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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第一章 セラエノへ
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ダンウィッチ攻防戦始末記、もしくは真っ白になった人達 ノーデンス編②

「初見でコレを防ぐとは、大したものだな、ノーデンス」

「この技はハスタァから聞いている。貴様が消えたら、死角から攻撃が来るとな。分っていれば、防ぐのは簡単だ。ここから先は、もう貴様の思う様にはさせんぞ、覚悟しろ、ネオンナイト!」


 仕切り直しを終え、ノーデンスのンガ・クトゥンがキョウのンガ・クトゥンに襲いかかる。嵐の様な攻撃を、キョウは揺らめきかわし続ける、そして……


「甘いわ!!」


 キョウのンガ・クトゥンが消たのを確認したノーデンスは、再び防御態勢を取り攻撃に備えた、しかし……


「……あれ?」


 予測したキョウからの攻撃が無く、ノーデンスはキョロキョロと左右を見回す。


「あのなぁ、ノーデンス」


 背後からかけれた声に振り向くと、そこには右脚部を上げ、今まさに自分を蹴り飛ばそうとするキョウのンガ・クトゥンが有った。


「何とぉ~!!」


 蹴り飛ばされて、地に転がるノーデンスに、キョウはまだまだ甘いと声をかける。


「ノーデンス、死角も攻撃のタイミングも、一つじゃ無いんだぞ」

「おのれ、小癪なネオンナイト、まだこれからだ!」

「その意気だ、ノーデンス。来い!」


 二人の戦いが再開する、しかし今度はキョウは回避のみに使っていた後の先を取る機動からも攻撃を織り交ぜ、更にヘブンアンドヘルも様々なタイミングと方向から仕掛け、変幻自在の機動でノーデンスを翻弄する、それも圧倒的な力量差を見せつけるのでは無く、あと少しで! と思わせる絶妙な匙加減で。


 この瞬間、ノーデンスは確実にキョウに鍛えられ、格段に実力を上げていった。


 そんな事とは露知らず、ノーデンスはがむしゃらにンガ・クトゥンを操り、棍棒を振り回す。


 やがて息が上がったノーデンスは、キョウの機体から距離を取り、呼吸を整える。


「おのれ、チョコマカと……」

「どうした、もう終わりか、ノーデンス」


 問いかけるキョウは呼吸を乱すどころか、汗すらかいていない。ノーデンスは額に浮かぶ玉の汗を拭いながら、余裕の表情を浮かべるキョウを睨みつけて返答する。


「まだまだ、これからよ! 精霊さんの教えを受けたこの俺の、真の力を見せてやる!!」


 そう宣言してノーデンスは目を閉じた、そして機体を操作して構えを取らせる。


「ネオンナイト、貴様は自分から攻撃しない。まず相手に攻撃をさせ、それを回避する事で隙を作り、攻撃に移る」

「で?」

「だから俺はもう動かん、貴様のヘラヘラした顔を見ると、手が出そうになるから目も瞑る」


 目を閉じて集中するノーデンスに、マグダラがツッコミを入れる。


「馬鹿ねぇ、目を瞑って、どうやってマスターの動きを知るのよ」

「ふふん、闇の端女、我に秘策有り。お願いします、精霊さん!!」

「何やってるの……? アンタ」


 訝しげに聞くマグダラに、ノーデンスは自信満々に答える。


「ヤツの動きは、精霊さんに教えて貰うのさ! さぁ、お願いします、精霊さん!!」

「はぁっ!?」


 呆れた表情を浮かべたマグダラは、子供達の中から姿を消し、キョウの傍らに現れ、苦笑する彼と顔を見合わせた。


 キョウはしばらくの間、目を閉じて「精霊さん、奴はどこですか?」とブツブツ呟くノーデンスを眺めていたが、やがて大きなため息をつき、無造作にンガ・クトゥンを操りノーデンスに歩み寄った。

