初めての課外授業ですか?
ようやく平和が訪れたアレイク王国に。英雄王の父リブラより親書が届く。
その頃━━アレイ学園では、例年行われる課外授業のことが議題に登っていた。次代を担う、元悪餓鬼三人は、先輩メルディスと遭遇することになって……、
プロローグ
西大陸で起こった。世界を揺るがせる事件も……。
英雄王オーラル、魔王ピアンザの活躍により、どうにか水際で防ぐことが出来た……。
━━数日後。正式に両国王から。地下迷宮及び。事件の終息が知らされたのが、昨夜未明のこと。
安堵したレヴァ王は、短い仮眠をとっていたところ、元将軍職にいた二人の老将から。地下迷宮の安全を知らせる報告を受け。ようやく終わったと。安堵の表情を浮かべ。深く玉座に座り直す。
「これでようやくか……、我が国の秘事も終わる」
国王とは……、まさかこれ程の重圧を背負う職と知り。胃が痛くなりそうだが。なお前に進める古い友人を。羨ましく思い、深々と吐息を吐いた。
「これからが始まりであろう……」
外交のこと。さらに国内に巣くう、貴族達の動きに注意が必要である。
「ひとまず……、娘の無事が何よりだな……」
妻に似た可愛らしい風貌。今は亡きケレル殿下のような、聡明さと。レヴァの毒舌が合わさり、なかなか面白い子供に育っていた、
「しかしあの子が、誰かから学び、勉強を続けたいと言うとはな……」
上っ面は可愛らしいく。表面を取り繕うこと得意としていて。とても愛らしい王女を演じるが、基本かなり腹黒く。本音を隠すのがとても巧子供である。あの子の素に気付いてるのが、ミリアさん、それにシンクだけである。あの子が心を開いてるのも……、
些か。父として複雑であるが、シンクに好意を抱いてるのはよく分かる。あの子は兄が欲しかったようで、どうやらシンクを実の兄のように慕ってるのではないか、妻はそう言って、笑っていた。
━━アレイ学園に勤める。教諭の多くの朝は、学生よりも少し遅く。その代わり授業が始まる。学年ランキング戦が始まり。終わるまでの時間を使い。ホームルームが始まる前まで、全教諭が集まり。週の初めは、会議が行わる。本日学園長こそ出席していないが、補助教員の先生達の姿も。最近は良く見かけられていた。
「シンクおはよう♪」
「あっカナイさん、おはようございます」彼女こそアオイ、カナデの母であり。現宮廷魔導師五席の地位に着いていた。
カナイの仕事は主に。王立図書館。『院』にある図書館全て。書籍を管理する。重責を担うため。多忙で。アレイ学園にいること事態珍しいのだ。
「娘から聞いてるわ。この間の授業も画期的だったわね」
この間は確か物質変化の魔法である。あれは細かい粒子力学のバランスが必要なのだが、
「とても面白い解釈ね。あれなら分かりやすくて、教えられる生徒達が、軒並み成績上がったの良く分かるわ!」
「あっ、ありがとうございます」
あまり誉められ慣れていないから。照れ臭そうに赤くなる。
「そこで私達からのお願いなんだけど……」
シンクの授業を元に。新しい教科書を作ろうではないか、そんな話が持ち上がってるという。
「そこで初等部の魔法理論の教科書を、試しにシンクの授業の内容を混ぜたもので、作ってから。判断したいのいいかしら?」
「それはとても光栄です……、僕の拙い授業が役にたつのならば」
ほんのり赤くなりながら。快く了承していた。
━━アレイク王国の宮廷魔導師は、普段━━。
━━実務を行う場所がある。城の北にある貴族街。さらに先には豊かな、王家が管理する美しい森がある。宮廷魔導師は森の中に隠された建物に詰めていて、王家に連なる歴史、諸外国の出来事を記する。部署を兼任していて、新たな歴史書、魔法理論の書籍の監修をしていた。
本日詰めていたリタ・エルメルダ、コノエ・フィスター、ブローゼル・ホーゼリアの三人は、カナイがもたらせたある画期的な勉強方法に、注目していた。
「うま~く。カナイが、シンク様の了承を得てくれた~ら。我が国~の。学力も底上げされる可能性が、高い~ですわね」
リタがパツン前髪を揺らせて、甲高いキイキイ声で、自分のことのように嬉しそうに言えば、うんざりした顔のフィスターが、仕方なくそうだなと頷いた。
「しかしハウチューデン家とは、偉大なる家系だと思わないか?」ブローゼルの憧憬する口調に。多少呆れるが、確かにと二人も同意する。三人は今……、ハウチューデン家の伝記を編集しており。ある老夫婦が養子にした二人の子供から……、壮大な物語が始まっていた。
「しかし養父のシノメ殿も。なかなか面白い経歴をお持ちだが、何より養母ベリー様の生家が、王家に連なる家系だとは思わなかったがね……」
血縁関係は無いのだが……、王妃様が、ミリア様になついてるのは、不思議なことではないことが、最近分かっていた、もしもベリー様がご存命ならば、オーラル・ハウチューデンが、あそこまでの不遇を受けることも。もしかしたら英雄にならなかった可能性すら。あったと考察出来た。宮廷魔導師としては、複雑な面持ちで監修をしているのだ。
「これから先━━。我が国は、ハウチューデン家の恩恵を。最も受けることになりそうだな」
近隣諸国には、英雄王の弟ブライアン様が、中央大陸の王となられるシンク様は、現在アレイ学園の教員をなされているのだが。三人が目から鱗落ちまくりの授業をしていると聞き、宮廷魔導師として、大変興味深く内容を拝聴していた、これならば新たな初等魔法理論の教科書を作るに。相応しい授業をなされていると判断したのだ。
その一方で━━、
シンク様は、若干16の若者である。それを考えると……、ブローゼルの言った、偉大な家系との発言に繋がる。
「それよりもあれを聞いてるか?」
「ああフレナ王女様の事だな……」
