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私だってちゃんとした材料と調味料さえあれば

 どうしてこうなった!? 懐かしいのでもう一回。どうしてこうなった!?


 〈マスター。現実逃避もいい加減にして戻ってきてください〉


 アッ、ハイ、すいません……。


 私達は現在、一組の夫婦と向き合っていた。


「このゴブリンめ殺してやる」


「ギギ!」


 こらこら、ゴブゑさん威嚇するんじゃない。


「は、話を、話をちゃんと聞いてください!」


 ……カオスだ。


 本当にどうしてこうなってしまったんだろう? と、アリシアの懇願する叫びを聞き流しながら、少し前の事を思い出す。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 疲れた。


 ホブゴブリンとの戦闘に勝利し、拠点へ帰ることにした私達だが、激しい戦闘だったため、なかなか動く気になれず小休止を取っていた。


「でも、ご主人様があの時ウインドブラストをあんな風に使うだなんて思いませんでした」


「もしもの、ときの、ために、つくって、せっちもした、けど、まさかほんとうに、つかうとは」


「最初から使う予定では無かったんですか?」


「ありしあが、こうどうでき、なくて、まほうが、つかえなくなった、とき、やるよてい、だった」


「そうだったんですね。でも、もうあんな無茶な事しないでくださいね?」


「わたしもやりたくない」


 だってあれ、超背中痛かったし。


 本当、似たようなのを漫画で見たからって、やるもんじゃないね。私、ちょっと反省。


 けど、最小威力をもっと小さく出来れば、足の裏に発動して大ジャンプとか出来そうだよね。


「ご主人様? 今危ない事考えていませんでした?」


 オウッ、ばれてーら! この子、勘鋭いわ~。怖っ。そういえば全く喋らないけどヘルさんどうしたの?


 〈すいません。マスター達の新しいスキルを調べていて参加できませんでした〉


 そっか、それも後で聞くよ。


 〈はい、分かりました。では、もう少し調べています〉


 それじゃあ少しは疲れも取れたし帰ろうかな。


 皆を促し、私達は拠点にしている洞窟への帰路に就く。その途中──それは起こった。


 〈マスター! 誰かが来ます〉


 ヘルさんの忠告を聞いたその瞬間、何者かがアリシアを抱えて走り出す。


 早い! まだ私の知らないゴブリンがいたのか!?


 そう考えた瞬間、私へナイフが投げ込まれる。


 危なっ! 刺さったらどうするの!? 痛いんだよ!?


 アリシアを攫った影と、私へナイフを投げてきた影が合流する。それは意外にも人間だった。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 そして現在に至る。


「怖かったでしょ? 私達が来たからにはもう大丈夫よ」


 夫婦? の奥さん? がアリシアに優しく話し掛ける。


 ねぇヘルさん。アイツら行商人の夫婦なんじゃなかったっけ?


 〈少なくともそう見えました〉


 確かに見た目は行商人の夫婦っぽい。でもなんか、物凄く強そうな雰囲気があるんだよなぁ。それに立ち方が明らかに場馴れしてる。


 これ、いきなりバッドエンド? すぐに移動選ばないで、ちょっと休憩の選択肢選んだら、問答無用の死亡イベントとか鬼過ぎね?


「だっ、だから違うんです! 私の話を聞いてください!」


 うん、あの二人、私とゴブゑに集中しててアリシアの話を聞いてない。


 金髪巨乳美少女エルフを無視するとは何事か!


