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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第一章 セラエノへ
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ダンウィッチ攻防戦始末記、もしくは真っ白になった人達 ノーデンス編

 固まったマージョリーに、本日の稽古の終了を告げたキョウは、新たに迎えた三人の弟子の所に向かった。


「おっ、やってるな……」


 遠くに聞こえる歓声を耳にして、微笑みながらキョウは歓声のする方へ、ンガ・クトゥンを進める。


 やがて、囃し立てる子供達の人垣と、その向こうに三機のンガ・クトゥンが見えてきた。


「やぁい! 大人のくせに、だらしないぞ!」

「早く本気を出してよ、ノーデンスさん!」


 二機のンガ・クトゥンが勝ち誇る様に腕を上げていた、乗っているのは、ラーズとウルである。


 勝ち誇る二人のンガ・クトゥンの足下に、一機のンガ・クトゥンが横たわっていた。乗っているのは苦虫を噛み潰した表情のノーデンスである。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


 ノーデンスは訓練の模擬戦で、二人のトリッキーな連携に全く歯が立たず、翻弄されて倒されていた。


 キョウは三人に手を振り、声をかける。


「お~い、やってるかぁ~」


 その声に、子供達が一斉に振り返った。


「あっ! キョウ兄ちゃんだ!」

「師匠!」


 ラーズとウルは、ンガ・クトゥンを見事に操って、我先にとキョウの元に駆け向かう、しかし……。


「うぬっ! このっ! 言うことを聞け!」


 ノーデンスは、倒れたンガ・クトゥンを立ち上がらせようと悪戦苦闘していた、そんなノーデンスに、キョウは二人を伴い歩み寄る。


「そういきり立つと、逆効果だぞ、ノーデンス」

「そうは言うが、ネオンナイト、こいつは扱い難いなんて物じゃないぞ……」

「はいはい、子供達の憧れのノーデンスが、そんな弱音を吐かない。マスターもマージも同じ物を操っているのよ」


 思わず弱音を吐くノーデンスに、マグダラがパンパンと手を叩きながら、キョウを引き合いに出して叱咤する。しかしながら壁にぶつかり自信喪失気味の彼には、いつもなら発破になるはずのキョウの名も、その効果が薄かった。


 マージョリーのみならず、子供達、そしてノーデンスを鍛える為に、マグダラはダンウィッチで撃退した野盗達が打ち捨てて行ったンガ・クトゥンを改造して再利用していた。


 改造内容はンガ・クトゥンに作業腕部(マニュピレーター)を追加し、操縦席を魔力操縦をオミットした精霊機甲のそれと換装し、完全手動操縦の為の教習機にするという内容だった。それも教官機であるキョウの機体は言うに及ばず、マージョリー機、ノーデンス機は平衡制御のジャイロを外し、機体制御の全てを完全に手動で行う、という念の入れようだ。

 練習機材としては些かハードな仕様だが、モノに出来れば魔力に頼りきっていた以前に比べ、短期間で格段の実力向上が見込める優れものである。しかし精霊機甲は魔力で動かす物という、今現在広く流布する間違った常識に基づき、長年有り余る魔力に物を言わせていたノーデンスにとって、いきなりの完全手動操縦は案の定ハードルが高い技術であった。


 以前からキョウやマグダラの手解きを受けていたマージョリーはともかく、まだ子供のラーズやウルが短期間でメキメキと腕を上げていくのに対し、きっかけを全く掴めずにいる自分自身の不甲斐なさに苛立ち、焦り、ノーデンスは自信を喪い始めていた。


