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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第八十七話:終戦、そして…

 目が覚めると屋外ではなく、見慣れない屋内の中にいた。周囲を見回すと俺と同様にベッドに横たわる冒険者達が多数いた。


 「お、漸く起きたね」


 真横を向くとそこには金の長髪に長い耳を持つ美青年の顔がある。フォルクハルトだ。

 フォルクは読んでいた本を閉じて机に置く。


 「えっと…ここは?」


 フォルクに尋ねると現状について説明を始めてくれた。

 まず、ここはドルムの街で、街の行政・ギルド・鉱山の経営者であるドナテロの手によって臨時で設けられた救護所らしい。

 赤龍討伐や火山の噴火によって多くの負傷者が出た事を重く見たドナテロがギルドと街の行政との協力の下、急遽設けられた施設との事だ。ここに運び込まれたのは俺だけではなく、クリスやアンリもここに搬送されたがクリスは一足先に目覚めた様で、フォルクが先に宿に戻る様に言ったらしい。既にあれから半日弱が経過しており、窓の外には既に真っ暗な空が見えていた。

 俺達が討伐した赤龍はと言うと、現在はその遺骸をギルドが厳重に管理しているとの事だ。全員が揃い、素材の分配が決まるまでは預かってくれる様だ。

 シェリーやクローディア、ライ達については簡単な治療を受けて、既に宿で体を休めている様で、アンリについては、クリスの治療によって怪我そのものはほぼ完治していたものの、血を流し過ぎていたらしく、輸血を受けていた様で、それも現在は完了しており、回復を待つだけとの事だ。

 噴火したドルマニア山は現在漸く小康状態になり、白煙をあげるのみだと言う。しかし、またいつ噴火が始まるとも知れぬ状況故に、現在は街に設置された観測所からギルドが主導となって観測が続けられている様だ。ドルムの街はと言うと、火山から少し離れていた為、軽く小さな火山弾が降るのみに留まったらしく、民家と市民に僅かに被害が出ただけに済んだらしい。


 「…ーと、こんな所かな?」

 「流石に起きたばかりで全部しっかりと記憶できた自信はないですけど、おおよそ頭に入りました。ありがとうございます」

 「…うーん、やっぱりしっくりこないや。そろそろ畏まった話し方はやめにしないかい?」

 「…へ?」


 フォルクはどうにも俺との会話のやり取りに不満の様だ。


 「ほら、アンリやアリーシャさんにはセオ達ってくだけた話し方するでしょ? 船からの付き合いだし、もう別に僕に畏る必要も無いんじゃないかなってさ」

 「えーと…じゃあ、フォルク…?…これでいいか?」

 「あはは、そうそう、これでやっと同じ目線で話せる気がするよ!」


 フォルクは屈託の無い笑顔で俺が敬語を使わずに話してくれた事を喜んでいた。知らず知らず、彼には気を遣わせてしまっていたのだろうか、あまりそうは感じられないが彼が喜ぶのならこれでいいのだろう。


 「さて、確かセオは紅茶は好きだったよね、飲むかい?」

 「じゃあせっかくだし淹れて貰おうかな」

 「わかった!あ、そうそう、実はいいものがあるんだ」


 そう言ってフォルクが取り出したのは紫がかった乳白色の粘性のある液体が入った小瓶だった。


 「毒…? じゃないよな…?」

 「ま…まぁ見てくれはたしかにそう見えるけど…。これは無音蜂(サイレントビー)の女王蜂の蜜さ。少量しか手に入らないけど滋養のある食材なんだ」


 成る程、ローヤルゼリーと言う奴だろう。以前の世界では強壮剤などに当然の様に含まれているものだったが、実際に本物を見たことはない。尤も、このローヤルゼリーが取れた生物自体、似たものは居ても、俺のいた世界にいるものではないが。

 フォルクは荷物から別の瓶を取り出す。こちらもやはり紫がかった透明の液体で、瓶の蓋を開くと同時に芳醇な甘い香りが漂ってくる。こちらは間違いなく蜂蜜だ。色は違えど、この特徴的な香りは間違えようがない。フォルクがローヤルゼリーの方の瓶を開けるとすぐにスプーンで少量をひと掬い、蜂蜜の中に混ぜ合わせる。ローヤルゼリーの瓶が開いた瞬間は酷い匂いがしたが、彼もそれを知っているのだろう、即座に瓶の蓋を閉め、荷物の入った鞄にしまい込んでいた。