 途中、作業腕部マニュピレーターが握る棍棒に魔力を込める、すると棍棒は大きなハリセンに変化した。

 キョウは自分のンガ・クトゥンをノーデンスのンガ・クトゥンの傍らに立たせると、ゆっくりとした動きでハリセンを構える。


「甘い!!」


 キョウが一喝すると同時に、ハリセンが振り抜かれた。ハリセンはノーデンスの後頭部に炸裂し、彼を操縦席から叩き出す。


「何故ですか〜!? 精霊さ〜ん!?」


 昼間の星となったノーデンスの姿に、勝負が決した事を理解した子供達は、歓声を上げてキョウのンガ・クトゥンに駆け寄った。

 子供達は口々に、「さすが、キョウ兄ちゃんは強いや」「キョウお兄ちゃん、恰好いい」と言いながら、ンガ・クトゥンから降りたキョウを取り囲み、もみくちゃにする。


「馬鹿なぁああああああああ!!」


 キョウの傍らに、一瞬昼間の星となったノーデンスが、叫び声を上げながら隕石の様に落下して来た。


 大音声だいおんじょうと共に、盛大な土煙を上げ、白目を剥いて地面と抱擁を交わすノーデンス。

 その傍らに、ふわふわとマグダラがやって来て、「馬鹿なの? ノーデンス、あなたって本当に馬鹿なの? ノーデンス」と、言葉の追い撃ちをかけていた。


 キョウはようやく上体を起こし、頭を振るノーデンスにアドバイスを送る。


「声に耳を傾けるのと他力本願は違うぞ、ノーデンス。それから君は、戦い方も考え方も単純過ぎる、ラーズとウルから柔軟な発想を学ぶ様に」


 苦虫を噛み潰した表情ではあるが、ノーデンスは潔く負けを認め、キョウの助言を受け入れた。


「うぬぬぬぬ、悔しいが貴様の言うとおりだ、 ネオンナイト。致し方無い、おいお前達、誰が一番早く強くなるか、競争だ!」

「負けないよ! 僕が一番だ!」

「頑張ろうね、ノーデンスさん」

「おう、その意気だ! 二人共。がっはっはっは」


 可愛いライバルに破顔するノーデンスに、マグダラが白い目を向ける。


「全く、子供相手に、恥ずかしくないのかしら、この脳筋変熊は」

「まぁ、そこがノーデンスの良いところさ」

「甘いですわ、マスター」

「それよりマグダラ、あれはもう組み上がったんだろ。これだけ出来る様になったんだ、渡してもいいんじゃないかな?」

「マスターがそう仰るのでしたら……」

「君に渡す物が有る、ついて来てくれないか、ノーデンス」


 マグダラの首肯を得たキョウは、再びンガ・クトゥンに乗り込み、何処かへ向かって歩き始めた。子供達も、キョウの後をついて行く。


「おおい、待ってくれ」


 ノーデンスは慌ててンガ・クトゥンに飛び乗り、キョウと子供達の後を追った。


 一行はやがて、大きな倉庫の前に到着する。倉庫の前では、アビィとナイアルラートが仲良く砂遊びをしていた。


「キョウおにいちゃん!」

「にゃる、がしゃんな!」


 二人はキョウの姿を目にすると、砂遊びを中断して、キョウの元へとかけ向かう、そして彼が機体から飛び降りると、アビィは思い切りジャンプして抱きついた。


「やぁ、アビィ。いい子にしてたかい?」


 キョウは背中に飛びつく格好となったアビィを、そのままおんぶして聞く。


「うん、アビィ、いいこにしてたよ。にゃるちゃんと、こなのおじいちゃんといっしょにあそんでたの」

「そうか、良かったね、アビィ。ナイアルラート、ありがとう」

「にゃる、がしゃんな」


 そんな会話に割って入る様に、悲鳴の様な言葉が、誰もいないはずの、砂遊びをしていた場所から響いてきた。


「遅い、待ちかねたぞ、キョウ」


 キョウがその場所に目を遣ると、アビィ達が砂遊びをしていた『砂』が、ひとりでに傍らに有る瓶の中に入って行った。


 砂が全部瓶の中に入ると、勝手に蓋が締まり、ふわりと空中に浮かんだ。瓶は空中をふわふわとキョウの元に飛んで来て、結びつけている革紐を、彼の肩からたすき掛けに通す。


「ふぃ〜、散々な目に逢ったわい」

「ご苦労さん、イブン・ガジ」


 アビィとナイアルラートが遊んでいた砂らしきものは、イブン・ガジだった。アビィは命の恩人である、『粉のお爺ちゃん』ことイブン・ガジにすっかりなついていた。


「やれやれ、年寄りに子供の相手は酷じゃわい」

「何言ってるんだ、子供の相手は年寄りの楽しみだろう。それに、カワイコちゃんを紹介しろって言ったのは、イブン・ガジじゃないか」

