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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第三章:冒険者の兄妹
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第三十一話:方針

 「さて、今後の方針について考えよう。」


 クリス、ジャック、アンリエッタの三人でギルド内の酒場の机を囲んで話し合っている所だ。


 「どうするんですか、兄様」


 俺は三つの指を立てる。大体こういう場合は三つに絞るに限る。

 俺は人差し指を立てて一つ目の案を告げる。


 「一つ、このままAランク帯の依頼をこなし続ける。簡単に言えば現状維持」


 更に中指を立てて二つ目の案だ。


 「二つ、迷宮探索に赴いてアンリエッタをSランク冒険者に押し上げる。ついで俺達もSランク冒険者になる条件を満たしておく」


 最後に薬指を立てて三つ目の案を述べる。


 「三つ、この地を離れて別の地を目指す。できれば別の国にも行ってみたい」


 三人が「ふむ」と首を傾げる。


 「まぁ妥当な線だな。冒険者としての選択肢ならこの三つが挙がるだろ」


 ジャックが腕を組み目を瞑る。

 クリスが手を挙げる。


 「はい、クリス君」

 「クリス君って…兄様、私個人としては一つ目か二つ目の案で行きたいと思います。三つ目はできれば他の国の言葉を少し覚えてから選択肢に入れたいと思います。」


 クリスは聡明だ。確かに今すぐ外国へ行って言葉が通じなければかなり苦労することになるだろう。言葉の壁は思ったよりも厚いのだ。そこでクリスは恐らく勉強時間が欲しいという腹積もりだろう。


 「なるほど、じゃあアンリエッタッ!君の意見を聞こうッ!」


 どこぞのピンクの特徴的な髪型の男の乗りでアンリエッタに話を振ってみる。


 「二つ目の案が通るのならば私としては嬉しいですが、Aランクの迷宮となると戦力不足は否めないですわね。パーティーの人数を増やすか、あるいは一時的に戦力となる人間と協力関係を結ぶか…ですが、この街の冒険者であればどの方を引っ張ってくるにしろ、戦力としてはあまり期待はできませんかしらね。強いて言うなら守護騎士隊長でしょうが、さすがに無理でしょう」


 アンリエッタは目を瞑りながら淡々と述べる。


 「と、なるとやっぱり一つ目の案か」


 俺がそう言うと、ジャックが親指以外の指を立てて口を開く。


 「そこで四つ目だ。暫くこの街で待ってAランク以上の冒険者が出て来るのを待つ、その間に迷宮探索の準備とこの街を出る準備を済ませておくって寸法だ。出てくりゃあ引き込んで迷宮探索、出てこなかったり引き込めなけりゃ諦めてこの街を出よう」


 ジャックの出した第四の案に全員が頷く。謂わば中間案になるか。とりあえず当面の方針は決まったか。


 基本的にはこれまで通り、依頼を請け負いつつ、オフ時は俺とクリスが別大陸の言語の勉強、アンリエッタとジャックは情報収集や物資の買付けだ。

 

 幸いアンリエッタは広い屋敷で一人暮らしをしているため宿については心配の必要はない。街の中なら食料も選べる為、ジャックの料理の腕が活かされる。その他の家事は俺達の仕事だ。


 期間は一年に設定した。現在の季節は夏。再び夏になるまでに迷宮探索の準備が整わなければ外国を目指して旅を開始する。十分と言えるだろう。


 俺とクリスは貴族街を訪れていた。この街の下級貴族がどうやら個人で書庫を所有しているとの情報をジャックが仕入れてきた。書庫と言えるレベルならば恐らく語学関係の書物もあると踏んだ。当初はアンリエッタも俺に付いていきたいと言っていたが、俺とクリスは当てになるコネがあった。部外者が混ざると話を着けにくくなると踏んでアンリエッタの同行は断る形になった。


 貴族街を訪れた俺達が目指したのはブルームーン家の屋敷だ。この屋敷の主であるバレンティン・ブルームーンはかつての父の部下である。この街の守護騎士隊長を務めている為、貴族連中にも顔が利く。

 以前、この街で困ったことがあれば頼れ、と彼は言っていた。存分に頼らせてもらおう。


 ブルームーン家の屋敷の前には門衛が二人立っていた。屋敷の前で立ち止まると二人の門衛が槍を交差させ、俺達を引き止める。


 「む、止まれ、ブルームーン家の屋敷に何用だ!」

 「あの、僕達、ホワイトロック家の者です」


 俺達の名前を聞くと門衛の二人は直ぐに槍を納めた。


 「現在、バレンティン様は外出中だ、奥方様に言伝をしよう。しばし待たれよ」


 そう言って門衛の一人が屋敷の中に入っていった。


 待つこと数分、門衛が戻ってくる。


 「奥方様から許可が出た、入れ」


 二人の門衛が門を開き俺達を招き入れる。そのまま屋敷の扉まで案内され、屋敷の中まで送られる。

 扉を開くとバレンティンの妻、グラディスと侍従達が出迎えた。侍従達は一様に四十五度の角度で頭を下げている。


 「よくいらしてくれました、セオドア君、クリスティンさん。済みませんね、夫はまだ巡回に出ておりまして夕刻には戻ってくるとは思うのだけれど」

 「いえ、我々こそ突然お邪魔する形になってしまい申し訳ございません」


 突然の訪問だったがグラディスは俺達を歓迎してくれた。頭が下がる。


 「どうぞ、夫が戻ってくるまでの間、お話の相手にでもなっていただこうかしらね」

 「はい、面白い話ができるかは保証できかねますが」

 「フフフ、じゃあ楽しみにさせてもらおうかしら?」


 そのまま応接間へ侍従達を引き連れて案内された。


 「お茶の用意をしてくださる?」

 

