「格闘」
軸足で跳び距離を取るナイセストに、ヴィエルナの左拳が迫る。
崩れた体勢ながら、ナイセストは危なげなく右手でその拳を受け止め、
突如開かれた左手がナイセストの右を掴む。
「!」
引っ張られるホワイト。
間髪入れず迫るヴィエルナの右拳。
「入った!!!!」
マリスタの悲鳴。しかし、
ナイセストは、掴まれたまま跳んだ。
ホワイトローブが綺麗な半円を描く。
掴まれた右手を軸に、ヴィエルナ支えに倒立でもするかのように宙返るナイセスト。
関節の可動域を超え、グレーはホワイトの拘束を解かざるを得ない。
両者を距離が隔てた。
「っ――」
「!!」
そんな間隙を、灰の少女は許さない。
即座に反転、ヴィエルナが跳ぶ。
ナイセストは着地と同時に、瞬転で加速した拳を受け止めてのける。
(同じ手は喰わない)
開かれた灰の拳をナイセストが鷲掴む。
直後打ち込まれた灰の右拳も同様に掴まれ――――図らずも、力比べの体勢となる灰と白。
「っ……!!」
「――……!」
――――拮抗。
会場全体が息を呑む。
高身長の少年と華奢な少女が、力の上で渡り合っている。
この意味を、ほとんどの人間が理解したのだ。
英雄の鎧は術者の身体能力を強化する魔法だ。
しかし、能力の強化具合は元の身体能力に大きく影響される。
すなわち、体格差をものともしない灰の少女の方が――――
(英雄の鎧に関しては、ヴィエルナの方が上手――――!!)
高揚に、圭が小さく破顔する。それも当然。
グレーローブのヴィエルナ・キースが、ホワイトローブのナイセスト・ティアルバーを上回ったのだから。
ヴィエルナが力を比べたまま、わずかに腰を落とす。
「!!」
『ぉおおッ!!??!』
会場がどよめく。
地を踏み締め俯いたヴィエルナが――瞬転で加速した頭突きを見舞ったのだ。
直前に頭突きを察知したナイセストが膝を崩して屈み、ヴィエルナは力比べを振り解いて明後日の空中へと飛んで行ってしまう。
その好機を、白が見逃すはずもなかった。