「カテゴリーが違うわい!! 儂の言ったカワイコちゃんはこんな幼女じゃのうて、こう、ボン! キュッ! ボーンのプリンプリンで……」


 キョウの言葉に激しく反駁したイブン・ガジは、ここまで言ったところで、涙目で自分を見つめるアビィの視線に気づいた。


「……ヒック、……ヒック、こなのおじいちゃん……、アビィのこと、きらいなの……?」


 目頭をおさえて俯くアビィを慰めながら、ナイアルラートが、イブン・ガジを『メッ! 』と睨む。


 幼女の涙に「いや違う、そうじゃなくて」と動揺するイブン・ガジに、キョウとマグダラが追い討ちをかけた。


「ああ、泣かした」

「最低ですわ、全く」


 周囲の子供達も、ノーデンスも非難の眼差しを向けると、耐えきれなくなったイブン・ガジは、堪らず白旗を上げた。


「分かった分かった! 儂が悪かった〜っ! 儂はアビィちゃんが大好きじゃい!!」


 半ばヤケになって叫ぶイブン・ガジの言葉に、アビィは顔を上げる。


「……ほんとう?」

「ああ、本当じゃ。アビィちゃんを嫌う者なんか居るものか」


 イブン・ガジの言葉にアビィは泣き止むと、大輪のひまわりの笑顔で瓶にキスをして言った。


「アビィも、こなのおじいちゃん、だいすき」

「ぬはははは〜、そうかそうか〜、ぬはははは~」


 年がいもなく照れるイブン・ガジに、キョウが冷やかしの茶々を入れる。


「良かったなぁ、イブン・ガジ」

「うるさいわい!!」


 一同の間に大爆笑が起こる、キョウは楽しそうに笑う一同を引き連れ、倉庫の中へと入って行った。


 倉庫の中は格納庫兼工場になっていて、精霊機甲や機動機械等の整備、改装が出来る様になっている。規模は小さいが、内容は一流の工房と比べても遜色しない。短期間でこれだけの施設を整える財産と経済力を生み出すとは、黄金の蜂蜜の力、おそるべしである。


「あら、キョウ様、お姉様」


 倉庫の中にいた少女が一同に気がついて、声をかけてきた。


 少女の名はアリシア・ベタニア、キョウとマージョリーに請われ、黄金の蜂蜜と高級果実の卸売を一手に引き受ける、新生ベタニア商会の女主人である。いくら黄金の蜂蜜が優れた商品であっても、それを扱う者が愚鈍であれば意味をなさない。短期間で工場一式を軽くひと揃えするほどの利益を上げた、彼女の手腕と才能の程は推して知るべしである。


 しかし、彼女の才能はそれだけではなかった。


 幼い頃から大伯母であるマグダラに強い憧れを抱き、彼女に近づくために、幼少期から努力と研鑽を重ねていた。結果、科学知識や本来の意味での闇の魔法は言うに及ばず、精霊機甲の設計、開発、整備に操縦と多才な能力を、器用貧乏とはほど遠い高いレベルで身につけていた。そのおかげでマグダラは、ナイトゴーント改修作業の基本コンセプトをアリシアに丸投げし、キョウが召喚された時に乗って来た、XFー3心神Ⅱの解析に時間を費やす事が可能になった。


「やぁ、アリシア、邪魔するよ」


 キョウがそう挨拶をすると、目を丸くしてアリシアは駆け寄って答える。


「キョウ様が邪魔なんて有り得ませんわ。アンナ、お茶を用意して」


 アリシアは助手のアンナにそう言いつけると、キョウの手を取りアザトースの前に移動した。


「キョウ様、アザトースとリュミエールの整備は完璧に終わってます。もう我ながら惚れ惚れするほどの出来栄えです、いつでも出発が可能ですよ」

「うん、いい出来だね、アザトースもリュミエールも喜んでいるよ。ありがとう、アリシア」


 自慢げに胸を張るアリシアに礼を言うキョウの胸からマグダラがすり抜けて顔を出し、二人の間に割って入った。


「アリシア、ナイトゴーントの最終調整は?」

「はいお姉様、バッチリ完了しています。いつでもお渡し出来ますよ」


 アリシアはそう言って、作業台の上で上体を起こし、シートを掛けられて固定されている精霊機甲を指差した。マグダラは頷いて、ノーデンスにその機体を示す。


「ノーデンス、あなたの新しいナイトゴーントよ」

「これが……、俺の……」


 マグダラとアリシアに示されたその機体は、シート越しでも圧倒的な力強さと存在感を発散している。新しい愛機に歩み寄るノーデンスに、自慢気にマグダラが機体の説明を始めた。


