世界議会開幕です
移り行く世界。時は、再び動き出していた。激動の時代に。北大陸では、ついにレオール連合が瓦解してしまう。不穏な情勢。そんななかアレイク王国の母。そう呼ばれたエレーナ大司教が退位なされる日が迫る。
プロローグ
各国の王族が、王都カウレーンに到着する最中。英雄王オーラルは、奥様の王妃リーラ様を伴い。護衛も連れず。徒歩で中央公園を抜け、城に向かわれる姿を見た民は……、それはそれは感激したものだ。元はこの国で生まれ育ち。幾度となく我が国を救った英雄である。
「おっ、ゴンザブロウさん!、お久しぶりです」
忙しく働いていた強面のパティシエは、聞き覚えのある声に手を止めて、顔を上げて、フリーズしていた。
「シンクから聞いていたけど。本当にパティシエになったんだ~!」
当時とは、随分変わったが、面立ちが変わらないから。直ぐに誰か気付いた。
「……ああ~まあな、お前も相変わらずなようで、何よりだ。それより……。まだ時間あるなら味見して行け」
にやり男臭い笑みを張り付け。新作ケーキミルフィーユを2つ。オレンジペコのアイスティーを用意した。
「ありがたい。久しぶりに妻とデート中でね。ご馳走になります」
こうした些細な気遣いを嬉しく思いながら、有り難く受け取ると。パラソルのあるテーブルに二人で座り、早速味見していた。
英雄王の帰還。普通なら大騒ぎになるところ。しかし英雄王の子息シンク王子が、アレイ学園の先生をしてる関係で、子を持つ親は少しならず顔見知り。慣れと言うのはある意味恐ろしい物で……、驚きはしたが、割合あっさり受け止めていた。
「おいおい親父!、英雄王オーラル様と顔見知りだったのかよ」
血相変えた息子のコウに。まあなと答えたが、気にした様子がない。コウは知らなかったが、人足をしていた頃。ゴンザブロウと友人の商人で、同年代の男は、オーラルの学生時代をよく知っていた。
それよりも多くの妙齢な女性たちが集まっていた。ある意味陛下よりも敬う人物がいたからだ。
「リーラ様!。お久しぶりでございます」
「ああ~やっぱり、リーラ様だわ」
ざわめきが上がっていた。彼女たちはいずれも。ある一定の年齢を越えた女性たちで、中には涙すら浮かべ。女神アレに感謝の言葉を呟いていた。さすがに驚いたコウが、父を伺うと。
「━━そうだな。お前たちの世代は知らないか……、でもなお前の母さんが生きてたら。同じようにリーラ様にああしてたろうぜ」
ずずっと涙を拭っていた。コウは知らなかったが、母がリーラ様とオーラル様に救われたことを初めて聞いていた。
「あいつは体が弱かったから……。長生き出来なかったがよ~。未だにあいつの両親は感謝しているんだぜ?」
言われて見れば祖父、祖母と変わらない年齢である。
「さてコウ、仕事してこい!?」
沢山のお茶をいつの間にか用意した父親に。眼を丸くしながらも。にやり優しい笑い、大きく頷いていた、そして……、昔話に花を咲かせる皆さんに。お茶を配る。
「まあ~ミサナちゃんが子供を?」
「はい、これもリーラ様のおかげです」
後日コウは、マイトから……。中央公園南口にある女性像が、聖女リーラ様を模した物であると知った……、それはまた別の話である。
英雄の帰還。大変な騒ぎになるかと思えば、意外なことにオーラル、リーラ大司教のこと知ってる人々は、ただ嬉しそうに挨拶しただけで、直ぐに終息していった。それはオーラル王の人柄もあるが、人々の感心は、アレイ教・大司教エレーナ様の退位。
そして……次代の大司教様が、英雄王の母ララ様が即位なされると知り。大きな話題となっていて、昨年の鎖国していた諸島国や、一昨年のシンク皇子の英雄物語に比肩する出来事になる。民はそれを感じて、不思議な高揚感を覚えていた。
一年前。北大陸。
破綻の足音が、聞こえ始めてから……。レオール連合は、どうにか今まで踏みとどまっていた。のだが……、
美しい顔に影を落としたレイナ・フォルトは、自分の髪に起きた変化を認めて、深々とため息を吐いていた……。
彼女はファルバス族と呼ばれる。一族の生まれである、またファルバス族は生まれついての拳打に優れた拳士で、戦士である。
16部族からは、5大戦士一族筆頭と敬われていた。更に彼女は比類なき偉業をなし得ていたことで、世界中で名を知られていた。僅かな期間で16部族をまとめ上げ、一代でレオール連合を築いた稀代の女傑。ファルバス族の女は力ある者ほど、髪がピンク掛かった色で産まれ落ち。成長と供に金色。ピークを過ぎると黒色が混じってゆく……。