 とは言うものの、いつまでもにらみ合っていてもしょうがない。


 手っ取り早く話を聞いて貰った方が早そうだ。


 そう考え私は行動に移す。


「わたしたちに、てきいは、ない」


「「ゴ、ゴブリンが喋った!?」」


 二人はハモリながら驚く。


 そうなんだよね。


 アリシアも最初驚いていたけど、この世界のゴブリンって頭良くないらしいから、喋るゴブリンなんてほとんど居ないらしいんだよね。


「この人達は私の仲間で敵じゃありません! それにこの人は転生者です!」


 二人が驚いた隙に、私達の前に回り込んだアリシアは両手を広げ庇いながら、私の正体をネタバ……もとい説明する。


「「えっ? え~~!?」」


 再びハモりながら、本日二度目の驚きが響き渡る。


 それからアリシアは二人に私達の事を、先程までの戦闘を含め事細かに説明していた。


 あっ、もちろん【喰吸】については言っていない。


 だって味方になるとも限らないし、信用する要素は今のところ皆無だしね。


「──と、言う訳です」


「すみませんでした。貴方も謝りなさいよ」


 と、女の方は謝り。


「モンスターが転生者なんてわかるはず無いだろ!」


 と、男の方は叫んでいた。


 まあ、気持ちは分かる。


 だって私もまさかゴブリンになるなんて思わなかったし。と、言うかもしかしなくても、この二人ならホブゴブリン倒せたんじゃないの?


 そんな事を思っていると謝罪の後、女は自分達の事情を語り始めた。


「まずは自己紹介させてもらうわね。私の名前はミランダよ」


「俺はレイドだ」


「因みに彼と私は夫婦ではないわ。私達は冒険者なの」


 冒険者……だと……!? 異世界物の定番!


「私達はこの近くにあるシソ村で村長から依頼を受けたの」


 どうやらこの二人はもともとこの近くにあったゴブリンの巣の調査に来たのだそうだ。


 二ヶ月くらい前に行われたゴブリン退治でゴブリンを全滅させた筈なのに、一ヶ月ほど前、一人の村娘が姿を消し、その近くにゴブリンの物らしき足跡も発見された。


「そこで村長が『冒険者ギルドの冒険者が全滅させたと、報告してきたから依頼料を払ったのに話が違う』と、抗議に来て緊急依頼になったところを私達が引き受けたのよ」


 因みに、二人が拠点にしているのは、エルム村という、シソ村より大きい村のギルドらしい。


「しかしまさか、こんな恰好で芝居までしたってのに、依頼のゴブリンが倒されてるわ、そのゴブリン共がホブゴブリンにゴブリンソルジャー三匹、ゴブリン六匹だったなんて依頼の難易度違いすぎだろ」


「抗議するべきね。進化個体が四匹でも驚きなのに、聞いたかぎりでは亜種のホブゴブリンまで居たなんて、明らかにGランクの依頼じゃないもの。って、ごめんなさい。こっちだけで話しちゃって」


 フム……思ったより強い敵だった訳だ。


「でもよくお前らだけでホブゴブリンの亜種なんて倒せたな? ゴブリン種とはいえ、レベルが10にも満たない奴等が倒せる敵じゃないぞ」


「ありしあの、まほうの、おかげ」


「そっ、そんな事ありません! 皆が力を合わせた結果です。それより、そちらの事情は分かりましたが、依頼のゴブリンは私達が倒してしまったしこれからどうするのですか?」


「その事で、頼みたい事があるんだけど。報告の為にゴブリン達の死体を貰っても良いかしら? お礼はちゃんとするわ。あと、出来れば巣の壊滅を確認しない事には報告も出来ないから教えて欲しいの。……ごめんね。厚かましい事ばかり言って……」


 その言葉に、私は少し考える。


 巣なら拠点に帰る途中にあるし、何よりも話し込んだ事で時間が思ったより遅くなったから巣に泊まってもいいかな?


