「疑問、故に矛盾」
(……だがどういうことだ? これは……)
圭が目を細める。
同様の疑問を、今まさに――ナイセストと拳を拮抗させているヴィエルナも感じていた。
相殺した拳の威力の反動が二人を激しく後退させ、両者は足を踏ん張ってそれに耐える。
間髪入れず瞬転。
腕をぶつけ合い、両者が初めて止まった。
「………………」
「………………」
観覧者の安堵が聞こえる。
息をするのを忘れて戦いを見守っていた者達が、次々と息を吹き返して空気を緩ませる。
ナイセストを見つめる少女が、口を開いた。
「……どうして魔法、使わないの?」
「――――――、」
――――ナイセストは、即座に答えられなかった自分に驚いた。
「――お前はヴィエルナか?」
答えようと開きかけた口を、まったく意図しない言葉が衝いて、驚いた。
ヴィエルナが眉をひそめる。
ナイセストにしては歯切れの悪い、要領を得ない質問。彼女は、ナイセストがそうした性格でないことは十分理解していた。故に、鼻につきすぎた。
(――どうして俺が、魔法を使わなかったのか?)
驕りではない。
何故なら、彼の中で――――表層的な理由は、はっきりしていたのだから。
(――俺は、ヴィエルナの戦い方に合わせていた――)
要は深層。
すなわち――――どうして自分が、彼女の戦いに合わせていたのか、ということ。
再び、ヴィエルナの突進。
ナイセストは、拳を受け止めようと手を伸ばし――
「あなたも、迷っているの?」
――一瞬で肘打ちへと転換された拳を、辛うじて曲げた左肘で防いだ。
再び力で競り合う二人。
ヴィエルナがナイセストを見つめる。
ナイセストは、――未だ、先のヴィエルナの言葉の深層を理解できていなかった。
その事実が、彼の中に新たな矛盾と――疑問を生んでいく。
(――できていなかった、だと? それではまるで……)
「……私、少しでもたくさんの人を、笑顔にしたい。だから、私は風紀委員。アルクスを目指す、義勇兵なの」
これまで、理解する必要が無いと思っていたもの。
目端に映ったとしても、気にすらならなかったもの。
そんなものを。
(……俺が、他者の心を知りたがっているようではないか)




