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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第三章:冒険者の兄妹
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第二十三話:買い出し

 カダモンの青果市場で報告を終えた俺達は再び中央街に戻っていた。

 棘土竜(スパイクモール)との激戦の末にボロボロとなってしまった防具を新調する為に防具を取り扱う商店を探すためだ。

 

 この中央街にはこの街で生活するにあたり必要な施設が一通り揃っている他、大きな商店もほぼ全てが揃っている。

 武具店、魔導具商店、薬店など冒険者が利用する店を一通り覗いていく。

 

 「すみません、防具を見たいんですが…」

 「いらっしゃいませ、訓練用の防具でしょうか、それでしたら…」


 店員は俺達を見るなり訓練用の防具を勧めだす。見た目には子供にしか見えないからだろう。仮に騎士団に入団するにしても訓練兵だ。上等な防具は必要としていないと考えてだろう。だがそれは大きな間違いだ。


 「いえ、実戦用の防具です。」


 店員は訝しげな顔でこちらを見ている。本気で子供と思っているようだ。

 恐らく、どうせ子供の買い物と思って安物でも押し付けてあしらおうとでも考えているのだろう。

 このままでは埒が明かない。俺は懐より徽章を取り出し店員に見せつける。これで解ってくれるだろう…。


 「ああ、はい、冒険者の方でしたか。ですが当店ではお客様にお売りできる防具はこれぐらいしかありませんので。」


 どうやら、全く理解できてないようだ。先程と同じ調子で古びた皮防具を勧め続けている。クリスも「失礼な」と言わんばかりの表情で腰に手をあてていた。

 俺が見せた徽章はAランク冒険者であることを示す証だ。しかし店員はそれが解っていないのだろう。あるいは子供故に大して金は持っていないと値踏みした上での発言だろうか。少なくとも今の俺の姿は駆け出し冒険者どころか一般市民と変わらない服装だ。そう思われても仕方ないが、こいつでは話にならない。そう思った瞬間だった。


 「うん、おい貴様、どうしたんだ。」


 この店の責任者と言った所だろうか。でっぷりとした恰幅のいい体に上等な服を身に纏っている。そしてその姿に相応しい立派な髭を蓄えている。一目でこの店における責任者、あるいはそれに準ずる者とわかる姿だ。言動にも何処と無く威厳を感じる。


 「いえ、こちらの冒険者の方が防具をお求めとのことですので。」


 従業員の男がそう言うなり、責任者らしき男は此方を見る。俺もそれに応えるように冒険者の証である徽章を見せる。それを見た男は従業員に対して烈火の如く怒りを露わにした。


 「貴様の目は節穴か!こちらの方はA級の冒険者様だぞ!こんな程度の低い防具を勧めるとは私の顔に泥を塗るつもりかァ!!」


 男の怒鳴り声が中央街の大通りを駆け抜けた。男は従業員は店の裏へと引き込みすぐに愛想の良い顔を浮かべ、改めて俺達の応対を始めた。


 「もーうしわけ御座いません!当店の従業員が失礼を!よぉーっく言って聞かせますので平にご容赦を…」


 手もみ、愛想笑い、猫撫で声。絵に描いたような媚び売りの姿勢だ。この男にも立場があるだろうが一瞬でこれだけ態度を変えられる辺り、この男の商魂は見上げたものだ。


 「いえ、気にはしておりません。ところで、私程度の体格に見合う実戦用の防具を探しておりまして…」


 そう言いかけると男はすぐに金属製の防具を見繕い始めた。流石に大店を切り盛りする商人だけあり、その手際は慣れたものだ。程なくして幾つかの防具を目の前に並べ始めた。

 用意された防具は胸鎧、鎖帷子、肘当て、膝当て、篭手、長靴など、一般的に剣士が装備する金属製防具、それとは別によく鞣された皮を用いた革鎧などの軽装防具を一通り用意していた。


 「そうですね…出来る限り機動性を保ちつつ、一定の防御性能があるもので見繕って貰えませんか?できれば上からローブを羽織れる程度でお願いします」

 

