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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第七十九話:洗礼

 赤龍討伐作戦当日、予定していた起床時間よりも早く目を覚ましていた。

 既に昨日新調した武具を身につけ、少しでも身体に馴染む様に俺はウォーミングアップを始めていた。

 眠れなかった、と言うよりも大きな戦いを前に気持ちが昂ぶっていたのだろう。素振りを続けているが寝不足の時の様な気怠さは無く、むしろ身体は軽い。そんな折、久しぶりに俺の内側から声が響く。


 (おはよう、カムイくん。いよいよだけど調子は良さそうだね)

 

 声の主はこの身体の本当の持ち主、セオドアの声だ。


 (ああ、負けられない戦いだからな。万全だ)

 (カムイよ、決して油断するでないぞ。赤龍に挑むとあらば、我の知る限り、奴は今まで(うぬ)が斃してきたどの魔物よりも遥かに強き魔物よ。今の自らが勝利を得られたとしてもただでは済むまいて、心して掛かれよ)


 この古風な話し声の主、これはガスターによってセオドアの身体に俺の魂と共に宿らされたもう一つの魂、この世界を生み出した輪廻の神の片割れである聖龍神ことシャルディン・シルバーホーンの声だ。


 (俺達の誰も死なせやしないさ。そうじゃなきゃアリーシャを含めた全員が後悔する。アリーシャを救う為に誰かが犠牲になったんじゃこの戦いに挑む意味が無い。きっと全員で戻ってくる)

 

 俺は自らの内にそう言い放つ。彼らの表情は見えないが、何故か二人が笑っている様な気がした。


 (カムイ)


 聖龍神(シャルディン)が呼ぶ。


 (なんだ)

 (死ぬなよ)


 ぽつりと零したシャルディンの一言が俺の気を引き締める。


 (ああ、勿論!)


 俺の内側にいる二人との会話を終えたくらいで部屋のドアが開く。そこにはやはり装いを新たにしたクリスが立っていた。


 「おはようございます、兄様。もう皆目を覚ましているみたいで、予定より早いですが朝食にしませんか?」

 「そうだな…食事の後直ぐは動きにくいし…。わかった、皆に伝えておいてくれるか?」


 クリスは小さく頷くと直ぐにそれを伝えに行くべく、部屋を出て行った。

 クリスが部屋を去った後も少しだけ素振りを続け、うっすらとかいた汗を拭い、食堂へ向かう。

 食堂に着くと既に仲間達は全員がテーブルについていた。


 軽い食事を早急に済ませると、ギルドからの遣いがやってくる。


 「セオドアとその仲間達に間違いないな? 緊急事態が発生した。直ぐにギルドへ向かってくれ」


 遣いの男はそうとだけ伝え、食堂をさっさと後にする。

 俺達はその指示に従い、急いで準備を済ませてギルドへ直行した。


 ドルムのギルドに到着すると既に冒険者達が集結しており、その中にはシェリーの姿もあった。俺は早速挨拶を兼ねて話しかける。


 「おはようございますシェリーさん。緊急事態って何があったんです?」


 俺の声に気付いたシェリーが振り向き、小さく手を挙げる。


 「大方予想はつくけど、まぁ厄介な状況なのは間違いないだろうね。ああ、どうやら説明が始まるみたいだよ」


 シェリーがそう言って指をさした先にはギルドマスターのコビィが立っていた。


 「ウォッホン!予定の集合時間より招集が早くなって申し訳ない。早速だが本題に移らせてもらう。現在ドルマニア山内部では魔物が活性化しており非常に危険な状況になっておる」


 コビィの発表にギルド内がどよめく。赤龍の討伐が目的だったがそれに輪をかける形となった魔物の活性化だ。


 「話はここからじゃ、先日より坑夫の護衛の為に先に派遣しておった冒険者達も一部、連絡が取れなくなっており、ドルマニア山の内部は一刻を争う事態となっておる。故に諸君らを予定より早く招集する次第となった」


