滅びゆく竜の末路と壊れた精霊
北大陸。首都アージン未明。
日も登らぬ深夜。悲しげな竜達の悲鳴によって人々は目を覚ますことになった。
始まりは竜の悲鳴だった。闇夜を引き裂くような。命を失う悲しい断末魔の悲鳴。
竜の国シルバの王レダ・アソートは、深夜兵の緊急により起こされることになった。
「陛下!。陛下。竜が、竜が……」
「どうしたこんな夜中に」
「竜が次々に殺されておりました。我らが誇る竜騎士三名が討ち死に。ロライド騎士団長が外敵とのこと。どうにか知らせが届き、敵は精霊獣と……」
「精霊獣……、まさか」
険しい顔を崩さず。1人の老害の顔が浮かんだ。
「各隊長以上に知らせよ。民の避難を優先。竜騎士総員出撃を命じる」
「はっ!、承知しました」
「よりにもよってこんな時に……」
現在のシルバ、竜騎士の数は60に満たない。
王妃イノワのレブラント以外と、自分騎竜、ロライドの騎竜以外はまだ若い竜と騎士しかいない。不味い時に、攻め込んでこられたと臍を噛んでいた。
「老害めが……」
忌々しい存在に舌打ちする。
竜騎士の朝は早い。最初に。それを見つけたのは、若き竜騎士であった。
『ん、なんだ。旅人か?』
ゆったりした。ローブに身を包み。旅装とする何者かがたった1人でアージンに向かってるのを発見した。
時期的に。あり得ないことではないが、念のため話を聞く必要を感じた。場合によって、排斥するのも見回りの仕事である。
一応。確認のため旅人の頭上を通過する事にした。
「我が契約せし風の精霊王よ。贄を喰らえ。行け!、精霊獣」
竜を認め。不敵に笑う旅人の傍らに。数匹の獣が突然現れた。
「なっ、なんだあれは!?」
一瞬。虚を突かれた若き竜騎士だが、竜の方は、危険を感じて、回避行動。旋回していた。それが結果的に若き竜騎士の命を救い。竜は致命傷を受けるが、
「ギィアアアアアアア!!」
足を切り裂かれ。右の翼が、消し飛んでいた。今の一瞬。何が行ったか、竜騎士には解らない。ただ竜は本能で危機を感じ。ひたすら。力の限り命を振り絞る。
「うっ、ウワアアアアアアアアア!、ティモア、ティモア、ティモア!、嘘だ。嘘だ」
ぼろぼろ訳もわからず泣きわめく若者を。口から血ヘド吐きながら。竜は最高の力を振り絞り。飛びすさる。
「まあ構いません。クフフ、クハハハハハ、アハハハハハハハ、アハハハハハハハ、アハハハハハハハ!?」
狂ったように笑う、それが精霊と契約を結んだ者が陥る高揚。されど王と呼ばれた精霊と契約を結んだ者は、人格破綻を起こすことが起こる。
それを人間は過信する。いや捏造すると言う現象。力の盲信。なまじ膨大な力があるばかりに。暴走する。いや破滅に向かう、そんな者達を魔が差した。『魔ガツ者』と呼ぶ。
この世界に精霊使いはいない。いやいなかった。4つある大陸。神の下僕として産み出された筈である。しかし中央大陸が冥界に封じられた時。世界の秩序が一時的に失われていた。それが精霊と言うシステム、世界に再び精霊が生まれようとする。苦しみの時間。
竜とは精霊が、肉体を持った姿と。ある賢者は唱えた。またある司祭は、竜に精霊が喰われたと唱えた。果たして現実は分からないが、竜の国シルバに。災厄が落ちる。
━━その日。北大陸どころが、全土に激震が走る。竜の国シルバ陥落。国王、王妃、竜騎士はことごとく死亡。信じられない報せが届いた。
「クックククク、アハハハハハハハ、ようやくだ。ようやくだ」
「グルルルル……」
竜の巣と呼ばれる地があった……。
150を超す。竜達は、その日を境に。数を減らすことになる。荒くれ『レブラント』と呼ばれていた。地竜は、命の灯火を失いつつあった。ただその目は、悲しげに揺れる。大切な主を守れず。何も出来なかった自分に。悔しげに鳴いた。
「フン、蜥蜴風情が、時間をかけよって、さて蹂躙の時間である」
行き掛けの駄賃とばかりに。青竜であるレブラントの頭を踏み砕き。血に汚れるのもい問わず。ただ高笑いしていた。
愉悦にひたり、竜の命を使って、また新しい風の精霊獣が生まれ出でた。
黒い風を纏う、漆黒の獣が、
「ほほほ~う、流石は青竜だ。下竜と違い。桁違いの力を持った精霊獣が生まれたか」
獰猛に。楽しげに。ただ笑っていた。