 フォルクは蜂蜜とローヤルゼリーを混ぜたものを用意した後、紅茶を淹れる為の湯を取りに席を外した。そしてベッドの横にある机には蜂蜜がそのまま置かれている。

 

 「色は違うけど同じものだよな…?」


 俺の知っている蜂蜜とは似通っているものの明らかに色が異なる為、やや抵抗はあるが蜂蜜の芳醇な香りが俺の好奇心をくすぐる。開けられたままの蜂蜜の瓶から指で蜂蜜を掬い、口へと運ぶ。


 「おぉ…甘い…!」


 口の中に広がる甘味と微かに残る花の香りが鼻を通る。こちらの世界では甘味は殆どが果物などでしか得られない為、甘味料と呼ばれるものはそれなりに貴重なものになる。俺は久々の甘い紅茶が味わえると心を躍らせていた。


 「おまたせ、用意してきたよ」


 フォルクが茶器と湯の入った水差しを手に戻ってくる。

 机に茶器を広げ、湯をポットとカップに注ぎ一回し、ポットが温まると湯を捨てて二人分の茶葉を匙に取り、ポットの中へ投入し、再び勢いよく湯を入れて蓋を閉め、茶葉を蒸らす。そのまましばらく待ち、蓋を開くと蒸らしていた茶葉が湯の水面へと浮き上がっている。次第に浮き上がった茶葉が再び沈み始め、ポットの底で上下に揺れる。淹れごろだ。

 ポットの中を匙で一回しして、茶漉しを通して温めたカップに注ぎきると、紅茶の上品な香りが広がる。


 「いい香りだ、やっぱり淹れ方はどこも同じか」

 「ああ、セオも紅茶好きだけあってちゃんと淹れ方は知ってるんだね」

 「旅に出る前は母さんやアリーシャがよく淹れてくれてたからな。それで覚えたんだ」

 「成る程。じゃあ早くアリーシャさんに元気になって貰わないとね。…はい、入ったよ。さっきの蜂蜜も一緒に淹れて飲んでね」


 フォルクから出されたカップとソーサーを手に取り、まずはそのまま何も入れずに一口飲む。紅茶そのままの味と香りを味わい、今度はフォルクの用意した蜂蜜とローヤルゼリーを混ぜたものを匙でゆっくりと紅茶の中に溶かしていく。

 淡い褐色の紅茶が蜂蜜を加える事によって、濃い褐色へと色を変えると同時に蜂蜜と紅茶の香りが混ざり合い、上品な香りを醸し出す。

 再びカップを摘み上げて傾けると、僅かに酸味と渋味の利いた甘味が口の中に広がる。


 「…この酸味と渋味はさっきの女王蜂の蜜か」

 「その通り。滋養にいいのは間違いないんだけど、とてもそのままじゃ口に入れられたものじゃないからね。本当は入れない方が美味しいんだけど、気に入らなかったかい?」

 「いや、『良薬口に苦し』って言うしな。それにこれくらいなら気にならないか」

 「初めて聞く言い回しだけど、確かに良く効く薬って大抵は苦いよねぇ…」


 そんな談笑をしながら紅茶を楽しんでいたが、気がつけばあっという間にカップの中の紅茶を飲み干してしまっていた。


 「ん?何やよう見たらクローディア嬢ちゃんの友達(タレ)やんか」


 紅茶を楽しんだ俺達にボサボサに伸ばした髭と髪を蓄えた小柄な男が話しかけてくる。そう、彼はエフゲニー、今まさに死神蛇(デスコブラ)の毒に倒れたアリーシャを預けている闇医者だ。


 「聞いたで、坊主(ボン)が赤龍を仕留めたんやってな。ワイも闇医者ゆう立場やのにギルドから呼び出されてな、山奥からここまで降りてきたゆう話や」

 「アリーシャは、アリーシャはどうしたんです!?」


 思いがけぬエフゲニーとの再会に慌てて預けていたアリーシャの件を問いただすも、エフゲニーは腕を組んで『落ち着け』と諭す。


 「心配せんでもええ、あの嬢ちゃんもこっちに運びこんどるでな、今は別室で寝かせとるし慌てんでええよ。で、ワイが坊主のトコに足運んだゆう事はどういう用件かもう解っとるやろ?」