まだ幼い子供であるが、早くも王族としての素養。その片鱗を見せていた。
「シンク様に眼を付ける辺り……」
「ケレル様をも。彷彿とさせる。逸材ざ~ます」
超音波のような声に辟易して、いい加減何か言いたいが、どうせ聞く耳を持たないので、半分諦め本題を告げた。
「そう言えば……、そろそろ学園は、野外授業の時期では無いのかな?」
ブローゼルの指摘に、二人は思わず顔を見合せ、しばらく姫様が、シンク様にまとわりつく様子を。ありあり思い浮かべてしまい。三人は苦笑していた。
━━その頃。教員会議が終わって、例年通り試験が終わり次第。今年も課外授業が行われることが決まった。
一、二年は変わらず。船舶の訓練、野営訓練を含めた基礎を行われるが、
……問題は、四年の地下迷宮探索は、中止となった。
「あの一つ提案があります」
シンクはあくまでも。助言と言う形を取って、フローゼの島々にあるダンジョン探索はどうかと述べたのだ。
「いや~フローゼのダンジョンは知ってたけど、代案に使うことまで、考えも及びませんでしたわ!、悪い話ではないですし。決まる可能性がありますわね」
カナイのお褒めに。軽く一礼しながら。海洋交易の要所となりつつあるフローゼ。船の安全、住民の生活を守る理由まであるとすれば。決して無下に却下出来なり理由もある。カナイから見れば悪い話ではないのだ。
「シンク!」血相を変えたバレンタインが。戦士も顔負けの身体を揺らし走って来たかと思えば、
「フローゼのダンジョン!、正式に決まりそうだ。学園長からいま連絡があった」
思わずカナイと顔を見合わせていた。随分早いなと思った二人。ばつが悪そうに。明後日を向いてからわざとらしい咳払いをしていた、
「いや~ゴホン、一応うちのが寝る墓があるのだ。そのな~急ぐのは当たり前だろ?」
言い訳がましい呟きを聞いて、ああ成る程と二人とも思い出していた。バレンタインの妻で。リーザの母が、フローゼの港から見える。無人島に眠ることを……、
「ではバレンタイン教頭、後のことお願いしますね。僕はフレナ様の様子見てきますから」
「うむ、済まないが頼んだぞ!」
本来なら……、エドナ元学園長か、エル筆頭がフレナ様の家庭教師を行うのが慣例だが、エドナ元学園長は学園を去り。エル筆頭は多忙、他の宮廷魔導師とて何かと公務で忙しく。手に余る状況だった、
「ちょうどシンクが卒業するとき、シアンが宮廷魔導師になるので、彼女に任せれますしね」
そこまで見越した人事ではあるまいが、やはりエドナ元学園長が抜けた穴は、想像以上に大きく思えた。
「多分ですが、フローゼのこと僕がそう考えるよう仕向けてた感じがしました。ではこれにて」一礼してフレナ様がおられる。学園長室に向かうシンク。見送った宮廷魔導師の二人は、複雑な想いを抱きながら。未来の中央大陸の王が、即位した時を考えて。二人は顔を見合い。それぞれの顔に浮かぶ色を認め。深く吐息を吐いていた。
毎朝、第一演舞場で行われてる朝練を見に来た二年『特待生』ブローディ・マグラスは、面倒臭そうに、自分を呼び出したメルディス・オーザ・ドヴィア、傍らの女生徒に眼をやって、やや驚いた顔をしていた。
何時も傍らには、セレナ・レダの美貌があったからだ。しかしメルディスの隣。凡庸とした表情。まるで掴み所がない少女ミガン・コンラーダがいたからだ。先ほどまでの気だるい眠気を忘れて、興味深く二人を観察していた、……どうやらあの噂は本当らしいと薄く笑っていた。
二年『特待生』の中には、クセの強い生徒が多く、ブローディもその一人である。父はリドラニア公国下士官だったが、一度国を失い。路頭に迷った家族を救ったのは。アレイク王国だった。一度はこの地で士官を夢見たブロディだったが。父はリドラニア下士官に戻ることを選び帰国していた。
しかし再び幸運が訪れた。二人の女王の夫になった。ブライアン・ハウチューデン陛下の働きで、留学制度を導入。優秀だったブロディは、アレイク王国で学ぶ栄誉に輝いたこと。素直に喜んでいた。
しかし……、入学したら面倒な奴が、クラスにいた。そいつが目の前に立つメルディスである。初めは隣国ドヴィアの姫君である。それなりに敬意を払っていた……、
……尊大な口調、命令することに慣れてるのか、相手が自分に従うこと一切疑ってない様子だった。そんな信頼出来ない奴など、嫌われて当然である。メルディスから手紙を渡されたのが、昨日の個人ランキング戦の後。不審に思ったが躊躇いながら。中身を開いて読めば、不敬な態度だったと謝る内容に、少しならず心動かされたのだ。ランキング戦終わった僅かな時間。こうして足を運んだ。
「その……、今日は……、来てくれてありがとう……、改めてごめんなさい!」深く頭を下げたメルディス、静かに隣に立ち。成り行きを見守るコンラーダに眼をむけると、真っ直ぐブローディを見つめ。静かに頷いていた。本当に━━改心したのだと、見受けられた。ならばブロディも男として、度量を見せなくては、格好が付かない。
「……わかった。お前の詫びを受け入れよう。それで……、話はそれだけか?」これだけ真摯な対応されたのであれば、過去のこと水に流してもよいと思ったのだ。
「まだ、よ。これからが、本当の、頼み」
ハッと息を飲み眼を開いて、素直に驚いていた。ラーダの声を初めて聞いたからだ、
「……なあブローディ、三年を倒したくないか?」
甘やかな吐息に似た。悪魔的な囁き、グラッと気持ちが傾きそうになっていた。
「頼むブローディ!、二年のぼくの軍師になってくれ」
再び。深く頭を下げたメルディスから。強い決意を感じていた。何がそこまで彼女を変えさせたのか……、凄く気になっていた。
「一つ聞きたい」
