「交わる視線、交わらぬ線」
「ケイさん無視しないでいただけます? 謝罪してくださいマリスタに。もしもし? ケイ・アマセ。――おい糞キモ似非クール長便冷血ガリ勉男妾野郎。聞こえてますか????」
「どうどうナタリー。アマセ君、きっと今は試験のことで頭がいっぱいなのよ」
「上から92・57・k「ばっっっかやめなさい!!!」
「――! 来たよ」
シータの声と同時に、――――観覧席のざわめきが、明らかに異質なものへと変わる。
スペースに集中する視線の中、輝く白い外套の少年は、小柄な少女の前に立つ。
「――――……」
圭のいる場所からは、ナイセストの顔がはっきりと見える。
〝世間知らずは許容しよう、だが身の程知らずは始末に負えん。我々の施しなしに、お前達『平民』がこのリシディアで生きられる場所など本来存在しないのだと、よく覚えておけ〟
その目は、あの時のままの怜悧で。
(……俺が……)
〝それによ……この先で話すべきは俺じゃなく、お前だ〟
(……あいつと、話すべきことだと?)
〝おにいちゃん、も、おねがいします〟
〝ケイ。お願い〟
(――馬鹿馬鹿しい。人を勝手に同志扱いするのも大概にしろ。俺はより強い相手との戦いを――強さを求めているだけだ。その過程でナイセストが相手だったとしても、そこに何の感慨もない。俺がこの異世界で感慨を抱くのは、唯一――家族を奪った魔術師のみだ。……それは、ナイセスト・ティアルバーにとっても同じことだろう)
圭を見下ろしていた、漆黒の双眼。
あの光がケイ・アマセに興味を持っているとは、到底思えない。
本当にそうだったか?
肺を潰されるような圧迫を伴った魔波。
その刹那交わった視線を、圭は畏怖と共に記憶の隅へと追いやってしまっていた。
◆ ◆
自分を見つめる赤い外套の金髪を、ナイセストは確かに感じていた。
ヴィエルナの背後、観覧席からこちらを見ているケイ・アマセ。
今やはっきりと、その存在を関知することが出来てしまうナイセスト。
そして眼前には、今――その存在の影響を、恐らく最初期に受けたであろう風紀委員。
「…………」
「…………」
ヴィエルナは一切視線を逸らさない。
佇まいは既に臨戦。
一切の構えをとっていないスタイル。しかしそれこそが、ヴィエルナの「構え」であることをナイセストは知っていた。
――ナイセストは、しばし時間を与えることにした。




