィエルナっッ!!」
「残り時間――――」
マリスタが時計を確認する。
残り時間は、一分。
「少ない――――引き分けいけるよこれっ!! ヴィエルナちゃんッッ!」
(――――引き分け? ということは――判定?)
実技試験は、設定された十五分間の時間内で決着がつかない場合、勝敗は監督官二名による協議の下、決定される。
勝負を分けるのは、分の良し悪しではなく――試合の内容が、アルクスとして適格だとみなされるかどうかだ。
つまり。
(ヴィエルナが、勝ってしまうかもしれない――――!)
会場の盛り上がりが最高潮に達する。
ヴィエルナは今尚、ナイセストに連撃を――無手の弾丸を浴びせ続けている。
ナイセストも反撃しようとしているが――練磨され、一部の隙も無いほどにまで高められた打撃の渦が立て直すことを許さない。
究極の武闘に、完全な武闘では対抗し得ない――――!
「……ヴィエルナ、」
「びえるなちゃんんんんーーーーー!!!!」
「押し切ってっ!」
「や――やれるやれる、いけいけっ!」
「キースさん――!」
「キースさーーーーん!!!」
「ヴィエルナァァァアアアアーーーーーー!!!!!!」
「キースさん、がんばれっ……!」
「ばんくるわせぇーーーーーーーー!!」
「もう、少しっ……!」
「まさか……そんな」
「――――行くかもねえ。これ」
壁際に追い詰められたナイセスト。
ヴィエルナが拳を脇に固め――――裂帛を響かせる。
最大限に充填された力を放出し、わずか短い距離を超速で移動して、防御を捨てた渾身の一撃をその両肩を闇が貫いた。
その両肩を、闇が貫いた。
「戦士の抜剣」
『アァァァァッッ!!!!??』
――――熱狂一転。
阿鼻叫喚、次いで絶句。
誰もが目の前の光景を理解できず、息を殺してスペースを見つめ始める。
だが、最も状況を理解できないのは――ヴィエルナ・キースである。
「ッッ……ッ、ッ……ぁ、!、?」
衝撃と驚愕のあまり、声が喉元で詰まって出てこない。
次いでやってくる痛み、認識。
肩を漆黒が貫いている。
否――それ自体は想定された痛みであった。
ヴィエルナは防御を捨て、すべての力を込めて拳を放った。それを見抜けぬ相手でもあるまい、と――ヴィエルナは、ともすれば致命傷を負うことになる事さえも想定した上で、同じく致命を、そして決着をもたらすべき一撃を見舞ったのだ。
だからこそ、
(どうして――私は止まっているの?)
――止まるはずが無い。
距離はわずかに二歩。物理障壁も使用済み。
相殺こそ想定せど、あの勢いが止められる道理が無い。
貫かれたところで、相討ちに終わるはずなのだ。
「…………なんで…………!?」