 俺達が赤龍を討伐し、ギルドからの招集を受けて山奥からドルムまでアリーシャを連れて来た。つまりエフゲニーは薬の材料を受け取りに来たと言う事だ。


 「ええ、ですが赤龍の素材の分配もありますし、明日全て準備して持ってきます。今日はもう遅いですし、流石にまだ皆疲れが残ってます。それで大丈夫ですか?」

 「かまへんよ、まだ死神蛇の毒もそうは回っとらんしな。素材の準備ができたらまたゆうてな、すぐ取り掛かるさかい、坊主もしっかり体休めてな。ほなまた」


 エフゲニーはそう言って俺達の許を去る。


 「さて、と…。僕もそろそろ宿に帰るかな。セオはどうする?」

 「そうだな…明日の朝まではもう少し体を休めようと思う。流石に今回は俺も疲れた、傷は元々治癒魔術である程度治したのもあって、もう治りきったみたいだけど…。明日、朝に赤龍の素材の分配をしたい、ライ達にも声をかけるのを頼んでもいいか?」

 「ん、了解。ふぁ…じゃあゆっくり休んでね」


 フォルクも半日ずっと俺についてくれていたらしく、俺が施設で過ごすと聞くと、遂に眠そうな目を擦りながらひらひらと手を振り、宿へと引き上げて行った。

 俺もフォルクが施設から出ていくのを見届けて、ゆっくりと目を閉じる。既に眠気はないが目を閉じると辺りが完全に静まり返っているのがわかる。僅かに火山の方から地鳴りが聞こえてくる事もあるがそれ以外には一切の音は無い。どうやら俺とフォルクが話している内に面会者も既に全員引き上げてしまい、この施設にいる冒険者達も皆寝静まった様だ。

 俺はベッドの中から明かりを消して、赤龍との戦いの記憶を思い返しながら夜の闇の中へと意識を落とした。


 ーーー


 「カムイ、カムイよ。聞こえておるか?」


 聖龍神(シャルディン)の声で目を覚ます。目の前に映るのは救護所の天井ではなく、何一つ色のないどこまで続くのかもわからない真っ白な世界だ。


 「ああ、シャルディン。済まない、助かった」

 「だから言ったであろう、心してかかれ、とな」


 美しい銀髪を揺らし、聖龍神は表情無く俺に苦言を呈する。


 「アンタが戦ってくれたおかげで全員の命が助かった、感謝してる」

 「我が戦わねば全滅していたということだ、(うぬ)とクリスには生きて貰わねば困る。辛辣な物言いにはなるが、我や黒龍神、ディアルマの立場からすれば他の者の命などは知った事ではない。結果的に助かった、それだけの事なのだ。故に感謝される覚えはない」


 聖龍神は淡々と話を続ける。怒りでも、呆れでもなく、無機質にただただ苦言する。


 「そういう言い方って…」

 「強くなれ、と言う事だ」


 俺が文句を返そうと言葉を発すると、聖龍神は語気を強めて言葉を遮った。


 「まだ自は弱い。他者を救おうとして自らの身もまだ守り切れぬ。鍛えよ、頭を使え、怠るな、思考を止めるな。大切な仲間を失いたくないならば自が強くなり、自らの手で救え。少なくとも我はそうして来た…」


 聖龍神はそう言って、姿を消した。聖龍神は叱咤激励するつもりでこうやって俺を魂の世界へと呼び出したのだろう。聖龍神の言葉に俺は言葉を失っていた。


 「流石に堪えただろう、カムイくん?」


 聖龍神が去り、入れ替わりでセオドアが姿を現わす。


 「ああ、俺はもっと強くならないとな…」

 「頼むよ、僕だってまだ人生を楽しんでないんだ。利己的な話かも知れないが、僕もまだ死にたくはない。君と僕、そして聖龍神様は言わば運命共同体だ。君が死ねば僕も、聖龍神様も死に、そしてこの世界も衰退の一途を辿る。君一人の肩に世界を託すつもりは勿論無い。僕だって、聖龍神様だって、君の危機には手を貸すつもりだ。とは言え、勿論君にも強くなって貰わなければどうにもならない。もっと僕達を頼って欲しい。僕達も協力を惜しまないつもりだ。聖龍神様は厳しい言葉を投げかけたかも知れないけど、君の理想の為にもそういう言葉を選んだんだと思うんだ。だから忘れないでくれ。君には僕や聖龍神様が、妹が、頼れる仲間達が付いている。だから決して一人なんかじゃないってことを」