レイナの手には。一房の黒髪があった。
「レイナさん……」
同じ寝室で、寝起きする夫の声に。下唇を噛んでいた。このままではダメだ……、
そう……レイナ・フォルトは、宰相の退位を決意した。
━━それと同時に。友人達から打診されていた。あの計略を密かに進めることにした。
「どうなるかしら……」
肥大し。潤沢した経済を下地に……、我々はきっと勘違いしている。それを気付かないほど。愚かな考えを持った人間が増えてしまった。それがレイナの誤算である。そもそもレオール連合は、世界の国々に戦端を開こうとしていた魔王に。抗するために造り出した物。人間誰しも欲がある……。悪いことではないが……、
レオール連合の各部族の者は、思っているだろう。二大勢力が拮抗していると……、しかしレイナが見たところ……。もっと複雑な気がした。
━━レイナ宰相退位を告げ。半年とせず。間違いでは無かったことが分かる。
レオール連合は、レイナが退位を伝えた瞬間から。7つに別れそれぞれの国々を作り始めたのだ。
レイナの一番の驚きは、妹の取った行動であった。ファルバス族が中立を歌い。異国の者を王にした。流石に戸惑いが隠せなかった。
無論最大の国は、
善王プレイゼンが建国し。6部族が一つの国会となったラノバ王国、元宰相レイナ夫妻がこの国に身を寄せていた。対する覇王サザノーラと同盟を結んだ戦士の部族。アブスト。クラブラ、ダラノフ、ジブロサ族長四人を頭に頂く。無冠連合アジラダ
第三の国シルバ。竜騎士団長レダ・アソートを王に掲げ。竜騎士達の他。様々な部族があつまり一国を成した。言わば小さなレオール連合である。
それに対した訳ではあるまいが……、散々私服を肥やした10長老が、一族を率いて建国した。10長老会ギネス。
大陸を走る。土竜馬車アロンド族の元に。争いを好まない人々が集まって建国した、グラビデ傾国。
━━ケンタウルスの国ザウス。
16部族の聖地。魔獣が無数に生息する平原の中程に、その国はあった。
「王様、オーラル陛下から物質が届けられました」
柔らかな物腰。森の女神シュルーフウの大神官を勤める。ニキータ・ジュアリーは、夫でケンタウルスの王ラグ・ジュアリーに声を掛けた。物静かに眼を瞑りつつ。先日酒友であるリブラ・ハウチューデン将軍のこと思い出すと。小さく笑みを浮かべた。
「ミモラと皇子は無事に?」
「はい。ケイタ様から連絡を頂きましたわ」
「……そうか、」
そっと寄り添い。夫の肩に頭を乗せたニキータは、小さく吐息を吐いていた。
「済まないな、不器用な王で」愛する。妻の手を優しく握りかえすと。悲しげな眼差しに。強い決意を覗かせて、
「私達は……、幸せです。信頼出来る。友に…。出会えたのですから」
「ああ、そうだな……」
不器用なケンタウルスの王は、北大陸に残り。最後まで戦う覚悟を決めていた。どのような結果になろうと……後悔はない。
━━間もなく。世界議会が開催されるアレイク王国に。北大陸の不穏な情報が入っていた。
━━各国の重鎮達は、対岸の火事を見る心境で。そこまでの不安は覚えていない。
「オーラル陛下」
ケイタ・イナバが、古巣のアレイク王国宮廷魔導師筆頭。娘のエルを伴い。足早に側に寄ると。
『無冠連合が、ザウスと戦端を開きました。それから皇子は無事我が国に到着したよ』
「わかった。引き続きジンには、難民の受け入れを急がせよ」
『承知しました』
娘のエルに目配せして、二人は足早に会場を後にする。その間━━各国の王に。側近が何やら耳打ちをしていて、そして下がる光景があった。重鎮とは違い王にとって。キナ臭い政治の場に。花は似合わぬ。そう腹黒いレヴァ王の内面が見栄隠れする。住み訳にオーラル他。王たちの顔に苦い笑みが広がる。しかし北大陸のことは、関係なくもなく同行する女性達に気を使わせぬ効果と。好意的に受け入れられていた。
同時刻。美しい華である王妃、王女、王族が一同に会して華やかなお茶会が模様されていた。
「リーラ様!」
滅多に他国へ来ることが稀な聖女は、多くの国々から尊敬を集める存在である。ましてや間もなく。リーラ様以上に表に出ないお方が、アレイク王国に戻られる。そう……リーラ様の隣で、下ろし立ての白亜の僧服に袖を通し。布地に金糸、プラチナの糸が使われた物で、袖に大地の女神アレ様のリレーフが施されていた。
「お久しぶりでございます。メルディス様」
慈愛に満ちた優しい微笑み。15年前に一度だけお会いしたことがある。メルディスにとって、嬉しい再会である。
