「粛正、ここより」
ヴィエルナが怪訝な顔をする。
ナイセストは頬に肘打たれた赤みを残した顔を上げ――――その切れ長の目で彼女を射抜いた。
「お前はそういう女だった、ヴィエルナ・キース。呪文詠唱が出来ないを嘲笑う者共から逃れたいためだけに、力を身に着けた女。プレジアを変えたい自分の背中を押してくれる者がいればと、キッカケが無いのを言い訳に自ら行動を起こさない女。故に風紀委員会に所属し、俺を変えようと、俺に背中を押してもらおうと、そしてあわよくばこの想いを、と――――それがヴィエルナ・キースという、卑しい女のすべてだ」
――ヴィエルナが、身を固くする。
ナイセストの話した一言一句すべてが拡声され、第二ブロックに、二十四層全域に、浸透していく。
「――――卑しいって、何さ」
「ナイセスト、」
マリスタが呆然と拳を握り締めていく。
ロハザーが横に小さく首を振る。
だが、そんなものはナイセストには届かない。
「少しでも多くの人々を笑顔に? すべてにおいて他人に責任転嫁できる状況でしか動けないお前がか? ……信念を貫く覚悟の無い自分を知りもしなかっただろう、お前は。それが驕りも、過ぎた謙虚も持たず、すべてをフラットに見ることが出来ていたお前の――唯一、そして致命的に見えていなかったものだ、ヴィエルナ・キース」
「………、………、」
目の前で展開される言葉にどう向き合えばいいのか解らず、ヴィエルナはただ黙り、受け止めている。
ナイセストも表情を変えることなく、淡々と告げ続ける。
「そしてそれは今も変わらない。……何故、今更俺を変えようと動き出した? 誰に背中を押してもらった? 否さ――――誰に責任を押し付けた?」
「――――――」
〝行動し続ければ、変えていける。ケイはそれを、示してくれた〟
ダカラ、ワタシモ、ウゴケルワ
――――――――ヴィエルナの肩を、黒い「杭」が打ち抜いた。
『!!!?』
観覧者達が目を見開く。
人の腕ほどの太さの短い「杭」はヴィエルナの右肩を貫き、――染み入るようにして、ヴィエルナの肩にゆっくりと広がっていく。
「『お前はヴィエルナか』、と俺は問うたな。――お前はヴィエルナではない。『ケイ』だ。そう判った以上、後は是非もない。その世界を、壊す。『我々』は、その為に存在するのだから」
肩を押さえ、片膝を付くヴィエルナ。
闇は静かに、確実に――ヴィエルナを「侵蝕」していく。
ティアルバーは囚人に手をかざし、淡々と告げる。
「暗弾の砲手」