 落ち込むノーデンスに、キョウが発破をかける。


「らしくないぞ、ノーデンス。君には僕達の留守中、ここの護衛をしながら、子供達に精霊機甲戦の王道を教えてもらうつもりなんだから」

「むう……」


 キョウの言葉に、力なく俯くノーデンスだった。そんな彼に、キョウは人懐っこい笑みを浮かべ、一つのアドバイスを贈る。


「ノーデンス、完全手動操縦だからと言って、魔力が全て封じられた訳じゃ無いぞ」

「何!? それはどういう事だ!? 」


 食い入る様な眼差しのノーデンスに、キョウは穏やかに話を続ける。


「耳を澄ませ。その機体を通じて、君に話しかける精霊の言葉に、耳を傾けるんだ」


 キョウの言葉に、半信半疑ながらノーデンスは目を閉じ、自身の魔力を耳に集中し、精霊の言葉に耳を澄ませた。


 何かが聞こえた気がしたノーデンスは、さらに集中して耳を澄ませる、そして……


 操縦レバーを握り直し、操作ペダルに足を乗せ直す。


「フンッ!」


 自らに気合いを入れたノーデンスは、今までとは打って変わって、流れる様なスムーズさでンガ・クトゥンを操り、見事な操作で立ち上がらせた。


 ノーデンスは自分の五感を通じ、ンガ・クトゥンに宿る精霊達が囁きかける声を感じていた。


「そうか……、あの時貴様が言っていたのは、こういう事か……」


 ノーデンスは、かつて三度ンガイの森の上空から地面に叩きつけられた時、キョウから受けたアドバイスを思い出した。


 彼は更に感覚を研ぎ澄ませ、精霊達の囁きを全身でとらえる、ノーデンスは世界との一体感を感じ始めていた。


 機体を立て直したきり、目を閉じて動かなくなったノーデンスを前に、ラーズとウルは悪戯っぽい目で目配せを交わす。


「スキあり!」

「ゴメンね、ノーデンスさん!」


 ラーズは機体をジャンプさせて上から、ウルは機体を沈み込ませる様な機動で下から、息の合った連携でノーデンスに襲いかかった。


 今まで機体の操縦すら覚束なく、二人の子供らしい発想力で繰り出される連携攻撃に、全く対応出来ずにいたノーデンスが、別人の様な機動でンガ・クトゥンを操る。

 ラーズの繰り出す上段からの一撃をくぐる様にかわすと同時に、ウルが狙った足払いの一撃を踏ん張って受け止めた。


 攻撃をかわされたラーズは、空中でバランスを崩して宙を泳ぎながら落下する。一方の攻撃を受け止められたウルは、操縦桿を通じて衝撃がバックラッシュし、全身が痺れて動きが止まった。


「喰らえぃ!」


 ノーデンスは宙を泳ぐラーズのンガ・クトゥンを、手にした棍棒でウルのンガ・クトゥンめがけて叩き落とした。


「「うわぁあああああ!」」


 悲鳴を上げて地に伏した二人に、キョウが諭す様に声をかける。


「二人とも、これが王道の戦い方だ。戦いの基本をしっかり身に付けた相手には、小手先の奇策は通用しない。二人はノーデンスからそれを学ぶ様に」

「わかったよ、キョウ兄ちゃん!」

「はい、師匠!」


 素直に返事をした二人に、キョウは優しく微笑んで頷いた。そして、「二人を頼む」と言おうとしてノーデンスに目を向ける。


「うおおおおおおおお!」


 今まで動かす事もままならず、てこずり苦しんでいたンガ・クトゥンが初めて意のままになり、遅れを取っていた子供達に一矢報いる事ができたノーデンスは、感涙に咽び雄叫びをあげていた。


 よほど嬉しかったんだな。


 と、少し苦笑するキョウの機体に、ノーデンスは自機を抱きつかせて暑苦しい程の謝辞を述べる。


「うおおおおおおおお! 貴様のお陰だ! ネオンナイト! 礼を言うぞ!」

「分かった分かった、ノーデンス。子供達を頼むぞ。」


 ノーデンスの暑苦しい抱擁に、苦笑しながらキョウは子供達を彼に託す。


「まぁ~っ! さかりがついた金太郎!!」


 この光景を見ていたマグダラが悲鳴を上げて、嫌悪感丸出しの表情でノーデンスを毒づいた。


「ノーデンス! やっぱりアンタ、マスターにびいえるなのね!? 気持ち悪い! 変熊!! 今すぐ私のマスターから離なれさ~いっ!」


 ノーデンスは、そんなマグダラの悪態など耳に入らない様子で、キョウの機体を抱き締め、左右に揺する。彼の目の中で炎が灯り、徐々に大きく燃え盛りだす。


「……これなら、勝てる……」


 自信を取り戻したノーデンスは、背後に炎のオーラを燃え立たせ、キョウの機体を突き飛ばし、己の機体が握りしめる棍棒を突き付け、睚を吊り上げて叫ぶ。


「ネオンナイト! 俺と戦え!!」

「はぁっ? 何言ってるの、アンタ」


 突然のノーデンスの挑戦に、呆れるマグダラを宥め、キョウがそれを受けた。


「ああ、良いぜ、ノーデンス」

「ええっ!? 受けちゃうんですか? マスター!」

「恩に着るぞ、ネオンナイト!」


 まさかキョウが一騎討ちを受けるとは思っていなかった二人が、同じ驚きから発する正反対の反応を示すと、子供達の間からヤンヤの歓声が上がる。


「キョウ兄ちゃん! 頑張れ~っ!」

「キョウお兄ちゃん、負けないで~っ!」


 子供達は皆、声を枯らしてキョウへの声援を送っている。そんな完全アウェイの中、ノーデンスは今までキョウに挑戦するも、のらりくらりとかわされ、あしらわれ続けた苦渋の日々を思い出し、闘志を沸き立たせていた。


