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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第一章 セラエノへ
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メガ・クトゥンカスタマイズに関わる四方山話①

 ハイパーボリアのマージョリーの孤児院では、ノーデンスのナイトゴーントのカスタマイズと並行して、全員総出である作業にも邁進していた。


 大型貨物運搬用のンガ・クトゥン、通称メガ・クトゥンのカスタマイズである。


 マージョリーとキョウ、そしてマグダラの三人が、マリア病からルルイエ世界を解放する為の戦いの旅に出るにあたり、精霊機甲の運搬手段と、道中の宿泊施設の確保が必須であった、そのためのメガ・クトゥンである。


 二人がそれぞれの機体、アザトースとリュミエールで目的地まで一飛びすれば、というマージョリーの案は、マグダラとアリシアの二人により、即座に却下された。


 移動の際に『なるべく目立ちたくない』という事が、その理由である。


 マージョリーのリュミエールはともかく、禁忌の精霊機甲としてルルイエ世界に悪名を馳せるキョウのアザトースを白昼堂々と人目に晒すと、無用のトラブルを呼び起こす可能性が高い、それは可能な限り避けるべきだ。いや、絶対に避けなければならない。


 だからどうしたの、キョウが悪い事をした訳ではない。世間に対して後ろめたい事が無い以上、正々堂々と胸を張り、大手を振って行動すべきである。でなければ、自分達の行動の正当性を示す事は出来ない。


 というマージョリーの主張に対し


 その意見は尤もだが、マージョリーには残された時間が後二年しか無いという現実がある。悪目立ちが原因で白騎士教団等から無用の妨害を受け、目的を果たせずにタイムリミットを迎える羽目になったら目も当てられない。それに、B級賞金首は累難を恐れられ、接触を避けられる傾向にある、白騎士教団に不倶戴天の敵と指定されているネオンナイトなら尚更だろう。宿すら取れない事も考えられる。その時の保険に必要な措置でもある。


 そうキョウが異を唱えると、マージョリーはころっと意見を転換する。


 彼女は瞳に星を輝かせ、「さっすがキョウは考える事が違うわ」と、あっさり前言撤回し、ノリノリでキョウの意見に合意した。そんなマージョリーの姿を白い目で眺めつつ、マグダラとアリシアは購入したメガ・クトゥンのカスタマイズプランの検討を始めたが、そこでまたひと悶着が発生した。


 カスタマイズで必要な内容はアザトースとリュミエールの格納スペース、及び簡易整備スペース、それに生活スペースである。


 これらをなるべくコンパクトに配置する為に、皆の知恵が絞られた。


 まずは格納スペースだが、アザトースとリュミエールを片膝着きで跪いた姿勢で格納させる事で省スペースを実現、その姿勢で更にもう一機格納出来るスペースを作り、簡易整備スペースとする。トレーラーは逆Tバー方式を採用、屋根から開く事で、二機の発進と格納の簡便性を高めた。

 此処まではすんなり決まったのだが、問題となったのは生活スペースである。これを巡り、キョウ、マージョリー、マグダラ、アリシアの意見が四つに割れた。


 まず、キョウの意見だが、操縦席の後ろに簡便ベッドを設え、自分がそこに寝る。整備スペースにキッチンを設え、更にマージョリーの寝台を置き、彼女の生活スペースと兼用とする事を提案した。

 こうすれば、更なる省スペースが見込め、改造が楽になると得意顔のキョウだったが、三人娘の呆れた視線と、その後に続いた反対の姦しい言葉の十字砲火を受け、あえなく粉砕されてしまった。


 アリシアの「キョウ様、長旅になるので真水の確保が必須ですわ。このルルイエ世界では、集落を外れると真水の入手が困難になります。白騎士教団の影響が強い所でも困難が予想されます。ですので本格的な循環型浄水装置が必要になります、それも含めての生活スペースですわ。考え無しの省スペースは、後で泣きを見る事になりますわよ」という、至極まともな意見から、「プライベートスペースが無いなんて絶対に嫌、洗濯した下着を何処に干したら良いの!?」という、マージョリーのしょうもないが深刻な問題提起まで、山の様に反対意見を突き付けられたキョウはやむなく無条件降伏を決意する。三人に好きな様に決めさせ、決まった事を実現する為のアイデアを求められた時にのみ口を開く事に決めたのだった。


