第八十八話:鎮まる火山
報酬金などの整理を終えて、俺はクリスを連れて昼を過ぎた辺りでドナテロの屋敷を訪れていた。
「ここがドナテロの屋敷か…!」
「大きいですね…。アーリアル伯やブルームーン家の屋敷が小さく感じます」
ドナテロの屋敷は非常に大きく、まるで一つの城の様な大きさだった。入り口の扉で立ち止まり屋敷を見上げていると守衛の兵士に呼び止められた。
「止まれ、何者だ」
「セオドアと申します。こっちは妹のクリスティンで、ドナテロ様より屋敷に招かれまして赴いた次第です」
「話は聞いている、通れ。あまり彷徨かぬ様にな」
守衛が扉を開くと身なりのいいドナテロの従者であろう男が俺達を待っていた。
「セオドア・ホワイトロック殿ですな? そしてこちらが妹君のクリスティン・ホワイトロック殿。執務室にてドナテロ様がお待ちしております故、案内をさせて頂きます」
「はい、宜しくお願い致します」
美しい調度品の数々がそこかしこに並んでおり、この街最大の経営者にして、権力を持つ為政者である事が伺える。案内役の従者に連れられ、俺達は四階のドナテロの執務室へと案内された。
「ヘスティア様、セオドア殿と妹君のクリスティン殿をお連れ致しました」
「わかりました、通してください」
執務室の中からはドナテロではなく、女性の声が聞こえてくる。
「失礼します」
案内役の男が執務室の扉を開くと、そこは小綺麗な執務室があり、大きな執務用の机とその前に低い机と対になる様にソファが置かれている。
また中から聞こえた声の主は齢三十程の美しい女性だった。
「初めまして、私、ドナテロ・ド・ドルマニアの妻で秘書を務めております、ヘスティア・ギ・ドルマニアと申します。先の赤龍討伐でのセオドア殿達のご活躍はドナテロより聞き及んでおります」
「ええと…そう畏まらないでください。自分は一介の冒険者ですし、実際に力になれるかもどの様な依頼なのか聞いてみなければ分かりません。それに僕と妹もまだ十三です。こういった場所は身の丈にあっていないというか…」
ヘスティアの話に俺がそう切り返すと、ヘスティアは口元を抑えて上品に笑みを浮かべる。
「ふふ…、そうご謙遜をなさらず。赤龍討伐を成しただけでも十分に讃えられるべき功績ですわ。しかし…失礼、赤龍の討伐を成した冒険者の筆頭がまさかこんなに可愛らしいお方とは思いませんでしたわ」
ヘスティアは少し顔を綻ばせるが、すぐにまた綻ばせた顔を引き締める。
「ドナテロは間もなく戻りますので、どうぞお掛けになってお待ちくださいませ」
「では、失礼します」
俺達が静かにソファに腰掛けると、ヘスティアは執務机の横へと移動し、直立不動の姿勢を取る。そして間も無く執務室のもう一つの扉が開かれる。
「おぉ、来ていただけましたか。呼びつけておきながらお待たせして申し訳ありません。改めまして、既に妻より紹介はされていると思いますが、私、ドルマニア山の鉱山を経営、またこのドルムの街の相談役を務めております、ドナテロ・ド・ドルマニアと申します。以後お見知り置きを」
ドナテロは一礼をして自己紹介をする。こちらも社交辞令として自己紹介を始める
「アトラシアはブリュンヒルデ王国から来ております、セオドア・ホワイトロック、並びに妹のクリスティン・ホワイトロック。冒険者として旅をしております」
自己紹介を終えて俺は一礼を、クリスもローブの裾を持ち上げて礼を返すと、ドナテロが手を差し出してくる。俺とクリスはそれぞれ差し出された手を握り返す。
「さて、早速ですが用件から述べさせて貰います」
ドナテロはそう話を切り出すと、こう続ける。
「先の赤龍討伐後に噴火したドルマニア山ですが、現在も小規模ながら噴火が続いておりまして、その為に行方不明者の捜索や負傷者の救助が難航しております、また鉱山も現在は閉鎖状態となり、とても再開できる様な状況ではありません」
