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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第六章:波乱のドルマニアン諸島
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第六十九話:宵闇の奪還作戦・中編

 「これからいくつか質問させてもらう。正直に答えろ。全て終わって話したことが全て本当だったならお前達の命は保証してやる」


 土に埋まった賊の二人に威圧的にそう言い放つが二人の男は何やらにやついている。その視線は特に俺とクリスに向けられていた。

 成る程、確かに俺とクリスは成人前。見た目にもまだ幼さがあるのだろう。ミハイルとソフィーも成人済みとは言え未だ十五、六と若い。加えてフォルクも実際は百歳を超えているが見た目にはまだ二十代半ば、そしてアリーシャも三十路そこそことは言え体が鍛えられており抜群のプロポーションを保っている。二十代半ばと言っても誰も疑いはしないだろう。

 捕らえた賊の二人は若年者ばかりの俺達を前に完全に舐めきった態度を取っていた。


 「あー…成る程。クリス、どうやら俺達は舐められてるらしい」

 「その様ですね兄様。どうしましょうか?」


 恐らく二人は俺達を少しばかり腕が立ち、いい気になった成人前の冒険者、とでも考えているのだろう。

 どこかで命までは取らないだろうとタカをくくっているらしい。どうやら此方も誠意(・・)を示す必要がある様だ。

 俺はクリスに耳打ちし、ある魔術を一人に行使するように指示する。


 「成る程。それはいい考えですね兄様。今まで使う事が無かったのでどうしようかと思っていましたし…。では早速準備を…」

 「ああ、クリス、万が一がある。周囲に凪の領域(カームフィールド)を展開しておいてくれ」


 クリスにそう言うと周囲を包みこむ様な範囲で凪の領域を展開し、先程耳打ちした魔術の使用準備を開始する。胸の前にかざした両手の間、そこには禍々しい紫色の靄がかった魔力が形成されていく。


 「さて、二人とも自分達の置かれている立場がイマイチ理解出来ていないらしい」


 俺が二人に着けていた猿轡を解いてやると、男達は更に下卑た顔で笑っていた。


 「へっ、ガキが抜かすじゃあねぇか。お前みたいなガキが人を殺せんのか? ああん?」

 「子供はもう寝る時間だろう? ははっ、痛い目見る前にさっさと帰るんだなぁ」


 余裕を顔に現す男達のにやけ面は非常に不愉快だ。しかし、こちらがそれに憤慨する様子を見せるわけにはいかない。

 あくまで俺は涼しい顔で彼らの挑発的な言動を聞き流して剣を抜き、片方の男の耳に当てがった。


 「兄様、準備できました」

 「俺達に人が殺せるか? こう見えて海賊や盗賊を斬ってきてる。それなりには修羅場は潜ってきたつもりだ。…クリス、やってくれ」

 「はい、兄様。三重毒(トライヴェノム)!」


 クリスは小さく頷き、先程創り出していた禍々しい魔力の塊を解き放つ。その魔力の塊は先程までの禍々しい紫から、おどろおどろしさを孕んだ赤黒い塊へと変色し、さらに禍々しさを増していた。

 クリスから解き放たれた魔力は二人の男の片方に向けられ、渦を巻きながら男の頭から吸い込まれていく。

 クリスの放った魔力の塊を全て取り込んだ男にすぐにその影響が現れる。

 肌は赤黒く変色し、黒く浮き上がった血管は首を断たれた蛇のように暴れまわっている。さらに男は口、鼻、目、耳、毛穴、頭にある穴という穴全てから血を流し始めた。


 「ああぁ…ガボッ!うぎゃあああァァァァ!痛ぇ!全身が痛え!血が…? …!ゴボッ…オエエッ…止まら…グボェッ…!…ハァ…ハァ…ヒィッ!来るなっ!バケモノッ!嫌だ…喰われたくない…アガアアアァッ…!」


 クリスが行使した魔術は闇属性の上位魔術である三重毒だ。魔力によって生み出した強力な三種の毒を纏めて食らわせると言うもので、受けた者は激しい出血と強烈な全身の痛み、そして恐ろしい幻覚に襲われる。


 「これで少しは答える気になったか? どうする、素直に答えるならすぐにそいつを解毒してやるけど。 あぁ言っておくけど今の悲鳴も魔術で掻き消えてる。助けは来ないぞ?」