 あまりに沢山の防具を並べられたが、自分では今ひとつ決め切れ無かった。ここは手慣れた店の者に任せた方がいいと判断して俺はそう答えた。


 「成程成程、…ところで予算はお幾ら程でしょう?」

 「金貨三枚から四枚程度で…できますか?」

 「ほほう、ふむ。でしたら…」


 武具屋の主人は俺の要望と予算を聞くと直ぐに防具を見繕った。これまでにも沢山の冒険者や兵士の装備を見て選んで、この大店を築き上げてきたのであろう。真剣な顔で「あれでもない」、「いや、此方のほうが」と独り言を呟いているが、見るからに冒険者の装備が一式揃っていった。


 「いかがでしょうか冒険者様。要望通り、一定の防御能力を確保しつつ、機動性を重視した物を選ばせて頂きました」

 

 店員が選んだ装備は鉄製の胸当てと脛当て、それと銀製の手甲、強化皮革製のブーツと手袋、腰巻き。そして赤のマントだ。成程、最低限必要な部分を金属、動きを阻害しない様に手足には革、銀の手甲は剣を扱うことを鑑みて軽くて丈夫な銀を採用したと言った所か。それとマントが格好いい。


 「お若く見えますが、中々に様になっておりますよ。お気に召して頂けましたでしょうか?」


 悪くない。今まで使っていた、使い古した革の胸当てや草臥れた手袋やブーツに比べても大きく動きも阻害しない上、軽く動きやすい。

 

 「兄様、お似合いですよ。

 「いいですね。特に動きも阻害されず、要所要所に金属製を、ですか。これで幾らでしょう?」


 そう問いかけると男は算盤をすぐに弾き始めた。


 「本来であれば、金貨五枚と銀貨二枚、と言ったところですが、先程のお詫びということで金貨四枚でいかがでしょう?」

 「ではそれでお願いします」


 即決だ。扱える装備としては十分と言える性能で、尚且つ二割程の値引きだ。特に銀の手甲に関してはかなり値が張るだろう。いい買い物だ。そう満足していると既に男は今度は魔術師用の防具を用意し始めていた。この男の審美眼は確かなものだ。


 「そちらのお嬢様にはこちらの装備はいかがでしょう?」

 

 そう言って女性ものの魔術師のローブやブーツ等を幾つか並べていた。

 クリスは現在の装備でも問題ないと困った顔をしていたが、俺は「折角だから選んでいい」と促した。

 俺の許可を得たクリスは輝くような笑顔を見せ、鼻歌混じりに装備を選び出す。

 

 小一時間程かけ、クリスが選んだ装備は、白を基調とした前開きの黒糸で刺繍が施されたコート、銀製の胸当て、それと手首で折り目をつけた指抜き革手袋、革のロングブーツだ。内側には普段来ている白のローブドレスだ。女性らしさがよく出ており、白金の長い髪と自身の美貌もあってまさに聖女のような装いだ。これまではローブドレスにブーツ程度の装備だったが、このコーディネートはクリスの魅力を「可愛い」の方向から「美しい」の方向へと傾かせていた。


 「いやぁまさかここまでとは…見目麗しいお嬢様と思っておりましたが…」


 男がそう言うとクリスも「まぁお上手」と満更でもない様子で喜んでいた。

 俺は更に金貨三枚と銀貨五枚を払ってその装いのまま店を後にした。


 結構大きな買い物だったが、いい買い物だったと思う。ある程度しっかりとした装備を新調する時点でそれなりの出費は覚悟していたし今後の必要性を考えれば安いものだろう。それに現在財布から金貨は無くなってしまったが、それなりの数の銀貨がある。そして昨日討伐した棘土竜の肉と革が余分にある。これも売ってしまえばそれなりの金額にはなるだろう。そう考え、皮革を扱う店を訪ね、売却することにした。

 皮革屋と交渉を重ねた結果、二十八枚の棘土竜の皮は四枚の金貨と二枚の銀貨と姿を変えた。一枚あたり銀貨一枚、銅貨五枚の計算だ。Bランクの魔物ともなると皮もそれなりの金額になるのだ。