「わかった、あんないする」


「ありがとう助かったわ。そうだ。貴方達の事なんて呼んで良いか分からないから名前を教えてくれるかしら?」


 そう言われてふと、もうあの巣のコミュニティからは出てるんだから名前を変えられるのでは? ───と、考える。


 〈はい、変えられます。すぐに変えますか?〉


 後で良いや。名乗るだけなら普通にできるし。


 〈分かりました〉


「わたしの、なまえは、はくあ、この子はあくあ」


 〈ゴブゑの名前も変えるのですね。因みになぜこの名前なんです?〉


 あ~、私のネトゲのセカンドキャラネーム。


「私はいい名前だと思います!!」


「ギギ~♪」


 私の発言にアリシアは力強く肯定し、ゴブゑ改めアクアは名前を気に入ったようだ。


「あんないする。ついてきて」


 そう言って先に歩き出し私達は冒険者と行動を共にする。移動の最中、いい機会なので、冒険者について色々と話を聞いてみる。


 道中他愛無い話をしながら暫く歩くとゴブリンの巣に辿り着いた。


「ここがゴブリンの巣?」


「そう」


「一応中を調べておくか」


 私も気になるので一緒に巣の中を捜索する。


 ひとつひとつ見て回り、ゴブリンがいないか確かめていく。そして、最後は私達の入った事の無い最奥の部屋へ入る。


 そこには、ゴブリンが人間達から奪った金や武器が置かれていた。


「こりゃ、思ったよりあるな。依頼料と合わせりゃ結構な額になる」


「駄目よ! 私達はただでさえゴブリンを退治してないんだから、死体だけで我慢しないさい! すべて彼女達の物よ」


 ミランダの言葉を聞きながら考える。


 これ幾らくらいになるんだろう?


 〈お金は銅貨→銀貨→金貨の順で高くなり、それぞれ銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚になります〉


 ちなみに成人男性が慎ましく暮らして1ヶ月に使う額が、平均銀貨3枚程度。


 ここの物を換金すれば、平均で銀貨25枚くらいになるらしい。


 フム、思ったよりあるな。


 私はアリシア達を隅に呼び寄せ、少し相談する。


「わたしに、まかせてくれる?」


「もちろんです」


「ギ!」


 二人の返事を聞きミランダ達に話し掛ける。


「すこし、いい?」


「……なんだ」


 おお、苛立ってるな。……でも。


「おかね、いる?」


 私の言葉に二人が首を傾げる。


「わたしたち、おかねあんまり、いらない」


「なっ!? 俺達に寄越すってのか?」


 私は頷きながら言葉を重ねる。


「でも、じょうけんが、ある」


「「条件?」」


「ぎるどに、わたしたちのこと、はなさないことと、ありしあが、えるむむらにいったら、かいものや、にもつはこぶの、きょうりょく、して」


「……それだけか? 他には?」


「ない、でも、できるだけ、きょうりょく、して」


「どうするの?」


「その条件でいいが、お前らの取り分はいくらだ?」


 私は銀貨を5枚手に取り。


「あとは、あげる」


「本当に良いの? 私達は何もしていないのに依頼の報酬も入るのよ?」


 そう言って私達の事を気遣わしげに窺うミランダに、レイドは『余計な事を言うな!』とでも言いたげに「おいっ」と、声を掛ける。


 だが私はそれを制し言葉を続ける。


「かまわない、わたしたちのこと、ばれないほうが、じゅうよう」


「……分かったわ契約成立ね。今日はもう遅いし、私達はここに泊まるけど貴女達はどうするの?」


「きょてんに、かえる」


「因みに場所を聞いても良いか?」


「まだ」


「OK、今はまだ信用してないって事だな」


 私は頷く。


「分かったわ。私達はあと10日程エルム村にとどまる予定よ」


「かえるまでに、いかなければ、ふたつめの、じょうけんは、いい」


「貰いっぱなしは流石にバツが悪いからな、簡単な物だが飯くらい食って行けよ」


 何? ご飯……だと!? 焼いただけの肉とかじゃないの? ふ、普通の……普通のご飯食べたい!


 そんな誘いに、私は即座に飛び付いた。


 そして私達は二人からこの世界で初めてまともなご飯をご馳走になる。


 お世辞にも豪華とは言えない普通の食事。


 ──でも、私にとって初めてのちゃんとした食事に感涙する。


 〈何も泣かなくても……〉


「わっ、私だってちゃんとした材料と調味料さえあればこれくらい………」


 アリシアが何か言っていた気がするが、耳に入らなかった。


「ごちそうさまでした」


 そう言ってミランダ達と別れた私達は、巣を後にし拠点へと帰る。


 ヘルさん、大丈夫だと思うけど一応周りを警戒しておいてくれる?


 〈分かりました〉


「あんな条件で良かったんですか?」


 アリシアの言葉に頷く。あれ以上ふっかけて戦闘になっても困る。そう話すとアリシアは「なるほど」と、感心しながら頷く。


 そのまま暫く歩くとようやく拠点に辿り着く。


 ああ疲れた。でも、ここからが本番だよね!


「遂にですね。ご主人様!」


 アリシアが嬉しそうに言ってくる。私はそれに頷き、さっそく進化についてヘルさんに聞いた。


 私はこの時を待っていた。いや、マジで!

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