「身覚えの不快」
「お前自身を魔法と瞬転で加速するより、雷を飛ばした方がよっぽど速かった筈だ。そうすれば傷を負うリスクも無く、痺れ怯んだ俺に決定打を与えやすい。違うか」
「………………思い付かなかった」
「俺の不意打ちにここまで見事に反撃した奴の言う台詞かよ、学校二番手の実力者めが。お前は故意に手を抜いたんだ」
「……俺が。手を抜いただと?」
ロハザーの顔がみるみる険に染まっていく。
詰めを甘めたのは無意識だというのか。
猶更質が悪い。
……そうじゃない。
なんだ。俺は何を急いている――――何をそんなに恐れている?
「……そもそも接敵せず、遠くから電撃で相手を攻撃をするのが、技が速く威力もある雷属性のセオリーだろ? それだってお前は理解している筈だ――――マリスタとの戦いの序盤、散々そうしていたんだからな」
「…………、」
「俺がお前ならあの場面で拳は選ばない。魔法を選べばそこで勝敗が決していた可能性さえあった」
――ここまで言って、ようやく漠然とした可能性に思い至る。
理解不能な戦い方。
そこには確実に、理解不能な動機がある。
そしてロハザーは――
〝私は、あんたの友達になりたい〟
――そんな意味不明な動機を持って俺と戦ったことのある奴と、拳での激闘を繰り広げたのだ。
「…………ロハザー」
「………………」
目が合う。
飴色の双眼からは、既に先程のような困惑と動揺は消え失せていて。
見えるのは、ただ意志の灯火のみ。
「…………っ」
一層、恐れが募った。
だからか。
だからお前は拳を選んで。
〝今度は、私が与える側になる! 私がケイと一緒にいる!〟
それを俺は――こんなにも恐ろしく感じてるっていうのか?
「……解せねぇのはこっちなんだよ」
「――なんだと?」
「どうしても噛み合わなかった。あのとき、あんだけ俺達を挑発してくれやがったテメェと…………あのバカ女が語ったお前の姿が」
――あいつか。
マリスタめ……余計なことを。
「バカ女の戯言なんて忘れろ。何を吹き込まれたか知らんが、すべて――」
「奴はお前に『気付かされた』と言ってた。…………ヴィエルナはお前に、『示された』と言っていた」
「ヴィエルナだと?――馬鹿な、俺は奴に何も、」
「プレジアのこの状況も、元はと言えばお前が来たことで起こったことだ」
「っ、馬鹿も休みやすみ言えッ。俺が来たから起こったんじゃない。元からここにあったんだ。皆思いはずっと抱えていた。それがこのタイミングで爆発したに過ぎんだろうが」
「『お前の行動がキッカケになって』、か?」
「…………何なんだ。なんだってお前――――お前達は俺を元凶にしたがる? 俺を関わらせたがる?」
「解せねぇのはこっちだと言っただろうが。お前はどうしてプレジアに来た。一体何が目的なんだ。メチャクチャに努力してまで強くなって、お前は一体どうしたい?」
「いい加減にしろよテメェ。く――――」
体を動かそうとするが、逆に足が抜けたように膝から崩れてしまう。
なんとか壁を支えに、両足で立つ。
ロハザーはゆっくりと立ち上がった。
やはり氷の弾丸程度では、そう長く足止め出来ない。
「……答えろよ。ケイ・アマセ。お前がこの闘いを勝ち続ける理由はなんだ?」
……ウザい。
ウザい、
ウザい、
俺を覗くな。
「理由が無い奴なんていない。お前もそうなんじゃないのか、おくびょうロハザー」
「――ンだと?」