「さあビーナ、ご挨拶なさい」軍国将軍バローナの妻で、元疑似神にされた不遇の女性メルディス。母に似た美しい風貌、エメラルドのような光沢ある美しい髪。やや緊張した面持ちだが、芯のしっかりした眼差しをしていた。
「はっ、初めましてビーナです!」
恥ずかしそうにはにかむが、彼女も公務は初めてのこと。初々しい姿に好感が持てた。
「まあ~、こんなに大きくなられて、お母さんに似て、優しい顔立ちですのね」
おっとりと誉められたビーナ、顔が薔薇色に輝き。
「はい!。ありがとうございます。ララ大司教様」
「ウフフフ♪、女の子も良いわね~。もう一人どうかしらリーラ?」
「おっ、お母様」
最近同じこと考えていたリーラは、顔を赤くして、
「一応……、考えてます」
小声で、答えていた。それを聞いて小さくクスクス笑うと。 「あの子は夫に似ないで、何もかも抱えてしまうところがあるから。しっかりおしりを叩いてあげなさいね」
世間では、英雄王と呼ばれ。世界中の人々から尊敬を集めるのに。母と言うのは強く。いつまでも子供は子供なのだと。この場にいた淑女達は、瞬く間にララ大司教様を好きになっていた。
各国の王達が、集まる会場に。1人の男が入ってきたとたん。空気はピリリとしていた。シニカルな笑み。赤黒い癖髪、息子のオーラルを見つけると。お気楽に片手を上げて、軽い挨拶をした人物。普通であれば不敬。と言われるだろう行為も。この男なら許される。それほどの武名を上げた人物である。
「これはリブラ将軍!」
滅多に。公式の場に現れない御仁に。各国の王。重鎮が一言挨拶にと笑い声が響く。
「う~ん。やっぱり歴戦の勇がいると違うね」
皮肉気な声音。苦笑を張り付けた男。現アレイク王国レヴァ王は、オーラルに肩を竦めて見せた。
「済まないが、両親のこと頼んだぞ」
周りの者は、揃ってリブラに向いていた。
「ああ~。こちらとしても渡りに船だったさ。何せ。うちの国は、曲者ばかりでね」
苦労滲む言葉に。納得してしまう。
「それより……、娘が世話をかけている」
「それはお互い様であろう?」素早い切り返しに。小さく笑ってしまう、
(やっぱりこいつは海の試練から変わらんな。)
嬉しい気持ちを隠して、もう一度皮肉気な笑みを張り付けた。
「さて……、ご来場の皆様。そろそろ世界議会の開会式を始めるぞ!、とっとと定例のテラスで挨拶やるから。頼んだぜ王様方よ」
口の悪さに。眉を潜める重鎮もいたが、多くの者には馴染み深い。
「承知しました。アレイク王」
艶やかに微笑み。ラトワニア女王ナターシャ。傍らには盟友ギラム・ロドラが控えていた。二人に一つ頷き、最初にオーラル、魔王ピアンザと続く。この二人がアレイク王国どころか。世界中に様々な物語を産み出したものたち。こうして公式に魔王ピアンザが、アレイク王国の地に足を踏み入れたのは、中央大陸事件以来のことである。
無論未だに。恨みを抱く民はいた━━。その後世界中に名を広める偉業を成した魔王だが、犯した罪が、決して消えることはない……。
しかし英雄王と。魔王二人がいなければ、世界は消えていたのも確か、よって人々は魔王を恐れ沈黙を守り。英雄王に頭を垂れた……。
ついで現れたのは、元アレイク王国の貴族の出。前王妃レイダ様の甥、軍国ローレン将軍バローナ・エトワール。今や当たり前になった。魔導兵技術を世に出した。二人に比肩せし豪傑。隣国ラトワニア神国の女王ナターシャ様。傍らにいるのは、夫になられた四英雄の1人。ギラム将軍。ドヴァイア王に続き。入って来たのはリドラニア公国の片割れアミ女王。シセリア様は身重のため。夫で少年王ブライアン・ハウチューデンが、もう一人の妻に代わり表舞台に出てきたようだ。彼は英雄王の弟であり。即位して僅か二年とせず。財政難のリドラニア公国を立て直し。やり手の為政者であると同時に。発明家、ただ1人竜魔法の使い手にして、大地の女神アレの司祭資格をもつ。多彩な才能を持った人物と知られていた。
「足元に気を付けてねアミ」
「はい、ブライアン君♪」
歳こそ離れていたが、二人の睦まじい姿に。集まった人々も笑みを浮かべた。
南大陸から。アレイク王国とは、長年同盟関係にある。ファレイナ公国。剣の国と名高いかの国からミザイナ女王様。二年前新たに加盟国となった新生華の国ダナイ。ゴウエン・フィレンツェが厳めしい顔で姿を表した。最後に我が国のレヴァ王と……、
『ウォオオオオオ!』