 かくして工房の設計室内で、意見提案という名前の、激しい罵り合いが始まった。まず、口火を切ったのはマージョリーだ。


 彼女の提案に、他の二人の娘は概ね合意するが、一点だけは強硬な反対を示す。


 合意点は、長旅のストレスを軽減する為にリビングダイニングとバス、トイレ、そして個室をしっかり独立させて設え、狭いながらも『我が家』としての認識を持てる空間を作り上げる事である。


 特にマージョリーのバススペースへの拘りは凄まじく、トイレ共同の簡易シャワーなど以ての外であると声高に主張、足を伸ばして入れるバスタブと、独立した洗い場の設置は必須条件と熱弁をふるった。

 理由はルルイエ世界に召喚されてから、今まで不便と我慢を強いられていたであろうキョウへの配慮である。いくら初代ネオンナイト、ロニー・ジェイムスの魂の継承者であるとはいえ、こっちの身勝手な理由で輝ける夢幻郷ニホンから召喚し、危険な戦いの旅に同行させるのである。一日の終わりにサッパリとリフレッシュしてもらえるようにニホン式の浴室を用意するのが、ルルイエ世界の人間としての、せめてもの心尽くしであり礼儀であると強く主張した。

 いや別にそこまでしてくれなくても、というキョウの言葉を右の耳から左の耳へとスルーしたマグダラとアリシアは、ウンウンと大いに頷き、ヤンヤの拍手喝采で合意する。


 彼女達三人が強硬に対立したのが、個室のレイアウトであった。


マージョリー案で用意された個室は二つ、ベッドが一つ入ればキツキツの狭い個室が一つと、ゆったりとした広い個室が一つであった。


「この広い個室はマスターの部屋ね。自分を犠牲にして、私のマスターに快適な生活空間を提供するなんて感心ね、マージ。」


 と言ったマグダラの言葉を、虫でも見る様な目で彼女を見ながらマージョリーが訂正する。


「何を言ってるの、マグダラ、そこはあなたの部屋よ」


 と、図面の狭い個室を指差して言った後、広い個室を指差して更に言葉を続けた。


「こっちの広い個室が、私とキョウの部屋。一日中メガ・クトゥンを操縦して、疲れたキョウ心と体を私が癒してあげるの……」


 ベッドの上で、半裸でうつ伏せで横たわるキョウを跨がる様な姿勢で、マージョリーが彼の背中をマッサージしている。マッサージする手が徐々に上に上がり、マッサージする箇所が背中から肩に変わった時、マージョリーは気持ち良さそうに目を閉じるキョウの耳元に口を寄せ、そっと囁く。


「キョウ、どこか凝っている所は無い?」

「別にどこも。マージは上手だから。毎晩ありがとう」


 首を捻って自分を見上げるキョウの、優しい言葉と瞳に心が痺れ、有頂天になったマージョリーは、更に両手に力を込めてマッサージを続ける。


「ありがとうだなんて、そんな。キョウこそ毎日メガ・クトゥンの操縦で疲れてるんだから、この位当然よ」

「そんな事を言ったら、マージだって毎日の家事で疲れてるじゃないか。さぁ、次は君の番だよ、マージ」


 そう言ってキョウは起き上がり、両脚を大きく広げてベッドに深く腰掛けた。マージョリーは否応も無くキョウの脚の間に腰掛けさせられ、肩と首のマッサージを受ける事になった。


「マージ、毎日の家事お疲れ様、今日の夕食美味しかったよ」


 キョウの労いの言葉に紅潮し、マージョリーは思わず両手で頬を押さえた。キョウはその彼女の左手の指先にあるものを見つけ、ただならぬ声を上げる。


「大変だ、包丁傷じゃないか!!」

「大丈夫よこんなの、大した傷じゃないわ」

「駄目だよ、早く治療しなきゃ!!」


 慌てて指先を隠そうとするマージョリーだったが、その動きより早く、キョウは彼女の左手首を掴み、治癒魔法を開始した。マージョリーはその優しい波動の心地良さに、やがてキョウの胸の中に、自らの背中を委ねていった。そして治癒魔法が終わる頃、彼女の頬に、一筋涙の雫が伝った。


