「太陽の同類」
完璧故に、この者は究極的に他人を必要としない。
彼の近くにいるためには、自ら近寄るより他にない――
ナイセストはロハザーに視線を合わせることなく、スペースへと入っていく。
まるでそこには誰もいないかのように。
路傍に転がる小石の如く、存在さえ意識する様子なくロハザーの前を通り過ぎていく。
(…………ナイセスト。あんた今、どんな気持ちでいるんだ?)
普段と全く変わらぬ調子で、変わらぬ威圧で、変わらぬ畏怖を与え続けてくる存在。
太陽であるが故に、誰一人その近くには立ち入れぬ。
自由になった心で。
ロハザーは、そんな少年に初めて――――疑問などを、抱いてみた。
(風紀委員を次々とのして、ケイ・アマセは今、アンタより先に決勝の舞台に勝ち上がった。あんたの住む世界とはかけ離れた存在なハズの、ついこの間までド素人だった男がだ)
白き背に問いかける。
対面ではヴィエルナが、試合開始前だというのに能面を崩し――ロハザーは気付いた――緊張の面持ちで向かい合い、直立している。
ナイセストに、気負いは見られない。少なくとも、ロハザーには見えない。
その自然が、とても――ロハザーには歪に見えた。
(でも、どこか……そうだ。見覚えがある。あんたの、その佇まいに)
ロハザーが眉根を寄せ、意識で記憶を探る。
そして実際、彼はナイセストのような存在を……もう一人、確かに知っていた。
他人を寄せ付けず、一人だけで世界を完結させようとし、周囲にどんな影響を与えようとただ己の道を進み続ける――――
〝言ったろう、俺にも戦う理由はあると〟
ロハザーは思い至る。
ナイセスト・ティアルバーとケイ・アマセは、どこか似ているところがあるのだと。
◆ ◆
「だからぁっ!! けっっっっきょく!! アレは何が起こってハイエイト君が負けを選んだのよっ!!!!」
「いだだだ!!! ちょ、エリダあンた――ちょっとは加減することを覚えなさいっての!!」
「ホラ、騒がないのマリスタ。シータの迷惑そうな顔が見えるでしょ?」
「わ、私をダシに使わないでくれる……? システィーナ」
『………………』
「……二人には効果てきめんだったみたいよ」
「そ、そんなに気を遣われてるのは逆にヘコむんだけど……」
「日頃の行いですよ、シータ。あなたは現にとっつきにくいですからねぇ」
「っ……あんたに言われたくないわよっ」
「はいパシャー。怒り顔ゲットですっ☆」
「ちょっ……」
「どうどう。ナタリーも今の消して。映りたくない人もたくさん映ってるでしょ」
「勿論ですとも。……この人混みですからね」
記録石に映った映像を消去しながら、ナタリーが周囲を見回す。
観覧席は今や移動が少々困難なほどに賑わっている。第一ブロックの試合が終了し、観覧者達がなだれ込んできたことが原因だ。
客引きとなっているのはもちろん、このブロックの対戦カードである。