 街での一通りの用事を済ませた俺達は荷物を置きに宿へと戻った。時間は陰の零刻を迎えようとしている。

 そんな中、丁度酒場へ来たジャックと鉢合わせになる。


 「よぉ坊主。おぉ装備を新調したのか。なかなか様になってるじゃねぇか」


 俺を見てジャックが少し驚いた様な顔を見せた後、肩を叩きながらニカッと歯を見せる。お世辞ではなさそうだ。そして俺の少し後ろに立っていたクリスにジャックが気付いた。


 「おぉ…なんか一気に大人びたな…嬢ちゃん。もう少し俺が若けりゃ口説きにかかってたぜ」

 「ジャックさん、さすがに歳が離れすぎてますよ」

 「それに、ジャックさんが若くても俺が許しませんよ」

 「違ぇねぇや!ガッハッハッハ!」


 先日のわだかまりはもうこの間にはない。酒を酌み交わしたその時に俺達の中でこのジャックという男の評価は既に変わっていた。


 「さて、俺は酒を飲みに来ただけだが、お前達はここに宿取ってるんだろ?」

 「ええ、僕達も少し早いですがもう食事にしようかと」

 「なら兄様、ご一緒しては?」

 「クリス、今日は飲むなよ?」

 「…!心得てます!」


 そう言いながら俺達は部屋に一度荷物を置きに戻り、食堂へと足を運ぶ。

 

 「よぉ、先に飲んでるぜ。こっち来いこっち!」


 俺達は招かれるままジャックの向かいの椅子に腰掛ける。


 「で、セオドアつったっけか。これからどうすんだ?ギルドで仕事するんだろ?」

 「ええ、装備の新調で少しばかり資金を吐き出したんで暫くはこの街を拠点にしてお金を稼ごうかと」

 「兄様、パーティーについてはどうするんですか?」


 今後の旅の方針について話し始める。今回の装備の新調で費やした資金は決して安くはない。今後の旅を考えればもう少しは資金を増やしておきたい。金の力は偉大だ。少々の事であれば金を積めばなんとかなるというのはどの世界でも同じ話だ。だがパーティーが増えれば分前は減ってしまう。さてどうしたものか。


 「とりあえずはBランク程度の依頼を中心に冒険者の仕事に慣れていこうと思ってる。少なくとも現状の俺達ならA-ランクくらいならどうにかなるかも知れないし治癒魔術もあるけどリスクは避けたい」


 昨日の棘土竜の群れとの戦いがいい例だ。俺とクリス二人で達成はできるかもしれないがあれは辛勝だ。

無理して命を落とすような真似はしたくない。


 「となるとA-ランクに挑むとすれば少しばかり人手がいりそうですね」


 クリスも同意のようで、もし必要に駆られれば余裕を以て臨みたいという点は共通している。


 「お前達の実力なら引く手数多だろう、この街にゃAランク冒険者は少ないがBランク冒険者は腐るほどいる。俺もその中の一人だしな、マスター!酒をくれ!」


 葡萄酒を煽りながらジャックも口を挟む。この男もランクB冒険者、それもベテランの盗賊だ。経験を活かしたアドバイスなども貰えるだろう。


 「何にしてもとりあえずは一旦このままBランクの依頼を幾つかこなしてみよう」

 「ええ、現状足りないものも見えてくるかも知れませんし、まずは様子見という事で」


 一旦はこのまま二人での行動を続けることで決定した。


 「ジャックさん、恐らく受けた依頼の事で質問するかも知れません、その時は助言をお願いします」


 この男も味方につけておきたい。長いことこの街で冒険者を続けている以上、この周辺の魔物の特徴や対策を知っているだろう。


 「おう任せとけ。俺は昼はギルド、夜はだいたいこっちにいる。ま、ただ少しばかり情報料はくれよ?」


 そういってジャックは葡萄酒を口に流し込みながら右手の親指と人差し指を結ぶ。経験を活かした情報屋として多いに役に立って貰おう。


 「解ってますって。酒代稼がなきゃいけないんでしょう?」

 

 俺は冗談混じりにそう言ったが、ジャックは「そうだ」と首だけ振ってジョッキを傾け続けていた。

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