問うと、何時もの尊大さの欠片もない。真っ赤になってもじもじ。
「……はっ、恥ずかしい話。実は……。シン兄さんから、ラーダを仲間にして。次にブローディを私の頭脳として迎い入れろと言われたの。ゴメン失礼なこと言うようだが、シン兄さんの見る眼を疑っていた」そして話す。馬鹿正直に。昨日までブローディのこと探っていたことまで、
「お前の策略家としての力が欲しい!。私には無いから……」
素直に自分の非を認め。変わろうとしてる姿、ましてや言われて口説いた訳じゃなく。自分の眼で確かめ、ブローディの才能が欲しいと言われて、悪い気はしない。何よりもあの英雄殿が、自分を見ていてくれたと知り。策略家の心が疼いた。
「ヘッ、良いぜ、俺の力存分に奮ってやる!」
今まで自分以上の存在が、メルディスの側にいた。だから忌避していたことを、あの英雄殿は見抜いていた。一番の難物の俺と、変わり者のラーダを先に口説かせたのだ……、俺達さえ何とか出来れば……、
「メルディス。後の人選。俺に任せときな!」
厚い胸を叩き。不敵に笑っていた。
━━西通りから、一歩入った裏路地。若い職人や片親の訳あり家族が住む。長屋があるのだが……、その一つに次期中央大陸国王の妻になられる姉と。今年からアレイ学園『特待生』に選ばれた弟が住んでいた。
「ノンちゃんお帰り。さっきマイトちゃん。珍しく女のお友達連れてきてたわよ」
「おばあちゃんただいま~。あらそうなの珍しいわね?」
ノノフレイミ・ラネスは夏に向けて、艶やかな髪を肩口で揃え。活動的で、控え目な印象を与えるメイクをしていた。思案顔で悩んだが、大丈夫だろうと自宅に戻って。
「ただいま~」
声を掛ける。
「お帰り姉さん」マイトが台所にいて、お茶の支度していた。おや?、小さな居間にどこか見覚えのある可愛らしい顔立ちの少女が、やや緊張気味に立ち上がり。ペコリ会釈していた。
「わっ私、アイリス・フレンターレと申します」
緊張してるようだが、しっかりした口調は好感が持てた。
「彼女はモレンさんと同じ。服飾科の生徒で、普通科二人目の『特待生』でさ、姉さんにまたお願いがあるんだって」
なるほど……、そういえば、もう少ししたらあのイベントの時期である。
「ああ~モデルのカットね。任せといてと言いたいけど~。今年はさすがに無理わ、だから代わりにマイト頼むわ♪」いきなりの指名に。ちょっと姉さん。慌てる弟をひと睨み。
「私の髪や、近所の子達に頼まれて切るでしょ?」
「うっ……」
「えっ!、素敵だと思ってたその髪を?、でしたらモレンさをも納得されます!」
キラキラした眼差しを受け、否とは言えなくなっていた。
「わかったよ……、いつ頃かな?」
仕方なさそうに頷いていた。
━━夏休み後行われる。
『第三回コーディネートコンテスト』
マイトは姉の代わりに。モデルのカットを任せられることになったのだ。モデルの1人はマイトとも。朝練で顔見知りのサノビアさんで……、
「もう1人を私が勤めます♪、よろしくお願いしますマイト君」
「うんまあ~、よろしく」複雑そうに苦笑していた。
なにかと忙しい。息子夫妻に代わり。孫娘のジルの面倒を見るエレーナ大司教は。穏やかな顔をしながら、可愛らしい寝顔で、寝息を立てる孫娘の姿に、笑みを深めていた、
「もう少ししたら。お兄ちゃんが帰ってくる時間になりますからね」
癖のある金髪を優しく撫でていた。もうすぐジルも二歳になる。後何度この幸せを噛みしめれるのか……、そろそろ自分の後任を任せ。大司教の地位から退く時を、静かに考えていた。
「ララ……、承知してくれると良いんだけど」
北大陸で、アレイ教の大司教に就いている。大切な娘で、オーラルの母を思う、
『……バァバァ~大丈夫だよ。ララさん分かってるから』
パチパチ眼をしばたかせ。驚きの目で、孫娘を見ると、ハシバミ色のクリクリッとした眼を開いた眼を。エレーナに向けて、ニコニコ笑っていた。
「それはいったい……」
忙しないノックがなされ。そちらに注意が向いた、
「お入りなさい」
促すと。
「しっ、失礼いたします」
フロスト騎士団長シデン、妻のマノアを伴い入ってきた。思わず可愛らしく素直な気持ちで微笑み。嫁いだ娘が夫を連れて。実家を訪ねてくれた気持ちになっていた。
「失礼。今は大司教様として、対応させて下さい」
非常に難しい注文をしてると分かるが、それだけに何かあったと理解した。
「エレーナ母さん……。ジルちゃんは私が……、ソアラとリナちゃんも来ますから」
差し迫った重大な事件が起きたようだ。それで城に行かなければならないことが分かり。
「分かりました。マノア支度をします。お願いね」
「はい」
やや血の気はないが、毅然としていた。おそらく我が国のことに関するが、事件は我が国のことではない。すると何処か……、何故リナちゃんも?、まさか……、
……その日、全世界を揺るがす事件が起こる。
レオール連合が、世界議会から脱退すると言うのだ。さらにレオール連合は、7つの国に分かれ、世界議会加盟を申し出る国。中立する国、統一を目指す国と分裂したと言う……、
━━北の三階。大議室。過去この部屋が使われたのは一度だけ……、中央大陸事件のみ。室内には、国王含めアレイク王国が誇る重鎮。各省庁の次席までの責任者、有力貴族までが呼び出され。何事かとざわめいていた。呼び出された理由が未だに知らされていないようだ、しかしシルビア財務官から。此度呼び出された理由を知らされた瞬間。驚く内容に。驚嘆する。
「皆様に集まっていただいたのは、レオール連合所属リブラ将軍からの親書が、我が国に届きました」
ざわめきが静まるのを待って、咳払いをしたシルビア財務官が、