 「…断れば?」

 「勿論お前もだ」

 「わ…わかった!答える!答えるから、クソっ!あんな惨たらしい死に方はごめんだ!」


 隣で苦しむ仲間を見て恐れを抱き、男は観念したらしく、その顔には恐怖によって零れた涙と冷や汗、そして仲間から浴びた血飛沫が滴り落ちていた。


 「クリス、解毒と回復を。やっと話してくれる気になったみたいだ」

 「分かりました兄様。蘇生(リバイバル)!」


 クリスが治癒魔術を発動させると先程まで毒によって苦しんでいた男から出血が止まる。

 毒によって破壊された体組織が治療され、赤黒く変色した体色も黒く浮き上がり蛇のようにのたうっていた血管も元通りになる。

 但し出血量は決して少なく無く、出血によるショックで既に気を失っていた。


 「時間もない、早速質問だ。まずあの遺跡には地下室があるはずだが、どうやって入ればいい? それと警備の体制はどうなってる?」

 「フン…そこまで調べがついてんのか…。西側の通路の途中の壁の一部が上に開く仕組みになってる。しっかりと壁の切れ間を見りゃわかるはずだ。パッと見じゃわからねぇし一日二回のメシの時、それとガキ達の移動以外は誰も居やしねえよ。まぁ非常事態の時はわかんねぇけどな」


 男はこちらの質問にやや不満そうにしながらも素直に応答している。仕草を見る限り嘘をついている様子もない。


 「中の戦力はどうなってもいますか?」

 「お頭は元A級冒険者の魔術師、ギルドでも生死問わずで手配されてる火山のサヴィオラって男だ。二つ名通り、炎と土の上級魔術を使いこなす。寝ぐらの中で使うかはわからねぇが、追い詰められたら炎と土の複合魔術、溶岩を操る魔術を仕掛けてくるかもな。それと用心棒の男が一人、こいつはかなり剣の腕が立つ。素性は知れねぇが行き倒れになりそうなそいつをお頭が拾ってそのまま雇った剣客だな。まぁお頭のやる事にゃあどうにも不満そうだが…。あとは…まぁ俺達と同じ下っ端だ」

 「成る程ね。セオ、また二手に分かれよう。僕とセオ、そしてクリスの三人、こちらの最大戦力三人で彼らの討伐だ。地下は警備がいないと言うのならソフィーとミハイルの二人で十分だ。それに万が一に備えてアリーシャさんを付いて行かせれば大丈夫な筈だ」


 フォルクは敵の戦力を聞いて二手に分かれる案を出し、その割り振りを即断した。フォルクは男の話す二大戦力に上級の魔術師がいる時点でまだ駆け出しに毛が生えた程度のソフィーとミハイルでは対抗策が無く逆に足手まといになる、そう判断したようだ。逆に同程度の魔術を行使出来る俺とクリスは不可欠だと言う事だろう。


 「じゃあ、アリーシャ、ソフィーさんとミハイルさんの事は頼む、今の時間がちょうど陰の十刻、もう哨戒している賊も少ない筈だ。一気に攻め立ててしまおう!」


 俺は全員の前でそう言いながら拳を突き上げると皆も呼応するように拳を高々と突き上げた。


 「悪いが全て片付くまでお前達はこのままだ。少し不便な思いをさせるけど我慢してくれ」


 二人にそう言うと、気を失っていない方の男は「さっさと行け」と言わんばかりに渋い表情のまま顎で促した。


 ーーー

 (救出組サイド)


 「西側の壁沿いに隠し扉…でしたね」


 ミハイルは入り口から西側の通路に差し掛かると壁に左手を当てながら通路を進む。

 三人は所々にある壁の石材の切れ間を穴が開くかの様に覗き込んでいた。


 「切れ間を見ればわかるって言ってたけど全然見つからないじゃない!」

 「ソフィー、まだ探し始めたばかりじゃないか。とにかく今は急いで探そう」


 情報通りに見つからない隠し扉にソフィーが憤慨するがミハイルがそれを諌める。

 アリーシャは二人には口を出さず、黙々と壁を叩きながら隠し扉を探していた。


 「待てよ…? 上から笑い声…だったら地下室は中央の礼拝堂の真下…? アリーシャさん、ソフィー!多分隠し扉は奥の方だと思う!ソフィーは奥の方から、僕は真ん中から探そう!アリーシャさん、すみませんが奥側の見張りをお願いします!」

