聞かされてもなお思い出せない
俺と佐野の間に勃発した激しい口論は、ビクビクと身体を震わせた女性教師──担任によってなんとかおさまった。
生徒指導の教師へと俺らの案件を持っていかれ、こってり二時間も説教された。
生徒指導の教室を出る頃には陽が沈み、辺りは闇が広がっていた。
俺らが教室を出ると廊下で身を縮めて待機していた担任と視線が合うが、担任が口を開こうとしたので、視線を逸らし歩きだした俺。
「あのぅー、えぇっと......涼更くん、と佐野さん......話したいことが──」
怯えながらも震わした声で生徒二人の表情を窺い慎重に口を開く担任。
「......」
「何ですかぁー?」
気だるそうに、そして反省の色ひとつ見せない苛立ちを吐き捨てるような声音で訊く佐野。
「何ですか、じゃなくてですね......そのぅ、くれぐれもこのような事態を──」
「すぅんませんでしたぁ~以後気を付けまぁ~すぅ、せ~んせっ。んじゃあぁ」
反省を感じられないぺらっぺらの謝罪の言葉を発して、スタスタと姿を消した佐野。
俺と担任の二人の足音が何だか異様に距離を長く感じる廊下に響く。
「......りますよ。──らくん」
「何か言いました、先生?」
「相談にのりますよ、と言いました。私では頼りないでしょうが......これでも担任なんです。無理強いはしませんが......」
「まぁ......否定はしないですけど。ありが、とうございます......迷惑掛けてすいませんでしたっ」
「私がいたらないばっかりなのは重々承知してます......頼れない教師で、私こそすいません」
「先生が謝ることじゃ......」
「優しいですね、涼更くん......立ち入ったことで失礼かと思うんですが、訊いても良いですか?」
「優しく......ないですよ、全然。良いですけど......何ですか?」
「では......涼更くんはいつから彼女と険悪......といいますか、折り合いが悪いんです?」
「いつから、ですか......話し始めると長くなりそうですけど──」
「聴きますよ」
「そうですねぇ、アイツとは──」
見慣れた廊下が異様に長く感じながらも、ぽつりぽつりと語りだした俺。
記憶の片隅にすら留まらなかった幼い頃の思い出に佐野の姿が存在していたとは、思いもよらず思考が乱された。未だに信じられない。幼い頃に引っ越したことはあるが、彼女との記憶がない。
裏切り、ねぇ......




