囚われた精霊王の物語
地の精霊王。その物語を聞いた、リブラは、やや気難しい顔をしていた。
「なるほどな……、今は暴君が、地の精霊王となっている」
「爺ちゃん、暴君って、もしかして?」
シンクの問いに。一つ頷く。
「だが可笑しいではないか、精霊王達が、そんなに昔に囚われていたなど。聞いた事がないが」
リブラの疑問も当然である。シンクが知る限り。精霊の出てきた物語は無かったからだ。そう無かったのだ。
『それは仕方ありません。元々精霊達が竜になったのは、精霊王が、白の女王に封印されて実験に使われたのが始まりでした。その当時。五竜が精霊を護るため。竜を造り出したから。人間は知らないことよ』
クレアは、どこか遠く。懐かしむように眼を細めていた。
『私の母である。最初の白銀竜プラチナは言ったわ。『精霊王』が解放されて、ようやく私達の仕事が終わると』
クレアから。封印された精霊王が一度は解放されて。北大陸に平和が訪れた時代があったこと。精霊の森と呼ばれる。水晶の木々が美しい森があったこと。
バード族の村がある荒れ地こそが、かつて、精霊の森があった場所であること。
バード族が、白の女王の実験で産み出された。精霊と白の民のハーフだと二人は初めて知ったのだ。
『シンク『バル』とは、精霊力がより強い者に。バード族の長に与えられる称号です。彼等にとっては、精霊の解放こそ。望んでいるわ。今北大陸はとても危険よ。ミリアーナも心配だけど……』
ミリアーナとは、クレアの妹にあたる白銀竜である。竜は肉親の情に厚い種族である。心配なのだろう。
敢えてシンクの立場から言えば。
正直なところ関係ない話である。このまま、先生として、夏休みを終えて、新学期を迎える方がどれ程いいか、
だけど━━。シンクとて思うことはある。
いや嫌いな国もあるが、友人が治める国もある。複雑な胸中を抱えていた。
『シンク、お願いとは言えない、でも出来れば精霊王の解放をお願いしたいの』
静かに佇んでいたクレアは、頭を下げていた。「一晩考えさせてください」
竜王プライム、クレア、リブラ爺ちゃんに見送られて、ひとまず。帰宅していた。
こうして一人の時間を過ごすのは、久しぶりのことだ。普段七人の婚約者達が、代わる代わる側にいるため。一人になると妙に寂しく感じていた。
ぼんやり、居間でリナの今日の出来事を聞いて、相槌打ちながらも頭の中では、自分とは関係のないことと切って捨てるに。多少のためらいを覚えてしまい。とても悩ましい気持ちである。
「どうしたのシンク、あんたにしては珍しく悩んでるようじゃない」
伯母ミリアが、マグに、香ばしい甘い香りのオレを入れてくれたようだ。
「ありがとう。少し色々考えちゃって」「ふ~んそっか、あんたも色々悩んでるならさ、あんたには助けてくれる人がいるでしょ。相談してみたら」
ちらり意味ありげな眼差しに。ハッとしていた。ああそうだ、伯母さんの言う通りだと気付いた。
「伯母さん、少し出かけてきます」
「はいよ。あんまり遅くなるんじゃないよシンク」
「はい!」
元気に返事をすると。急いで貴族街に向かって走っていた。そう知略において、もっとも信頼する婚約者の元へ。急いで向かっていた。
◆◆◆◆◆
その日、レイラ・バレスは、
友人でライバルのリルムと二人、婚約者達との会合を行っていた。理由は多々あるが、最近婚約者達の中で、シンとの添い寝することが、一種のステータスになっていて、シンクが住んでいる。伯母さんの家に泊まることもしばしば、誰が最初の女になるか、七人は策謀を巡らせていた。
「やっ、やはりここは年上の私が最初でいいだろ」
やや赤い顔、豊かなたゆんたゆん揺れる巨、爆と言われる胸を持ったローザの均衡の取れた美しさに、思わずリルムですら、魅いってしまう。
「クッまっまて!、ここは第一妃である。私が最初であろう」
焦った口調でいい募る。
「わっ私が最初に添い寝したんですよ~。私に決まってます!」
ピッチリした皮の胴着を好むバウンスター流格闘術・師範代、道場の1人娘ヒナエが、目の下にある黒子も妖艶に。そそる眼差し。思わずローザですら息を飲む。エロぽさが滲む。
「そ、そそ、そんなのダメだよ。わっ私は一番じゃなくても。望まれれば最初でも━━」
最後まで口に出来ず。目の下にほんのり赤みを差しながら、なかなかの強かさを覗かせる少女。ノノフレイミの呟きに。
「そっそれはダメだノン!、私達はシンクを愛している。最初の寵愛を受ける権利があるのだぞ」
正当と言う大剣で、チンマイ少女が、下から上目線で、バッサリと皆の言葉を一刀両断したのが、栗色の髪。あどけない顔立ちの美少女クルミである。
