1,☆親友の誕生会を開くのだ
うわぁ~今日も眩しい。
朝日を浴びながら歯ブラシをしていると電話が鳴った。
「もひもひ」
ペッ。
「おはよー」
『おま……今、歯ブラシしながら出たろ?』
「ごめーん。手が勝手に。へへ」
『亜子、今日暇?』
「うーん。暇だけど、なに?」
『俺の誕生会開いてくれよ』
「は……?彼女は?」
『フラれたんだよ。マジ、誕生日の3日前とか勘弁だよなぁ』
「ひく……」
『だろ?可哀想だろ?頼むよぉ、亜子ちゃーん』
8月1日、今日は私の親友、真壁清彦の誕生日だ。
まったく……ドジなんだから。
なんで誕生日の3日前にフラれちゃうかなぁ。
「料理は作るけど、ケーキは自分で買って来なね」
『やった!亜子さいこー』
「なにそれー」
声を上げて笑った。
長い髪を結い上げて、バレッタで留めつつ、冷蔵庫を開ける。
「うーん……調味料しか入ってない……」
唐揚げとポテサラとマカロニグラタンでいっかな?
財布とエコバッグ片手にサンダルを履いて出る。
「あっつ」
今日から8月だもんなぁ。
ピンポーン
チャイムと同時にドアが開く。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃい」
「居酒屋かよ」
清彦はさっそく冷蔵庫にケーキの箱と、お酒の瓶を詰め込んでいた。
「ケーキどこのにしたの?」
「フルーツパーラーのメロンが乗ったやつ」
「プレートとロウソク付けてもらった?」
「プレートは……誕生日おめでとうだけ……さすがに自分の名前は言えねーし」
「だよね」
背後から覆いかぶさるように近付かれる。
「めっちゃいい匂い!なに作ってくれてるの?」
汗をかいたランニングシャツのノースリーブからたくましい腕が伸びている。
「唐揚げだ!ひゃっほー!」
そう言って、一つ摘まんで口に入れた。
「あ。こら」
「うんま!」
家の勝手を知ったる清彦は、取り皿と、それぞれの箸、フルートグラスを2つ出してテーブルに並べていた。
「ね、ねえ。なんで別れちゃったの?」
「なんでだろ?俺にも分かんね」
「なにそれ。ウケる。誕生日は1人にならないよう、ずっと上手くやってきてたじゃん?」
「それな。しくったわ。まさか30の大台チェンジの年に限ってやらかしたわ。亜子がいなかったら、俺、実家で両親と過ごすとこだったわ。ひぇー怖えー」
清彦が両腕を自分の体に巻きつけて、ぶるぶる震えてる。
「確かに、実家で30歳の誕生日はないよねー。もうすぐ、できるからねー。お酒の準備お願いねーってか、今日、飲めるの?」
「おう!問題ない!」
清彦がガサガサと袋から何かを取り出した。
「あのさ、これ被っていい?」
揚がった山盛りの唐揚げを持って、目を向けると、HAPPY BIRTHDAYと派手なデコレーションがされている帽子を被っていた。
「なかなか良くない?」
「はいはい。似合ってるよ。さあ、食べよー!」
私がハッピバースデートゥユーを歌ってる間に、清彦はスパークリングワインの栓を抜き、グラスに注いでくれた。
「じゃ、30歳のお誕生日、おめでとー!清彦!」
「ありがとう!亜子!」
グラスを合わせ、口を付けると、甘酸っぱい発砲が口の中に広がって力が抜けた。
清彦が早速、唐揚げを頬張っている。
「そんなに口いっぱい入れて、息できんの?」
「ふん、ふん」
なんかリスみたいで可愛い。
トースターが『チン』って言った。
「グラタンできたよ」
いい感じに溶けたチーズと、焼き色のついたパン粉。我ながら上出来。
「え!グラタン?めっちゃ好き。超幸せ!」
「タバスコも買ってあるよ」
私は辛いのは食べないんだけど、清彦が好きだから、さっき仕入れてきた。
「亜子、優しい!」
「ポテサラのお替わりもいっぱいあるよー」
「食う食う!」
こんなに喜んでもらえるなら、作った甲斐があったって感じ。
グラタンをハフハフしながら食べてる清彦は、お姉ちゃんとこの長男(小3)と変わらない。
「これもお替わりある?」
「うん、あるよ。誰も取らないから、安心してゆっくりお食べなさい」
「だな。なんか兄ちゃんと、タイキに負けまいと、つい早食いになっちゃうんだよな」
男3兄弟の真ん中だもんね。仕方がないか。
「本当にこんなとこ居ていいの?」
あっさり『別れた』報告を受けたけど、傷ついてたりしないの?