1人の男が、王の傍らに控えるや。大歓声が上がっていた。赤黒い癖髪。シニカルに笑う男こそ英雄王、リドラニア公王の父にして、伝説の竜王を従えし竜騎士。世に蘇らせた者。地の竜王とも契約せしていたことが知られていた。そして……。アレイク王国に帰依したことを称して、王国はリブラ将軍に竜王騎士の称号を与えていた。『この場に集まりし。我が国の民よ!。今こそ宣言する。世界議会を我が国で、開催せんと』
レヴァ王の開催の言葉を賜り。民は、大歓声を持って答えた。明日には。前大司教エレーナ様の退任式と。新たな大司教様の新任式が、大聖堂で行われる。そのため大混乱が予想される。民には、アレイ学園のコロッセオが解放されて、魔法の鏡にて、観覧可能となっていた。
━━王による。世界議会開催宣言を皮切りに。王都では、様々な催しが行われる。中でも人々の関心を集めたのが、
━━王都で大人気の大劇場である。そこでは今日より無料公演が開催されるが、民の感心は、3日後に開催される。コンテスタ世界大会であろうか、
諸島国、和の国からの留学生フタバは、呉の国からの留学生キヌエと、コウ達に誘われて、世界議会開催宣言を見に来ていた。二人が言葉もなく。壇上の王達を見ていて、肌がザワリと粟立つ思いを抱いた。
「あれが……、シンク先生のお父さん……」
「それもだけど……」
ごくり唾を飲んで、二人が見たのは、リブラ将軍である。それを察してマイトが説明する。
「多分あの方が、オーラル様、ブライアン様のお父様。シン兄さんのお爺様で、竜王の騎士リブラ・ハウチューデン将軍だね」
ぴくり反応したキヌエは、何とも言えない珍味な顔をしていた。
「竜騎士って……、まさか、あの竜を?」竜の多くは、人間や動物を襲う、雑食な生き物である。諸島国にも伝説の悪竜がいて、
━━その一族が、時折村や家畜を襲う事件が起きていた。しかしマイトの話を聞く限り。キヌエ達の知る。竜とは姿が違っていて……、物知りのマイトに質問してみる。
「多分キヌエが言ってる竜は、亜竜に分類される種類だね。リブラ将軍の騎竜は、古竜と呼ばれる特別な竜で、話すことができるらしい。翼竜に分類される多くは果実や、草、花を主食にしている。それにシン兄さんも竜騎士だよ」
再びの衝撃を受けた二人。一つ頷いて、
多分二人が一番知りたがっていた竜について、シンク先生に休みが明けたら相談することに決めていた。
諸島国には、6つの国が存在していた。
そもそも諸島国があるのは、島々の中でも、大きな島で、実は8つあるのだが……、その一つは生き物が、生きることができない。火山島である。
その島を縄張りにしているのが……悪竜ダークサイスと呼ばれる竜で。二人が見かけたのは一度だけ。3つ首の暗黒竜である。唯一魔族達だけが、悪竜の一族に対抗出来る力があって……、どうにか諸島6ヶ国は生活出来ていた。二人にとって竜王とは、最悪の隣人を指していた。二人が抱える何かに気付いた。コウ達三人は、思わず顔を見合せていた。
その頃━━。息を飲んで、王達を食い入るように見ていたのが、シンクに連れられて来たフレナ王女である。
「あれがシンク先生のお祖父様?……、オーラル様よりお若く見えますが?」
父オーラルも若く見えるが、祖父が並ぶと父よりもさらに若く見えた。
『フレナ様、その内レヴァ王から聞かされましょうが、僕達は古代の赤の民。その王の家系です』
聡明なフレナは、ハッと息を飲んで。 理解の光を双眼に宿した。
アレイク王家は白の民。女王の血筋であることは聞いていた。
『祖父は、赤の王の実子。恐らく……』
それだけで分かる。前魔王ヒザンの例がある。古代の民は長命だと。
「シンク先生、先生は妾のこと……」 皆まで言わさず。優しい恩師は、フレナの頭を撫でていた。他の者が同じことしよう者なら。ひっそりと復讐していたことだろう。
『フレナ様は生まれつき力が強く。魔力の制御を覚えなくてはなりません。その点。祖父は魔力に関して、僕や。父以上の力があります』
静かにコクンと頷いていた、先ほど驚いたのはフレナを見て、『成る程な』そう呟いたのが見えたからだ。
『シンク先生。でもフレナは、先生に。勉強教えて貰いたいです』
それこそが偽りならざる本心である。
『はい、僕がこの国にいられる。僅かな期間で宜しければ……』
そこは不満である。でもシンク先生は、この世界に必要な方、残念だけど我慢しなくてはならない、
『わかってます』
ツンとそっぽを向いたが、手をおずおずと出していた。にっこり笑い。フレナの手を握ると。途端に上機嫌となるのだ。
『行きます』