 ギルド内のどよめきはさらに大きなものになり、冒険者達は動揺している。しかしそれを掻き消すかのようにコビィの演説が続いた。


 「だが!これから行う事自体は元の依頼内容とは変わらぬ。S級以上の冒険者は赤龍の討伐を、A級冒険者は活性化した火山内の魔物の討伐、及び鎮圧、B級以下の冒険者はA級冒険者達と共に行動し、その援護と坑夫達の避難誘導となる!冒険者達よ、現在ドルマニアン諸島は赤龍の出現によって未曾有の危機に晒されておる!だが儂はこの事態を寧ろ喜ばしく思っておる。何故ならば、お前達ならばこの事態を収められると確信しておるからだ!」


 コビィの演説に力が篭る。冒険者達の目線は全てコビィの演説に向けられ、ふつふつと湧き上がる感情が今にもはち切れんばかりだ。そしてコビィがさらにもうひと押しを加える。


 「儂はこの中にドルマニアン諸島を独立へと導いた偉大なるウィンズ・チャレンジャーに名を連ねる英雄となる冒険者が必ずおると信じておる!冒険者達よ!

恐れるな!真実はその道の先に待っておる!全てを求めよ!お主達が求める全ては至る所にただ漫然と転がっておる!」


 コビィが演説の最後をウィンズの言葉で締めくくると、冒険者達は湧き上がる感情を爆発させ、ギルド内に大きな歓声が巻き起こる。

 士気は十分、冒険者達の中にこれから行われる壮絶な戦いを前に、不安の表情を浮かべる者は誰一人としていない。


 「全く、あの爺さん、人をその気にさせるのは超一流だねぇ」


 シェリーはそう言って苦笑いを零す。しかし一瞬険しい顔を覗かせ一言呟いた。


 「さぁて、犠牲者もどれだけ出ることか…」


 周囲にその呟きは聞こえる事は無く、歓声の中に消えていく。聞こえていたのは俺、ただ一人だけだった。


 熱に浮かされた冒険者達は皆、我先にと次々とギルドを後にし、ドルマニア山へと向かい始める。

 俺達はそれを見送りながら出発の準備を進めていた。


 「さってと、準備はいいかい?」

 「はい、全員いつでも行けますよ。でも、こんなにゆっくりしてていいんですか?」


 シェリーに尋ねると、彼女は目を瞑り、指を振りながら舌を鳴らす。


 「わかっちゃないね。こういうのは先に動き出した奴から先に倒れてくモンさ。周りを見てみな。ここに残ってんのはほぼ全員がA級以上でベテランの冒険者だ。一部はコビィの爺さんの話通り、B級以下の冒険者の先導で先に行ったのもいるけどね。まぁ話を聞かないで走ってったひよっ子共の大半はおっ死んじまうだろうさ」


 俺はそう言われ辺りを見回す。その中にはシェリーの言うまだ残っている面子とはかけ離れた、見覚えのある二人の男女の姿があった。


 「ちょっとミハイル、早くしなさいよ!みんな行っちゃったじゃない!」

 「ちょ、ちょっと待ちなよソフィー。今荷物の確認をしてるんだ…、万が一に備えとかなきゃ…」


 荷物の確認をしているミハイルをソフィーが急かす。その姿はとてもじゃないがベテランの冒険者の姿には全く見えない。


 「ま、まぁああいう奴らもいるさね…」

 「ミハイルさん、ソフィーさんも行くんですね」


 声をかけて彼らもようやくこちらに気付いたようだ。


 「あっ、師匠。もう、ミハイルが心配性を拗らせて

なかなか出発できないんですよ!」

 「ぼ、僕は危険を考えて…ソフィーだってもう少し慎重になるべきだよ!」


 この二人はただ単に意見を違えてなかなか出発に漕ぎ着けていないだけのようだ。


 「心配性なくらいでちょうどいいのさ。今回の現場はそれくらい危険な所だ。さて、そろそろ最初に出て行った連中がそろそろドルマニア山の入口に着く頃だし、アタシ達もそろそろ出発しようか」