「あっちが別れたいって言ったんだからしょうがねーよな」
それにしても……変な帽子。
せっかく見た目はかっこいいのに、コイツのちょっと残念なところ。
「んで?亜子は?」
「私?」
「お前は大丈夫なのかよ」
私の誕生日は明後日、8月3日だ。
「全く問題なし。なんかさぁプロポーズされる気がするんだよね」
付き合って1年ちょっとの彼氏がいる。
本当は20代で結婚したかったけど……
ま、それとなく伝えてあるから、明後日は期待してるんだよね。
「そうなのか?頑張れよー」
「なんかアドバイスちょうだいよ」
「うーんと……プロポーズの気配を感じたら、いったん下を向け。お前は食い気味に話に飛び付くところがあっから、その辺、要注意だぞ」
「なんで?嬉しいんだから、喜んだって良くない?」
「男は手に入りにくい獲物を追う習性があるからな。ちょっとだけだぞ。露骨に顔を背けんなよ。お前、加減が分かってないからなぁ」
「ちょっと、練習してみていい?」
「おう。しとこう。じゃ、行くぞ」
清彦は私に向き合って、真剣な顔になった。
こうしてみると、整った顔してるし、鍛えてるから体つきは最高だし、なかなかいい男だ。
「亜子……俺と、結婚してくれないか?」
ちょっと下の方に目をやる。
それから、首を少し傾げてみる。
そろそろいいかな……清彦の目を見て……軽く微笑んで……
「はい。よろしくお願いします」
と、言ってみた。
「どう?」
「なかなかいい!亜子にしては上出来!98点!」
「えー!98点もくれるの?わーい。完璧じゃん。いけるね。これなら結婚できそうだね!」
気分が良くなって、ルンルンでキッチンに戻る。
清彦とは高校の時からの付き合いで、何でも話せる仲だ。
私たちは高2のクラスが一緒で知り合った。
「ねえ、8月3日って空いてる?」
私は当時の親友の朋美ちゃんを誘った。
「あ、ごめん。家族旅行で沖縄なんだよね。どうして?」
「ううん。一緒に遊べたらなって思ってただけ……」
「あ!亜子の誕生日か!ごめーん、すっかり頭から抜けてた!」
「いいよ、いいよ。夏休みだもんね。大丈夫」
小学生の時からずっと嫌だったんだ。
クラスの子たちは週末に集まってパーティーしてたのに、私だけ連絡が取れなくて、お誕生会をしたことがなかった。
「あ、じゃ、俺とかどう?」
「真壁くん?」
同じクラスの男子だけど、それまであまりしゃべったことが無かった。
「亜子と真壁くんがどうして夏休みに会うのよー?」
朋美ちゃんは真壁くんのことかっこいいって言ってたから、ちょっと嫉妬された。
「俺さ、誕生日8月1日なんだよね」
「あ」
同じ悩みを持つ者同士、それだけで気が合う気がした。
「8月1日に俺の誕生会をやって、8月3日に朝倉さんの誕生会をやろうよ」
「うん!」
このバースデーパーティーをしたのをきっかけに親しくなったんだ。
それから高3の秋まで、私たちは付き合っていた。
「あれ以来、誕生日を一緒に過ごすなんて初めてじゃない?」
清彦は毎年、違う彼女と過ごしてたはずだ。
「そうなんだよー。今年に限って、なんなんだよーって感じ。誰でもいいなら誘える子はいるっちゃいるけど、どうして、俺の誕生日にご馳走してやんなきゃならねーの?って思うじゃん。亜子みたいに手料理とか作ってくれる子は貴重だよ……」
凹んでてウケる。
「ねえ。ケーキ見てもいい?」
「おう、食おーぜ」
食べ終わったお皿を二人で片付けた。
清彦は『実家じゃ休まらない』とか言って、たまにここに来ては、自由にテレビ見たり冷蔵庫の物を漁って食べたりしている。
だから、どこになにがあるのか分かっている。
「ライターってあったっけ?」
「あー。さすがにないかな……」
「んじゃ、これでいくか」
ガスコンロから火を点けて、清彦が小さなロウソクに火を灯した。
「30歳だもんな、3本でいっか」
「あーあ。20代が終わっちゃったね。次の10年はどんな風に過ごしたいですか?」
グーにした手をマイクに見立てて、清彦の口元に差し出す。
「えっほん。まあ、あれだね。これまで培ってきた経験と知識を生かして……あれ、ほら、正直……彼女ほしいかな」
「なんだそりゃ。良いこと言いそうって思ったのにー」
「悪い、悪い。良いこと思い付かなかったわー。ははは」
見た目はいいし、しょっちゅう合コン行って、モテてるらしいけど、性格が少しアレなところが……長続きしない原因だよな。
「清彦って、残念なところあるよね」
「なんだって?もう一回言ってみろ!」
お腹をくすぐられる。
「あひゃひゃひゃ、やめてよ!ひどい!やめてってば!」
ゲラゲラ笑い転げて、頭をキッチンにぶつけた。
「いてっ!」
「あ。ごめん」
ぶつけたところを撫でてくれる。
付き合ってれば、これからキスとかするんだろうな。
でも、私たちにそんな空気は起きない。
だって、もう男女の関係は終わってるんだもん。
こうして、友達のバースデーパーティーをしてるだけだもん。




