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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第六章:波乱のドルマニアン諸島
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第六十六話:小さな盗人

 シェリーに連れられてやってきたギルド酒場、こちらは先程のゴロツキ酒場とは別の形で盛り上がっていた。


 「どないや!ワシの仕留めた宵闇豹(ダークパンサー)のが上に決まっとるわ!」

 「なんやと? ワイの仕留めた迷彩虎カモフラージュタイガーのが上に決まっとるやろ!」


 酒場の中央では二人の同種の魔族と思しき冒険者が自分の仕留めた魔物を見せ合っていた。馬面の二人はシェリーの姿を認めると同時に一気に詰め寄ってきた。


 「ええとこ戻ってきたわ。シェリー、ワシとコイツの獲物、どっちが上か言うたれや!」

 「なぁワイのが上に決まっとるよなぁ?」


 シェリーは面倒臭そうに目を瞑り鼻から溜息を一つ、肩を竦めてみせた。


 「どっちもA+級で行動時間帯が全く逆の魔物だろ? こいつらがお互いかち合う所なんざ誰も見た事無いってのにどうやって比べろって言うんだい? 迷彩虎は『昼の覇者』、宵闇豹は『夜の暴君』、アンタらはそれぞれを仕留めたって事でいいじゃないか」


 シェリーが二人の争いについて、比較できないと告げると二人の表情は難しい顔になる。


 「シェリーにもわからんならいよいよ比べようが無いな…」

 「せやったらワイが昼の王者でお前が夜の帝王って事でええやろ!」

 「せやな!じゃあ二人でいれば昼の密林も夜の密林も怖ないな!二人で密林の王者や!ブルッヒッヒッヒ!」


 結局二人は自分達で話の落とし所を見つけたらしく、啀み合っていたのがいつしか肩を組んで大笑いしていた。


 「ん? そういやシェリー、そこの後ろの三人はどこのどいつやねん」

 「ああ、こっちと隣のゴロツキ酒場を間違えてた奴らさ。そういやまだ名前を聞いてなかったね」

 「僕はセオドア、こっちがアンリエッタ、もう一人がアリーシャです。あとクリスティンとフォルクハルトの二人がいますが別行動中でして、まだアトラシアから来たばかりなんですよ」


 自己紹介を済ませると、自らをワシと呼ぶ魔族の男は俺達を勘定するように見定めた。


 「…なんや、ヒョロっそうな子供に女子(おなご)の冒険者かいな。うん? フォルクハルトっちゅう名前は聞いたことあるような…、まぁええわ。ギルド酒場にまず来たって事は情報収集ゆうた所かいな」

 「ええ、その辺りは現地の冒険者方に聞くのが一番と思いまして」

 

 もう一人の自らをワイと呼ぶ男が割り込み、満面の笑みで親指を立てていた。


 「冒険者としての心がけっちゅうやつやな。そういうの、ええと思うで!まぁ何にしてもこっちでの冒険者登録がまだやろ、聞きたい事は色々あるやろうけどまずはカウンターに行きや!」


 男に促されるままギルドのカウンターに行き、俺達三人分の冒険者登録と二人の仮登録を済ませると、やはり酒場内にどよめきが起こる。


 「こんなちっこい少年(ボン)が…Sーやと…!?」

 「このべっぴんさん二人も連れの女の子と兄ちゃんも全員…Sー以上で…しかも兄ちゃんの方はS+やと…!?」


 馬面の二人は俺達のランクを見て膝をついて項垂れていた。見た目で俺達を完全に格下と思っていたらしい。シェリーについても二人程ではないがやはり驚いている様子だ。


 「ふ、二人共、顔をあげて下さい。ランクは僕達が上だったかも知れませんがこの地では僕達は後輩になりますので」


 二人の落ち込み様がひどかった為、慌ててフォローを入れる。すると二人は勢い良く立ち上がった。


 「せやな!こっちじゃワシらのが先輩やからな!」

 「そう言えばワイらの自己紹介がまだやったな!よう耳をかっぽじって聞いときや!」

 「ワシの名前はバリオン!角馬(ユニコーン)種の魔族でA+級の冒険者や!」

 「ワイの名前はサントス!同じく角馬種の魔族でA+級の冒険者や!」


 テーブルの上で完全に悦に浸った顔でポーズを決める角馬種の二人。それとは対極に俺達は二人のテンションの起伏に唖然としているばかりで、周囲の冒険者達はと言うと何度も聞いたことがあるかの様に冷ややかな目で二人を見ていた。


