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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る

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●36


「……そんなことがありつつも、俺たちは魔物の家に到着しました。魔物の家の前に到着した俺たちは、すぐに家に踏み込むのではなく、まずは窓から家の中を観察することにしました。」


 村人たちは俺の語るヘイリー救出の経緯を、一言も逃すものかと聞き入っていた。

 嘘ばかりなので若干の罪悪感を覚えたが、グッとこらえて嘘の救出劇を真実のように語り続ける。


「すると家の中には、魔物に怯えるヘイリーさんと赤ちゃん、そして舌なめずりをしながら二人を見つめる魔物がいました。魔物は赤ちゃんを見ながら『もう少しだ。もう少しで食べ頃だ』と呟いていたのです」


 ここでヘイリーに目配せをする。

 合図を受けたヘイリーは、目に涙を溜めながら話し始めた。


「魔物は……新鮮な子どもが食べたいと、妊婦の私を村からさらったのです。そして赤ん坊が食べ頃になるまで、あの家で私とともに生かしていました。私を生かしていたのは、赤ん坊に飲ませるミルクを確保するためと、自分の子どもを食べられてショックを受ける母親の顔が見たかったからだと言っていました」


「外道な魔物め!」

「絶対に許せない!」

「というか、ヘイリーは妊娠していたのか!?」


 あまりにも酷い話のため村人たちは口を挟んだが、俺は片手を前に出してこれを制した。


「質問は話が終わってからでお願いします」


 村人たちが静かになったところで、話の続きを語る。


「一刻も早くヘイリーさんを助けたかったのですが、俺は魔物が寝静まるのを待ちました。家にはヘイリーさんだけではなく赤ちゃんもいます。下手に動くと彼女たちを人質に取られる危険があったからです。そしてついに……」


「寝静まるってどういうことだ?」

「旅のお方は朝早くに出掛けたのよね?」

「そして夜になる前に帰って来たよな?」


 またしても村人たちが話の腰を折ってきた。

 そんな枝葉末節を気にしないでほしい。

 全部嘘なんだから。


「昼寝です! 魔物は昼寝をしていたんです!」


「昼寝なんて呑気な魔物だな」

「その魔物は夜行性で夜に動き回っているのかも」

「それなら昼は寝てるな。なるほど」


 苦し紛れの言いわけだったが、村人たちは納得してくれたようだ。

 これ以上の違和感を抱かれる前にさっさと話しきってしまおう。


 ここで俺は魔王リディアを手で示した。


「実は彼女、幼いながらも優れた魔法の使い手なんです。彼女は魔法で家の鍵を開けました。そして家に忍び込んだ俺たちは、ヘイリーさんと赤ちゃんを彼女の張った防御魔法の中に入れました。そのときです。目を覚ました赤ちゃんが泣いてしまったのです」


 村人たちは息を飲みながら俺の話を聞いている。

 このまま一気に畳みかけよう。


「俺たちの侵入に気付いた魔物は、大声で咆哮しながら襲いかかってきました。俺は魔物の攻撃を躱し、受け流し、チャンスを待ちました。焦れた魔物の攻撃は雑になっていき、テーブルを割り、椅子を粉々にし、壁に無数の爪痕を残しました。そして魔物の爪が布団に引っかかったそのとき!」


 俺は身体を使って、魔物を倒す様子を実演してみせた。


「俺は魔物の背中に短剣を突き刺しました。そのまま魔物の身体を縦に引き裂こうとすると、魔物が命乞いをしてきました。この森から出て行き二度と村には近づかないから命だけは助けてくれ、と」


「虫が良すぎるぞ!」

「ヘイリーをさらったくせに!」

「みっともない真似をするな!」


「俺もみなさんと同じように思いました。けれど考えてもみたのです。あの魔物はまだ、誰も殺してはいません。赤ちゃんは殺される前に、俺たちによって助け出されたのですから。ああ、ご安心ください。俺と魔物は激しい戦闘を繰り広げましたが、防御魔法の中にいたヘイリーさんと赤ちゃんには傷一つありません」


 防御魔法を張った者として、もう一度魔王リディアを指し示そうとしたが、やめた。

 魔王リディアが、笑いをこらえる顔を隠せていなかったからだ。


 俺が行なってもいない戦闘を嬉々として語っているのが、魔王リディア的には面白いのだろう。

 実際に俺が魔物と戦ったら、今の話のように上手くはいかない。

 つまり俺は、出来もしないことをさも自分が行なったかのように語っている状態なのだ。

 ……痛すぎる。


「そこで俺は魔物に言いました。金輪際この村に近付かないのであれば命だけは助けてやる、と」


「甘いんじゃないか!?」

「魔物の言葉なんて信用できないわ」

「魔物が仲間を連れてくるかもしれない」


 不安そうな声を上げる村人たちに、俺は一枚の紙を見せた。

 誓約書だ。


「俺も魔物の言葉は怪しいと思いました。そこで誓約書にサインをさせることにしたのです。この誓約書にはサインをしたものに内容を遵守させる効果があります。破った場合、違約金としてサインをしたものの命を頂きます」


「一つ、二度とトウハテ村には近づかない」

「一つ、他の魔物をトウハテ村に送らない」

「一つ、それ以外のいかなる損害もトウハテ村に与えない」


 誓約書の文字が読める位置にいた村人たちが、内容を音読した。


「この誓約書が村にある限り、あの魔物は二度と村に手出しが出来ません」


 もちろん偽物だ。

 この紙にそんな効力はない。

 村へ戻る途中で作成を思いついたため、サインもアドルファスのものではない。


「この誓約書があれば、いつまでもあの魔物を退けられるのか!」

「さすがは旅のお方……いいえ、救世主様だわ!」

「この村に平和を取り戻してくださり、ありがとうございます!」


 村人たちは俺の話を信じてくれたようだ。

 誰も彼もが俺と魔王リディアにお礼を述べ、頭を下げている。

 チクリと胸が痛んだが、俺の罪悪感で計画を無に帰すわけにはいかない。


「魔物の住んでいた家はまだありますが、早めに燃やしてしまうのがいいでしょう。激しい戦闘のせいで、いつ崩れてもおかしくない状態です。家を燃やす際も、窓から中を覗くくらいは構いませんが、決して家の中には入らないように。家の下敷きになりたくなければね」


 俺の言葉に村人たちは頷いていた。

 きっと明日にでもアドルファスの家を燃やしてくれるだろう。

 三人が平和に暮らしていた証拠は残っていないと思うが、何がきっかけでバレるか分からない。

 家を燃やして、村人たちに証拠隠滅をしてもらおう。





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