「闇、染み冒す」
(……おかしい)
ふと、少女は思う。
自分は、こんなにもナイセストの魔波を重く感じていただろうか、と。
ナイセストの背後に、複数の闇の弾丸が装填される。
「!!」
「逃げろヴィ――」
ロハザーが言い切る前に、ヴィエルナが跳ぶ。
瞬転。片膝を着いた姿勢から、鮮やかにナイセストの脇を擦り抜け、
躓きよろけ、ナイセストに、無様にぶつかった。
『!!!?』
会場が驚愕に包まれる。圭やロハザーも酷く困惑した様子でそれを見つめていたが――最も戸惑っていたのはヴィエルナ自身であったろう。
彼女は目を見開き、ナイセストに抱き留められるようにして寄りかかっていた。ナイセストは微動だにしていない。
乾いた音が二発。
「ッ!!」
マリスタが表情を一層険しくする。
ナイセストは寄りかかったヴィエルナを一目見ることも無く、右手でヴィエルナの頬を叩き――よろけた彼女をの顔を、更に左手の甲で叩き飛ばしたのだ。
吹き飛び、倒れるヴィエルナ。ナイセストはわずかに体を捻り、倒れた少女を見下ろした。
再び、圧倒的な魔波が彼女を襲う。
ヴィエルナの口元には、痛々しい紫斑がにじんでいた。
「……ねえ、ケイ。もしかして、ヴィエルナちゃん今……瞬転を失敗したの?」
マリスタが言う。
その声色は、圭の返答など必要としないほどの確信を帯びていた。
「……そのようだな」
「そんなこと――ヴィエルナちゃんが瞬転を失敗するなんてこと、ある? だってさっき、」
「ああ。あいつが単純に瞬転を失敗しただけだとは、誰も思っていないだろう。――だとすると、これは――」
「…………闇の『侵蝕』」
ヴィエルナが、それだけつぶやく。
ナイセストは、否定も肯定もせず――背後の弾丸を、発射した。
「っ――!」
弾けるように駆けだすヴィエルナ。
床で小さく爆ぜ、空気に溶けるようにして消える弾丸。
やがて、それが当たり前であるかのように――ヴィエルナは弾に追いつかれ、
「いやッ!!!」
「ヴィ――――」
体中を、黒き杭に貫かれた。
「ぁ――――ァあああっ!!!」
絞り出したような悲痛な叫びが、スペースに響く。
ヴィエルナの体中から、肉を焼くような音が染み出でる。
ナイセストは、またもそれを冷たい目で見下ろしていた。