「読み上げましょう……『我レオール連合所属であるが、一身上の都合により。レオール連合をクビになり、途方にくれる者。竜五匹と我妻ララ、我が身を貴国に預かって頂きたい。切に願うリブラ・ハウチューデン』」
ザワリ……、
場が壮絶と色めき立つ。かの英雄は、確かに我が国の生まれである。しかも子息はそれぞれ。国を統べる者。悪い話どころか棚ぼたではないか……、思わず顔を見合う。
「陛下よろしいでしょうか」
末席に座る初老の女性に。この場にいる全ての者は、敬遠な気持ちを抱く。彼女こそアレイク王国の母と呼ばれる存在。
「エレーナ大司教、いかがなされました」
同じく。口が悪い国王とて、もう1人の母と思うていた。
「この場で、私的なことなのですが、陛下わたくしも歳ですし。よい機会と考え。ララが帰国するなら、彼女に後任をと考えております」
この場で告げられた言葉は、正式な効力を発する。それを理解してか再びざわめきが強まる。確かにエレーナ様は御高齢。誰かに後任を任せるのは悪い話ではない。
「陛下、それにフレナ様、ロアード様を守る騎士が帰国するとなれば、憂慮も減りましょう。貴族の皆様が不安に思う、事態にはならないかと思われなますよ」
悪戯ぽく眼をキラキラさせてチクリ、ばつが悪そうな有力貴族が顔を伏せると。童女のようにコロコロ楽しげに笑うから、アレイク王国に巣くう、貴族達も苦笑を浮かべていた。
「陛下、わたくしも悪い話ではないと思います」追従してクエナ・ガイロンが、軍部を代表して、口を開けば、隣に座る夫で、近衛連隊長が1人ヴァレ・カルバンが、静かに友である国王レヴァに頷いていた。
「そうか、では子息であるカール殿は、どう思われる?」
国王の座る位置から。2つの席を外し座るのが、第1師団長カール・シタインである。本来国王の左右に座るはずの宰相。将軍は空位となっていて、実質アレイク王国の権力者でありながら。諸外国とのパイプもあり。様々な情報を仕入れていると聞く。軽薄な笑みを張り付けながら、
「俺が聞いたところによりますと、英雄殿はレオールの各国から。随分と引き留められてるらしいですよ~」
近隣諸国の噂話から、遥か離れた西大陸の政治のこともまで、知らないことがないと、黒衣からもカール准将の情報網は恐れられていた。
「陛下これはあくまでも多分ですが、英雄殿としては、軍部に。一応従属をして恩を売り、娘の側にいてやるつもりなのではないかと~」
再びざわめきが上がる。なるほどと……関心した吐息が漏れていた。確かにそれならば貴族として、治世に口を挟まれることはなく。また国としては英雄殿の名を使え。先ほどエレーナ様が言われた通り。職として王女様、王子様の御守り役にうってつけである。過去アレイク王国の守り手と言われた『聖弓』オーダイ将軍と同じ職に着ければよいのだ。
「我が国の財務官として、シルビアどう思う?」
鋭い美貌、アレイク王国において、稀有な世襲を認められた一族の長で。財務の女傑は、珍しいことに、にこやかな笑みを浮かべていた。
「受け入れた方が、我が国に、有益です陛下」
あまり多くを語らないが、彼女の友人が、英雄殿の息女であることは有名である。
「では、英雄殿を受け入れる方向で、各省庁は準備を」
「はい」
「それからエレーナ様のことは、委細承知いたしました。退任式、就任の義は、ララ様が帰国なされてから詰めましょう。詳しい内容が決まり次第。お知らせいたします」
「ありがとうございます陛下」にこやかに微笑むエレーナ様の姿が、まもなく見られなくなると寂しく思うが、それも仕方ないことである。
「英雄殿の家宅。その他の手配は、シルビアに任せたい、よろしいかな?」
粋な計らいに、一瞬この場にいた者は驚いたが、
「お任せ下さい陛下!」
思わずシルビアは華やかに微笑んでいた。
━━野外授業の季節がやってきた。一年生にとって、初めて船に乗る生徒が多く。また自分たちで船の操船すること学べると知って、フタバ、キヌエなど。大変楽しみにしていた。二人の生まれは東大陸のさらに。東にある諸島郡である。昨年まで鎖国していた6ヵ国の内。呉の国。和の国が鎖国を一時的にといえ解いたことで。留学生として今年入学していた。二人が生まれた諸島郡は。周囲を海に囲まれていた。民は子供の頃から泳ぎを訓練していて、二人も自信があった。しかし船に乗るのは、国を出るときに乗った漁船だけである。
「少し聞きたい。このクラスにシン兄さんの弟子がいるそうだな、私はメルディス、シン兄さんの幼なじみである」
不遜な顔で口上を述べる先輩の。突然の訪問に、驚いた顔をする一同に、赤髪の小柄な少女メルディスは強気な眼であかるが。何故か固い表情をしていた。彼女の噂は聞いていた。元悪餓鬼三人組コウ、マイト、レンタは思わず顔を見合せていた。
「メルディス先輩、多分俺達だと思いますが、一つ訂正させて下さい。一年生の半分は、シン兄に世話になってると思いますので」
仕方なくマイトが代表して答えた。
「おやそうなのか……、流石だなシン兄さんは♪」
急に上機嫌に笑った。かと思えば……、傍らの二人に親しみのある顔を向けた。1人はクセの強そうな面立ちの背の高いがっちりした体躯の先輩と。凡庸とした顔立ち。メルディスと変わらない身長の先輩に向けていた。
「改めましてマイト・ラネスです」
「コウ・アルディナス、宜しくな!」
「レンタ・マノイです」
三人の内二人の家名を聞いたことがあり眉をひそめていた。
「先輩レンタ、マイトの姉が、シン兄さんの婚約者だからだと思うぜ」
素早く察したコウに言われて、ああ~なるほどと納得してからハタリ。見るからに粗野な印象のあるコウを、意外そうなとじっと見詰めていた。
「……先輩もしかして、顔に出やすいと言われたことないかな?」