 周囲を見回すと残っていた他の冒険者達も出発の準備を終えようとしている。俺達も荷物を持ち、ギルドを後にしてドルマニア山を目指す。

 朝焼けの街並みはとても静かでまだ薄暗く、空には微かに雲がかかり、火山の周辺の空だけが煌々と輝いている。


 ドルムの街からドルマニア山まではそう遠く無く、ギルドを発って四半刻を過ぎた程で坑道の入口へ辿り着いた。そこには既に脱出した坑夫や、逃げ出してきた低ランクの冒険者達がへたり込んでいる。


 「さぁいよいよだよ。そこの二人、ミハイルにソフィーだったか。恐らくだけど入ってすぐにとんでもない光景を目の当たりにすることになる。それで完全にびびっちまったならとっとと引き返しな。そっから先は命の保証はできないよ。言っとくけどこいつは脅しなんかじゃない、アタシの本心からの忠告、そして警告だ。わかったね?」


 シェリーはミハイルとソフィーに対して厳しい言葉を告げる。二人は声も出さず、ただただ唾を飲むばかりで無言で頷いた。


 「じゃあ中に入るよ!アタシについて来な!」


 シェリーは早速得物である鉤爪付きの手甲を身につけ、坑道の中へと足を踏み入れる。

 入口の通路を進むと先に足を踏み入れた冒険者達の掛け声とも悲鳴ともつかない声が響いてくる。

 それにも臆せず前に進むと早速少し広くなった空間へと辿り着く。そこには巨大な蜘蛛のような王虫種のバラバラになった死骸と、それに襲われたであろうまだ若い冒険者達の亡骸が無残にも散らばっていた。

 当然の様にミハイルとソフィーの二人はその光景を目の当たりにして顔面を蒼白させて絶句する。


 「コビィの爺さんが言ってたろ? B級以下の冒険者はA級冒険者についていけってね。コイツらは鬼蜘蛛(オーガスパイダー)って魔物でB級の魔物でも上位の魔物だ。糸も毒も無く、普段は大人しいが一度暴れりゃ鋭く強靭な脚で簡単に駆け出し冒険者の身につける革鎧を貫き、こんな風に無慈悲に引き裂くのさ。コイツらは大方、その言葉を無視して功を焦って鬼蜘蛛を刺激しちまったんだろう。さて、二人共。この光景を目の当たりにしてまだ心は折れてないかい?」


 ミハイルとソフィーは悲惨な光景を前に一瞬後退りをしようとするが、歯を食いしばり踏み止まる。


 「ほう、覚悟はちゃんとできてる様だね。上出来上出来。だがまだ発展途上ところかねぇ。さてさて、問題はここからだ。アタシ達の目標はアンタ達二人とは違って赤龍の討伐だ。だからアンタらはとてもじゃ無いが連れては行けないわけだ」


