夏休み─彼女とデートのつもりが!
8月16日。
10時過ぎ。
喫茶店。
俺は、星峰さんとデートをしていた。
「誰にでも優しいのはいいことだけど、柚羽姉はいいからっ。私と一緒に居たいでしょ、涼更くんっ」
「それはそうだけど──」
「コウちゃん。何してるの?」
横から元気な声が俺を呼ぶ。
少し肌が焼けていて、Tシャツに短パンという格好の女子が人懐っこい笑顔を浮かべ、立っていた。短い髪をゆらゆらさせている。
「そう呼ぶってことは、夏乃さんっ」
彼女は、嘉納夏乃。クラスメートで、ちょっかいはするけど、しつこくない。夏休み前は、髪が長く、肌も白い方だった。嘉納さんは、星峰さんのことを知らない。会ったのが今日だった。焼けるの早いな。
「そうだよ~。そっちが例の子?ほんとっかっわいい~。コウちゃんの隣に座っていい?」
「ああ、いいよ」
嘉納さんが隣に座ると、星峰さんが睨んできた。
「えっーと。星峰、さん。何かしたか、な」
「こんなに怖いの?あははっ」
笑う嘉納さん。
「コウちゃん?涼更君、カノさんって言った?」
「気に障ったのなら、謝ります。ごめんなさい、星峰さん」
俺は、頭を勢いよく、さげてテーブルにぶつける。
その音がすごく、店内に響くほどだった。
「だっ、大丈夫?涼更君、もういいからっ」
星峰さんはさきほどの低い声からもとに戻っていた。
俺は、頭をあげる。
星峰さんが身をのりだし、額にタオルをあててくれた。
「もうー、血が、血が」
「ありが、とう......」
「コウちゃん。水を差して悪いと思うけど、今からさっ、カラオケ行かない?」
人懐っこい笑顔を浮かべる嘉納さん。
「えっーと......ほしみ──」
恐る恐る星峰さんをうかがう。
笑っているが、目が。
「いいよ。す・ず・さ・ら・くん。二人で、カラオケに行ってもっ」
血の気がひいていく。
言葉が出てこない俺。
「違う、ちがうちがうって。あなたも一緒にっ、ねっ。コウちゃんもそれがいいでしょ~」
「あっ、ああ。それがい......いとおも──」
「じゃあ、行こっおー。カラオケに~」
嘉納さんは、俺と星峰さんの手を取り、喫茶店を出ようとする。
「ちょちょ、ちょっと。まだ払ってないから」
何とか会計を済ませ、嘉納さんに手を引かれ、カラオケをしに──。
星峰さんとデートのつもりが。