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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第八十話:ドルマニア山

 シェリーを含めた俺達六人はバリオンとサントスが戻って来た坑道を進む。

 僅かな松明の灯りが揺らめき、ぼんやり薄暗い坑道の地面にはいくつもの足跡と傷を負い、逃れて来た冒険者達の血痕が幾つも残っている。

 また、坑道の途中には傷を負って動けなくなってしまった冒険者達も多数おり、クリスは道すがら全員に初級治癒魔術を施し、それと同時にシェリーが撤退を勧告する。彼らも痛い目に遭ったせいか、素直に聞き入れて自らの足で出口へと向かって行った。


 「いいのかい、そんなにバカスカ治癒魔術を使って。魔素(エーテル)も有限なんだし、いざ赤龍との戦いで魔素が尽きたなんて笑えないよ?」


 シェリーはまだクリスが桁外れの魔素総量を持つことを知らない。十数回の初級治癒魔術程度、クリスにとっては微々たる魔素消費に過ぎないのだ。


 「大丈夫ですよ、クリスは魔素総量も魔術の技術も僕を遥かに凌ぎます。クローディアさんもクリスの魔素総量が桁外れなのを知ってる筈ですし、何よりサヴィオラを討ったのはクリスですから」


 その話を聞いたシェリーは訝しげに「本当かい?」と一言、クローディアに確認するが、クローディアも静かに頷いて、当時の事を話す。


 「サヴィオラを捕らえて帰ってきた時に結構な魔素を使ったんじゃないかって思って私の加護で少しでも回復の足しになるかと思ってたのよね。でも回復するどころか私の魔素の方がクリスの魔素を吸収して回復してしまったくらいなのよ。あのコの魔素総量は本当に桁外れよ」


 クローディア自身もなったばかりとはいえSー級の魔術師であり、それなりの魔素総量を持っている筈だ。それでも彼女の魔素総量をクリスは大幅に上回っている事は想像に難くない。


 「ふぅん…クローディアが言うんなら間違いはなさそうだねぇ」


 クローディアの説明もあり、納得したシェリーも以降は何も口出しはしなかった。

 

 ある程度坑道を進むとシェリーの耳が突然真っ直ぐに立つ。この先から聞こえてくる音に反応したらしく、彼女自身の毛や尻尾も同時に逆立っていた。


 「この先だ!鬼蜘蛛(オーガスパイダー)に囲まれてる!」


 そう言って突然走りだしたシェリーを俺達も追いかける。

 先に進むに連れて、剣がぶつかり合う様な音がどんどん近づいて来る。どうやらこの先で戦闘が繰り広げられているらしい。

 程無くしてまた開けた空間に辿り着くと、そこには冒険者達が巨大な蜘蛛達に囲まれていた。

 囲いの中の冒険者達の内、三人が武器を持ち、他の冒険者を背に蜘蛛の攻撃を凌いでいるが、その三人共が少なくない傷を負っており、かなり劣勢のようだ。


 「くっ…厳しいな…!シェーブル、どうにか一点でも突破しないと、もう持たない!」

 「つっても突破した所で後ろのこいつらがやられちまうぞ!」

 「私も限界よ、もう魔素が残ってない!…誰か、助けて…!」


 戦闘をしている三人の冒険者達の内、女性の魔術師が弱音を吐く。

 それを察知したかの様に二匹の蜘蛛が動きだし、鋭利な脚で両断せんと女性に振り下ろした瞬間だった。


 「…間に合った様だね」


 振り下ろされた筈の二匹の蜘蛛の脚は襲われていた冒険者を救うべく、割って入ったシェリーの爪によって刎ね飛ばされていた。

 命を奪われるものと覚悟し、目を固く瞑っていた女性冒険者は恐る恐る目を開き、助かった事を確認すると、脱力してその場にへたり込む。


 「まだだ!油断するな!今ので一斉に来るぞ!」


 仲間が攻撃を受けて刺激されたのか、鬼蜘蛛達が一斉に冒険者達に襲いかかる。が、シェリーに追従して駆け出していた俺達も既に援護が間に合う位置に迫っていた。


 「射線を開けますわ!皆さん、伏せて!」


 攻撃の一番槍はアンリだ。文字通り魔導器の槍を鬼蜘蛛に突き立て、同時にアンリは魔導器に魔素を注ぐ。

 魔素が注がれた魔導器の槍は緑の光を帯びると、激しい衝撃波を放ち、俺達に背を向けていた巨大な鬼蜘蛛達数体を軽く吹き飛ばす。

 しかし、鬼蜘蛛達は怯む事なく冒険者達に凶刃を突き立てようと前脚を振り上げている。冒険者達はアンリの声に従って伏せており、このままでは回避ができない。


 「六連星(プレアデス)


