表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第六章:波乱のドルマニアン諸島
78/295

第六十八話:宵闇の奪還作戦・前編

 仮眠から目覚め、賊達が根城とする遺跡を見下ろす崖の上に俺達は到着した。辺りは薄ぼんやりとした月明かりに照らされているのみで辛うじて足元の状態が見える程度だ。遺跡の方は入口となる部分に松明が燃えており、その周辺のみ見えていると言った状態だ。


 「暗いな…フォルクさん、アリーシャ、警備の状態は?」

 「日中とは特に代わりはありませんね」

 「見ての通り、正面入口に四人は変わらず。塀の内側は見える限りで八人程かな。他に二人から四人程度はいるはずだよ」


 フォルクとアリーシャは夜目が利く。二人にとっては昼と変わらずしっかりと遺跡外部の状況が見えているようだ。


 「フォルクさん、遺跡の屋根の上、登れますか?」

 「問題ないよ。あそこから援護すればいいのかな?」

 「はい。お願いします。アリーシャ、フォルクさんが上に着いたら教えてくれ」

 「心得ました」


 全員で慎重に崖を降り、遺跡の門前の茂みに辿り着く。フォルクは一人集団を離れ、遺跡の屋根へ移動を開始する。

 フォルクが離れもう一度全員に作戦の内容を擦り合わせる。


 「さて、門の襲撃を始めたら時間との勝負だ。俺達の存在が首領達にバレたら作戦は失敗、出会った敵は必ず声を出される前に無力化だ。俺とミハイルさん、クリスとソフィーさん、アリーシャは単独で、三手に別れて制圧に回る。アリーシャは遺跡入口で外に出ようとしたり、中に入ろうとする奴がいたら倒してくれ。皆、シアンの両親を始め、沢山の子供達とその親達の命が係ってる。心してかかろう」


 作戦の確認が済み、全員が頷く。いよいよ奪還作戦の始まりだ。

 フォルクの配置完了まで俺達は待機。暫くするとアリーシャが真っ暗な宵闇の先を見る。


 「フォルク様、到着致しました。既に弓を構えられています」

 「よしクリス、やってくれ」

 「はい兄様。凪の領域(カームフィールド)!」


 正面の門を警備していた賊達は一斉に呼吸不能となり、喉を抑えてその場に(うずくま)り始める。

 クリスの凪の領域発動と同時に俺達は門に向けて走り始める。


 「アリーシャ、右の櫓の上を頼む。ソフィーさんとミハイルさんは二人で櫓下の二人を!空歩法(エアステップ)!」


 俺は空歩法で駆け上がるように左の櫓の上空へと飛び上がる。

 少し飛び上がり過ぎた気はするが関係はない。俺は息を止めてその場に蹲る賊に目掛けて黒光りした刃を袈裟に振り下ろした。

 賊の左の肩口から右胸にかけて上空から勢いよく振り下ろした騎士剣が通り抜ける。

 宙に舞った賊の頭と右腕、そして左手はそのまま櫓の前に落ち、左腕だけを残した体が(おびただ)しい量の血を流し、櫓の床に倒れ込む。

 右の櫓の上の賊を見ると、短剣が賊の両手を貫通し、喉ごと貫いており、床に倒れ込んだまま血を流しながら動きを止めていた。アリーシャの投擲によるものだろう。

 櫓の下ではソフィーが剣で無防備な賊の腹を貫いている。少し不安要素ではあったが杞憂に終わったようだ。

 そして櫓の下にいるもう一人の賊に向けてミハイルが火矢(ファイアボルト)の魔術を放つ。

 しかし火矢は蹲る賊の目の前で突如として燃え尽きてしまう。しかしその刹那、闇の中からミハイルの討ち洩らした賊の後頭部目掛けて真っ直ぐに矢が飛んでくる。その矢は簡単に賊の頭蓋を貫き、賊を即死に追いやった。


 「ちょっとミハイル!いきなり失敗なんて洒落になってないわよ?」

 「す、すみません、皆さん!」

 「いえ、それよりも次に行きましょう。時間との勝負です。次は気をつけて下さい」


 俺はミハイルは火矢が命中する寸での所で消滅した理由について即座に理解した。

 また、クリスも凪の領域を展開していた本人だ。火矢が凪の領域に侵入する瞬間に消滅したその意味について理解しているかは別として、凪の領域と火矢の関係については理解したらしく、目を合わせるとお互いに首を縦に降る。だがそれ以上は話さず、俺達は三手に別れ、遺跡外部の制圧に踏み出した。


