閑話終章壊れかけの教室で
プロローグ。
冬休みが終わり、季節は厳しい冬を迎えて━━、
瞬く間に数ヶ月が過ぎていった……。
やがて暖かな日差しを感じる今日この頃。
春が訪れると。学生達は、何かと忙しい季節である。
後数ヶ月とせず卒業式、そして入学式のシーズンを迎えるのだから。
しかしながら……、一部の学生にとって、平穏とは無縁の選ばれし『特待生』達にとって、つかの間の時間であった……、
決戦数日前……、
━━教室。
美しい白銀の髪、真新しい制服を着た美しすぎる女生徒。リルム・アオザ・パルストアは、物憂げな顔をしていた。
「シンクさん♪」
「シン」
「……シンクさん」 「はあ~シンク」
「あの……シンク」 「一緒に、お昼食べましょ♪」
華やいだ笑顔の少女達。彼女達は真っ直ぐシンクだけを見ていた。嬉しい反面……、何だかムカムカしてきた。
「うん。リルムちゃん、一緒に食べようよ」
愛する少年は、大好きな優しい目をしていた。少しだけ拗ねていたリルムを。少女達もにこやかに出迎える。ここが私の……、
━━いいえ私達の大切な場所……。胸が締め付けられるような切なさと。それ以上に誰にも負けたくないと切に思った。
シンク達グループから、少し離れた席に座る。コルト・アルベルトは、
先日━━父から受け取った。手紙をもう一度開き。妹シャイナが、最初に陥落した軍国の城塞都市ベスマルに。家出していて、行方不明という事実を受け止めれずにいた。色々と問題があった妹だが、コルトにとって、いつまでも後ろを付いてきた。可愛らしい妹のイメージが残っていた。
「馬鹿が……」
涙を堪えるように呟いていた。
シンクの後ろで、ローザの取り巻きをしていた。アオイもまた様々な思いを抱き悩んでいた。それは先日の伯母ノルカの顔が忘れられず……。こう胸の辺りがもやもやするのだ。そんな不安定な、アオイの様子に気づいたローザは、
「何か、悩みがあるようね?」
このところ一段と美しいくなったローザは、自信に満ちた優しい眼差しをアオイに向けていた。随分変わったな~と驚き。眩しそうに笑顔に対して、眼を細めながらも、素直に頷いていた。彼等にはアオイの素性を隠す必要もなく、だから安心して何でも話せる。
「ローザ様……、実は」
自分でもよくわからない気持ちについて、話し出すと。いつの間にかシンク達まで会話を止めて、耳を傾けていた。
「そっか……、アオイちゃんは、伯母さんが羨ましいんだね」
いきなり切り込むヒナエ、驚いたのはアオイで、顔を上げると、みんなが優しい顔をしていたから。カーッと、顔から火を吹いたように真っ赤になっていた。
「なっななな、私が羨ましい!?」
あわあわしながら動揺していた。
「あらあら何だが楽しそうな話題ね♪」歩くゴウジャス、金の縦ロールの髪。同じ制服姿なのに自信満々だからか、リルムと二分する美しさをアネスは誇っていた。
「ミル様とも話してましたが、シンク殿は野立をなさるとか、良ければ私達にもご自慢の茶を頂けないでしょうか?」
言い方は固いが、楽しそうな話題ね。混ぜなさい。そんな感じである。
「そうですね。コルトさん!」
自分の考えに沈んでいたコルトは、しばらく気付かずにいたが、
「ん?、呼んだか」
ようやく気付いた。何か悩み込んでた。コルトまで引っ張りだして、アオイの悩みをあれこれ話していた皆に……、やや戸惑いを浮かべていた。
「こうして仲間になっているんです。普段話せない悩みも。皆に話すだけで、多少ましになりますよ」
シンクは、気遣う眼差しをコルトに向けていた。
「……気を使わせた、すま……、いやありがとうシンク、正直なところ、まだ受け止めれずにいたのだが……」
彼が、見たのはフィルと少し離れて、四人で話してる少女達。元シャイナ部隊の面々。
「先輩良かったら、話しては頂けないでしょうか?」
色々と思うところあるだろうが、それが必要な儀式だとコルトも感じていた。
「実は……」
コルトは、妹シャイナの身に起きた事件を話していた。
複雑な顔を隠さないフィル・マノイ、彼女の友人でシャイナに。苦渋を舐めさせられた。サラ・ローガン、ラグ・セレン、メグ・ファノア、カノア・テレグシアは押し黙る。そんな大きな教室ではない。コルトの声は響く、皆の耳に届いた。
同じく聞き耳を立てていたフレア、シアン姉妹、フィア・ガイロン、モレン・カルメン・オードリーは、初めて聞く話に顔を見合わせていた。姉妹は今モレンのデザイナーとしての才能に惚れ込み。来年リドラニアで行われる。コンテスターとしてのドレスをお願いしていたところであった。
「コルト先輩。話してくれてありがとうございます」
素直に頭を下げたシンクの姿に。みな驚いた色を浮かべた。