 セオドアはそう言って俺の前から霧散する。今まで俺は一人でなんでも抱え込んでいた。仲間達はいるが、それでも最終的には一人だった。この先、俺一人ではどうにもならない事がいくらでもあるだろう。仲間を頼り、セオドア、聖龍神を頼り、力を、知恵を借りる事も覚えなければ。その為に強くならなくては。


 「俺はもっと…強くなってみせるぞ…!」


 ーーー


 再び目を覚ますと、救護所の古びた天井が目に映る。窓からは登ったばかりの朝日が差し込み、そこから白い噴煙をあげるドルマニア山も見えていた。

 俺はベッドから飛び起きるとすぐに身支度をして救護所を飛び出して素振りを始めていた。

 二刻程素振りを続け、汗を拭っていると救護所に向かってくる者達がやって来ていた。


 「よう…。朝から精が出るねぇ…」

 「セオ、もう身体はいいのかい?」

 「兄様、痛むところはもう無いんですか?」

 「ああ大丈夫、この通りピンシャンしてる」


 やってきたのは、クリス、フォルク、クローディア、シェリー、そしてライの五人。俺は腕を捲りあげて力こぶを作ってクリス達に無事をアピールする。

 そして後ろの救護所から二人の人間が出てくる。


 「アンリさん!もう身体はいいんですか!?」

 「ええ、いつまでも寝てはいられませんわ…、っとと…」


 アンリも漸く目を覚ましたらしく、エフゲニーと共に起きてきたらしい。しかしまだ本調子と言うわけでは無いようで顔色も優れず、足取りもややフラついていた。


 「まったく…まだ無理するなっちゅうとんのに坊主の顔を拝むんやって聞かんもんでな…」

 「まだ本調子ではありませんが、少し歩く程度なら問題ありませんわ」

 「…まだ寝てて貰っていいんですがね…」


 エフゲニーは困った顔を、アンリは腰に手を当てて胸を張り、クリスは小声で毒付いている。まぁ少なくとも元気そうでなによりだが。


 「さて、と。赤龍の素材の分配の話だろ? まだ全快じゃない奴もいる様だし、とっとと終わらせようぜ…?」

 「それもそうだね、アンタらも急ぎの素材があるって話だろう?」

 「ええ、なら早速行きましょうか」


 ーーー


 俺達は救護所を後にして、赤龍の遺骸を預けてあるギルドの出張所を訪れた。出張所の外には檻に囲われた赤龍の遺骸が保管されており、ギルドの職員らしき男が檻の入り口で警備にあたっている。


 「おお来たか。さて、報酬の支払いの準備は出来とるがどうするね?」


 出張所で俺達を出迎えたのはドルムのギルドマスターのコビィだ。今回の任務は緊急性の高い任務だった為、現在はこの出張所に今回の件の処理を集約させているらしく、怪我人の受付や報酬の処理、行方不明者の捜索など、今回の赤龍討伐に関連する全ての案件をここで処理しているらしい。


 「まずは赤龍の素材の分配からお願いします」

 「あいわかった、解体の担当の職員を連れてくるでな、先に外で待っておれ」


 コビィに言われた通り出張所の外へと出ると、先程警備に当たっていた職員が檻の錠を外し、中へと招かれる。そして直ぐに解体担当の職員を連れたコビィが俺達の後に続いて檻の中へと入ってきた。


 「セオドア、アンタが赤龍討伐の最功労者だ。先に欲しい素材を言いな」

 「はい、じゃあ先ずは赤龍の胆を。そしてそっちのエフゲニーさんに渡して貰えますか?」


 ギルドの職員は長剣の様なものを取り出し、赤龍の肉を切り開いて内臓を切り分けて行く。そして巨大な胆を取り出すと血を拭ってエフゲニーに渡す。俺とフォルクも事前に入手していた千年樹の実と無音蜂の毒嚢を荷物から取り出してエフゲニーに渡す。


