閑話アホウネの野望
プロローグ
━━東大陸・アレイク王国。
世界議会開催に合わせて、王都カウレーンでは、世界中から多くの旅人が集まっていた。
東通りに面した。宿舎が並ぶ区画。外見は今にも崩れる間際のぼろぼろな小屋。しかし扉を開けて、中に入るや。あまりのギャップに誰もが絶句する。まるで魔法を使っただまし絵である。
━━5日前。王都カウレーンに到着した。アレンザ・ホーネリアも慣れてきたとは言え。やはり何度も新鮮な驚きを隠せない。その日は世界中の学校から集まった。秀才天才が一同に介していた。だからではないがもっか話すのは、これほど奇抜な建物が自分たちで建てられるかである。ホーネリアですらまるで自信がない。魔法の最新国と自負する。西の帝国で、最優秀学生に選ばれた彼女にも。恐らく自国の学院長ロネリア・ホルデン。白銀の美少女にしか見えないが。なんと結婚していたりす。先日生き別れの兄と再会した場面を見て。少し貰い泣きしてしまった。でも無理だろう、今は敵がい心抱く。幼なじみシンクと彼の婚約者で、親友のリルムちゃんを。いじみもなく睨んでいた。
「おっ、お姉様落ち着いて」
ホーネリアの隣。黄緑掛かった髪の後輩レモーネが。戸惑った声を上げた。
「なんなのシンクのくせに。リア充とか、ムカつくわね!」
美しい額に。ピキリ青筋を浮かべ、歯ぎしりしていた。
世界中の学校から、集められた学生達は、シンクが用意した。宮廷料理人も裸足で逃げす。絶品料理の数々を前に。食欲と怒りの狭間に揺れていた。
「おっ、この焼き肉。マジで絶品だな~」
実に。お気楽な立場のリーク・リーク・ホーンが褒め称えた。どうしたことか、悔しそうにキッと。リークを睨んだ。
「……ん!。これは…」
寡黙なプロム・オーディアンが、珍しく言葉を失っていた。すっきりした味わいのサラダを口にしてのこと。悔しいことにホーネリアもリルムと同じく。料理だけは苦手だった。他の家事は完璧なのに……。そこだけは残念な女の子である。じっとりした眼差しを厨房に向けると。あのリルムが、甲斐甲斐しくシンクの手伝いをしていた。どうしたことかたどたどしい手つきで、あのリルムちゃんが、食材を刻んでいた。
「クッ……」
まるで裏切り者を見るような顔には、険んがある。
「シン~♪、お代わり頂戴」
クセ髪を後ろに束ねた元気少女アムールが、とても嬉しそうに声を掛けた。
「アム。焼き肉ばかりじゃなくて野菜も食べなよ」
「はあ~い♪」注意されたのにとても嬉しそうな顔をしていた。
「そうだこの間。リーザ達とリーブル酒家行ってきた。シンクのお陰で。美味しいランチ食べれたよ~ありがとう」
ご機嫌に呟くから。思わず聞き耳を立てていた。ホーネリアの生まれは輝きの都プロキシスである。父は財務大臣、母は商会長、いわゆるお嬢様であった。恵まれた環境。それゆえにちやほやされる事が、当たりで、自分がお姫様だと勘違いしたのは言うまでもない……。
そんなある日のこと。自分の尊厳を焼き付くし。破壊する存在と出会った。初めて見かけた時。
「天使……」
不機嫌な女の子を見た瞬間。思わず粒やいていた。それがリルムとの出会いである。
(あの子こそ。私の親友になる存在)
固く決めた瞬間。
「あっ……」
自分から声を掛けようとした時。何と女神もかくやと美しい少女は、黒髪の少年を見つけると。途端に艶やかな色彩が、表情に浮かんでいた。
(誰……あの子?)
自分が見つけた天使から。あん顔されたの見たら、今さら声をかけにくい。(誰だか分からないけど、何者かしら?)
ホーネリアの住まう町は、都から少し離れた商業都市である。シンクとリルムに初めて出会った日から。シンクは自分の親友(予定)を奪った憎い相手となった。
色々伝を使って、調べさせたところ。二人の素性が直ぐにわかった。
(あんな凡庸な男の子が、英雄王の子息ですって?)