 シェリーは尖った耳を動かしながら意地の悪い笑みを浮かべてミハイル達に話を続けている。


 「えっと、つまり僕達はここで置いてけぼり、と…?」

 「ちょっとちょっと無理無理無理無理!」

 「察しがいいね。アンタらはアンタらでなんとかしな。何ならまだ坑道にゃ入ったばかりだし今すぐ帰れば無事に帰れる」


 ニヤニヤと笑い耳を小刻みに動かすシェリーを見かねたクローディアが呆れたように声をかける。


 「もう、流石に意地悪言いすぎよ。耳を動かしてるって事は何か聞こえてるんでしょ、全く!」


 シェリーはクローディアに怒られて舌を出す。すると坑道の奥から聞き覚えのある騒がしい話し声が反響しながら近づいてくるのが分かる。


 「…ったく、ほんに骨の折れる仕事やっちゃな!」

 「ほんまやで、鬼蜘蛛やたらと増えとるやん!おかげでワイの一張羅が体液でベットベトや、ついとらんわー」


 坑道の暗がりから現れたのは気絶した坑夫を抱えたいつぞやの騒がしい角馬種の魔族の冒険者の二人組、たしかバリオンとサントスの二人だ。

 二人共かなりの戦闘を経た後のようで身体中が緑色の体液に塗れている。

 談笑しながら広間へと出た彼らはこちらに気付き、小走りで駆け寄ってきた。


 「おう、シェリーにセオ坊、漸くご到着かいな」

 「ああ、状況はどうだい? 見た感じ、かなり悪いみたいだね」


 シェリーがそう話すとバリオンは鼻息を荒げて地団駄を踏む。様子から察するにかなり憤慨しているらしい。


 「どうもこうもないわ!さっき来たばっかりのひよっ子冒険者達共がやったらめったら魔物に斬りかかって返り討ちに遭いよる。おかげで大人しくしとりゃ相手にせんでもええ鬼蜘蛛まで気い立っとるでな、さっきも数人助けて来たトコやで」

 「助けたはええけどワイらの忠告も耳にせんと、また奥へ走って行きよったで。勇敢なのと無謀なんは別物なんやけどな」


 バリオンの文句に重ねてサントスも呆れたような口調で愚痴を呟いていた。


 「まぁどうせそんなこったろうと思ったよ。その辺に転がってる死体が全て物語ってるね。…ところで二人共、今手は空いてるかい?」


 馬面の二人はシェリーに尋ねられ、目を見合わせる。


 「まぁこの伸びとる坑夫のオッチャンを外に出したら手は開くけども…」

 「じゃあ決まりだね、ミハイル、ソフィー。アンタらはこの二人について行きな」


 突然のシェリーの決定にバリオンとサントスだけでなくミハイルとソフィーも目を皿のようにして驚いていた。


 「さっきの自分達で何とかしろってのは冗談さ。この馬鹿二人はこれでも何だかんだA+の冒険者だからね、実力も現場の経験も十分さ。じゃあバリオン、サントス、二人を任せたよ」

 「待て待て待て待てェ!ワイらはガキのお守りちゃうねんぞ!」

 「せや、こっちはワシらだけで精一杯なんやて、こんならの世話まで手ェ回らへんわ!」


 さらりとミハイルとソフィーを押し付けようとするシェリーに二人は詰め寄って不満を訴える。ミハイルとソフィーは黙って見ている事しか出来なかった。


 「言いたいことはそれだけかい?」


 シェリーは一言、そう言って笑顔で指を鳴らすとバリオンとサントスの二人は縮み上がり、大人しくなる。

 三人の姿はさながら獲物を前にした肉食獣と喰らわれる寸前の草食獣のそれだ。


 「み、ミハイルにソフィーやったな、坑夫のオッチャン外に出して早よいくで!ついて来や!」

 「早よついてこんと置いてってまうで!」

 「「は、はい!」」


 バリオンとサントスはシェリーの圧力に負け、渋々ながらミハイルとソフィーについてくるように言ってそそくさと火山の入り口へと引き返す。ミハイル達も彼らに従い、追従していく。

 シェリーはというと、四人を見送り、うんうんと頷いている。


 「さて、アンタらの仲間をこう言うのもなんだが、お荷物もいなくなったしアタシらは先に進もう」

 「大丈夫、なんですかね…?」


 出発を提案するシェリーに疑問を投げかけると彼女は薄く笑っている。


 「大丈夫さ、さっきも言ったけどあれで二人ともA+だよ。赤龍や魔物の巣にでもぶつからなきゃ二人に任せておけば問題はない筈さ。さて、アタシ達も先を急ごうか」


 そう言ってシェリーは親指を立ててバリオンとサントスがやって来た坑道を指差す。

 普段ならば景気よく鶴橋を打ち込む音と坑夫達の大声が響くというドルマニア山は今や剣戟と悲鳴が鳴り響く死の火山となっている。

 積み上がる物も鉱石の山ではなく、乗り込んだ冒険者や暴れだした魔物の屍の山だ。それはこれから赤龍に挑む俺達にも言える事だろう。

 やるかやられるか、魔物との戦いにはそれ以下も、それ以上もない。

 この先に待ち受ける強大な魔物との戦いを前に俺達は息を呑み、気を引き締め直す。

 俺達はまた一歩、また一歩と坑道の奥へと足を進めていった。

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