「ネオンナイト! よくも今まで散々コケにしてくれたな!」


 ノーデンスは威嚇する様に、ンガ・クトゥンの作業腕部(マニュピレーター)を操作する。

 泰然自若とした態度でその様子を眺めながら、キョウは内心、素直になった時のノーデンスの学習能力の高さに感心していた。流石、最強クラスの賞金稼ぎとして勇名を馳せていただけの事はある。


 やはり留守を任せるのは、ノーデンス以外に考えられない。


「しかぁし、此処で会ったが百年目! このノーデンス様が貴様を成敗し、この世に悪が栄えない事を証明してやるから覚悟しろ、ネオンナイト!」

「能書きは要らない、かかって来い、ノーデンス」

「行くぞ! ネオンナイト!」


 キョウの瞳が青白く輝いた。心の中はおろか世界の深淵まで見透す様な瞳の輝きに、一瞬気圧されたノーデンスだったが、裂帛の気合いを込めて一撃を繰り出す。


「うおおおおおおおおお!」


 大気すら斬り裂く鋭さの打撃が、キョウのンガ・クトゥンに炸裂する刹那、彼の片頬がつり上がった。


「フッ」


 キョウが操縦桿とフットバーを操作する、その動きは素早くではあるが、焦り急ぐとは対極の、余裕を持った最小限の無駄の無い動きだった。

 キョウのンガ・クトゥンは、あるじの意思を体現する。まるで蜃気楼の様に揺らめく機動を見せ、ノーデンス渾身の一撃をすり抜ける様に回避してみせた。その動きに、ノーデンスは驚愕する。


 これがハスタァの言っていた『後の先』か!?


  驚愕しつつも、ノーデンスの闘志は衰えない、むしろ強敵にまみえた喜びに打ち震えた。


「流石はネオンナイト、相手に取って不足無し」


 ノーデンスは再びキョウの機体めがけ、鋭い打撃を連続で繰り出した。今まで操縦すらままならなかった者が動かしているとは思えない機動を、ノーデンスのンガ・クトゥンは見せる。

 コツを掴み、一動作毎に習熟度を増すノーデンスの攻撃は、繰り出される毎に鋭さを増していく。しかし、それでもノーデンスはキョウの顔から笑みを消す事が出来ない。


 どれだけ必死に攻撃しても、キョウのンガ・クトゥンが揺らめく、揺らめく、揺らめく。


「こなくそォ~!」


 何度かわされても、諦めないノーデンスの闘志が奇跡を呼ぶ、彼の繰り出す攻撃に、無意識のうちに魔力が加わり始める。


 ノーデンスの頭の中に、精霊達から啓示が下されていた。


「ノーデンス、完全手動操縦だからと言って、魔力が全て封じられた訳じゃ無いぞ」


 ノーデンスは頭の中に閃いた精霊達の啓示に従い、キョウに向かって更に打撃を加える、そしてその攻撃を繰り出す毎に、加わる魔力の量が増えていった。


「流石、ノーデンス」


  ノーデンスの攻撃に魔力が加わり、更に厳しさを増し、回避に余裕が無くなっていく、しかし、キョウの顔から笑みは消えなかった。いや、それどころか、益々キョウの顔に浮かぶ笑みは大きくなっていく。


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


 ノーデンス渾身の魔力打撃に、キョウのンガ・クトゥンはついに揺らめく余裕を失った。


「貰った!!」


 今度こそ! と、思った瞬間、ノーデンスの目の前から、キョウのンガ・クトゥンが消えた。


 キョウの魔導戦技、ヘブンアンドヘルが、ノーデンスのンガ・クトゥンに襲いかかる。


 巨大な魔力のぶつかり合いに地面が揺れ、厚い土煙が舞う。


「うわぁ……」


 あまりの光景に、二人の戦いを見つめる子供達は、一瞬放心状態となった。土煙が晴れ、二人のンガ・クトゥンの姿を視認したマグダラが驚きの声を上げる。


「まさか……、マスターのヘブンアンドヘルが……」


 キョウのヘブンアンドヘルからの一撃を、ノーデンスのンガ・クトゥンがしっかりと防いでいた。


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