「それに僕達も手伝って欲しい、と?」
ドナテロは俺の問いに「いえ」、と前置きし、話を続ける。
「あの依頼が進行されている途中、火山の中が雪山の様に冷え、火口内の溶岩が冷え固まった、と冒険者達によって実しやかに囁かれております。そこであなた方によって為されたのでは、と考えました」
「確かに、あれは赤龍との戦いの中で、妹のクリスが放った大魔術によるものです。それと何か関係が?」
ドナテロが俺の返しに対し、机に手を付いて震える。まさか今回の噴火を俺達の所為だと糾弾するつもりだろうか、そう勘繰っていると、ドナテロは頭を下げて俺達に懇願を始める。
「もし、もしセオドア殿さえ良ければ我々に力をお貸し願えませんでしょうか…!もしあのまま火山が噴火を続ければこのドルムの産業は立ち行かなくなります…!あの鉱山は確かに私にとっても日々の生活の糧、ですが、それ以前にあの鉱山で働く坑夫やこの街で働く職人達を支える鉱山なのです…!勿論この街だけではない、この街が廃れる様な事になればサルディアの街も共倒れとなります…!そうなれば私はこの島を開拓した偉大なる冒険者ウィンズに、この島を支える民に申し訳が立ちません…!どうか…どうか我々に力をお貸しください…!」
ドナテロは涙を流しながら俺の手を握る。当に藁にもすがる思いとはこの事だろう。幾ら大魔術を操れる魔術師を擁しているとは言え、たかだか十三の子供に大の大人が泣きついている。島の政を預かる身ではあろうがここまでする大人がいるであろうか。少なくとも俺のいた世界ではまずあり得ないだろう。少しは見習って欲しいものだ。
「兄様、私の力で及ぶかわかりませんが」
「ああ、大の大人にここまでされたら流石に見過ごせないだろ。ドナテロさん、僕達の力でなんとかなるかはわかりませんがやれるだけやってみます」
俺達が協力を申し出るとドナテロは更に大粒の涙を流して俺の手を強く握る。
「ありがとう…ございます…!…すみません…取り乱しました…。こちらで協力できる事があれば何なりと申し付けください。最大限の協力を約束します」
そこで俺はある事を思い付き二つの手配をドナテロに打診する。
「ならば、この島にいる選りすぐりの魔術師の手配を、それとー…」
「ふむふむ…、何ですって!? …いえ、分かりました、手配しましょう」
俺はドナテロに二つの手配を要求した。一つ目は普通に伝えたが、もう一つの要求についてはドナテロだけに聞こえるように彼の耳元で小声で伝える事にした。
「早い方がいいかと思います。できれば今夜にでも始めましょう。集結はギルドの出張所でいいでしょうか?」
「分かりました、では早急に手配に取り掛かりましょう。セオドア殿、クリスティン殿、宜しくお願い致します!」
俺達は深々と頭を下げるドナテロを背に屋敷を後にする。一つ目の要求は何とかなるとして、二つ目の要求は正直、倫理に悖るものだ。故に俺はその要求をドナテロの耳元で囁く様に伝えた。
ドナテロの屋敷からの帰り道、クリスは先程のドナテロとのやり取りについて尋ねてきた。
「兄様、先程二つの手配をドナテロ氏に要求していましたが、二つ目の要求が聞き取れませんでした。何を手配する様に頼んだんです?」
「んー…驚くだろうし、文句を言われそうだからな…敢えてドナテロさんだけに聞こえる様にしたんだ」
俺の返答にクリスは首を傾げるが、正直あまりクリスに俺が要求した内容を教えたくはない。
「勿体つけないで教えて下さい!兄様!」
クリスは俺の前に立ち塞がり、改めて語気を強めて追及を重ねる。クリスは是が非でも聞き出そうと言うスタンスだが、本当に言うべきでは無いだろう。
「ダメだ。もし言ったとして、お前に臍を曲げられでもしたら依頼は達成できない。ただでさえ成功するかもわからないんだ。この依頼自体、お前の大魔術が頼りなんだ。わかってくれ」
俺はクリスを諭す様に話したが、クリスは尚、