 放たれた六本の矢が六匹の鬼蜘蛛の脳天を正確に貫く。矢を放ったのは勿論フォルク。冒険者達に迫っていた鬼蜘蛛達は急所を貫かれ全てその場に力無く突っ伏す。直近の危機は去ったが、奥にはまだまだ大量の鬼蜘蛛達が押し寄せてきている。


 「近づかせるもんか!属性斬エレメンタルスラッシュ炎爪(フレイムネイル)!」


 俺は走り込みながら剣に魔力を込め、大きく跳躍する。

 打ち下ろす様に剣を薙ぎ払い、炎の剣戟を放つ。

 剣戟の飛んだ先は既に動かなくなった鬼蜘蛛の死骸がなの倒れていた鬼蜘蛛達はいき炎上網が出来上がる。

 仲間達の死骸を踏み越えようとしていた鬼蜘蛛達は炎上網に巻き込まれ、火達磨となっていた。

 さらに後続の鬼蜘蛛達は炎の壁を前に進軍を躊躇っている様だが、俺達の攻撃はまだ終わらない。冒険者達も巻き込まれるのを避ける為に、此方へと退避している。先程へたり込んでいた女性冒険者もシェーブルと呼ばれていた大男が小脇に抱えている。


 「いい足止めね。クリス、合わせて!邪渦門(イビルゲート)!」


 クローディアが短杖に込めた魔力を解放すると、炎上網で足止めを食らう鬼蜘蛛の群れの中心の空間が歪みだす。クローディアの闇魔術だ。歪んだ空間は小石や砂を吸い出し、やがて鬼蜘蛛さえも吸い込み始めた。

 鬼蜘蛛達は歪みの中心へと引き寄せられ、やがて巨大な鬼蜘蛛の団子のような塊が出来上がる。そして、クローディアの隣では既にクリスが手を前にかざして魔術を放つタイミングを図っている。


 「ここ、爆炎(エクスプロード)!」


 クリスの身に付ける手袋の甲にある玉石が一瞬、強く赤い光を放つ。その瞬間、邪渦門によって吸い寄せられて出来上がっていた鬼蜘蛛達の塊が爆炎と共に弾け飛ぶ。

 爆風に巻き込まれた鬼蜘蛛達は炎に巻かれながら、千切れた脚や体をバラバラと散らす。

 かなりの数の巨大な鬼蜘蛛達だが所詮はB級の魔物、俺達の相手ではなく、あっという間に蹴散らしてしまっていた。


 「S級冒険者達か…何て強さだ…」

 「はぁ…はぁ…全く…死ぬかと思ったぜ…」

 「…よかった…私、まだ…生きてる…」


 三人を含めた冒険者達は皆ボロボロだ。先程の鬼蜘蛛の群れに襲われ、かなりの傷を負っている。


 「クリス、治療してやってくれ」

 「勿論です、広域治療(ワイドヒール)!」


 クリスの広域治療によって冒険者達の傷がみるみる塞がっていく。傷の治療が済むと先程、鬼蜘蛛の群れと対峙していた三人が立ち上がり、代表として礼を告げにやってきた。


 「すまない、助かった。僕はフェタ、僕達はA級の冒険者でね、こっちの新米冒険者達を先導してたんだが統率が上手く取れず、鬼蜘蛛を刺激してしまってね、群れを連れてやってきた奴らに囲まれてしまったんだ」