 「ま、こっちの馬鹿二人は置いとくとして、アタシらで役に立てるんなら何でも言っとくれ。冒険者同士、協力し合うのは大事だからね。ここにゃ余所者だからって仲間外れにする奴はいないのさ。何たってこのサルディアの街とドルムの街は移民の街だからね」


 シェリーがそう言うとギルド酒場の冒険者達はこちらを見ながら笑顔で頷く。

 この島にやって来た俺達にとって、頼りになる同業者達だ。


 ーーー


 それから俺達は夜が訪れるまで酒場で冒険者達に周辺の魔物のこと、この島の地理や歴史、ドルミヌス火山の事などについて聞いて回り、宿に引き上げることにした。話の中で少し気になったのは最近この街で子供の盗人がよく現れるという話だ。クリスに留守番を任せているとは言え、少し心配になる。杞憂であればいいが。


 「上陸一日目にして上々の成果ですわね」

 「ああ、この島の主要部分の話が一通り聞けたのは大きい」

 「あとはクリスティン様とフォルクハルト様とも、今回の話を共有しなければいけませんね」


 宿に向かう前に四人への土産として行きで食べた熱帯島豚の串焼きを買って帰っていた。

 宿の手前、俺達のとった宿の庭の植え込みの中から小さな影が飛び出した。飛び出した影は脇目も振らず、こちらに向けて走り出す。


 「待ちなさいっ!」


 聞こえて来たのはクリスの声だ。湯浴みでもしていたのだろうか、体に巻いた布一枚で影を追いかけて飛び出して来ており、片手で押さえているだけだ。

 空いている手には赤い光、炎の魔術を放つつもりの様だ。クリスは飛び出して来た小さな影を追っているらしい。

 小さな影はスルスルと俺達の間をすり抜けて逃げようとしている。


 「言って聞かないならっ…威力は最低限に抑えて…爆炎(エクスプロード)っ!」

 「…うわあっ!」


 小さな影の目の前で小規模の爆発が発生する。小さな影は突然の爆発に驚いて仰け反り、そのまま爆風に押し戻されて転倒、遂にその足を止めた。


 「兄様、その子、捕まえてくださいっ!」


 突然の事で状況が飲み込めないが、俺は保護の意味を含めて、言われた通りにクリスの魔術で吹っ飛んだ子供を捕まえた。子供は体の下に革袋を放さじとしっかりと掴んでいたが、吹き飛んだ拍子に革袋から飛び出した鞘に収められている短剣を見てこの子供をクリスが追いかけていた訳を察した。


 「ふう…やっと捕まえました。兄様、ありがとうございます」

 「それはいいけどクリス、この子は? …いや、それよりまずは宿に戻ってから、だな…」


 子供を捕まえた俺の下にクリスが歩いてくる。クリスが声をかけて来たので返事をする為にクリスの方を向くが、俺は咄嗟に顔を背けた。


 「ええ、そうですね。…兄様顔を赤くされてどうしました? …えっ…ハッ!?」


 クリスは子供を捕まえた事に安堵したせいか、体に巻いた布を押さえていた手を放してしまっていた。風に煽られ、ハラリと布が落ちる。それを見てしまった俺は咄嗟に顔を背けていた。