「…どうあっても教えては頂けませんか?」
「…どうあってもだ。言えば間違いなくお前は反発する。ただ一つだけ言えることは少なくとも今回の依頼について知識があるだろう人物、その手配をドナテロさんに頼んだ。あとは自分で考えろ、俺が言えるのはそこまでだ」
手配を頼んだ人物、その情報をクリスにそれとなく伝え、俺は話を切り上げる。少し冷たい言い方だが相手は自然現象、今回ばかりはクリスの大魔術、それが前提条件となる以上、手配を頼んだ人物の名前を出す訳にはいかない。
「分かりました…。兄様は依頼を達する為の作戦をしっかりと立てておいて下さいね」
「ああ」
それ以降、宿への帰途から約束の夜、ギルドの出張所に到着するまで、クリスとは一切会話をする事はなかった。
ーーー
「…クリスと何か…ケホッ…あったの?」
夜を迎え、ギルドの出張所へは俺とクリス、そしてクローディアの三人で向かっていた。赤龍のブレスの熱にやられたクローディアの喉もまだ喋りにくそうではあるが、どうにか話せる程度まで回復しており、彼女はお互いに口を聞こうとしない俺達を心配していた。
「いえ、ちょっとした兄妹喧嘩みたいなもんです」
「…」
俺はクローディアの問いかけをそれとなく誤魔化すが、クリスの方はと言うと、だんまりを決め込んだままだ。クローディアはやや困惑した様子で「そう」、と一言、それ以上は追求しなかった。
そして程なくして俺達はギルドの出張所へと到着した。
出張所の前には十四、五人の魔術師らしき冒険者と、ギルドマスターのコビィが待っていた。
「よお、ドナテロ様から話は聞いてるぜ、とりあえずはドルムとサルディアから集められるだけ集めといた、全員A級以上の魔術師か魔素総量に自信のあるってヤツらだ。しっかし火山をどうにかするってなぁ本気か?」
コビィは自ら集めた魔術師達を並べて胸を張る。それと同時に火山の噴火を鎮めようと言う俺達を訝しむ様な表情で白髪頭を掻いていた。
「はい、実際に鎮められるかはわかりませんが…。…ところでドナテロさんは?」
辺りを見回してもドナテロは見当たらず、近くから気配も感じられない。
「あぁ、ドナテロ様なら先に頼まれてたもう一人の男を連れて先に待ってるぜ。なんせ、おおっぴらにゃ連れ出せねぇ様な奴だ、ドナテロ様自ら連れ出してるって話だ。まぁなんにせよ、お前ら次第だ、しっかりやんな」
そう言ってコビィは豪快に俺の背中を叩く。十数名の冒険者達も、俺達を見て首を揃えて頷いていた。
俺達はコビィやギルドの職員達に見送られながらドナテロとの合流地点へ向かう。そこにはドナテロとその取り巻き達、そして目隠しに拘束具で拘束された男が待っていた。
「お待ちしておりました、セオドア殿!で、こちらが手配する様に頼まれた男ですが…サルディアのギルドに無理を言って連れ出しましたが本当に大丈夫でしょうか…」
俺達を発見したドナテロは手を振りながら駆け寄ってくる。それと同時に拘束された男に少し視線を送るとすぐに目を落とす。
「大丈夫です。何かがあれば僕が取り押さえます。…なぁ、サヴィオラ!」
拘束された男から目隠しを剥ぎ取ると、そこには以前捕らえた冒険者と子供の誘拐とその子供を使って盗みを働いていた魔術師、火山のサヴィオラの顔が露わになる。
「…!兄様…!何故このような男をっ…!何故このような男の力を借りようなどとっ!」
サヴィオラの顔を認めたクリスは歯をむき出して彼に敵意を向け、俺を糾弾する。
「何故このようなクズの力などっ…!」
「全く…酷い謂れようだねぇ。セオドア君、だったかな、僕の協力が必要なんだろう? だったら彼女、どうやら妹らしいけれど、そっちの躾もお願いできるかな? 突然後ろから襲われたらたまらないからねぇ。…クックック…」
サヴィオラは無抵抗を主張するように両手を挙げてヒラヒラと振り、下卑た笑いを見せる。その姿はどこかクリスを煽っている様にすら見える。クリスも煽りに乗り、何かしらの魔術でも放つつもりか、サヴィオラに向けて手をかざす。