 グラディスが侍従達にそう告げると侍従達はすぐに部屋を後にした。


 「さて、お話は色々伺ってるわ。あの書状を渡した翌日にもうAランクの認定試験に合格したらしいわね。さすがホワイトロック家の御子息、御子女といった所かしら?」

 「とは言え、かなり苦戦しましたがね。クリスの機転が無ければやられていたかも知れません」

 

 謙遜を交えつつ棘土竜(スパイクモール)の群れとの戦いの話をグラディスに話す。


 「彼らの棘の鎧は堅いので、雷魔術でショックを与えて鎧を解かせるといいかと」

 「まぁ、そんな討伐の方法が…この街の騎士団達も周辺の魔物の討伐で棘土竜と戦う事はあるのだけれどやはりそれなりに苦戦はしているのよ。今度夫に話そうかしらね」

 

 グラディスはうんうん、と頷きながら俺達の話を聞いていた。

 そうしてる内に部屋にノックの音が響いてくる。


 「失礼致します」

 

 静かな声と共に紅茶のセットを載せたワゴンを押して侍従が入室する。

 流れるように流麗な手際で俺達の前に紅茶が振る舞われる。


 「どうぞお上がりになって」

 

 勧められるままにティーカップを取り、口にする。

 淹れられたばかりの紅茶は味も香りも当に極上と言うべき味だった。

 口に入れた瞬間、芳醇な香りが広がり、鼻を抜けていく。一級品の茶葉が使われている事が素人の舌でも一瞬で解った。

 横で同じく紅茶を飲むクリスも一級品の紅茶の香りにやや興奮じみた顔をしている。


 その後もしばらく雑談を続けていると扉が再び開かれた。

 開かれた扉にはこの街の守護騎士隊長、バレンティン・ブルームーンの姿があった。


 「やあ、待たせて済まない。何やら私に用があると聞いて飛んで帰ってきたよ」


 飛んで帰ってきたというが彼の所作は落ち着き払っている。

 彼は優雅に妻であるグラディスの隣に座り侍従に紅茶をリクエストする。


 「さて、早速だが私に用があると聞いていてね。何か困ったことでもお有りかな?」


 バレンティンは俺達に早速用件について尋ねる。


 「ええ、この街に個人で書庫を所有している貴族の方がいるという噂を聞きまして、バレンティンさんならば心当たりがあるかと思いまして」


 バレンティンは「ふむ」と顎を引く。


 「…確かに、書庫を所有している貴族については心当たりはある。で、目的は?」


 バレンティンは顔を少し困ったような表情に変え、俺達の目的を問いただしてきた。


 「単純な話が勉強ですね。暫くこの街に居付いていますが、僕達は根無し草なもので今後旅を続ける上で他の国の言葉も学んでおこうと思いまして」


 「そうか」とバレンティンが前置きして顔を上げる。


 「その書庫の持ち主は貴族街の東の最も奥に住んでいるアーリアル伯だ。彼女はいわゆる本の虫というヤツだ。純粋な学術目的であれば恐らく快く書庫に入れてもらえるだろうが、とにかく彼女の前で騒いだりしないことだ。彼女は自分の読書を時間を害されるのを極端に嫌う。逆にそれ以外のことは無頓着だ、彼女の前でなければ会話も大丈夫だろう。明日私から話は通しておくよ」


 情報からアポ取りまで至れり尽くせりだ。本当にこの街に於いてこの男は頼りになる。


 「何から何まで済みません。助かります」

 「バレンティン様、ありがとうございます」


 バレンティンは「さて」と言いかけ、話題を変える。


 「時に君たち、先日は歪魔獣(キマイラ)、それも大型の特異個体を討ったそうだね」


 本当にこの人は何でもすぐに聞きつけるな。この街の守護騎士隊長である以上、些細な噂話も情報として捉えているのだろうが本当に耳が早い。恐らくギルド関係から仕入れた話ではあるだろうが。


 「はい、とは言っても僕達だけで討伐したわけではありませんが」


 このバレンティンという男は少々俺達を買いかぶり気味だ。もしかするとあの歪魔獣を俺達だけで倒したように捉えているかもしれないので、予め彼に言っておく。――と思っていたが返ってきた反応は少し異なった。


 「ああ、知っているとも。『剛壁』と『裏道』の二人だろう?彼らもこの街ではちょっとした有名人だからな。そこに君たち二人だ。話題には事欠かんよ」


 よくよく考えればこの街のAランク冒険者が三人もいて、もう一人はこの街の冒険者の古株だ。この街に於いては冒険者としては最大クラスの戦力だろう。そう考えれば寧ろ話題にならない方がおかしいか。

 

 「君たちの成長速度には本当に驚かされるよ。これもまた血筋というヤツだろうね。さて、アーリアル伯を訪ねるのは明日にしたまえ。本当は今すぐにでも行きたいところだが生憎、まだ私も仕事が残っておる。流石に蔑ろにするわけにはいかんのでね。おっと、済まないがそろそろ行かなければ役人連中が煩くてな」


 バレンティンが慌ただしく席を立つ。仕事を切り上げてわざわざ話を聞く為に時間を作ってくれたのだ感謝してもしきれない。


 「ではあまり長居するわけにもいきませんので僕達もそろそろお暇させて頂きます」


 俺達も引き上げだ。グラディスに礼をして屋敷を出る。グラディスは優しい笑みを見せながらひらひらと手を振る。


時刻は陽の十一刻。そろそろ陽も落ちてきた。今日は素直にアンリエッタの屋敷へとまっすぐ戻るとしよう。

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