 「よっしゃ、したらワイは薬の用意に取り掛かるよってに、先に行かせてもらうで!」

 「ああ、エフゲニーさん、これも渡しておくよ。アリーシャさんの体力を回復するのに使えると思うんだ」


 そう言ってフォルクが取り出した小瓶は昨日、紅茶に入れた無音蜂のローヤルゼリーだった。


 「おお、こりゃあ無音蜂の女王蜜かいな、やったら直ぐに嬢ちゃんも回復できるやろ、ワイに任しとき!」


 貴重な素材を渡され、腕がなるのか、エフゲニーは軽やかな足取りで薬の素材を持ち、救護所へと走っていった。


 「さて、アタシは約束どおり牙と爪を貰うよ。と言っても…アタシ一人分だしそうだね、右前足の爪と一番大きい牙を二本で十分さね」

 「じゃあ俺達は左前脚の爪と残りの牙を半分と片方の角、そしてロロが言ってたんだが喉に宝玉があるらしい、それを貰うぜ…?」


 ギルドの職員はシェリーとライの告げた素材を丁寧に切り出して行く。中でも赤龍の喉から取り出された宝玉は美しい真紅の玉石で、ロロの話では希少な魔石らしく、研究に使いたいとの事である。

 ライは魔石だけその場で受け取り、それ以外の素材はバーバデールの工房へと運び込むように職員に告げた。


 「残りの鱗と皮は山分けとして、残った素材はアンタらで使いな。アタシらはこれで十分だ」

 「ああ、俺達もこれ以上は貰えねえ。余った素材は売るなり好きにしな」


 その後、ギルドの職員達は総出で赤龍の解体にあたり、俺達も必要と思われる素材をバーバデールの工房へと送る様に頼み、不要な肉や素材はギルドで買い取って貰う様に頼んだ。

 報酬等まで全て精算すると俺達の取り分だけでも帝金貨が一枚、聖銀貨が十五枚に白金貨が十八枚と言う事になった。元々、討伐報酬だけでも帝金貨二枚分を赤龍の討伐に参加し、その生還者で等分すると言うものだった為、それだけでも帝金貨一枚分にはなった様だ。また、それ以外の坑夫の救出や魔物の鎮圧にあたった冒険者達にも活躍の如何を問わず、それぞれ金貨二枚、白金貨二枚が与えられている様で、その報酬を用意した鉱山経営者のドナテロが如何に儲かっているかは想像に難くはなかった。


 「装備の新調の投資を考えてもかなりの収入になったな…。とりあえずは宿に戻るか…」

 「私は一度救護所でエフゲニー様の薬を頂いてきますわ」

 「じゃあこれで解散だね。アンタらも元気でやんなよ!」

 「お前達にゃ世話になったな…。俺達だけじゃ赤龍の討伐は成功しなかった。お前達には感謝してる」

 「ええ、ライさん達もシェリーさんもお元気で」


 素材の分配や報酬の精算を終え、俺達はライとシェリーと別れる。そして出張所を出た所で沢山の取り巻きを連れた男が俺達を待っていた。今回の赤龍討伐の依頼を発注した鉱山の経営者、ドナテロだ。


 「お待ちしておりました、セオドア殿」

 「えっと、ドナテロさん…でしたっけ。僕達に何か御用でも?」


 ドナテロの顔色を伺ってみると、どうにも顔色が悪い。何やら切迫した状況の様だ。


 「一つ、個人的に…いや、この街全体に関わる事なのですが…こんな道端で話す様な事では有りませんので出来れば後程、私の屋敷へおいで頂けると嬉しいのですが…」


 以前、クリスから聞いていた気品の漂う鉱山経営者と言う情報とは異なり、かなり下手に出てきている。話だけでも聞いてみてもいいだろう。


 「わかりました、少し荷物を片付けたりもしたいので後程伺わせてもらいます」

 「おお、そう言って頂けると助かります。セオドア殿の名前を出して頂ければ私の執務室へ案内する様に屋敷の守衛には言付けておきます故、どうか宜しくお願い致します」


 ドナテロは話を終えるといそいそと取り巻きを連れてドルムの街へと去っていった。聞けばこの街の為政者でもあると言う話だ。そんな人間が赤龍討伐の功労者とは言え、一介の冒険者に直接頼みにくる程だ。余程の事なのだろう。どうやらもうひと騒動ありそうだ。

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