「このっ…!」
「よせ、クリス!」
魔術を放とうと魔力を練り出したクリスの腕を掴み制止する。それでもなおクリスは俺を押しのけてサヴィオラを手に掛けようとするが、今度は両手を掴んでクリスを止める。
「兄様はお忘れですか!? この男の所為でどれだけの冒険者の親子が、クローディアさんが!アリーシャが!兄様だってわかっているでしょう!?」
…ーパンッ
乾いた音が響くと同時に喚き立てるクリスが黙る。彼女は地面に手を付き、頰を抑えていた。今になって見れば、これまでクリスとは多少言い合い程度の喧嘩はしてきたが、実際に手を挙げたのは初めてだ。感情的になったクリスを止めようと、俺は無意識のうちに頰を叩いていた。
「クリス、頭を冷やせ。こいつは火山のサヴィオラ、溶岩の魔術を長年使ってきた男だ」
「溶岩の魔術を使えるからと言って何の…」
「相手は自然現象だ!少しでも知識のあるヤツの力がいる!お前に噴火の何がわかるんだ!? 相手は目に見えないものだぞ? 確かにダメ元だ!だからと言って失敗していいのか!? 失敗しても誰も責めやしないだろうが、少なくともこの島は衰退するんだぞ!」
「…!!」
叩かれた頰を赤くし、手で抑えたまま反論しようとするクリスの言葉に被せて俺は怒鳴りつける。
「…クックッ、お兄さんの方が利口だねぇ。そうだとも、僕は長年溶岩を操る魔術を使ってきた。当然地中を流れる溶岩、ましてや活動中の火山の溶岩の状態を読み取るなんて訳ない事さ。もう少し頭を使ったら…」
俺は無言のまま剣を抜き、サヴィオラの喉に突きつける。
「それ以上妹の事を悪く言うようなら、二度と声を出せないようにしてやる」
「おっとっと、これは失敬、失敬。無抵抗で痛い目に遭うのはもう御免被りたい所だ、これ以上は口を紡ぐとしよう」
「さて、クリス。全く以って遺憾でしかないけどサヴィオラの言う通り、俺達じゃ地中の溶岩の状態を見極められない。だから火山活動の状態を見極める為にあの男を手配したんだ。それだけは理解してくれ」
俺が今回サヴィオラを手配した意図を説明するとクリスは如何にも渋い顔で小さく頷く。流石に納得はしていないようだが、理解はしてくれたらしい。
「で、…私がいるってのと…魔素量の多い冒険者を手配したってことは…つまりそういう事ね?」
「ええ、その通りです。クリス、もうここまで言えばどうするつもりかは解るよな?」
「…っ、…わかりました」
クリスは一瞬黙って答えを渋るが、諦めたように返答を絞り出す。
「よし、じゃあ早速取り掛かろう。クリス、クローディアさんの手を。皆さん、クローディアさんの手に手を重ねて下さい。クローディアさんの加護の力でクリスに魔素を供給します!」
彼らは俺の指示通りに、クローディアの手にその手を重ねていく。勿論その中に俺も入り、合計十六人のA〜S級魔術師の魔素がクリスに供給される。
「クリス、氷の大魔術だ。遠慮はいらない、お前の魔素と俺達の魔素で出せる最大規模で火山に放て」
クリスは静かに頷き、目を瞑り集中を始める。
クリスの身に付けている龍の魔導手袋が眩い光を放ち、大気を震わせる。
「…くっ!」
「こ、これは…!」
「まるで魔素を吸われるようだ…!」
「意識がっ…」
幾ら魔素総量に自信があると言う彼らでも恐らく俺をやや下回る程度であり、極端に多くはない。また、クローディアの共魔の加護もクリスが注ぎ込もうとしている魔素量の多さからか、本来の触れている者の魔素量を均一に保とうとするバランサーとしての力が機能しておらず、一気にクリスへと流れ込んでいる。そのせいで、魔素欠乏を起こしそうな者まで出ている状態だ。
「…みんな、踏ん張れっ…!」
全員が歯を食いしばり、懸命に意識を保とうと耐えている。勿論俺やクローディアも例外ではなく、一気にクリスに魔素を吸われている為、意識を保つので精一杯だ。