 「俺はシェーブル。数匹なら俺達で何とかなったんだがな、流石に数が多過ぎてな…。流石にもうダメかと思ったが命拾いしたぜ、ありがとよ」

 「ありがとう、私はリコッタ。他のみんなを代表してお礼を言わせて。最初は少なかったんだけど、倒す内にどんどん仲間を呼ばれちゃって…」


 三人は並んで礼を述べながら頭を下げる。いくらA級の冒険者と言えど、あれだけの大群に囲まれては数で押し切られてしまうと言う事か。

 俺達は規格外の魔術師であるクリスがいるからいいものの、クリスがいなければこの規模の群れ相手ではそれなりに手を焼いていただろう。

 俺も冒険者になる前、冒険者ギルドの認定試験であった棘土竜(スパイクモール)の群れとの戦いを思い出していた。


 「…サルディアのギルドのシェリスさん、それに『宵闇』のクローディアさんですね、こちらの方々は…?」

 「最近ドルマニアン諸島にやってきたアトラシアからの冒険者さ、全員S級の冒険者で『火山』のを討伐したのもこいつらだよ」


 フェタの問いにシェリーが簡単に答え、俺達はそれぞれ彼らに自己紹介を行う。

 彼らは俺達がサヴィオラを撃破した事を聞いて驚き、さらに俺とクリスの年齢を聞いて更に驚いていた。


 「弱冠十三歳でS級の魔剣士と魔術師…いや、大魔術を使いこなせるとなればもはや賢者の域ね…」

 「魔剣士も剣術と魔術を扱えるだけだと思っていたけど、両方の融合か…興味深いな…」

 

 フェタとリコッタの二人は興味深く俺とクリスを見ている。しかし、シェーブルが二人の肩を叩き、「行くぞ」と促されていた。


 「僕達は引き返すよ。リコッタも魔素を消費し過ぎたみたいだし、無念だけどこれ以上の探索は難しい。冒険者達を連れて帰るよ」

 「私達もまだまだね。鍛え直さないといけないわ」

 「ここから右の坑道を進めば奥へ行ける。左は行き止まりだ。あの坑道の先から鬼蜘蛛以外の魔物が出てくる筈だ。じゃあ赤龍の討伐、頑張れよ!」


 そう言って彼らは冒険者達を引き連れて去って行く。俺達も探索再開だ。

 シェーブルに教えられた通り、右側の坑道に入る。

 坑道を進むに連れて、周囲の温度が急激に上がっていくのがわかる。


 「この先からは足元注意ね」

 「火口…ですか」


 坑道の出口は明るくなっており、坑道を抜けた先はかなり広い空間になっていた。

 壁面は赤熱した溶岩に赤く、煌々と照らされ、蒸せ返るような熱気に包まれている。

 遠目から数種類の竜鱗種の姿も見え、先に訪れていた冒険者達が戦っているのが見える。

 

 「ここの竜鱗種は本来大人しい種ばかりでね、こんな風に鉱山の中をうろついてるんだけど人を襲ったってのは殆ど無いんだ。むしろ、彼らが脱皮して残った脱け殻から取れる鱗はドルムの武具職人達に重宝されてるくらいでね。でも見ての通り、あいつらは冒険者達に襲いかかってる。赤龍がやってきた影響で凶暴化してるんだろうね」


 シェリーの説明を聞き、火口内に足を踏み入れると、早速大きな蜥蜴型の竜鱗種が俺達の前に立ちはだかる。


 「グラララララララ…」

 「火炎蜥蜴(フレイムサラマンダー)…!硬い鱗と吐き出す炎に注意しな!」


 火炎蜥蜴は息を大きく吸い込む。間違いない、炎を吐く予備動作だ。


 「ブレスがくるわ!」

 「土壁(アースウォール)!」


 土壁を火炎蜥蜴の目の前に発生させると、壁の両脇から真っ赤な炎が溢れ出ているのがわかる。

 いち早く火炎蜥蜴のブレスを察知し、防御を敷いていた為、全く被害を受けずに済んだ。もしまともに吐かれていたなり多少なり被害を被っていただろう。

 土壁も炎への防御にしか役に立たず、火炎蜥蜴の頭突きで簡単に崩れ去ってしまう。


 「竜鱗種なら氷が有効な筈…氷柱雨(アイシクルレイン)!」


 クリスが竜鱗種に有効とされる氷属性の魔術を放つ。しかし、放たれた無数の氷柱は火炎蜥蜴に大した被害を与える事なく硬い鱗に弾かれ、ただただ砕け散るばかりだった。


 「効いてない!?」

 

 以前、巨大蜥蜴(ギガントバシリスコ)に効いていた氷属性の魔術も火炎蜥蜴の強固な鱗の前には全く意味を為さずクリスは動揺する。

 間髪入れずにフォルクが矢を連射するもやはり鱗に阻まれ傷一つ付いていない。


 「どうやら物理攻撃はあまり意味が無さそうだね」

 「奴の鱗は鉄を含んでて、ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしないよ」

 