信じられなかった。あの女の子が魔王ピアンザの1人娘。王女と王子の組み合わせだと気が付き、地団駄を踏んでいた。
でも……、遠くから二人のこと観察するうちに。リルムの方がシンクのこと。お気に入りのようだと分かった。(狡い!私だってリルムちゃんと友達になりたいのに)
こんなにも思い通りにならないことがあるのか、初めて悔し涙を流した。
そんなある日のこと。父に連れられて、輝きの都プロキシスを訪れていた。なんでも建国記念日パーティーに。家族同伴で参加してほしいとのこと。母が多忙故に、王子と年が近いホーネリアが選ばれたのだ。当初難色を抱いたが、リルムちゃんが来てると聞いた途端。前言撤回太っちょの父を引き連れて、ホーネリアは意気揚々と、白銀の城に登城していた。
━━初めて訪れた白銀の城は、息を飲むほど美しく。お優しいオーラル王、大司教で奥様のリーラ様。そして……宿命のライバルが現れた。傍らに美しいドレス姿のリルムを侍らせて、剣呑な眼差しで睨むように初めて二人が出会った瞬間。お互い宿命のライバルが現れたと理解していた。
「リルムちゃん~。ホーネリアさんとあっちで遊ぼうよ」
不敵に笑うシンク。きょとんとしたリルムは、
「シンクがそう言うなら」
良くも悪くも。シンクが側にいてくれるだけで、リルムにはどうでも良かった。そう言われた気がして、とても悔しかった。
裏庭に案内された私は、鋭い眼差しを受けて、少しだけ惑った。この時知らなかったが、シンクはリルムちゃんの命を守るため。右腕と左足を失っていた。それを知ったのは、ずいぶんと後になってからだ。
「君。リルムちゃんが好きだろ」「なっ……」
「良いよ。僕は君とは仲良くなれないだろう、でもリルムちゃんとなら親友になれる。だから一緒に遊ぼう」
そんな風に否定的でありながら。リルムちゃんのこと考えて、認めてあげれる。ホーネリアには出来ないことだった。
「……あんたなんかに負けないから」
「へえ~、君には無理だよ」
戸惑った顔のリルムを他所に。シンクとホーネリアは、こうしてお互いを認識したのだ。
会えば罵り合う二人に。周囲は驚き、戸惑い、諦めて行った。(でも、私はこう思う。あの日普通の関係だったら、今の私はいない。)
「ネリア、ちょっと不恰好でごめんなさい」赤くなりながら、わざわざリルムちゃんが持ってきた皿を見て、息が止まった……、
「ホーネリア。誕生日おめでとう」
突然の毎に。何が起こったか分からなかった。宿敵シンクが珍しく優しい眼差しをしていて、教えてくれたのは……、
「リルムちゃん、アホウネの為にって頑張ってたんだよ。今日親友の誕生日を祝うんだってね」
「えっ……私のために?」
「うん!、だってネリアは私の親友だから……」
はにかむ姿が、何故か霞んでいた。
(親元離れる時だって、泣かなかったのに……。)
鼻の奥がつんとした痛みに包まれた。
「リルムちゃん……、ありがとう」
「うん、どう致しまして」きっとまだ親友として、認めてくれてないと私は思ってた。私の方だけで親友だといい振らしてただけの関係……。
リルムちゃんが、同じように私を親友だと思ってくれていたこと。本当に嬉しく……。
「いいな~リルムちゃん。親友の私には無いのかな?」
はい?、一瞬聞き違いかとクセ髪、そばかすがチャームポイント。見覚えのある少女アムール・ステファンを見ていた。
「アム、貴女この間私に黙ってリーブル酒家で、美味しい物食べてきたでしょ、だから無いわ」
頬を膨らませ。不機嫌そうに言うのだ。あれ……可笑しいな、あの人見知り激しいリルムちゃんが、あんな親しげにするなんて、嬉し涙なんてどこか吹き飛んで、顔がひきつり始めた。新たな脅威にプルプル戦慄いていると。
『残念だったね~、今やアホウネ10番目の友人だよ。しかも昔の友人代表だね』
「なっ、なななな何ですって!?」
絶叫していた。いつの間にそんなこと……、ふっと数日前に会った。二人の女の子思い出す。『ただの親友よりも。ライバルには敵わない。世の常だよねアホウネ、クックク』
にやり不敵に笑われて、ようやく危機感に火が付いた。昔エルマさんの登場に焦った以上の不安である。まさかって思いも。やっぱりって気持ちが上回り、じろじろアムール・ステファンを見ていた。
「そう言えば、アホさんと話すの初めてだね」「なっなっなっ何ですって!、『誰がアホやねん』」
いきなり失礼過ぎて、思わず突っ込みをやってしまった。そんなことにも気が付かず。周りから『おお~』どよめきが上がったが気にならず。