「そうは言うが、最初に慣れた者が手解きする。これはわりと普通と思うが?」
クスリあざとい笑みを浮かべたフィル。要するに。公式以外の初めては自分が貰うぞと、暗に含めていた。
「いっいくらお前でも!、さっ最初はダメだ。やはりここは順番だろう」
普段クールビュティーなレイラ・バレスが、慌てたように友人を制する。油断もすきもあったもんじゃない。
「それにまだ二年あるわ、最近私達の身体に触れる機会も増えてるし。誰が最初でも決めるのはシンクよ。それでも最初は譲らないけどね」
寵愛は譲らないとばかりに。婚約者達を牽制する。
こうして牽制だけの不毛な話し合いは、夕方まで続き、疲れた頭をリフレッシュするため。甘めの紅茶を入れて、一息着いていたレイラの元に。
「レイラちゃん、大事な大事な、婚約者が来たわよ~」
母マリアがノックもそうそうに、部屋に入るなり一言。
「えっお母様、シンクが」
驚いたような顔をしてしまう。ついさっきまで、婚約者同士で、なかなかドロドロした欲望満点な話し合いを思い出してしまう。
「あらあら旦那様から聞いたわよ~。頑張ってねレイラちゃん♪」
だめ押しの一言に。思わず絶句する。するとみるみる間に。赤い顔をしたが、一息に紅茶を飲んで、いそいそと身支度する娘を、優しい眼差しで笑みを浮かべていた。
レイラ・バレスにとって、今や両親や自分のこと以上に大切な存在がいた。
「シンク」
髪が乱れていないか、服装は大丈夫か、色々不安になりながら、父ハウリと世間話をする。最愛の男の子を見つけ、それはそれは嬉しそうに微笑んでいた。
「なるほどね。やはり国防の兵士に必要なのは、数の力か」
「はい、これから先も。簡単な攻撃魔法が使える兵士がいる方が、組織的に使い勝手がいいと上は判断します。そこを念頭に訓練してはいかがですか」
「そうだね。いい助言助かったよ。おっとレイラが来たようだ。ゆっくりしていきなさいシンク」
「ありがとうございますお義父さん」
この日初めて、お義父さんと呼ばれたハウリは一瞬驚き、やがて柔和な笑みを残し。娘に場所を譲った。
「いらっしゃいシン」
ほんのり綻ぶ花のような可愛らしい笑み。レイラが唯一、シンクにだけ見せる笑みに。
「ありがとうレイラ」
感謝の言葉から始まることから、直ぐに大切な話があると理解する。次の瞬間には、真剣な眼差しをしていた、その瞬間からは、可愛らしい婚約者から、策士レイラ・バレスへと意識が入れ替わる。
レイラの入れたお茶を飲みながら、今日王都で出会った。1人の青年の話を皮切りに。精霊の存在。北大陸で行われている戦乱、精霊王の封印を解いて、精霊王が契約者の手足になって、大いなる混乱を撒き散らせている可能性があること。竜の多くが、元精霊であること。
精霊や精霊王を倒すことが出来る手段があのが。現状白銀竜と竜騎士だけである。シンクただ1人と聞かされる。
「バード族の『バル』ですか……」
そっと呟くが、内容は恐ろしく危険なことに。気が付いた。
「危険ですね」
「やはりそう考えるよね。これは北だけの問題ではない。下手をすれば、世界を巻き込み兼ねない出来事だと思った」
「シン、わたしの言う危険とは、多分意味が違いますよ」
「ん、レイラそれはどういうことかな……」
頭脳明晰であるシンクであろうと。さすがにそこまで、察せよと言うのは無理がある。
「これ誰か、裏で絵を書いた者がいますわね」
にこやかだった笑みが、瞬く間に消えていた。それどころか、スッと表情が抜け落ちるや、寒々とした空気纏うレイラがそこにいた、思わずレイラの呟きに。眉をひそめたシンクだったが。
(━━そう言われれば……、確かに違和感を感じるな)
「その者は、きっとシンが北大陸に訪れること。さらに戦乱に介入することまで。念頭に置いてる知恵者よ。ただ向こうに行くことは、相手の思惑通りとなるわ、だから私達を連れて行きなさい。それこそが、私達の王様を侮った相手に対する。一手となるわ」
謀略・策略において、シンク以上の知恵者レイラが、明言した。ならばシンクに否はなかった。
「レイラ一緒に来てくれるかい?」
くすり冷淡な顔が、瞬く間に崩れ。艶やかな笑みが浮かぶ。
「仰せのままに我が君」
わざとらしく一礼して見せた。
それからシンクは1人1人。婚約者の元を訪れていた、最初に向かうのは、『魔王の愛娘』リルム・アオザ・バルストアが住まう。屋敷を訪れていた。
歴史ある建物、外見は古くさいが、中は違う、最新魔道具が、備わっていた。幾人かの顔見知りに会釈されながら、シンクは1人。リルムの部屋を訪れる。