魔力を練る為に集中していたクリスが遂に目を開く。それと同時に魔素を吸われる感覚が止んだ。どうやら大魔術を放つ為の魔力を練り終えたらしい。よく見るとクリスの全身から黒い靄のようなものが滲み出しているのが解る
「風雪舞う山より出でし女神よ かの者を安らかなる眠りに誘う抱擁を与えよー」
クリスが大魔術の詠唱を始める。すると魔導手袋の甲に埋め込まれた玉石を中心に魔素の光が方陣を紡いでいく。今まで大魔術を放った時には見られなかった現象だ。
「冷厳なる女神の抱擁!」
クリスが大魔術を放つと手の甲に紡がれた方陣が閃光を放つ。眩い光に思わず目を覆い、再び火山を見るとまるで全ての時が止まったかの様に映る。そして天より可視化された冷気が女神の姿を為して舞い降りてくると、火山を包み込むようにゆっくりと静かに、そして優しく抱擁する。
「私は幻でも見てるのかしら…」
「ああ…火山が…嘘だろ…?」
「さっき見えた女神は一体…?」
誰もが目を疑った。目の前の火山のあまりの変貌に誰もが目を擦り、夢かと疑った。
先程まで白い噴煙をあげて小規模の爆発を繰り返していた火山は雪化粧に白く染め上げられ、噴煙はぴたりと止まり、爆発の轟音は一切聞こえることはなく、静寂だけがただ残る。そして、すぐ側から乾いた拍手が鳴り始めた。
「これは驚いた、大魔術を使えるとは聞いていたけれどこれ程とは思わなかったよ。この僕が彼女に全く敵わなかったのもこれなら納得できる。いやぁいいモノを見せてもらった、これならもう心残りはないね。ああ、それと火山ならもう心配はいらないよ。深い地の底まで完全に溶岩は冷え固まってる、保証するとも」
クリスの大魔術、いや今までの大魔術と比較すればその域を遥かに逸脱したものを見たサヴィオラは子供の様に瞳を輝かせて、早口に熱弁を振るう。
「今の言葉に嘘はないな?」
「愚問だねぇ。これでも魔術師の端くれだよ、あれだけの素晴らしい魔術を見せられて嘘なんて吐くものか。今の僕が言うのも滑稽な話だろうけれど、火山のサヴィオラの名に誓って嘘は無い、本当だとも」
疑いをかけられていても、サヴィオラは一寸の澱み無く雄弁を振るう。最早疑いをかけるのも馬鹿らしくなるほどに。
「…ドナテロさん、サヴィオラの言うことが本当ならばどうやら成功したようです」
「では…では…!鉱山は…!」
「はい、恐らく閉鎖する必要はないかと思います」
俺がそう話すとドナテロは膝を付き、天を仰いで祈る様に指を組んだ。
「あぁ…赤龍を討ち、この島まで救ってくれるとは…!偉大なる冒険者ウィンズよ…見ていますか…? この少年と少女こそが貴方の遺志を継ぐ冒険者なのかも知れません…!」
ややオーバーリアクション過ぎやしないかと反応に困るが、涙を流し天に祈りを捧げるドナテロの姿を見るとこの行動は恐らく彼の本心からの行動なのだろう。
ドナテロの祈る様な姿に俺は苦笑していると、クリスは頭を押さえて一言、小さく呟いていた。
「…誰?」
クリスはキョロキョロと辺りを見回すがクリスを呼んだ者は誰もいない。様子を見るにここにいる誰かがクリスを呼んだ訳でも無さそうだ。
「…? クリス、誰かいたのか?」
「いえ、誰か…私より小さな女の子に呼ばれた様な気がして…多分気のせいじゃない、そんな気がして…」
辺りを見回してもそんな子供はいない。この場にいる人間で、子供と呼べる人間は俺とクリスの二人だけだ。
「気のせいだろう、昨日今日と大魔術を使ってるし疲れてるんじゃないか? 早く宿に戻って休もう」
「そう…でしょうか? いえ、そうかも知れませんね、帰りましょう、兄様」
僅かな疑問を残したものの、無事火山の鎮静化に成功した俺達はドルムの街へと戻る。時折クリスが後ろを向いていたが、やはり彼女が言うような女の子などは現れなかった。