毅然とした顔を作って、フレナとシンクが、揃って現れると一際大きな歓声が上がった。それと言うのも王室広報の努力した賜物であろうか、シンク王子が、アレイ学園の教員になったことは有名である。フレナ王女様が、シンク王子を慕い。お勉強を王子から学んでいると。それゆえの歓声である。
多くの民は。この日抽選で選ばれた人々である。王宮の一部が解放されていて、普段城の内庭であるこの場所には、警備に多くの見習いが駆り出されていた。その一人。フロスト騎士見習いでありながら。侍祭の資格をすでに持っていたタイチ・フレンダは、10歳と異例ながら警備に着いていた。義母が、あのエレーナ元大司教であるからと……、全く関係なく。年齢の割に大柄で、豪快な大剣の使い手である。何を隠そう見習いどころか、下手をしたらそこそこの腕前の騎士では、大人でもタイチに敵わない。聞けばタイチは、あのシンク王子自ら。剣を教えられてると聞いて、小隊長から進言があって、騎士団長シデンが、護衛の1人と許した。大剣を背負い、幼い少年が、ブカブカのフロスト騎士の制服を着てるタイチは、とても目立っていた。無論コウ、マイト、レンタも気が付いて、静かに頷き会う。それを見たフタバ、キヌエが自分たちとさほど歳が変わらぬ少年に注目する。
『マイト、あの子はいったい?』
少年が纏う独特の覇気を感じて、フタバが尋ねた。
『彼は、僕達の二歳下になるタイチ・フレンダ、シンク先生の愛弟子で、姪のリナの彼氏、僕達の最大のライバルさ』
マイトの言葉を裏付けをするように。コウ、レンタが強い眼差しをタイチに向けていた。
『嘘、私たちより二つ下?、身体なんてコウと変わらないじゃない』
キヌエが驚いた顔をしていた。二人が驚くのも無理はない。あの歳で、コウとまともに打ち合えるのは、クルミ先輩達を除いて、タイチだけである。
来年……間違いなく早期入学してくる。シン兄さんがいるうちに必ず。彼奴はそんな奴である。
『おっ、フレナ王女様が、シン兄さんと』
人懐こい王女様は、私たちに気が付いて、にっこり微笑み、手を振ってくれた。王女様は時々授業に参加していた。そんなわけでシンク教室の『特待生』は、フレナ王女様を妹のように思い。接していた。
『我が、王国の民達よ!、世界議会開催を宣言する』
レヴァ王の宣言に、再び大歓声が上がった。
今日から1週間。中央公園では、様々な食べ物や飲み物が無料提供される。突然上がる花火。大輪が華を咲かせた。
ぽかんと惚けていた諸島国出身の二人は、何度も上がっては咲き乱れる花火に。それはそれは目を輝かせていた。
「ねえねえマイト、あれは何!」
キヌエの中で、マイトは聞けば、何でも答えてくれる。物知りな同級生と認識してるようだ。
「二人は、花火初めてだったんだね」
「これが……花火か」
「うわ、今度は青い。見てみて、今度は黄色いよ!」
大変興奮したフタバは、鼻息も荒く。眼をキラキラさせていた。
「こんなに豊かな色彩の花火は、初めて!」
どうやら花火は知ってるようだ、今の花火は色彩だけでなく……。
「うわ!、あれってドラゴン?」「あれは仕掛け花火だよ。確かブライアン様が考案した。火薬を使わない魔力の花火だから。僕たちでもきちんと魔法を学べば、何れはできるかもね」
さすがは博識のマイト。レンタですら知らない。花火師の事情まで知ってるとは、これは商人として負ける訳にはいかない。レンタは襟を但し。マイトの説明を聞いていた。
ブライアン・ハウチューデンと言えば、機械竜と呼ばれる航空兵器を開発した。鬼才と知られていた。また若くして一国の王女二人と結婚した経緯。諸島国6ヵ国の内。和の国、呉の国と国交を開いた立役者であり、またジエモンの有名な技術者の弟子であり、
師は帝国の魔砲、自動人形の製作者と知られる人物とか、色々な噂が絶えない。
久しぶりに兄オーラル会って、それは嬉しそうに話しかけ。眼を輝かせる様子が、印象的である。
「シン。そちらがフレナ王女様かい?」
「うんブライアン、王女様、彼奴が叔父のブライアンです」 食い入るように見ていたブライアンが、シンクの叔父だと紹介されて、なるほどと頷き、
「初めましてブライアン様、フレナ・バレンシア・アレイクと申します」
幼いと言えど王族。優雅な淑女の礼に、ブライアンは少々毒気に当てられた顔をしていた。
「これはご丁寧にありがとうございました。間もなく我がリドラニアが誇る。機械竜小隊が、航空ショーを行いますので、お楽しみ下さい」表舞台に立つことが少ないブライアンだが、切り替えも早く。わざと毒気を含んだフレナ王女の行為を。見事に受け止めていた。少しならず感心した眼をブライアンに向ける小さな王女に対して、小さな笑みを口元に張り付けていた。「はい!、楽しみにします」