またもやズバリ考えを。いい当てられてしまい、目を白黒させるメルディスに。クセの強そうな先輩が、小さく苦笑して、
「だから言ってるだろ~、何を言われても顔を作れるようになれって」
「うっ……、わっ分かってるわよ、それから貴方達!。来年は負けないからそのつもりで」
あくまでも上から目線、だが以前とは違い。相手や身内を。不愉快にさせる口調ではなかった。自尊心をくすぐり気持ちを燃えさせる。何かを感じさせていた。「先輩!、来年も勝たせて頂きます」
コウは強気な発言する女の子は嫌いではない。だからライバルには、相応の応対をする。
「ふ~ん言うじゃないか、またなコウ♪」
上機嫌で、三人の仲間の元に戻るメルディス達を。見送っていると。初めて見かける先輩もいた、しかしプラチナブロンドの綺麗な先輩を見掛けた、マリアナ、クリミアの目が、釘付けになっていた。「シアあの方は確か……」
「ええ……」
来年のコンテスタは、白熱の予感を覚えたシアでした。
一二年の『特待生』、それぞれ野外活動の間。組むチームが決まると。教官に報告する。すると人数を確認して、任務が与えられる。「チームが決まったグループから、テントの設置、水の確保、食料の調達を行う、また野菜は人数分その日に至急される。よって各グループは受け取りにくるように。最終的に料理まで終わらせてから採点を行う」
やっぱり聞いてた通り。サバイバル訓練の基礎込みで、野外活動は行われるようだ。結局コウ達は、最大9人の大所帯。それ故難しいのが、仕事の割り振りである。
「じゃキヌエ、マイト、マリアナ、クリミアの四人が、調理を担当してくれ」
そんなときは仕切り屋のレンタが、仕事を割り振りしてく。しかしマリアナ、クリミアの二人は不安そうな顔をしていた。
「多分キヌエは、料理しなれてるから大丈夫だろ」いきなり指名されたキヌエは、目をぱちくりしていたが。屈託なく笑う。
「よく分かったね」 「まあな見てれば分かる。それよりマイト悪いが、二人に包丁の使い方と簡単な、野菜の切り方を教えてやれ」
「まあ~仕方ないね。シアはこっち方面苦手だろうし」
幼なじみの気安さでチクりと一言。憮然としながらも確かに得意でないので、肩を竦めていた。
「薪、水、夜営の準備を俺とシアとフタバ、コウとカナデは魚を頼む。1人一匹か、みんなで食べれるでかいの二匹な」「わっ私が魚」
目をまんまるにして、動揺するカナデに、心配はないとレンタはにやりと笑い。
「まあ~任せとけ」ウインク残して、強気に笑っていた。
早速コウはカナデを連れて、近衛連隊の訓練港に来ていた、困り顔のカナデ、コウは、リュックサックから、次々と道具を出していた。今年から生徒は、個人の荷物をリュックサック一つ分まで持って行くことが許されていた。昨年までは、着替えのみだったが、より生徒の予測・危機管理を見るための処置だ。
教官がチームを組んだ時点に。仕事を与えるのも。どの生徒が、どのように判断して、どのように行動するかを見届けたいとの思惑である。コウ達グループはというと……、こと集団戦ならコウがリーダーを勤め、魔法の戦術など、臨機応変が必要な場合をマイト、その他雑務・仕事の振り分けはレンタがリーダーとなっていた。主体性の問題だが、コウ達のグループに入った6人は、なんと無くそれに従ったのだ。
「それ釣竿?」
目を丸くして驚くカナデに。そうだと答えた。もう一つ気になるのが、組み立て式の銛もあることだ。
「練餌を用意してあるから、こうして水を含ませたら。小さな団子を作って、釣り針に着けて。そっとほおる。やってみな」
やや長めの釣糸。重りと浮きがついた先に練餌が着いた、針がプラプラ。おそるおそる投げた。
「魚は触れるか?」「え~と一応。少し家事をやるから……」
緊張を隠せないカナデ、男の子と二人でいるのが気恥ずかしいのだ。
「ほら、浮きを見てみろよ」
「あれ……ピクピクするよ?」
「あの浮きの下に魚がいるんだ。だから浮きが沈んだら。軽く竿を上げる、いま」
「……!、あっ手応えあるよ」
驚くカナデに「うまいぞ」コウに誉められて、ドキドキ胸が高鳴るカナデ。
「そのままゆっくり、竿を上げるんだ」手応えがどんどん強くなって、ぱしゃりきらきら輝く。青い小魚が、二人の近くに落ちてきた、呆けるカナデに代わり、素早くコウが魚を捕まえて。用意してある網に入れていた。「あっ……、やったー!」
初めての釣りで、魚が釣れたことが何だか嬉しかった。
「カナデ才能あるぜ、一発で魚を掛けれたんだからな~、その調子で頼むぞ」
「うん!任せといて」さっきまでの緊張が、嘘のように消えていた。
「さて俺は向こうで、魚突いてくるから、こっちは頼んだぜ」
あっ、それで銛を。納得していた。
「うまくいくか分からんから。せめて人数分あると嬉しいな、いけるかカナデ?」
わざと焚き付けるような言い方。ちょっと戸惑いはあるけれど。頼りにされるのは悪くない気分である。
「任せといて!」
元気に答えていた。
コウ達のように。色々準備してるグループは多い、特に2年『特待生』は万端であった。
先頭を歩く新しくメルディスの傍らを。プラチナブロンド髪に。軽いウェーブを掛けた美しい少女、今年のコンテスタ準優勝者サシル・エブローザである、隣を歩くのが、おっとりした風貌のユミチカ・アンドリーニ、豊かな金髪と笑うと、左だけ出来る。えくぼが魅力的な少女である。頭一つ背の高い青年。煌めく白い歯が特徴的なラムティース・フロードの三人は、二年『特待生』の中でもクセの強い面々である。
特に。華やかなコンテスタを好むサシルだが、かなりえげつない戦略を得意にしていた。見た目のギャップから彼女のあだ名は『悪女』と呼ばれていた。