 「ミハイルさん、さっきの魔術の件ですが…」

 「あっ、本当にすみません。でも何故か命中する直前で突然消えてしまって…」


 ミハイルを引き連れて、走りながら先程の火矢の事について話を切り出すとミハイルは即座に謝罪をする。ミハイルは恐らく火矢が消滅した理由については理解していないらしいが無理もないだろう。

 連携にも関わる事の為、俺は簡潔に先程の事象について説明する。


 「いや、恐らく…ですが凪の領域の効果範囲内では炎属性の魔術が殆ど通りません。あの魔術は一時的に物質以外一切何もない空間を生み出す魔術ですので、炎が燃え続けられない状況が出来上がってしまうんです」

 「成る程、それで…。では他の属性については?」

 「わかりませんが…少なくとも、あの魔術の範囲内で魔術を発生させる事は出来ないと思います」

 「…それだけ解れば大丈夫です。何とかします!」


 ミハイルは何かしらの策があるのか、さして問題は無いと言い切った。最早彼には船上で出会った時の様な弱気な姿はない。


 「セオドア君、前に二人!」

 「凪の領域!」


 二人の賊は正面から迫る俺達を見て声をあげようとするがその声は発する前から静寂の空間に消え、辺りに響き渡る事は無かった。

 次第に賊は呼吸が出来ない事に気付いて顔色を悪くしながらその場に膝をついた。


 「間欠泉(アクアガイザー)!」


 二人の賊の足元に亀裂が走る。ミハイルの魔術によって二人の賊の足元から強烈な間欠泉が発生し、天高く打ち上げる。

 重力に逆らう事も出来ず上空から自由落下した二人の賊は、頭から地面に叩きつけられる。


 「成る程」

 「どうですか? …っと、次、行きましょう!」


 ミハイルは炎が効果を為さないと判ると直ぐに水属性の魔術で間欠泉を発生させ、物理的な攻撃に出た。

 凪の領域の範囲内は固体または液体しか存在できない。故に呼吸や炎の燃焼に必要な酸素はなく、また空気中に漂う魔素も存在できなくなるようだ。


 「よく思いつきましたね」

 「伊達に魔術を使ってるわけではありませんよ。まだまだクリスさん程ではありませんが、うっすらと魔素の流れはわかるつもりですよ。それにセオドアくんだって炎や風、雷属性のような魔素が直接作用する魔術が効かないとなればさっきみたいな物理的な力で作用する魔術を使ったでしょう?」

 「確かに」


 遺跡の裏側へと回り込み、走っていると数人の賊の男が倒れていた。

 倒れている男達は皆一様に脳天を矢で貫かれており、一目でフォルクの仕業であることが伺え。


 「さすがS+級の弓闘士、というべきか」

 「敵に回したらと思うとゾッとしますね…一発も外した形跡はありませんし…」


 走りながら周囲を見回しても外した矢が見つかる事は無く、俺達はフォルクハルトの弓の腕前に驚くばかりだった。

 それから程なくして俺達と逆方向から制圧を進めていたクリス達と合流する。


 「こっちは片付いた。そっちは?」

 「隠れられていなければ制圧完了です」

 「よし、アリーシャのいる遺跡入口に戻ろう」


 遺跡の入り口に戻ると討ち漏らしか、あるいは中から現れたであろう賊が二人、既に事切れていた。

 辺りを見回すがアリーシャの姿はない。


 「終わりましたか」


 脇の木の上から声が聞こえるとそこからアリーシャが飛び降りてくる。


 「おお、そんな所に…、外の制圧は完了したからこれから中に踏み込むつもりだ。フォルクさんを呼び戻そう」

 「了解しました」


 アリーシャは遺跡の入り口にかけてある松明を手に取り、屋上から見えるようにゆっくりと大きく降る。

すると数秒と経たず、暗闇の空からフォルクが飛び降りてきた。


 「ここまでは作戦通りだね。天窓から中が見えたけどやっぱり彼らは中央の礼拝堂の様な所に大半が集まってるみたいだ。ただ残念ながら地下室の入り口の様なものは見つからなかったよ」