「このナイトゴーントは、パーツこそ今の物で組み立てているけど、製法は開発当時の方法で組み上げたのよ。パーツ一つ一つに祈りを込め、組み立てる一ネジ毎に魔力を込め、搭乗者の無事を祈り、平和をもたらす機体となることを願って作り上げたのよ。イェグ=ハもそれを受け入れてくれて、元のナイトゴーントは全くの別物に仕上がってるわ。心して使うのよ、ノーデンス」

「組み立てのは、私と子供達ですわよ、お姉様」


 マグダラの説明に、アリシアが口を挟むが、新しいナイトゴーントに心奪われたノーデンスの耳には入らない。彼は二人の言葉に生返事を返しながら、機体を覆うシートに手をかけた。


「さぁ、早く見てみろよ、ノーデンス」


 キョウに促され、ゴクリと生唾を飲み込んだノーデンスは、思い切り両手に力を込め、シートを引っ張り、新たなるナイトゴーントと対面し、予想外のその姿に驚愕の叫び声をあげた。


「何だ! こりゃあ!!」


 口をあんぐりと開け、石の様に固まったノーデンスの隣で、キョウは感に堪えぬといった声で、賛賞の呟きを漏らす。


「凄い機体だ……、素晴らしい」


 意外な言葉に、思わず「へっ?」と、点になった目でノーデンスはキョウの横顔を見た。


 マグダラがキョウの感嘆の言葉を受け、上機嫌で機体の説を続ける。


「魔導炉の出力は、通常のナイトゴーントに比べて二百五十パーセント増でゾスよりのものにも引けをとりません。増大したパワーを受け止める為にフレームも魔力補強を施し、充分な強度を確保しています。機動力は前の物とは比較になりません。ですが、何と言ってもこの機体の特徴は、外装にあります」

「やっぱり?」


 ノーデンスのために改造された機体は、研ぎ澄まされたナイフの様だと形容された、従来のナイトゴーントとは似つかない、球形や曲面を多用した、丸みをおびたデザインとなっていた。


「はい、避弾、避刃、避魔導経始を考慮したデザインに加え、装甲には入念な対魔導コーティングを施しました。もう、前の戦いの様な事はありません」


 ノーデンスは前のダンウィッチ攻防戦で、アーミティッジ枢機卿の奸計と魔導攻撃で狂戦士(バーサーカー)とされ、操られた経験を持つ。その経験からこの機体は、頼もしい相棒として大いに期待出来る筈なのだが、ノーデンスは素直に喜んで、受け取るのには大きな抵抗があった。理由は、マグダラが強調したデザインに有る、邪神ナイトゴーントを模した、八頭身の精悍な機体が、今やその名残りすら存在しない……


 デザインの変更を訴えるべく、口を開こうとしたノーデンスの機先を制し、マグダラが言葉を続けた。


「では、デザイン主任のアビィちゃんに、この機体の名前を発表していただきます。どうぞ」


 マグダラに促され、アビィはノーデンスを見上げ、元気良く嬉しそうに、彼の新しい機体の名前を告げる。


「クマちゃん!」


 この子には敵わない、道理で契約精霊イェグ=ハがノリノリで受け入れた訳だ……。ノーデンスは自分の中の何かを捨てて、新しい機体を受領する事にした。


 アリシアに命じられたお茶の仕度を終え、人数分のティーセットを載せたワゴンを押し、この場に戻ったアンナが見た光景は、四頭身の可愛らしいぬいぐるみの熊の様なデザインの精霊機甲、ナイトゴーントハイパーボリアカスタム『クマちゃん』を前に、放心状態で真っ白になって佇むノーデンスの姿であった。


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