 火炎蜥蜴は身震いをして鱗に付着した氷を振り払うと前脚を振り上げ、鋭利な爪でこちらを切り裂こうとする。

 しかし、その攻撃は間に入ったアンリの盾によって受け流され、空を切った。


 「少なくとも私の攻撃も通りそうにありませんわ。セオ様、私が攻撃を引きつけます!撃破の手立てを!」


 アンリがひたすら火炎蜥蜴の攻撃を捌いては、槍で突き、火炎蜥蜴の注意を引きつける。

 その間、俺は火炎蜥蜴の攻略の手立てを考えていると先程のシェリーの言葉に気が付いた。


 「鉄を含んだ硬い鱗…待てよ、鉄か…だったら!アンリ、退がれ!」

 「はい!」


 俺の声に反応し、アンリは大きく後ろに飛び退き、入れ替わりに既に剣に魔力を纏わせて俺が先頭に躍り出る。


 「属性斬・雷牙(サンダーファング)!」


 電撃が一直線に火炎蜥蜴を頭から穿つ。

 火炎蜥蜴への電撃は有効だったようで、火炎蜥蜴は電撃によって激しく痙攣した後、大きな口から黒煙を吐いていた。表皮や鱗は熱や冷気、打撃にも強いのだろうが、内臓に関しては話は別なのだろう。

 内側から内臓を電熱で焼かれ、火炎蜥蜴は見るからに弱った様に動きを鈍らせ、だらし無く口を開いていた。

 フォルクはそんな状態を当然見逃す筈も無く、追撃を仕掛けていく。


 「鱗で守られた部分は丈夫だけど、…そうじゃない部分ならどうかなっ!?」


 目一杯に矢を引き絞り、渾身の一射を火炎蜥蜴の開いた口に向けて放つと、錐揉みしながら一直線に飛んだ矢は口腔内から大きな穿孔を残して火炎蜥蜴の体内を貫いていく。

 体内への矢の侵入を許した火炎蜥蜴は一瞬だけ大きく仰け反り、轟音と共に地面に伏せると、二度と動く事はなかった。

 戦闘態勢を解除し、シェリーは動かなくなった火炎蜥蜴を見つめながら一人呟く。


 「アタシが昔一人で苦労して倒したあの火炎蜥蜴を実質二撃、か…。アトラシアからの冒険者と思って侮ってたけど四人とも…いや、クローディアともしっかりとした連携が取れている…もしかしたら本当に赤龍をやれるかも知れないね…」

 「もしかしたら、じゃありませんわ」


 シェリーの独り言にアンリが横槍を入れると、彼女は目を丸くしていた。

 

 「そうです、アンリさんの言う通り、私達は絶対に赤龍を討つんですよ」

 「まぁ…正直不安しかないけどここまで来たら弱音なんて吐いてらんないわ」

 「そうだね。あとはセオの指揮次第、かな」


 アンリの言葉を皮切りに仲間達は次々にシェリーに声をかける。


 「俺達は絶対に赤龍を討たなきゃいけない理由があるんです。それに協力してくれる仲間達の為にも…俺自身が誰より勝利を確信しないわけにはいきません。…たしかに厳しい戦いになるでしょう。でも、戦う前から負ける心配をする奴なんていませんよ」


 そう締め括ると、シェリーは薄く笑う。


 「そうだね。…セオ、アンタの言う通りだ。悪いけど正直、アタシはアンタ達を試してた。本当に赤龍と戦う実力と覚悟があるのかってね。実力は申し分ない事も分かったし、そこまで言われちゃアタシも一口乗るしかないさね。…セオ、アタシの命、アンタに預けたよ」


 シェリーはこれまで協力すると話しながらも、俺達の実力と覚悟を推し量っていた。しかし、彼女は漸く本当の意味で俺達に協力をすると約束してくれた。

 俺達は火口付近で戦闘している冒険者の援護をしながら奥を目指す。シェリーも先程の言葉通りにその瞬発力を活かして魔物達との戦闘の機先を制してくれている。

 勿論、俺達が魔物に襲いかかられる事もあったが、既に弱点を知った火炎蜥蜴や、火炎蜥蜴程の防御能力を持たない魔物など俺達の敵では無い。

 道中の魔物を蹴散らしながら先行する冒険者達を追って火口の通路を突き進む。その先で火口の通路は途切れ、そこから再び坑道が続いており、俺達はその先へと足を踏み入れていく。

 坑道を進む途中、坑夫を救出し、引き返してくる冒険者達とすれ違う。彼らの話を聞くに、まだ俺達の位置は鉱山の中程らしく、この先からは下り道となるそうだ。

 そして、先行しているS級冒険者達もこの先に足を踏み入れているそうだ。赤龍との戦いには彼らとも力を合わせる必要があるだろう。俺達の歩みは自然と早くなっていった。

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