 「成る程、わかりました」


 ミハイルの指示に従って二人は通路の奥へと足を早める。通路の奥に差し掛かる寸前、二人は曲がり角で一人の賊と鉢合わせる。


 「うわっ、なんだてめぇら!どこから入って来やがった!…まさかギルドからきた冒険者…!誰かっ…ウグッ…!」


 賊が仲間にこちらの侵入を知らせる為、大声をあげようとした瞬間、それを遮るかの様に賊の頸から喉を短剣が貫いていた。


 「ここは私が抑えておきます、早く隠し扉を」


 アリーシャが男の死体を通路の手前に引き込みソフィーに壁の調査を促す。

 賊との鉢合わせに何も対応できなかったソフィーはそれに頷き、直ぐに壁の調査に取り掛かる。

 程なくしてソフィーは叩いた壁の音に違和感を感じた。


 「ここ…間違いない…!」


 それまで硬く短い音しか返ってこなかった壁だったが、ソフィーが現在叩いている壁からは少し間の抜けた長い音が響き返してくる。

 ソフィーが壁の下に目を向けるとそこには欠けた石材に見せかけた取っ手が存在していた。

 ソフィーが勢いよく隠し扉を上に上げるとその先には薄暗い階段が続いており、湿った風と共に黴臭い匂いと微かに啜り泣く子供達の声が聞こえてくる。


 ソフィーの扉を開ける音に気付いた二人は直ぐに隠し扉の前に集まる。


 「ここで間違いなさそうですね…」

 「ええ…、行きましょう…!」


 ミハイルが手元に魔術で小さな火を起こし階段の通路を照らす。その通路は壁面や天井がびっしりと苔で覆われており、時折、天井から水が滴り落ちている。


 「滑りやすそうです。足元に気をつけて…」


 アリーシャが先頭、殿にソフィー、そして間にミハイルが入り、ゆっくりと階段を降りていく。

 階段を一歩、二歩と降っていく度に、聞こえてくる泣き声が近づいてくるのがわかった。


 「見つけた…!」


 降っていく階段の先、開けた空間に鉄格子で遮られた部屋があるのが見える。

 三人は急いで階段を下り切ると幾つかの鉄格子で隔てられた部屋が並んでいる。その中には怯え泣く子供達、そして牢屋で鎖に繋がれているのは子供達の親だろうか、単独、あるいは夫婦と思しき男女が各牢屋に入れられている。

 子供達は多少薄汚れてはいるもののまだ泣く程の元気もあるが、大人達は全員が痩せこけて衰弱している。


 「なんて非道いことを…!」


 思わず言葉を漏らしたミハイルの横顔を見ていたソフィーはミハイルが歯軋りをして怒りに震えているのがわかった。

 その時、上階から大きな爆発音が響き、天井からぱらぱらと砂が落ちてくる。別行動の三人も遂に礼拝堂に踏み込み、戦闘を開始した様だ。

 怒りに震えるミハイルは大きな音を聞いて我に帰ると直ぐに部屋全体に聞こえる様に声を張り上げた。


 「皆さん!助けに来ました!」


 ミハイルの声と大きな爆発音を聞いた人々は既に諦めかけていた救いの手が差し伸べられたのに驚き、部屋中にどよめきの声を響かせていた。


 ーーー

 (サヴィオラ討伐組サイド)


 俺達はミハイル達き救出組と逆の東側通路を通り、首謀者である火山のサヴィオラが座す遺跡の礼拝堂を目指していた。逆の通路を選んだ理由はミハイル達が隠し扉を探している間、彼らが背後を襲われない様にする為だ。それにあちらにはアリーシャもいる。彼女ならばそこらの賊程度であれば複数でかかられても遅れは取らないはずだ。

 礼拝堂を目指し、俺達は通路を駆け抜ける。その途中、幾度か巡回中の賊に遭遇するが、近ければ俺が斬って捨て、遠くから発見された時は賊が声を上げるよりも前にフォルクの矢が脳天を貫いていた。

 通路を進んだ先、四メートルはあろう巨大な扉の前に辿り着く。一目で俺達は目的地である火山のサヴィオラの座す礼拝堂の扉と確信した。


 「この扉の奥、サヴィオラがいる筈だ」

 「ええ。クリス、俺が開けると同時に仕掛けてくれ」

 「了解しました。兄様、少しお待ちを」


 クリスは先制攻撃の為の魔力を練り始める。クリスが右の手に練った魔力は赤く輝いている。炎属性の魔術を放つ腹積もりか。


 「兄様、準備が整いました。タイミングは任せます」

 「討ち漏らしは僕が引き受けるよ!」

 「じゃあ…突入するぞ!」


 巨大な扉に手をかけ、勢い良く押し開ける。そして入れ替わる様にクリスが前に躍り出た。クリスのかざす右手は魔力の赤い光を湛えており、魔術を解き放つその刹那、光が一層輝きを増す。


 「爆炎(エクスプロード)ォッ!」


 クリスが魔術の名を告げると共に礼拝堂全体が爆発の赤い炎に包まれた。

 爆炎の中まだ眠りの中にいた賊達は吹き飛び、壁や床に叩きつけられる。しかし、その奥には凄まじい爆風に耐え、こちらを睨みつける四つの瞳が光っており、その眼差しの片方には此方に対しての明らかな敵意を孕ませていた。

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