一夜にして、竜の国陥落。竜の巣にいた。竜はことごとく殺されたこと。唯一の救いは、王と呼ばれる竜王種が、確認されたことだけである。北大陸に突如起こった災害。精霊獣の襲撃の話は、瞬く間に広がっていった。
━━ファルバス公国。
元は16部族最強。ファルバス族だけで建国した国である。国王は異国の人間で、最強の戦士である。元宰相レイナ・ホルトではなく、何故か族長の妹アメリア・ホルトの夫が、国王となっていた。
「婿どのやはり動き出しましたな」
「……義父さん」
けれんみある。錆のある深い声は、深い悲しみが含まれていた。
「仕方あるまい」
「やはり……」
「お前の調べた通りだ。『バル』が動いておる』
古代の民であり、今代の魔王ピアンザ配下。元6将の一人。闇と呼ばれた存在であった。
「まだ未確認であるが、風の精霊王が解放された。炎の精霊王に続いてのことよ」
ファルバス公国宰相であるブロンディガは、白髪混じりのザンバラ髪を。ガシガシ掻いていた。
「ザノビアだろうな。奴はギネスの老害ども。生け贄にした」
「では……」
「ああ、今頃シルバに攻めいってるか、厄介なことになりやがったぜ」
状況が悪い。妻アメリアに二人目が、出来た事がわかったばかりである。アメリアの騎竜。王竜と呼ばれる白銀竜ならば、精霊獣とて恐れることはないのだが……、
「大丈夫」
優しい眼差しで、義父を見て。柔らかく微笑んでいた。
「はあ~、お前は変わってやがるな、まあ~そこが気に入ったんだが」
苦笑しながら、仕方ないなと。ブロンディガは、目に鋭い光を宿して、寡黙な義息子とあれこれ相談を始めていた。
◆◆◆◆◆
聖アレイク王国王都カウレーン。
新しく王の守護者。王国の守りてと呼ばれる。竜王騎士リブラ・ハウチューデンは、久しぶりに会いに来た孫のシンクから。なにやらキナ臭い話を聞いていた。
「ほう精霊を連れたバード族の『バル』って名乗ったのがな━━」
(北大陸からわざわざ会いに来たか、ちっ面白そうなことになってやがるな)
残念ながら、渦中から遠いため。シンクの話を調べることは出来ないが、
「プライムに聞いてみるか」
二人は気になったら。そのままにしておかない性格である。竜王プライムが、巣にしているのは、第1師団駐屯地の一角に。番で白銀竜クレアと住んでいて。時々シンクが、二頭の娘シンクレアを呼び出していたりする。
『お久しぶりねシンク。リブラと来るんて珍しいわね』
「お久しぶりですクレア、元気そうですね」
『忙しい二人が、来るとは、何か事件でもあったか?』
やはり賢竜と呼ばれる五竜王の一頭である。感心した二人は、叡知を称えた瞳を見上げながら、シンクが出会ったバード族の『バル』話をした途端。すうっと目を細めた。
『なるほどな……、『バル』が動き出したか』
苦々しい思念。ゆっくり首を上げて、恐らく北大陸に頭を向けていた。
『これは竜王に伝わる物語なのだが、恐らくシンクとシンクレアには必要になるだろう、クレアどうだろうか、語り部である白銀竜として、二人には語っても良いと我は判断する』
穏やかな眼差し。クレアを見ていた。
『そうですね。あの子にお役目を伝える語り部として、契約者シンクには伝えるべきだと判断します』
語り部の竜として、失われた精霊の物語を。歌うように語る。
━━この世界。神々に造られた古代の民の他。神々の補佐として、精霊が作り出されていた。四大精霊と呼ばれる精霊達を束ねる存在として、精霊王はあった。地水火風の四元素。マナと呼ばれる力を。世界に回す仕事を任された存在である。それと遂になるのが、竜で、適度に破壊をもたらせ。マナを世界に還元させる仕事を任せられていた。言わば肉体のある精霊が竜で、肉体を持たない存在が精霊である。2つはコインの表と裏、本来は無くてはならない存在であった。
最初の異変は、地の精霊王が、死んでしまったことである。異変こそ。最初は緩やかであったが、
大地の力がやがて衰え続け。疫病が蔓延して、争いが頻発していた。当時同時期に赤の民が、世界に混乱を招いた頃である。赤の民が作りし土竜の力に注目した神々が、新たな地の精霊王を生み出すため。古土竜の一体に打診したのが、地の精霊王、地竜の始まりであった。そのシステムを任された神獣ファスト。聖アレイク王国の国獣とされる土竜の古代種に頼んであった。