 「了解です。こんな真夜中に彼らの仲間が密林を通ってくることはないでしょうし、外はもう安全でしょう。ただ見張りの交代などで不審に思われる前に、一度誰かを捕らえて情報を引き出したい所ですね…」

 「闇雲に遺跡の中を駆けずり回るよりは気取られにくいかと。ただそれほど時間に余裕は無いかと思います」

 「なら、さささっと入り込んで、ささっと攫って、さっと絞りだしにいきましょう!」

 「ああ、じゃあクリス、二人と外で待機しててくれるか?」

 「分かりました兄様。お気をつけて」


 俺とアリーシャ、フォルクの三人で遺跡の中へと踏み込んだ。内部は以前にエルダの街に到着する前に訪れた盗賊が寝ぐらとしていた廃寺院とは違い、埃っぽさなどはなく、完全に人の手の入った施設の様に綺麗に手入れされていた。


 「梁はあるみたいだね…じゃあ僕は梁の上から先の偵察に回るよ。合図を出すからセオ達はついてきて」

 「了解です。気をつけてくださいね」

 「ああ、じゃあ行ってくるね。…よっと!」


 フォルクは積み石の壁面を二歩、三歩と駆け上がるとさらに壁を蹴って細い天井の梁に着地する。まるで猫の様な身のこなしだ。

 早速、フォルクは手招きをしながら遺跡の通路へと足を伸ばす。俺はフォルクの先導に従う形で慎重に通路を進んでいった。

 通路の角に差し掛かったフォルクが足を止め、曲がり角の先を見る。フォルクは身振りで通路の先の状況を俺達に伝えた。


 (曲がり角の先に二名発見、こちらに接近中)


 フォルクの伝達を確認し、こちらも身振りで返答を返す。


 (了解、俺とアリーシャで対応します。もしも失敗した時のカバーをお願いします)


 フォルクは俺のジェスチャーを確認すると曲がり角の手前から一旦さがり、入れ替わる様に俺とアリーシャが曲がり角の手前へと張り付いた。


 「アリーシャ、俺に合わせてくれ。血を残したく無いから、剣は無しだ。両方、せめて片方だけでも連れ出そう」

 「御意」


 接近してくる男達が曲がり角に差し掛かった瞬間、俺は男達の前に飛び出した。男達は突然の襲撃に驚き、腰に挿した剣を抜こうと慌てふためいている。


 「遅いっ!放電撃(ボルトサンダー)!」


 威力を抑えた放電撃を左手から放つ。掌から放たれた青白い閃光は二人の男を貫き、一瞬の間、男達を麻痺させた。

 アリーシャがその隙に男達に詰め寄り、剣の柄で右手の男の水月を打ち抜く。男は腹の中のものを吐き出してその場に倒れこみのたうち回っている。

 仲間があっさりと倒されるのを見ていた左手の男は痺れた体で無理矢理剣を抜こうとするが動きは鈍い。

 柄にかけた手を蹴りとばし、弾く。そのまま潜り込んで蹴りとばした手を引き、勢いよく地面に叩きつける。いわゆる一本背負いだ。

 俺が投げた男は受け身を取り損ね、その場で脳震盪を起こし失神していた。アリーシャものたうち回る男の背に周り、頸動脈を締めて気絶させていた。


 「さすがだね。鮮やかなお手並みだ」

 「どうも。さて、起きられて騒がれても困りますし、一旦外に連れて行きましょう」


 三人で気絶させた二人の男を外へと連れ出し、外で待っているクリスに頼んで二人の男を頭だけが動かせる状態にして地面に埋める。更にいきなり舌を噛まれたりしないように猿轡を取り付け、尋問の準備を整える。


 「じゃあ時間もありませんし、ミハイルさん、二人を起こして下さい。尋問を始めましょう」

 「はい、水弾(ウォーターショット)


 ミハイルは掌大の水の塊を生み出し地面に埋まった二人の賊の顔にそれを浴びせた。

 目を覚ました二人は自分の置かれた状況に理解が追いついておらず、当に混乱を絵に描いたような表情で辺りを見回していた。


 「さて、尋問の時間を始めよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