「驚き過ぎて、気絶しそうになりましたわ、アムさん何を言ってらっしゃるの!」
ギラリ怒りの炎に身を焦がしながら、ガルルと噛みついた。
「あはっ、だって名前アホウネでしょ?」
「はあ~?、そんな人いませんから、親も大切な娘に、酷すぎるアホウネなんて名前付けるはずありませんから!」
思わずアムールの胸に突っ込みを入れていた。きょとんとしてから。首を傾げたアムールは、「そうかな?、私はありだと思うけど」
おもいっきりずれた感性の持ち主。アムールの言葉に転ける真似をしたとたんに。爆笑が起きていた。
「違いますから!、私の名前はホーネリア、ファミリーネームがアレンザですのって、何で私がいちいちシンクのお馬鹿が付けた愛称に。言い訳しなきゃならないのよ。馬鹿王子!。全部貴方のせいよ」的確な切り返しに。
「「お~お」」妙な関心の声が響き渡る。この時ようやく周りの様子に気が付いて、振り上げた手が止まる。ようやく思い出した。ここが食堂であると……、真っ赤になってプルプル震えるホーネリア。
「あっ、なるほどね~。シンク君、意地悪だね」
アムが予想外な助け船を出していた。驚いたホーネリアを他所に、怒ったような顔をするから。戸惑っていると。
「ネリア、アムってば多分、貴女のこと友達だと思ってたようね」
「えっ?、私を友達と……」
とても戸惑っていた。他の学院の生徒からそう思われることに、違和感が……て、
「そうやで~シンクはん。ネリアさんいくらからかい安いからって、あかんよ~」
もう一人立ち上がり、注意してきた女の子、彼女も顔見知りである。確かアノン・ファン、軍国ローレンのレノン学園の生徒で……、
「そうだねごめん二人とも。ホーネリアがあまりにも天然過ぎて、からかいやすいからついね~」素直に頭を下げるシンクに。狼狽えるホーネリア。どうしていいか分からなかった。
「ネリアこの場は、私に免じて許してあげて」「……しょしょうがありませんわ。馬鹿王子を許します」
リルムちゃんに言われたからではない。こんな風に色々な人から庇われたことが、嬉しかった。国を離れてから、どこか自分を取り繕ってた気がした。少なくともアムール、アノンは私のために怒ってくれた。それが素直に嬉しかったのだ。
「あっそう」
落ち込んでいるとばかり思ってたシンクは、不敵な光を相貌に宿して、何故かアノンの方に視線を移すや。何やら悪巧みする顔をしていた。
(あれ……あの顔って)
「アノン、君が探してた相方。ホーネリアがやってくれるよ。何せ我が国のお笑い芸人アレンザ・マサユキさんの愛娘。どつき漫才の天才と。呼ばれてたんだから」
何を言い出すのかしらこの馬鹿王子は、眉を潜めたホーネリアを他所に。
「ほっほんまなん~、シンクほんまにどつき漫才を?」
何故か食い付いたアノン、何故かリルムちゃんに目を向けて、悪戯を思い付いた顔をして。一つ悪い笑みを浮かべ頷いた。
「残念だけどアノン、事実よ~、ホーネリアの父マサユキさんは、プロキシスの財務大臣なの、そしてお母様は生粋のお笑い芸人サユキさんよ」
「芸人ちゃう!、お笑い好きなおばあちゃんやん」
的確な突っ込みをしていた。
それを聞いた生徒達は、ハッとした顔を浮かべていた。
「なっ……ホーネリアさんが、あのサユキ、マサユキ師匠の娘さんでしたか」
1人納得するアノンを他所に。頭の中を暴風が吹き荒れた。
(何故納得を、お父様達は一体……)
ホーネリアは全く知らなかったが、諸外国を渡り歩くマサユキ、サユキ夫妻は、各国で掴みに漫才をやってること。アノンから衝撃を持って伝えられたのだ。
「なっなな何ですって~!」
絶叫していた。
エピローグ
親友リルムちゃんが、誕生日を祝ってくれた。人生最良の日から、何故かホーネリアの立場が一変してしまった。アノンとアムールに付きまとわれ戸惑っていた。直ぐに諦めるだろう、そうお気楽に考えていたのだが……、
ある噂が流れ始めた。
ホーネリアが芸人デビューするのではないかと……、
「なあ~ホーネリアさん。うちの相方になってや~」
「なっなんですのアノン、相方って」
訳も分からず。尋ね聞いていた。すると我が意を得たり。はしゃいだ笑みを浮かべていた。この時ようやく気付いた。あのシンクの眼差しに。まっまさかリルムちゃんまで、今回のことに関与してるのでは?、疑念を抱いた。こうして世界中に漫才ブームの火付け役アノン、アムール、ホーネリア、伝説の女芸人トリオ『アホウネ』が結成されるが、また別の話。