「どうしたんだい、マージ」


 優しく尋ねるキョウを涙目で見上げて、マージョリーは謝罪の言葉を口にする。


「ごめんなさい、キョウ。こんな危険な旅に同行させているのに、私、あなたに迷惑ばかりかけて」


 キョウは何も言わず、優しい瞳でマージョリーを見つめている。マージョリーは言葉を続けた。


「今日も本当はあなたの為に、食後のデザートを用意するつもりだったのに、白騎士教団の分からず屋のせいで材料が買えなくて、用意出来なかったの……」


 泣きぬれるマージョリーを優しく見下ろし、キョウは優しく囁く。


「なんだ、そんな事気にしないで、僕は一度だってマージの事を迷惑だなんて思った事は無いよ」


 そう言ってキョウは、マージョリーを背後から優しく抱き竦める。


「それに、食後のデザートなら、もう此処に用意されているだろう」


 キョウのその言葉に、マージョリーは身を強ばらせた。


「ダメ、マグダラが居るわ、彼女に気づかれる」


 そう言って抵抗するマージョリーをベッドに横たえ、キョウは優しく囁いて彼女の危惧を取り除く。


「大丈夫、マグダラならあの狭い個室に封印してある。二人の邪魔をする者はいないよ」

「本当?」

「ああ、本当だよ」


 マージョリーは形ばかりの抵抗を止め、キョウの背中に両腕を回した。


「ああ、キョウ、大好きよ、私を好きなだけ味わって!!」

「今夜は眠らせないよ、マージ」


 キョウはマージョリーに覆い被さる様に抱きしめた……


「……なんちゃって。あ()っ!! 」


 うっとりとした表情を浮かべ、幸せエロ妄想を全開していたマージョリーが、頭を抱えてうずくまる。その背後には、彼女の後頭部にハリセンを炸裂させたマグダラが、荒い息で肩を震わせて立っていた。


「申し訳ありませんマスター、このバカ娘の妄想を止める為に、マスターの無意識領域の魔力をもう少しお借りしました」


 普段マグダラに実体は無いが、キョウの無意識領域の魔力を借りる事で、実体化する事が可能である。


「いきなり何するのよ! マグダラ!!」

「何するのよもへったくれもないでしょう! マージ!! あなた、遊びに行くんじゃないのよ、分かってるの!? 何が『狭い個室に封印してあるよ』よ、全くもう!! 真面目に考えなさい」


 背後からいきなりハリセンで殴られたマージョリーが、マグダラに食って掛かる。


「じゃあ、あなたの意見はどうなのよ! マグダラ!!」


 マグダラは売り言葉に買い言葉の勢いで、マージョリーに答える。


「そんなの、こっちの狭い個室があなたの部屋で、広い個室がマスターと私の部屋に決まっているでしょう。一日中メガ・クトゥンを操縦して、疲れたマスターを私が癒してあげるのよ……」



 陽がとっぷりと暮れて、夜の帷が既に辺り一面を覆っている。今日はもうこれ以上の移動は不可能と判断したキョウは、街道から外れた森の中を野営場所に選び、メガ・クトゥンを停車させた。彼はマージョリーお手製の粗末な料理で夕食を済ませると、一日の疲れを癒すために風呂へと向かった。

 キョウはメガ・クトゥンに設置された浴室内で、日本式の浴槽を思い切り堪能する。肩まで湯につかり、手足を思い切り伸ばして充分温まってから浴槽を出ると、洗い場に備えられた椅子に腰掛け、ボディソープに手を伸ばした。

 その瞬間、彼の背後の床が光り、人影が浮かび上がる。


「マスター、今日も一日お疲れ様でした。お背中お流し致しますね」


 人影はバスタオルを巻いたマグダラだった。彼女はそう言ってキョウの身体をすり抜けると、彼の手の中のボディソープを掴もうとした。しかし、実体を持たない彼女の手は虚しくすり抜け、目的を果たす事が出来なかった。


「申し訳ありませんマスター、これではマスターにご奉仕出来ません。マスターの無意識領域の魔力を、もう少しだけお借り致します」


 マグダラはキョウの前に跪き、三つ指をついて頭を下げ、申し訳無さそうにそう言うと、身体から淡い光を発した。

 実体化したマグダラは、ボディソープを手にキョウの背後に回ると、一瞬恥ずかしげな表情を浮かべるが、直ぐにその表情を打ち消し、意を決した表情に変える。そして身体に巻いたバスタオルを外し、胸でボディソープを泡立て、キョウの背中に押し付けて、上下に擦り始める。