裏表なく答えていた。ブライアンに好意を抱いたようだ。
「もしもフレナ王女様が、気に入られたなら。父に頼んで、僕の移動島に遊びに来て下さいね」
「……移動島?(ラボ)」
きょとんとした王女様に。シンクが耳打ちした。話を聞いたとたん。眼をまん丸にして驚き、子供らしい笑顔で、何やら嬉しそうに頷き、父レヴァ王を驚かせていた。
ゴゴゴゴゴウー。
空から、凄まじい轟音を撒き散らせて、上空に五色の雲が現れた。
「始まりました。我がリドラニアの機械竜小隊による。航空ショーです!」
ブライアンの隣で、各国の王族、重鎮と談笑していた。赤眼、黒髪の艶やかな女性が、困ったように。でも愛しそうにブライアンの横顔を見ていた。彼女こそ。リドラニアの双女王の1人。アミ女王陛下であろう。子供のように目をキラキラさせて、自分の作り上げた機械竜小隊を見上げていた。それはもう、空を飛ぶことに憧れを抱く。少年の顔である。
『王女様、叔父ブライアンは、空を飛ぶことが大層好きでして、竜から竜の空魔法を学んだほどです』
その話は、フレナも聞き及んでいた。ブライアンの様子を見れば、それも分かる。フレナ王女のお気に入り。シンク先生の叔父と言うより。ハウチューデン家の男達に。好意を寄せていた。
━━後日……。フレナ王女は、生涯の友になる。ハウチューデン家の娘と出逢う。
━━世界議会。開催翌日……。
朝から賑わう街並み。職人通りでも、華やかな……。お祭りのような喧騒と。綺麗に店舗が飾り付けられ。店先を異国の旅人が、物珍しそうに。お店の前に並ぶ品を見て回っていた。
この日のため、職人通りの各店では、お店に因んだお土産が販売されていた、主な理由として、王都の受付にチラシを置かせて貰ったのだが……。それを見た旅人がこうして、物珍しそうに訪れていた。
職人通りの一角。元々小物を扱い。オーダーメイド等で、常連が通うお店を営むオリバ夫妻だったが、隣の空き店舗を買い取り、安価で、自分たちで作れる。アクセサリーショップを始めたところ━━。瞬く間に都で、大人気のお店となっていた。
「いらっしゃいませ」
笑顔が魅力的な少女が。浅黒い肌の少女を出迎えた。
「あっ、あの~」
不安そうな少女を安心させるように。笑顔で頷き。
「お友達へのお土産ですか?」
「はっはい!」
ずばり当てられて驚く少女。でもリナはギル・ジータの民が好むサムエの法衣を見て、年齢から家族旅行ではなく。魔法討論会・本選で訪れた。学生と読んだのだ。どうやら当たりのようである。
「お友達な何名で、予算はどれくらいでしょうか?」
「え~と、五人で……」
恥ずかしそうに。お小遣いの予算を口にした。
「そうですね。お客様の予算ですと。鎖タイプのブレスレットに━━」
幾つか可愛らしく加工された。シルバーハートに。ピンクの輝石が付けられた物。三連の月にワンポイントで、白い輝石が付いた物等。15点ばかりピックアップして、
「この部分に。名前を彫りますので、世界でただ一つ。お客様が作った。ブレスレットをプレゼントしたらいかがですか?」
目を白黒させていた少女は、頬を赤くして、それはそれは嬉しそうに。
「はい!、お願いします」こうしてまた1人。素敵な思い出を携え。お客様が嬉しそうに帰ってゆく後ろ姿を。リナは笑顔で見送っていた。
「リナ様。そろそろ時間です。店の方は私たちに任せて、準備下さい」
お店の奥から二人の店員を連れて、翼人の美しい女性が現れた。街では戦女神と呼ばれるサノビアさんだ。 「はあ~いサノビアさん!。では皆さんお願いします」
にこやかに微笑み。後事を任せていた。
手作り宝飾のお店戦女神と名付けられたお店の裏は、数人の若い職人が働いていた、仕切るのは向かいで、金型職人を営むドワーフである。リナが任せられてるお店の品々。その多くが金型で大量に作られた青銅に。銀、金メッキを施し。磨きをされた物。そこに同じ製法で土台を100あまり作って。様々な輝石を付けた物を大量に用意されていた。そのなかからお客様が、自分の好みに合わせて、手作り出来る宝飾品と。安価な価格に魅せられて女の子を中心に人気になっていた。
隣の本店兼家宅では、現在オーダーメイドのみ受け付ける。高価な宝飾品を販売するお店になっていた。なのでいつか本物を買いたいと。見に来る女性も多い。今日はこちらのお店を休みにして、家族総出で、城に向かう毎になっていた。