おっとりとしたお嬢様のような、ユミチカであるが、見た目のお嬢様風とは違い。ムキムキなおじ様好きと言う変わった性癖と。趣味を持つ少女だ。そんな趣味に陥ったのも。彼女の父が原因である。彼女の父はフロスト騎士である。騎士団の中でも身長があり、筋骨粒々で、子供の頃から父を見ていたから、父のようなムキムキな中年のおじ様が大好きになっていた。
「あれが当面のライバルかい?」
訪ねたのは、日に焼けた浅黒い肌、サムエと呼ばれる伝統衣装を着こなす。長身の少年。ラムティース・フロードである。
こう見えて豪快な、一撃の美学に人生を掛ける。剛剣を得意にしていた。
「そうだ」
三人に聞かせるよう、掴み所がない笑みを浮かべる。その三人に、凡庸とした表情のミガン・コンラーダ、曲者ブロディー・マグラスの5人が、メルディス部隊の精鋭メンバーである。今までのメルディス部隊は、セレナ以外は、みんな傭兵ばかりで……、お世辞にも好かれていない自分を恥じ入るばかり。しかし新生メルディス部隊は、今までとは違うと胸を張って言えた。
「じゃあ、あいつらに先輩の実力見せつけなきゃな~」
そんな訳で。コウチームVSメルディスチームの競争が、始まったのだ。意外に思われるだろうが、メルディスは家庭的な女の子である。今までの尊大な物言い、美少女セレナに甲斐甲斐しく世話をされていて、実力を発揮していなかったが、家事全般はもちろん何より料理が得意で、5人を大層驚かせた。そんな訳で料理をメルディスに任せ。ブロディ、ラムティスが釣りに出かけ。ユミチカ、サシル、コンラーダが夜営の準備を引き受けた。
わざわざコウチームの近くに。夜営の準備を始めたコンラーダは、慣れた様子で、骨組みを済ませると。外幕で覆い。四隅にピックを刺してロープを張り、近くの灌木。または石を重石にすれば出来上がりで、瞬く間に二つのテントを作り上げていた。
「サシル。もう少し深く。砂を掘ってくれます」
コンラーダが持ち込んだスコップを手にしたサシルが、
「わかったわ」
素直に従い、浜風に負けないように、すり鉢状に穴を深めに掘っていた。こうすると焚き火をしても。浜風に火が消されたり、飛ばされた灰が、テントに付いて火事にならないようにとの配慮である。
「……水を、見付けて来る」
二人の作業を確認しての申し出である。 「薪はこっちで探すわ」
とコンラーダに告げると。小さく頷くから、思わずユミチカは笑っていた。コンラーダは普段凡庸とした表情だから、感情の起伏を感じられなかった。しかし注意深く観察してると。僅かな感情が読み取れる。意外と気を使える女の子だと最近わかってきた。彼女は手伝いが不要と考えれば近付かず。必要だと判断したら。自分勝手に仕事してくれるから、そんな性格だと分かれば、付き合うのは楽である。
一年『特待生』はそれぞれ自分達のやり方で、作業をこなしていたが、やはりと言うか、一度経験していた二年生と違い。野外活動に慣れていないことが露呈する。そこは毎年同じである。しかし二年生をチームに加わえることが出来れば、好転するのだが、二年生にとって、下級生に優位を示せる機会を逃したくないのが現状である。
6人の教官の内。三年連続教官を勤める中年の士官は、今年も面白い生徒が多いと密かに楽しんでいた。特にクセのある生徒が多い二年のある女生徒の変化に注目していた。以前は二人でいつも行動していた。今年になって新たな仲間を作り上げた事実に、少しならず驚きを隠せずにいた。随分と変わったな……、よっぽど信頼出来る仲間を得たようだな。
それにしてもと……、不思議そうな顔で。近くにいる一年グループを。どうやらライバル視してるようだと見て、興味を抱いた。
あの一年チームはどうやら。リーダーを三人が、持ち回りでやってる節があった。珍しい形態だが、自分の実力を把握してるからこそ。三人は臨機応変にその都度。切り替えてるようだ……。まれに兄弟とか、仲間意識が強いとああした仕事の割り振りを行う。軍とはそれを突き詰め。戦闘に特化した集団である。今からそれが出来るのは、集団生活において有利に働く。しかし……、あの若さでそれは……と、訝しむ。
「お疲れ、珍しいな難しい顔をして」
気配なく教官の背後を取ったのは、野外授業を統括する。近衛小隊長マリア・バレスである。人好きする笑顔を浮かべていた。「何を見て……、ドヴィアの姫か、んあっちにいるのは、マイト君とレンタ君のチームみたいね」
親しげな響きを感じとり。あの一年グループに知り合いがいるようだと考えた。 「小官は知らないだろうが、今上げた名の二人は、我が国の重要警備対象でな、正解には二人の姉がと言うべきだが……」
そのわざとらしい言い回しで、何が言いたいかに気が付いた。
「これはあくまでも。ミリアちゃんから聞いた話なのだが……」
あの三人が、シンクの弟子であると聞いて、思わず中年の教官は、笑っていた。
「それはまた面白い……、おっと教官として、いだつしますな」おどけたような口調に、マリアは思わずクスリ笑みを漏らしていた。
「夫から聞いてます。今年の教官を終えたら。中央大陸に渡るとかサルベ少尉」からかうような問いに。素知らぬ風を装いつつ、サルベ・ヒイロ少尉は、肩を竦めていた。
「マリア殿の旦那が、わたしに丸投げしたので、仕方なくですよ」
先日も内々に来日していた。オーラル陛下直々に。中央大陸の高官に着くよう要請を受けていた。しかし妻の側を離れたくないと、きっぱり断りを入れた。そして自分に話が回って来たのだ。次位とはいえオーラル陛下からの誘いを断るには、あまりにも多くの恩義があった。
