「不屈の舞闘」
「…………ど…………!!?」
「どうして立ち上がれるの、キースさんってば……!!」
絶句するロハザー。
目をまん丸にしてシータ。
圭は目を見開いたまま、口を強く引き結んでスペースに釘付けになっている。
重心が安定する。
ヴィエルナの身体から、ふらつきが消えていく。
「…………練りきった。ちょっとだけど」
「――――?」
ナイセストが一瞬、眉をひそめる。
ヴィエルナはゆっくりと腰を落とし――迎撃の構えをとる。
会場が、わずかに沸いた。
相変わらず、呼吸は深い。
ヴィエルナの身体は明らかにダメージを蓄積させている――力ある者達には、それがありありと見て取れる。
(……あいつはヴィエルナ・キースだ。何の目的も無く、闇雲に立ち上がるような奴じゃない。でも、だったら奴は何故――――――、!?)
圭が怪訝な顔をする。
スペース中央でナイセストと対峙するヴィエルナ・キースが、あからさまに視線を上げ――――圭に目を合わせたのだ。
(…………何だ?)
次の瞬間には、その視線はナイセストに向き直っていた。
ヴィエルナが視線を向けた相手に気付いたのは、報道委員会所属のナタリーと――ナイセスト・ティアルバーのみ。
ナイセストが目を細め――地を蹴った。
目にも止まらぬ白の疾駆。
瞬転を使わずとも、その速度は常人に捉えられる域を優に超えている。
それを、
「ッ!」
ヴィエルナは瞬間同速に至り紙一重避け、取って投げた。
『!!?』
ナイセストが宙で体を翻し、何とか足で着地する。
だが依然手首には枷。灰の手がナイセストの手を捕らえ、関節可動域の逆側へと捻り――再び投げ倒す。
ナイセストも負けじと体を捩り、力でその手を振り解こうともがくが、ヴィエルナは人体の構造に沿って巧みに体を振り、宙返り、襲い来る拳を蹴りで相殺し手を離さず、最小限の動きで白を引き倒しにかかる。
武闘、ならぬ舞踏。
スペースで繰り広げられる鮮やかな組手に、観覧席は翻弄されるがまま、一喜一憂を繰り返していくより他に無い。
「チ……」
業を煮やしたナイセストが一瞬の隙を突き、掴まれた腕を投球の如く振りかぶり、ヴィエルナの体を投げ飛ばさんと振り抜く。
ヴィエルナが咄嗟に、空いた手でホワイトローブの袖を掴んだ。
「ッ!!」
ローブに引っ張られ、ナイセストの体は投げられたヴィエルナに吸い寄せられるように宙へ。ヴィエルナは手首をつかんでいた手を離し両手で彼の腕を握り直すと、自身が吹き飛ぶ力に乗せるようにしてナイセストを――振り投げる。
ナイセストが、障壁に叩き付けられた。




