「もはや嗜虐」
「ぅ……ぁ、くっ……」
対するヴィエルナは、地に倒れた己が身を起こすので精一杯。
何とか立とうとするものの、四肢が芯を失ってしまったかのように力が入らない。
ナイセストが、ヴィエルナの顔を蹴り飛ばした。
「ッッッ!!!!」
「落ち着いて、マリスタ。ここで怒ったってどうしようもないわ。これは試合なんだから」
「そ、そうよ。それにホラ、キースさんだって英雄の鎧を使ってるんでしょ? ある程度は」
「いや」
「耐えられる…………え?」
システィーナに次いだエリダの言葉を、圭がスペースを見たまま否定する。
顔を怒らせたまま、マリスタが圭を見た。
「……雷属性が相手に痺れを与える付加効果を持つように、他の属性も様々に特性を持っている。火は燃える、水は濡れる、氷は冷たいといった具合にな。……だが闇属性と光属性は、特性の毛色が少々違うんだ」
「毛色が違う?」
「ッッッ!!!!!!!」
髪と肩をわなわなと震わせ始めたマリスタの腕を、シータがおずおずと掴む。
スペースでは今まさに、体勢を立て直したヴィエルナが、顔面に拳の追撃を受け、顔から地面に落ちたところだった。
ナイセストが軽く跳び、倒れたヴィエルナの頭上から全体重を乗せ――
「ァぁッッ!!!」
マリスタの悲痛な叫びは杞憂に終わる。
間一髪、ヴィエルナは体を転がして踏み付けを避け切った。
ナイセストの踏み抜いた床がひび割れ、陥没する。
「っ……っ……!」
再びナイセストを見たヴィエルナの顔からは、今度こそ幾筋もの血が流れ滴っていた。唇と目蓋の上を切ったのだ。
「き……キースさんってば、メチャクチャ息上がってない?」
「当然ですよ。今の彼女の身体では」
「ど、どういうことよっ?」
「ケイさんが仰っていたでしょう。闇属性には、他の属性にはない珍しい特性――――魔力回路の不活性化という付加効果があるのです」
「ふ、ふかっせいか???」
「魔法が使いにくくなるのですよ。闇属性の魔法を食らってしまった人は、魔力回路をその闇に『侵蝕』されてしまいます。闇に冒された魔力回路では上手く魔力を練ることが出来ず――――魔力の質は低下、それを使った魔法も正しく動作させられなくなってしまう」
「魔法が使いにくくなる……って、ことは、まさか」
「ケイ」
激情に震えたマリスタの声。
圭はゆっくりと、絶望の色を湛えたマリスタの目へと視線を返した。
マリスタの辿り着いたであろう、仮説。信じたくない可能性。
それを、圭は容易に見抜いた。
「…………そうだ」
容赦なく、告げる。
ヴィエルナ・キースの置かれた、逃れられない「地獄」を。
「ヴィエルナの英雄の鎧は切れている。あいつは生身の身体で――――英雄の鎧で強化されたナイセストの攻撃を、受け続けている」