「あらそうでしたの?、あの人ったら……」口調とは裏腹に。まんざらでもなさそうな顔をしていた。それでも今の情報から、メルディス王女があの一年グループを気にするか、理由がわかった。
近衛連隊の訓練船がある桟橋から、砂浜伝いに東に暫く歩くと、ゴツゴツした岩場が広がっていた。この辺りの海岸は岩礁が多く。船も近付かない難所だが、下着一枚になってコウは、海に飛び込んだ━━。
この辺り、突き出た半島が防波堤の役目を果たして、湾内の海流は穏やである。岩礁があるため近衛連隊の訓練には使われず。沢山の資源が手つかずである。遥か下方まで見渡せる澄んだ水質。大きな魚が眼前下を通りすぎていった。
一度海上に顔を出して、素早く息をすいこみ。一気に海中に潜ると。水深4メートルはある底まで、瞬く間に着いていた。銛を手にゆっくり構え。岩だなを一つずつ調べてく。赤みのあるなかなかの獲物に狙いをつけ発射。ガツン。外した……。久しぶりてのもあるが、緩くても海流に流されながら銛を放つのは、なかなか難しい。息が続かず。一度海上に戻って、息を整えた。
何度も失敗したが、ようやく身体が慣れてきた。
12回目の素潜りで、どうにか三匹の獲物をゲット。かなりの疲労を抱えながら。コウはカナデの様子を見に戻った。
━━その頃カナデは、四匹の小魚を釣り上げたが、その後さっぱり当たりはなく。不安に思っていると。がっしりと鍛え上げられた上半身裸のコウが、こちらに向かって、かなり大きな獲物を見せ。不敵に笑っていた。
「あっ……」
安堵したと同時に。男の子の裸を見てしまったと。照れていた。そんなこと理解しないコウは、濡れた身体をタオルでさっと拭いて、シャツを着ていた。その様子を食い入るように見ていたカナデは、ガキ大将のようなふてぶてしい笑みを浮かべるコウと。まともに目があってしまい。慌てて浮きに目を戻した。
「カナデそろそろ上がろうか?」
「うっ、うん……」 ほんのり赤くなるカナデを。コウは不思議そうに首を傾げていた。
二人が戻ると既に野菜と海藻のスープ。野菜炒めが用意されていた。
「どうだったコウ」 マイトにふてぶてしい笑みを向け。獲物を見せた。
「おっタイじゃないか~。刺身と煮付けが出来るな」
「まあなそれと見ろよ。カナデが釣ったんだぜ」
おずおずと気恥ずかしそうに網を上げるカナデ。青みかかった小魚が四匹入っていた。
「鰯かい、うん急いでつみれにして。スープに入れようかな♪」
全体的な料理を考え出して、料理担当の三人に下処理の仕方をレクチャーしながら。マイトは早速調理に掛かった。
一方その頃。メルディスチームも。魚を調達して、見事な料理を次々作り出していた。このように一度野外授業を経験した二年に比べて、遜色ない時間で。料理の準備が出来たのが、コウチームだけだった。
「よし早速だがコウ。お前達だけ合格、後は不合格だ」
落胆した一年全員に。
「また明日もある。一年は頑張れよ」
お気楽に教官は言うが、『特待生』にとってそれどころではない。課外授業で落第しても問題は無いように思われるが、実は観察官や『オールラウンダー』候補者が選ばれる試練対象だと理解してるからだ。先を考えると試練を受けれるだけでも。将来に関わる重大事であった。
一年とは違い。二年生は昨年経験してる、ほぼ全チームが合格していた。その差を埋めるのが、リック一つ分の荷物であり。各チームの仕事の割り振りと、内容確認である。
「レンタお前が、野営の指揮を取っていたな、その理由を聞きたい」「はい。まずぼくが野営の指揮を取った理由ですが、ぼくが将来商人になるからです」
レンタは突然驚くべきことを告げて、理由と仕事の割り振り。それに掛かるコスト。いざ事が起きた場合。戦略とは違う効率重視の答えに。教官は唖然とした。「お前は……、なるほど商人ならではの機転か」
面白い考えだと思った。軍の兵士とは、最適化された考えをするから……。何事も簡略化する方針があった。しかしレンタは学生として楽しむ心と。仲間の成長を促す資質を示した、それは仲間に最低限のノルマを課したことからも分かる。周りの特に二年『特待生』を見ながら調整するズル賢さ。それこそ戦場で生きるために必要なことを。商人を夢見る少年は目指したと語るのだ。
「お前達がそのまま育てば、さぞ面白い将校になるだろう……。お前達三人だけある試練を与える。明日の朝4時に。ここから見える桟橋にこい」
訳は分からないが、教官の真剣な眼差しから。何かを感じとり三人は頷いていた。
━━翌朝
「ふあ~」
日も登らぬ早朝。コウ、マイト、レンタはフタバを起こさぬよう気を使い。リック片手に外に出ていた。
「潮騒の音で、なかなか寝れなかったからな~。ふわ~あ~あ眠い……」
大きな欠伸を噛み締めて。疲れが抜けきれない顔をかくさず。コウが言えば、確かにとマイトも疲れた顔をしていた。
「まあ~慣れるのは無理だな」バッサリとテントに目を向け。切って捨てていた。金に余裕あるなら商人はなるべく宿に泊まる。それは野営は必要なスキルだが、モンスター、盗賊、山賊、盗人に狙われるリスクを上げるため、危険を避ける商人は、避けなければならないからだ。
━━それに疲れた頭で、海千山千の商人と交渉するのは、危険を孕む。
「それはそうと。俺達に試練を貸すと教官は言ってたけど……」
桟橋まで歩きながら喋っていると。あっという間に桟橋に到着していた。既に教官は、小型の帆船に乗っていた。船には他に二年『特待生』メルディス先輩の姿もあって、三人は顔を見合せていた。
「今回試練を受けるのは、お前達四人だけだ。時間がないさっさと船に乗れ」
サルベ・ヒイロ教官に促され。三人が船に乗ると、帆船はゆっくり動き出していた。
四人を乗せた船は、水平線に仄かに明るい光に目を奪われながら。間もなく島影が見えてきた。