王都に暮らす民にとって、公然の秘密がある。その一つが、職人通りで暮らすオリバ夫妻の秘密である。妻のミリア・シタイル。旧姓ミリア・ハウチューデン、家名を聞けば、誰もが瞠目する。そして……。
望めば貴族になれるのに、一般人の地位に止まった。変わり者の姉夫妻が、久しぶりに弟、両親に会いに。城に赴いたのである。
━━王都の貴族の屋敷では、華やかな酒宴が開かれている。世界議会期間中は、世界中の重鎮・王族がアレイク王国に集まっていた。アレイク王国に巣食う貴族が、てぐすね引いて、待っていた。
━━城の中庭・王宮庭園そんな貴族達から。守る意味も含めて、ハウチューデン家の集まる場所に。王族の庭を提供したのは、ミレーヌ王妃様であった。幼いロアード王子が、ララ様とリーラ様にすっかりなつき、上機嫌でお二人に何か一生懸命話す姿は、実に不思議な光景であった。
そこに見るから初老の柔和な笑みが似合う男に。手を引かれて入って来た女の子に、フレナ王女の目が釘付けになっていた。「あっ!、ララおばあちゃん、リブラおじいちゃんだ~」
はしゃいだ声音、屈託なく無邪気に微笑んだ少女。思わず息を止めたまま、食い入るように見つめていた。
「あらあら、まあ~リナちゃん。随分大きくなったわね~」
走りよって、抱き着いて来た孫娘に。慈愛の面差しで抱き止めたララ様。それはそれは嬉しそうに笑っていた。無意識の内にフレナは、母の服を引っ張って、
「お母様……、私あの子とお友達になりたい」
自分の呟きに。ハッとなった。しかし母シレーヌは、ニッコリポヤポヤ日だまりの笑顔を深めて、
「ええ~、ええ~、きっと大丈夫ですの。フレナちゃん、自分の力で頑張ってみなさい」
てっきり母が紹介してくれるものと思っていただけに。戸惑いながら。背を押され。思わず不安を抱いた。初めて出会う少女。初めて味わう緊張。ドキドキ鼓動が高鳴る。「あっあの~……」
ゴクリ唾を飲み込みどうにか声を掛けていた。見るからに自分より年上の少女は、興味深そうにフレナを認め。人好きする柔らかな笑顔を浮かべてくれた。それに勇気付けられて、
「初めましてフレナ・バレンシア・アレイクと申します」
思わず。最上位の優雅な一礼をしていた。こんなこと初めてである。いけないと少し後悔した瞬間。リナはまるでフレナ王女の緊張を見抜いたように。優しい笑みを浮かべ、
「初めまして王女様。私はリナ・シタイルと申します」
天真爛漫な軽やかな動きで、見事な淑女の一礼で、返礼してみせた。気転を利かせたリナの対応に、もっと彼女を好きになっていた。
━━後の大商人リナ・シタイル。生涯親友として、供にアレイク王国の危機に立ち向かうフレナだが……、
それは先の物語。
あの気難しい娘が、自ら友達になりたいと言うとは……、感慨深い思いを抱きつつ。ついミリアさんと眼差しを交わして、二人は微笑んでいた。
「まあ~、まあ~ミリア、顔を見せてちょうだいな」
そんな二人に構わず。柔和に微笑む母ララに。思わず照れて赤くなるミリアさんに。思わずミレーヌまで楽しい気持ちにさせられていた。
「王妃様。お茶会のご招待感謝致します。妻の父であり親友は、気が利かないので、こうしてお目通りくださり感謝致します」
柔和で、見るからに人当たり良さそうに見える。初老の男からの鋭い言葉に。リブラ将軍は珍しく苦虫を大量に口に入れた。苦々しい顔をしていた。
「悪かったな~。悪友で、娘の夫よ」
「ほほ~う、まだ友人と呼んでくれるなら。近い内に。酒でも奢ってくれるんだろうな?」
「ちっ、仕方ないな~、わかってるよ」
言質は取ったよ?。まんまと言いくるめられたリブラ将軍は、ガシガシ頭をかいて、シニカルに笑っていた。
「相変わらずで、何よりだ友人」
「ふん。ようやくかよリブラ」
二人の掛け合いを間近で見ていたブライアン、オーラル兄弟と。
「こうしてお会いするのは、お久しぶりになりますわねアミ様」
旧交を温める女性陣は、集まれば早速井戸端会議に突入する。最年少のフレナは、新しい友達リナを連れて、ロイヤルガーデンを案内しながら、リナのこと聞いていた。
「そうなのか、実家が小間物屋をな……」リナは、シンク先生の父、オーラル王の姉と聞いて。母がミリアさんと仲がよい理由を垣間見た気がした。
「━━王女様は、シン兄の元で、お勉強してるんだよね?」
「ねえ。そう畏まらず。フレナと呼んで欲しい。私もリナちゃんと呼ぶから……、そのな……」
「うん、わかったよフレナちゃん」
