「あの時の敗北を知る」
ナイセストが、未だ方向転換の利かないヴィエルナの背後へと迫り――――深く地を踏み込む。
瞬転の予備動作、見抜けたのはもう一人のホワイトローブのみ。
「危ないッッ!!!」
マリスタが叫ぶ。ヴィエルナは振り返れない。
果たせるかな、空中でガラ空きの背を見せた灰色はそのまま白のひと蹴りを――
跳び――否。飛び躱し、背後を取った。
「!!!?」
圭が目を瞬かせる。
観覧席の誰もが瞬間言葉を失い、思い出すようにして悲鳴のような歓声をあげる。
トルトが唸り、ペトラが笑った。
「うお、瞬転空かよっ」
「それも二連で――!」
ヴィエルナが迫る。ナイセストは、
――ナイセストも、飛んだ。
「?!??!??」
「え、え、え――――」
エリダとマリスタがひたすらに眼球を動かす。
上へ飛んだナイセストからの一撃を回避すべく、ヴィエルナがまた空を蹴る。
超速で滑空していくヴィエルナを追い、ナイセストもまた空気を足場に追いすがる。
「…………!、?」
「んんー?? どうなってんの? キースさんもティアルバー君も消えたよ??」
まるでそこに地があるかのように乱れ飛ぶ灰と白。
画面越しの常人には、目で追うことすら既に叶わぬ。
(――――なんてこった)
英雄の鎧の使える圭でさえ、その速度を――中空の瞬転、瞬転空連続使用による超速戦闘を途切れ途切れにしか追いきれない。
「んぎゃぁっ!!?」
「し、シータっ!?」
突如眼前で鳴った叩きつけるような音にシータがひっくり返る。
システィーナは、眼前の障壁を足場に再び飛んでいくヴィエルナの姿を一瞬捉えた。
同様の音が、障壁のいたるところで鳴り響く。
それが障壁を足場に乱れ飛ぶ灰と白であると観衆が認識し始めた時――――スペース中空から弾け飛んだ音と衝撃が観覧席に襲い掛かった。
「……押し切れ。もうそのまま押し切れ、ヴィエルナッ……!!」
ロハザーが拳を握り締める。
スペース中央の空で、超速でぶつかり合う両者の拳。
空気を引き裂く速度で繰り出された拳同士の激突はしかし、魔装具として完成された籠手を身に着けたヴィエルナに軍配があがっていたのだ。
ナイセストが拳のぶつかる力場から弾け飛び、何とか障壁に着地する。
立て直す間を与えず、ヴィエルナの拳が迫る。
改めて。
(……やっぱり俺は、あいつに勝ててなどいなかった)
圭は改めて、これまでずっとヴィエルナ・キースという少女に手加減されていたのだと、実感せざるを得なかった。