「あの島に上陸したら。内陸の奥にあるダンジョンの最奥に入って、ある人の名前を。今日の夜までに聞いてくるのだ」
「ダンジョンの奥に……」
赤髪の小柄なメルディス先輩は、首を傾げていた。
「あの島に住むモンスターは、レベルも低い。四人で行けば危険も少ないだろう」
なんとなく四人で連れてこられた理由を察した。
「それから一年のこの時期に。試練を与えられるのは異例のこと、過去レイラ・バレス、シンク・ハウチューデンのみ乗り越えた試練である。心して挑め」
四人は教官の激に。ハッと息を飲み。
「「はい!?」」
元気に返事をしていた。
小舟に乗せられた四人が、無人島に上陸したのは、それから間もなくのこと……。
それぞれリックを手に……、森に入っていた。
「メルディス先輩、武器の持ち込みはしてますか?」
マイトの隣、唇を引き結び、やや緊張が伺える赤髪の少女に問いかける。
「ああ、一応バトルナイフを持参している」
本当に使うことになろうとは、思いもよらず。この場にいない腹心のセレナに感謝した。
「そういうお前達は…?」マイトは腕捲りすると。カシャンって音がして。折り畳み式の小弓が、左腕を支点に現れた。
「ほ~う、面白い仕掛けだな」
感心したメルディス。隣を歩くレンタを見ると。袖を捲るやトンファを見せた。コウだけは、折り畳み式の銛を手にしていた。
「その折り畳み式の弓……、そうは手に入らないだろう」
興味を抱いて、まじまじマイトの弓の仕掛けを見ていた。見たところ幅広の手甲は、もともと盾に使うこともあるから珍しい物でもないが。「はいシンク兄の伯父に当たる。ブライアン様の作だそうです」
「なるほど……、あのブライアン殿のか、色々変わった物を作られるとか、後学のため一度研究所島を訪れてみたいと思っていた」メルディスの祖父が治めるドヴィアは、大きな街程度の国土である。主な産業は特産の羊の毛糸。チーズを輸出することで得た僅かな外貨だけであった。その為決して裕福ではなかったが……、
メルディス、セレナの働きにより。古い炭坑に巣食うモンスターを殲滅して、数年前から。温泉施設を開業した。そのお陰で、国庫は潤っていた。
━━ようやく騎士団にも魔導兵の導入が始まり。ドヴィア学園でも訓練は出来るようになったが……、やはりと言うか近隣諸国には劣るのが現状である。セレナに最新技術を学ばせるきっかけにと、メルディスの留学を使ったのだ、そのこと恥ずかしくてセレナには未だに言えていなかったが。
「先輩!」
マイトの制止に。ハッとして、直ぐに殺気に気付き、モンスターが襲ってきたことが分かった。
ブゴブゴ!、ざっざっ、灌木を踏み分けて、巨大な鼻と、左右3本づつある牙が見えていた。濁った黄色い眼で、メルディスを認め。前足をかきながら殺気が膨れ上がる。イボ猪かと思ったが、かなりデカイ……、現れた姿を見て、変質してイボが厚い鎧のように硬くなった。鎧イボ猪のようだ。
「マイト魔法の弾丸、レンタは挑発、先輩は追撃を、俺が引き倒します!」
一瞬で戦闘プランを練り上げ。どう動くか注意を促した。
ドウと真っ直ぐメルディスに向かって走りだした。
「ちっ、レンタ十字体当たり」
咄嗟に動けない先輩に変わり。レンタに合図をした。そこは長年の付き合い。コウの狙いに気付いた。
「せい!?」
トンファを支点にして、鎧イボ猪の横から、渾身の体当たりを見舞う。カン!。金属をハンマーで叩いたような、甲高い音を響かせ。鎧イボ猪の突進する起動を。僅かに左にずれさせた。この時メルディスにも。コウの狙いが分かった。
……だから、コウが仕掛けた瞬間。メルディスも動き出していた。
コウは素早くメルディスの動きに気が付いて、マイトに合図を送る。『了解』とハンドサインが返された。
━━その瞬間、銛を器用に回転させて、鎧イボ猪の後ろ足に引っ掛け━━。
「グッ!」簡単に弾かれ。銛は折れてしまったが、鎧イボ猪はバランスを崩して、岩に頭からぶち当たり━━止まる。
その隙を見逃さず。メルディスが高く飛び上がり。目にバトルナイフを突き刺していた。
ブギィイイイイー!、甲高い悲鳴を上げていた。
「先輩!」
マイトの切羽詰まった声に従い。バトルナイフを突き刺したまま飛び離れた。眼前を牙が通りすぎた、ひやりと肝を冷やす。
「魔法の弾丸」
大振りの反撃で、僅かに隙が出来た。すかさずナイフが刺さる目に。魔法の弾丸を放ち。狙い違わずナイフをより深く突き刺して、脳髄を破壊していた。
ドウ……、
痙攣した鎧イボ猪が横たわる。何とか倒せたようだ。四人の顔に安堵が広がっていた。
「これお土産にしたら、みんな喜ぶわよね~」
ただし持って帰れたらの話である。
「じゃ~問題のダンジョン。早く終わったらよ。切り分けて持って帰ろうぜ!。そうすれば夕飯に焼き肉が食えるぜ!」
コウの提案にみんなそれはいいと頷いた、何せ鎧イボ猪の肉はめったに手に入らない高級食材。獣に食われないよう、結界張っておいた。
それからモンスターと遭遇もなく。順調に小川を越えた先に。ダンジョンの入り口を見付けていた。
エピローグ
四人はダンジョンの奥で、アレイク王国の守護竜である。巨大な古土竜と出逢い。無事に名を聞いて、試練を乗り越えた四人は『オールラウンダー』候補者の称号を得たのだった。
━━その日の夜……、
一二年『特待生』は、試練を受けた四人が持ち帰った。大量の鎧イボ猪の肉にありつき、たいそう喜び、教官を交えて笑い声が響く。楽しい夕飯だった。
コウ、レンタ、マイト、メルディスの四人は試練をクリアして、見事『オールラウンダー』候補者の称号を得た。しかしこの先に待つ、本当の試練に苦悩していく。また同じ物語か、別の物語で、背徳の魔王でした。