物怖じせず。素直な性格のリナは、あっさり受け入れていた。思わずフレナは笑顔になっていた。それだけ嬉しかったのだ。
「そうじゃ、シンク先生のクラスにも。毎週二度ほど、お邪魔しておる」
自慢ではないが、アレイ学園の『特待生』に混じり。勉強していた。
「もしかして、コウ、マイト、レンタ君。知ってますか?」
聞いた名である。特にマイトは、クラスの中でも博識で、気遣いの出来る男とフレナの評価も高い生徒である。
「そうか~、三人が一緒だったら。シアさんもきっといるね~」
にこやかに言うから、少しならず。気になっていた。
「四人は。リナとタイチの幼なじみで、シン兄から魔法と。武芸とお勉強学んでたんだよ」 それを聞いて、なるほどと関心していた。
「しかし……。タイチという生徒は、いなかった筈だが?」
記憶が優れているフレナは、アレイ学園の生徒の全ての名を覚えていた。記憶に無いだけかとリナに聞いていた。
「タイチは━━」
恥ずかしそうに、恋人のこと話していた。初めて会ったばかりの二人だが、不思議と何でも話せていた。
「ほお~、10歳で、王宮の守りを任せられた者か、そのような子供がいるとは知らなんだ」
関心した口振りである。フレナとていつの間にかお姫様。お姫様した口調から、肩肘張らない気楽な物に変わっていた。これには内心驚きながらも。非常に心地よい。
「なあ~そのリナ?。私と友達になってくれないかな」
自然に口にしていた。一瞬目を丸くしたリナだったが、
「うん!、いいよ」
にっこり日だまりのような、優しい笑みで頷いてくれた。この時フレナの幼い胸は、生まれて初めて感じる。幸せな気持ちが全身を駆け抜け。はしゃぎたい気持ちが溢れ。思わず素直に。嬉しそうに笑ってしまう。そんな状態で……、楽しくて、浮かれた笑い声を上げていた。
「あらまあ~、あのフレナちゃんが、楽しそうに笑ってますの~」
ミレーヌ王妃が、とても驚いた顔をしていた。
「あらリナってば、もうお姫様と友達になったのかしら?」 娘の性格ならあり得る。ああいう子はほっとけない質だと、わかっていた。
「子供の声は。良いものだ……」
オーラルがしみじみ呟く。リーラは夫の手にそっと触れて、 「ええっ」柔らかく微笑みリーラは同意したのだ。
さて密かに、ハウチューデン家の家族が集まっているころ。王宮護衛の任に付いていたタイチは、義兄であるカール准将。フロスト騎士団長シデンと供に。義母エレーナの元を訪れていた。
今日━━母さんは、大司教の地位から退位される。
「あらあら私のために。ありがとうねカール、シデン、そしてタイチ……」
今まで毎日のように見ていた。真っ白い簡素な法衣。紫と金糸のサリー、胸元の大地の女神アレの信者を示す。ペンダントだけが豪華な物で、エレーナ・シタイン大司教は、生涯質素な装い。童女のようなキラキラした眼差し。数え切れない子供達の母として、人々に敬われ。アレイク王国の母は、その日……、普通のおばあちゃんに戻った。アレイ学園のコロッセオでは、国民の多くが詰め掛け。固唾を飲んで、退位式を見守り……、
人々は感謝の言葉を呟き。
涙した。
エピローグ
久しぶりに父のお供として、アレイク王国に訪れたランダルフは、恋人で婚約者リーザ・カーベンと二人手を繋ぎ。コロッセオで、エレーナ大司教様の退位式を見守っていた。
日に焼け、すっか浅黒くなったランダルフは、精悍な顔立ちになっていて、リーザの胸は高鳴っていた。
熱くなる頬。照れてまともに目を見れない時間。でも……、ほんのり手汗をかいた手のひら。緊張した横顔、ランダルフさんも私と同じように。緊張してくれてたのだと気が付いて……、胸がほっこりしていた。
「母さん……、無茶してない?」そう聞くと。うって顔色が一瞬変わり。顔をひきつらせながら。
「まあ~……、色々ある」
地平線を見るような、無の諦めに似た目をしていた。
「あははは…、ランダルフさん。いまシンクとおんなじ。目をしてるよ~」
「……そうか、あいつはこんな大変な思い……、悪い」
「ん~ん。気にしないで、母さんたら、仕方ないんだから」
何とも言えない顔をして、リーザは苦笑していた。明日は二人で、コンテスタ世界大会の観戦に行くことになっていた。
「ランダルフさん、明日楽しみです♪」
「……俺は、お前と一緒なら」
恥ずかしそうに口をつぐむ青年の腕に。リーザは自然と抱き着いていた。
幼い友情。アレイク王国で生まれたフレナ王女、リナ、タイチの三人は、やがて友情が育まれてゆくのだが……、また同じ物語か、別の物語で、背徳の魔王でした。