 ーーー


 捕らえた子供を連れて宿に戻り、まずは子供が盗んだとされる荷物を調べる。クリスは着替えの為に席を外している。

 俺達から盗んでいたのは俺の魔導銀(ミスリル)の短剣とクリスの魔導器となっている指輪、それだけだが売ればそれなりの金額にはなる物だ。

 子供は他にも他所で盗んで来たとされる装飾品などを革袋の中にしまい込んでいた。


 「くっそう!おなじこどもとおもってたのに!」


 子供が逃げ出せない様に椅子に縛り付けている。子供とはいえ盗みは立派な犯罪だ。


 「クリスさんはあれでSーの魔術師ですわ。それよりもなぜ盗みなんか働いたのですか」

 「うるさい!はなせよ!はなさないと…」

 「離さないとどうなるんだ? 盗みは子供の仕業でも立派な犯罪だ。このまま街の警護兵に突き出してもいいんだぞ?」


 子供は解放するように喚き散らすがそう言うと今にも泣き出しそうな顔で口を閉ざした。


 「おや、戻ってきたらなんだか穏やかな雰囲気じゃないね。そんな小さな子を椅子に縛り付けてどうしたんだい?」


 別行動を取っていたフォルクが帰り着き、俺達を子供を縛り付けて尋問をする光景を見て普段から飄々としている彼も流石に呆気に取られているようだ。


 「フォルクハルトさん、実は…」


 ミハイルが事のあらましをフォルクに耳打ちすると、この状況を把握し、フォルクの顔が納得の表情に変わる。


 「なるほどね。ねえ君、もしよかったら僕になんで盗みをしていたのか教えてくれないかな?」


 フォルクは膝をついて同じ目線になり、優しい声で子供に訳を話すように頼む。子供もフォルクに少し心を許したのか閉ざしてしまった口を緩めた。


 「へいたいさんにいわないならおしえてもいい…」


 子供はそう言って俺達から目を逸らす。フォルクは「僕に任せて」と目配せをして子供に話を続けた」


 「もちろんさ。ただ何か理由があると思っただけだよ。持って行った物は戻ってきたし、僕の弓に誓って兵士には話さない。約束だ」


 フォルクはできる限り優しい声で子供に声をかける。やった事を許す事、それを約束する事を子供に言い含めると子供は気を許したのか突然泣き出しそうになり、口を開いた。


 「ぐすっ…おとうさんとおかあさんがわるいひとたちにつかまっちゃったんだ…。それでおとうさんとおかあさんをかえしてほしかったら『はっきんか』をごまい持ってこいって…うええーん!」


 子供は盗みを働いた理由を話すとついに泣き出してしまった。理由を聞き出したフォルクはいつになく険しい顔をしている。


 「セオ、持ち合わせは?」

 「十分足りてますけど、もしかして本当に払うつもりですか?」

 「向こうが素直にこの子の親を返すつもりなら、ね」

 「私は反対です」


 着替えから戻ってきたクリスも途中から話を聞いていたようで開口一番、反対を告げる。


 「クリス、そう言っても…」

 「兄様は黙ってください」


 クリスは顔も声も怒りをそのまま映し出しているかのようで、クリスの厳しい口調に俺は口を閉ざす。


 「考えても見てください。両親を人質にしてこんな子供に白金貨五枚もの大金を要求、しかも盗みを働かせる様な賊がまともに約束を果たすとは思えません。まだ生きていればいいですが、最悪の場合も考えた方がいいと思います」


 クリスの言うことは尤もだが、この言葉を聞いた子供は更に泣きそうな顔をする。


 「クリス、ちょっと言い過ぎだ」

 「ですが…」

 「よしよし、大丈夫、僕達は君の味方だから泣かないで。…でもクリスの言う事は尤もだ。早く助けに行かないと本当に危ないだろうね。とは言え、無計画に密林に飛び込むのも、助けに行くのも得策じゃない。

明日、朝から密林に入ってこの子の親を助ける計画を立てよう。それでいいね?」


 フォルクが全員に確認を取ると皆は即座に頷いた。


 「ねぇ、君の名前を教えてくれるかい?」

 「ぼくのなまえはシアン。おねがい、みみのながいおにいさん、ぼくのおとうさんとおかあさんをたすけて!」

 「もちろんさ!必ずシアンのお父さんとお母さんは僕達が助けてみせる、約束だ」


 ーーー


 「あれ、シアンはどこに行ったんだい?」

 「あの子ならクリスとアリーシャが寝かしつけにいきましたよ。どうにか落ち着いたみたいです」


 シアンの事が気になるのだろう。用をたして戻ってきたフォルクが部屋から居なくなったシアンの行方について尋ねてきた為、クリスとアリーシャが付いている事を話すと胸を撫で下ろしていた。


 「でも、大丈夫なんですか?安請け合いでは…」

 「ちょっとミハイル!あなたあの子放っておけるっていうの!?」


 思った以上に大事そうな状況にミハイルがつい不安そうな声を漏らすがソフィーが大きな声でミハイルを叱りつける。


 「でも不安になるのは間違いありませんわね。親を人質にまだ年端もいかない子供に盗みを働かせるなんて外道の所業としか思えませんわ。先程のクリスさんの言葉を繰り返すつもりじゃありませんけれど最悪の事態にならない様に細心の注意を払いませんと…」


 明日より密林に入りシアンの両親を攫った賊の調査が始まる。

 俺達のドルマニアン諸島上陸の初日の終わり、そしてドルマニアン諸島での波乱の日々の幕開けは同時に訪れる事になった。

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