「どうですか? 気持ち良いですか、マスター」


 恥ずかしさで消え入りそうな声でマグダラが尋ねる。


「ああ、気持ち良いよマグダラ。こんな事、何処で覚えたんだい?」


 キョウがそう言うと、マグダラの表情が輝き、上下運動を加速させながら彼の問いに答えた。


「はい、金枝篇に載っていました。輝ける夢幻郷ニホンでは、妻はこの様に疲れた夫を癒すのが勤めであると。私はマスターの妻ではないので、差出がましいかとも思いましたが、パートナーの勤めと思い直し、ご奉仕させていただきました、ですから……」


 マグダラはここ迄言うと、言葉を区切る。そして上下運動を止めて背後からキョウにしがみつき、再び言葉を繋げた。


「ですからマスター、私の事、ふしだらな女の子だなんて思わないで下さい」


 涙声で訴えるマグダラに、キョウは優しく答える。


「僕の為に恥ずかしいのを我慢して、必死で頑張ってくれたんだね、マグダラ。ありがとう、絶対にふしだらだなんて思わないよ」


 その言葉に安心したマグダラは、キョウを抱き締める両腕に力を込めた。


「ありがとうございます、マスター。私がこんな事をするのは、マスターだけです」


 キョウは自分の胸に、しっかりと絡みつくマグダラの手を優しく握る。


「礼を言うのは僕の方だよ、マグダラ。毎日一生懸命尽くしてくれてありがとう。あれ? この手は……」


 キョウは握ったマグダラの手が、僅かにオイルで汚れ、荒れているのを発見した。


「マスターが少しでも余裕を持って戦える様に、アザトースの封印を解いていたら、こうなってしまいました。どうかお気になさらないて下さい、マスター。マスターを無理矢理輝ける夢幻郷ニホンから召喚して、危険な戦いの旅に向かわせた私の、せめてもの罪滅ぼしなんですから」

「駄目だよ、マグダラ。確かに召喚されはしたけど、ルルイエに来たのは僕の意思なんだから。」


 そう言うとキョウは、マグダラの手を優しく洗いながら、治癒魔法を施し始めた。魔力を込めた手で洗うと、マグダラの指先にこびりついたオイルの汚れがみるみる落ちていき、荒れた手も白魚の様に綺麗な手に治癒されていく。キョウはマグダラの手を洗い、治癒しながら言葉を続ける。


「マグダラは今まで三百年も独りぼっちで頑張って来たんだ、もっと僕を頼ってくれて良いんだよ、僕達はパートナーなんだから」

「はい、マスター」


 キョウの優しい言葉に心打たれたマグダラは涙を流し、両手に感じる優しい波動に身を任せ、感無量の表情でキョウの背中に身体を預けていた。

 マグダラの両手の処置が終わると、キョウは風呂桶で湯船から湯を掬い、自分の身体についた泡と、マグダラの身体の泡を流し始めた。そうして泡を全て流すと、マグダラをお姫様だっこで抱き上げる。


「マグダラ、僕の為に尽くしてくれて、本当にありがとう。今夜はそのお礼に、君の永遠の少女という封印を解いてあげる。さぁ、広い個室に戻ろう」

「いけません、マスター! マージが居ます、彼女に気づかれます!!」


 腕の中で、精一杯の抵抗をするマグダラの耳元に、キョウが優しく囁く。


「大丈夫、マージなら狭い個室に閉じ込めて来たから、二人を邪魔する者は誰もいないよ」

「本当ですか、マスター?」

「ああ、本当だよ」


 その囁きを受け取ったマグダラは、形ばかりの抵抗を止めて、キョウの首に両腕を回して叫ぶ様に訴えた。


「嬉しい!! ああマスター、どうかお願い致します、私の封印を解いて下さい。そして私を存分に楽しんで下さい」

「今夜は眠らせないよ、マグダラ」


 見つめあった二人はやがて互いの唇を合わせ、めくるめく官能の渦に身を……


「……なんちゃって。痛ったあ~い!!」


 恥じらいに頬を染め、幸せエロ妄想に全開で浸るマグダラが、頭を抱えてうずくまる。その背後には、彼女の後頭部にハリセンを炸裂させたマージョリーが、わなわなと怒りの拳を握り締めて立っていた。


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