「もう大丈夫ですよ先輩、フィルや彼女の仲間には、ぼくや彼女達がおります。先輩は気にせず。シャイナさんのこと。思ってあげて下さいね」
シンクの言葉に胸を詰まされていた。
「あっ……、そうか……、単純な話だったんだな」
ようやく気付けた。すると自然にポタリ……、涙が流れていた。ずっと堪えていた蟠りが……、一度壊れてしまえば、止めどなく涙を流していた。例え皆を敵にしたとしても、自分たちだけは、シャイナの味方であるべきだったと……、後悔の気持ちを涙として流していた。
「済まない……、フィル……」
シンクの右後ろにいた。複雑な顔のフィルに頭を下げた。
「……こちらこそ…、ありがとうございますシンク」
僅かに抱えていた不安。それが胸中から消えてくのを感じたフィル、新たに婚約者となったローザの二人が頷いてくれた。
「あの~、こんな時になんですが、お嬢私も、そのご相談が……」
一瞬リルムは、エルマの姿を見て、眼を丸くしていた。無論クルミとて、女生徒の姿をしていたエルマの姿に。みな驚く視線を投げ掛けた。少し赤くなりながらも。照れた笑みを浮かべたエルマは、実に可愛らしい。
「似合いましてよエルマ♪」
敬愛するお嬢に誉められて、恥ずかしそうに頬を赤くした。
「あっ、ありがとうございます」
「それで、何かしら?」
「はっ、はいその……父のことでして」
「ギラム殿の?」彼女の父は、英雄王、魔王、聖弓と並ぶ。四英雄が1人。緑眼の騎士ギラムだと言うことは皆聞いていた。リルムは何かあったのかと先を促していた。
「実はその……、父の思い人のことでして……」
実の娘が口にするには、やはり気恥ずかしい。
「ああ~もしかしてあれですか?」
ポンと柏手を打ったアオイは、何やら訳知り顔である。
「アオイちゃん、何か知ってるの?」
ヒナエが問えば、まあね~って答え。にこやかな笑顔で、エルマの言葉を待っていた。
「その……、ナターシャ様から、私の母になりたいと…」
モジモジ見たことがないほど気恥ずかしそうな顔をしていた。
「あら、それはおめでたい話だわエルマ、おめでとう♪」「あっありがとうございますお嬢」
お嬢ならそう言ってくれると分かっていただけに。余計に嬉しかった。
「貴女がわざわざ口にするのです。問題はギラム殿ですわね?」
やはり気が付かれたか……、先ほどまで、重く沈鬱な空気も、徐々に薄れ、コルトですら耳を傾けていた。不思議なもので、一度泣いてしまったからか、妙に清々しい気持ちである。
「はい……、別れ際に父の背を押したのですが……」
緑眼の騎士ギラム殿の人となりは、父からコルトも聞いている。
「思いきったことしましたのね~。今頃ギラム殿は困ってる様子が、手に取るように想像できますわ」
「……」困ったように微笑したエルマに。クスクス微笑みながら。
「そうですわね~♪この件が片付いたら、オーラル叔父様に相談してみましょうね」
「ねえ~リルムちゃん。それだったら父さんよりも。伯母さんのほうが、良くないかな?」
「まあ~それもそうね。ミリアさんなら良い案を考えてくれそうだし♪」
クスクスリルムが笑うと、自然とみんなの顔にも笑みが浮かんでいた。少年少女達にとっても。二人は精神的支柱になりつつあった。本当に少しずつ成長してゆく彼等を見詰め。狂喜の双子は、安堵を覚えていた。
エピローグ
宮廷に呼ばれた。エドナ学園長は、レヴァ国王から。来月行われる五ヵ国連盟による。疑似神討伐作戦について、魔王ピアンザ。オーラル陛下の連名による。ある頼みごとと。失われていた。12使徒のペンダントが贈られて来ていた。
「まさかあのお二人が、見付けて下されていたとは……」
「それより驚きだね~。まさかそんな秘宝があったこと。それ以上に我が国に兵器が隠されていたとはな」
皮肉気に笑うレヴァに。艶然と微笑するエドナ学園長は、
「あくまでも最悪の事態に備えてでした……、しかしこれは好機になりました。もしも我が国の秘密兵器によって、疑似神討伐に絶大な効果を発したら……」
「なるほどね~、我が国の地位も俺の代では安泰か?」女性と見まごう繊細な顔立ちのレヴァに。曖昧に頷いていた。大まかな理由はその通りなのだろうが……、
広大な南大陸の疑似神達を駆逐した後。新たな国を興す必要がある。アレイク王国としては、新たな国に少しならず手伝いを申し出やすく。また新たな国との国交が、開きやすくなるというメリットをもたらせていた。
あの二人の優しい思惑が見えた。
まだ疑似神討伐は終わってはいないが、元々華の国ダナイの民も我が国にはいる。故郷に戻りたいと申し出る民もいるだろう……、そうした民の支援も。今のうちに考えとくべきである。




